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🔧ミニPC選び:安価なIntel 4コア機よりも少し予算を追加してRyzen 8コア機の方が快適になる話

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ミニPCの選び方

近年、手のひらサイズのコンパクトな「ミニPC」が注目されています。特に1万円台から購入できるIntel 4コアCPU搭載モデルは、その手軽さからつい選択肢に入れてしまいがちです。

しかし、SNSの感想を見ると「Webブラウジング程度なら十分だろう」と考え、安価なIntel N100搭載ミニPCを試したものの、ブラウザで資料を開くだけでカーソルの動きが鈍くなり、クリックへの反応が遅れるなど、「思ったよりもっさりする」という性能不足を感じる声が散見されます。特にWindows Updateが始まると、PCが非常に重くなり、作業に支障が出るという意見は少なくありません。

この記事では、「なぜ安価なミニPCは "もたつく" のか」という疑問を掘り下げ、少し予算を足した3万円台から購入できるRyzen 8コアCPU搭載モデルを選ぶことで、どの程度の快適性が得られるのかを、具体的なデータと利用シーンを交えて考察します。


📊 CPU性能の客観比較:Intel Nシリーズ vs Ryzen 7シリーズ

ミニPCの快適さを左右する最も重要な部品がCPUです。ここでは、現在5万円以下の価格帯で主流となっているIntel製およびAMD Ryzen製のCPUについて、性能差を客観的な数値で見ていきます。

主要CPUモデルの性能比較表

各CPUのコア数、スレッド数、消費電力(TDP)、そして総合性能を示す「PassMarkスコア」、内蔵グラフィックス(iGPU)性能を示す「3DMark Time Spyスコア」を以下にまとめました。

CPUモデル コア/スレ TDP PassMark iGPU(名称) 3DMark Time Spy 主な価格帯
Intel N95 4C/4T 15W 5,343 UHD Graphics 200 2~2.8万円
Intel N100 4C/4T 6W 5,389 UHD Graphics 288 1.5~2.5万円
Intel N150 4C/4T 6W 5,482 UHD Graphics 300 1.5~2.5万円
Intel N97 4C/4T 12W 5,831 UHD Graphics 461 2~2.7万円
Ryzen 7 5700U 8C/16T 15W 15,627 Vega 8 1,946 3~4万円
Ryzen 7 5825U 8C/16T 15W 18,602 Vega 8 2,048 3.5~4.5万円
Ryzen 7 5800U 8C/16T 15W 18,707 Vega 8 2,048 3.5~4.5万円
Ryzen 7 5800H 8C/16T 45W 21,288 Vega 8 1,792 4~5万円
Ryzen 7 6800H 8C/16T 45W 23,094 Radeon 680M 2,377 5万円~
Ryzen 7 7735HS 8C/16T 35-54W 23,189 Radeon 680M 2,377 5万円~
Ryzen 7 7840HS 8C/16T 35-54W 28,627 Radeon 780M 4,201 (5万円超)
Ryzen 7 8845HS 8C/16T 45W 28,499 Radeon 780M 4,201 (5万円超)

PassMarkスコアから見る圧倒的な性能差

この表で特に注目したいのが、Intel Nシリーズ(4コア)とRyzen 7シリーズ(8コア)の性能差です。例えば、価格帯が近いIntel N100(1.5~2.5万円)とRyzen 7 5700U(3~4万円)を比較します。

  • Intel N100 … PassMark 約5,389 / 3DMark 約288
  • Ryzen 7 5700U … PassMark 約15,627 / 3DMark 約1,946

単純計算で、Ryzen 7 5700UはIntel N100のCPU性能で約2.9倍iGPU性能で約6.7倍という結果です。価格差は約1.75倍ですが、得られる性能の向上幅はそれ以上であり、この点がRyzen 8コアモデルを検討する大きな理由になると考えられます。

さらに、Ryzen 6000番台以降(例: Ryzen 7 6800H)では、iGPUが「RDNA 2(Radeon 680M)」世代に刷新され、グラフィックス性能が大きく向上しています。これにより、ミニPCでも軽めのゲームや動画編集がより現実的な選択肢に入ってきます。


🔥 なぜ安価なミニPCは「もたつく」のか?

