生成AI時代に英語は不要?──だからこそ武器になるエンジニアの英語力
生成AI時代に英語は不要?──だからこそ武器になるエンジニアの英語力
AI翻訳が進化した今、本当に英語は不要?
「もう機械翻訳や生成AIがあるから、エンジニアは英語を勉強しなくてもいいのでは?」
──最近よく耳にするこうした声。一理あるようにも思えます。
DeepLなどの精度の高い翻訳サービスの台頭や、ChatGPTなどの登場により、ドキュメントの翻訳や英文メールのドラフト作成が驚くほど手軽に、なおかつ日本語での理解も容易な時代になったと言えます。
私は、エンジニアになる以前から英語に親しんでおり、それこそ学生時代から必死に英語を身につけたものですが、こうもハードルが低くなると、果たして英語を身につけた意味があるかどうかは分からなくなってきてしまいますね。
しかしながら、結論から言えば、AI全盛の今だからこそ、英語を「使いこなせる」ことがエンジニアの強力な差別化要素になると思います。
生成AI時代であっても、英語が不要どころか必要性が増していると言っても過言ではありません。
機械翻訳・生成AIの限界と英語力の必要性
昨今、機械翻訳の精度は確実に向上しています。昔のように奇妙な日本語に変換されることはなくなりましたし、ChatGPTなどのAIツールに至っては、ディスカッションを通じて、英語の意味を検証・検討できるようにもなっています。
しかしながら、「翻訳の質」や、「ニュアンスの理解」という根本的な問題は依然残っているように感じます。
バイリンガルやプロの翻訳家に機械翻訳やAIの解釈を見せると、多くの場合、「文脈の解釈違いやニュアンスの取りこぼしが起こりがち」 とコメントをいただきます。これは、私も感じるのですが、英語の技術論文やドキュメントを機械翻訳させた際、内容が漏れていたり、実際の理論や実装と異なる説明がされているケースもよくあるように思います。
実は、複雑な英文ほど、直訳では微妙に意味が通らないことも多いのです。AI翻訳は基本的に単一の訳しか提示しないため、本来複数の解釈がありうる文章でも誤訳に気づけないリスクがありますし、さらに言えば、翻訳結果に誤りがあっても、自分に英語の知識がなければその誤訳に気づけません。 ここがかなり致命的で、そもそも生成AIにはハルシネーションのリスクがつきものですが、チェックが行えないという点は見過ごせないと思います。
つまり、その翻訳が本当に正しいか判断するには最低限の語学力が求められますし、AI翻訳を使いこなすためにも英語力が不可欠と言えるでしょう。
最新技術情報は英語発信が中心:距離を置くことのリスク
最先端のテクノロジーや研究動向、ライブラリのドキュメントを参照する上でも、英語は避けて通れません。ビジネスの国際共通語は英語であり、学術分野でも最新情報の多くが英語で発表されています。英語から距離を置けば、最新情報を入手する速度や量で大きく後れを取るリスクがあります。
私もAIエンジニアとして、最新情報のキャッチアップに追われる日々を過ごしていますが、とにかく日本語記事は情報が少なく、深い技術解説や最新トレンドは欧米から英語で発信されるものが大半です。
一時期、「英語を読むには、頭を切り替える必要があるし、Chrome翻訳機能やAIツールに頼って翻訳しちゃえば良いかなあ・・?」と思って、翻訳ツールに頼り切ったこともあるのですが、実は翻訳ミスが多く、余計な手間がかかり効率が非常に悪いと感じました。
よく考えたら当たり前の話ではあるのですが、「英語で書かれたものは英語のまま読む方が速いし確実」 です。いちいち日本語に翻訳して理解するというのは、伝言ゲームのように齟齬が生まれる危険性もありますし、やはり微妙なニュアンスを伝えきれていないです。英語から目を背けて日本語情報だけで済ませていると、習得できる知識量やスピードに大きな差が生まれてしまうことは疑いようがないでしょう。
開発現場に浸透する英語
英語の重要性は何も最先端の論文やドキュメントだけではありません。日々の開発業務においても、英語は既に当たり前のように浸透しています。世界最大のQ&Aサイト「Stack Overflow」には膨大なプログラミングの知見が蓄積されていますが、その大半は英語でやり取りされています。
日本語で掲載されている情報なんかは、英語に比べれば本当にごくわずかな規模です。実際、「英語で検索しないと有用な情報に行き着かない」「英語の情報量は圧倒的に多く、一次情報の大部分は英語だ」 という指摘は多くのエンジニアが実感するところでしょう。
また、GitHubなどのプラットフォームでも、プロジェクトのREADMEやドキュメント、コミットメッセージは英語が事実上の標準です。たとえコードそのものは言語非依存だとしても、問題解決のヒントや公式リファレンスは英語で記載されているケースがほとんどです。英語がわからなければ、エラーの原因をググっても日本語記事では見当たらず、英文のGitHub Issueや海外フォーラムを前に立ち尽くす…という事態にもなりかねません。
反対に、英語で情報収集できる人は世界中の知見を武器に問題解決にあたれるため、開発のスピードと質で周囲に差をつけることができます。
英語力が広げる役割と年収アップの現実
英語を使いこなせるエンジニアには、社内外での活躍の場が大きく広がるのも見逃せません。例えば海外の開発チームと協働する案件では、両者の橋渡し役となる「ブリッジSE」が必要になります。オフショア開発においてブリッジSEは重要な役割を担い、海外のエンジニアと円滑にコミュニケーションできるだけの語学力が求められます。(自分は英語ができるおかげで、海外の開発会社との連携や英文資料の調整といったブリッジSE業務を任されています。)
英語力があることで、国内だけでは得られない経験やポジションを任されるチャンスが生まれるのです。
こうした英語力の差は、最終的には処遇や年収の差にも表れています。ある調査では、日本で働くソフトウェア開発者について「日常的に英語を使うエンジニア」はその年収中央値が950万円と群を抜いて高かったのに対し、「英語をまったく使わないかめったに使わないエンジニア」は年収中央値が550万円と低く抑えられていました。 英語力のあるエンジニアは市場価値が高く、多くの企業から歓迎される存在であることがデータからも伺えます。グローバル案件を任せられる、人材不足の折に海外人材とも協働できる、といった付加価値