Intel 4コアのミニPCで「もたつき」を感じやすい背景には、ミニPCの物理的な制約と、現代のPC利用環境が関係しています。

コンパクトさ故の課題:サーマルスロットリング

ミニPCは筐体が小さいため、デスクトップPCほど効率的な排熱ができません。CPUは高温になると自身を保護するために自動的に性能を落とす「サーマルスロットリング」という機能が働きます。

Intel Nシリーズのような元々の性能が高くないCPUでこの現象が起きると、ユーザーが体感できるレベルで動作が遅くなります。例えば、Windows Updateが動作している裏でブラウザのタブを複数開くだけで、CPU使用率が上限に達し、性能が低下することは珍しくありません。

Ryzen 8コアモデルも熱の問題はありますが、元々の性能に余裕があるため、多少性能が低下しても、Intel 4コアモデルより高い実効性能を維持しやすい傾向にあります。

意識しにくい「見えない負荷」

「Webブラウジングしかしない」という場合でも、現代のPCは多くの処理をバックグラウンドで実行しています。OSのアップデートやセキュリティスキャン、クラウドストレージのファイル同期、Webブラウザ自体の多機能化(多数のタブ、拡張機能など)、そして各種アプリの通知やデータ更新などです。

これらの「見えない負荷」が積み重なると、Intel 4コアCPUではリソースを使い切り、ユーザーが行いたい主作業のレスポンスを低下させる一因となります。ウィンドウを切り替える度に一瞬固まるような現象は、この負荷が原因の可能性があります。

一方、Ryzen 8コアCPUはコア数が多いため、これらのバックグラウンド処理を余裕をもってこなし、主作業への影響を抑えることができます。


💰 投資対効果で考えるRyzen 8コアの価値

Intel 4コアモデルの安さは魅力的ですが、長期的な視点で見るとどうでしょうか。ここでは、Ryzen 8コアモデルに少し予算を足すことで得られる価値を考えます。

価格差と性能差のバランス

改めて、Intel N100搭載機(1.5万円~)とRyzen 7 5700U搭載機(3万円~)を比較します。約1.5万円の追加投資で、CPU性能は約3倍、iGPU性能は約7倍近くになります。この性能差は、PCのあらゆる操作で「待たされない」という快適さにつながり、日々の満足度を大きく向上させると考えられます。複数のアプリケーションを同時に使うような場面では、この差が顕著に現れるでしょう。

製品寿命と長期的なコスト

PCの買い替えサイクルも考慮に入れる必要があります。Intel 4コアモデルは、OSやアプリケーションの要求スペックが年々上がっていく中で、数年後には性能不足が顕著になり、買い替えサイクルが短くなる可能性があります。結果的に、長期的なコストパフォーマンスは悪くなるかもしれません。

一方、Ryzen 8コアモデルは現在の性能に十分な余裕があるため、今後数年間のOSやアプリの進化にも対応しやすいと考えられます。初期投資は少し高いですが、一台を長く快適に使えるため、総所有コスト(TCO)を抑えられる可能性があります。


✅ 用途別に見るミニPCの選び方とチェックリスト

これまでの情報を踏まえ、どのような基準でミニPCを選べばよいかをまとめます。

用途別のCPU選択指針

自身のPC利用シーンを想像しながら、適したCPUカテゴリを見つけてください。

用途(一例) 推奨CPUカテゴリ 解説
事務・Web・軽動画視聴のみ Intel N97 / N100 単一作業が中心で、バックグラウンド処理によるもたつきを許容できる方向け。
複数アプリ・ビデオ会議で安心感を得たい Ryzen 7 5700U / 5800U 日常的なマルチタスクをストレスなくこなしたい場合に適しています。コストパフォーマンスのバランスが良い選択肢です。
写真・動画編集やライトゲーミングにも挑戦 Ryzen 7 6800H / 7735HS RDNA 2世代のiGPUを搭載し、より高いグラフィックス性能を求める場合に有効です。Full HD動画編集や一部の3Dゲームが視野に入ります。
最新3Dゲーム(画質Low〜中)も視野に Ryzen 7 7840HS / 8845HS RDNA 3世代のiGPUを搭載し、ミニPCで本格的なゲームを楽しみたい場合の選択肢。ただし価格は5万円を超えることが多いです。

CPU以外の重要チェックリスト

PCの快適性はCPUだけでは決まりません。以下の点も購入前に確認することをおすすめします。

  1. メモリ容量と構成
    快適なマルチタスクのためには16GB以上を推奨します。8GBでは複数のアプリを同時に使うと不足しがちです。また、RyzenのiGPU性能を活かすにはデュアルチャネル構成(例: 8GBx2枚)が有効です。

  2. ストレージの種類と容量
    OSやアプリの起動速度に直結するため、NVMe SSD搭載モデルが望ましいです。容量はOS等で100GB近く使用するため、500GB以上あると後々の心配が減ります。

  3. USB Type-Cポートの機能
    ポートの有無だけでなく、映像出力(DisplayPort Alternate Mode)USB PD(Power Delivery) に対応しているか確認が必要です。対応していれば、ケーブル1本でモニター接続や給電ができ、便利です。

  4. 拡張性(VESAマウント・増設)
    VESAマウント対応なら、モニター背面に取り付けてデスク上をすっきりさせられます。また、メモリやSSDを後から交換・増設できるかどうかも、将来性を考えると重要なポイントです。

長期的な視点でミニPCを選ぶということ

初期費用だけで判断すると、日々の利用でストレスを感じ、結果的に買い替えが早まることで、かえって総コストが高くつくことがあります。

現時点での用途だけでなく、今後「新しいアプリを試したい」「少し凝った作業をしてみたい」と思ったときに、PCの性能が足かせにならないように、ある程度の余裕を持ったスペックを選ぶことが、後悔しないPC選びに繋がるのではないでしょうか。

この記事が、あなたのミニPC選びの一助となれば幸いです。


❓ ミニPC選びに関するQ&A

ミニPC選びでよくある疑問点をQ&A形式でまとめました。

Q. 本当に軽い作業しかしないなら、Intel N100で十分ですか?

A. 単一作業が中心なら機能しますが、バックグラウンド処理の影響で動作が遅くなる可能性は考慮しておいた方がよいでしょう。将来性を考えると、Ryzen 8コアモデルの方が長く快適に使える可能性が高いです。

Q. メモリは8GBで足りますか?

A. 現代の利用環境では16GBを推奨します。Webブラウザだけでも多くのメモリを消費するため、8GBでは不足を感じる場面が増えています。

Q. ストレージ容量は256GBで足りますか?

A. OSやアプリで100GB近く使うため、残り容量は多くありません。写真や動画を保存するなら500GB以上がおすすめです。

Q. メモリのDDR4とDDR5の違いは体感できますか?

A. 一般的な用途では大きな差はありませんが、iGPUの性能に影響します。DDR5の方が高速なため、特にRyzen CPUのグラフィックス性能向上に寄与します。

Q. メモリのデュアルチャネルは重要ですか?

A. Ryzenの内蔵GPU性能を最大限に引き出すために有効な手段です。シングルチャネルでは性能が十分に発揮されない場合があります。

Q. 2万円以下のミニPCでゲームはできますか?

A. 非常に軽い2Dゲームやブラウザゲームに限られます。3Dゲームを少しでも考えるなら、iGPU性能の高いRyzen搭載モデル、特にRyzen 6000番台以降が推奨されます。

Q. 簡単な動画編集はできますか?

A. Intel N100ではストレスを感じる可能性が高いです。Ryzen 7 5700U以上であれば、Full HD画質の簡単な編集が視野に入ります。

Q. リモートワークで快適に使えますか?

A. Intel N100でも会議は可能ですが、画面共有しながら他のアプリを使うと重くなることがあります。マルチタスクに強いRyzen 8コアモデルの方がストレスは少ないでしょう。

Q. プログラミング学習用として使えますか?

A. テキスト編集中心ならIntel N100でも可能ですが、複数の開発ツールや仮想環境(Dockerなど)を使う場合は、8コア16スレッドのRyzen 7シリーズが快適です。

Q. いわゆる「中華ミニPC」は大丈夫ですか?

A. BeelinkやMINISFORUMなど、世界的に評価の高いブランドも多く存在します。ただし、サポート体制は国内メーカーと異なる場合があるため、商品説明をよく確認し、Amazon発送の製品を選ぶなど、返品しやすいルートを確保すると安心です。

Q. ベアボーンキットは初心者でも大丈夫?

A. いいえ、おすすめしません。メモリやSSD、OSを自分で購入・組み込み・インストールする必要があるため、PC自作の知識が求められます。

Q. 同じ価格帯のノートPCとミニPC、どちらが良いですか?

A. 持ち運ぶ必要がないなら、ミニPCの方がコストパフォーマンスが高い傾向にあります。同じ価格でより高性能なCPUを搭載していることが多く、ディスプレイやキーボードを自由に選べるメリットもあります。


📦 【参考】5万円以下で検討できる具体的なモデル例

具体的な製品イメージを持つために、執筆時点で個性的でコストパフォーマンスに優れていると感じたモデルを3つ紹介します。

Beelink EQR6 (Ryzen 7 7735HS) 1TBモデル
Beelink EQR6 (Ryzen 7 7735HS) 500GBモデル

  • 価格目安: 41,000円
  • CPU: AMD Ryzen 7 7735HS (PassMark: ~24,083)
  • iGPU: Radeon 680M (Time Spy: ~2,400)
  • メモリ/SSD: 24GB DDR5 / 1TB NVMe

価格帯トップクラスの総合性能を持ち、高速なDDR5メモリと大容量1TBストレージで、多くの用途に安心です。ただし、VESAマウントやUSB-Cからの映像出力・給電には非対応な点に注意が必要です。

モデル2:究極のコスパを追求する上級者向け - SZBOX (Ryzen 9 7940HS搭載ベアボーン)

SZBOX (Ryzen 9 7940HS)

  • 価格目安: 48,999円 (メモリ・SSD・OS無し)
  • CPU: AMD Ryzen 9 7940HS (PassMark: ~30,098)
  • iGPU: Radeon 780M (Time Spy: ~2,800)

圧倒的なCPU・iGPU性能を誇り、USB4.0搭載で拡張性も万全ですが、メモリ・SSD・OSを追加購入する必要があり、総額は8万円を超える可能性も。PC自作の専門知識が求められます。

Beelink SEi12 (Core i7-12700H)

  • 価格目安: 50,000円
  • CPU: Intel Core i7-12700H (PassMark: ~26,130)
  • iGPU: Intel Iris Xe Graphics (Time Spy: ~1,700)
  • メモリ/SSD: 32GB DDR5 / 500GB NVMe

14コア/20スレッドによる圧倒的なマルチタスク性能と大容量32GBメモリが魅力。Thunderbolt 4搭載で拡張性も高いですが、iGPU性能は控えめなためゲーム用途には向きません。

モデル4:AOOSTAR GEM12MAX 8745HS (Ryzen 7 8745HS)

AOOSTAR GEM12MAX

  • 価格目安: 58,000円前後
  • CPU: AMD Ryzen 7 8745HS (PassMark: ~29,233)
  • iGPU: AMD Radeon 780M (Time Spy: ~3,200)
  • メモリ/SSD: 16 GB DDR5-5600 / 512 GB NVMe PCIe 4.0×4

高性能なCPUとRDNA 3世代のiGPUにより、軽めの3DゲームやGPU支援作業にも対応します。豊富なインターフェイスと高い拡張性を持ち、Type-C給電で起動もできます。標準のメモリ構成はシングルチャネルな点と、高負荷時の発熱にはType-C給電では動作が厳しく注意が必要です。

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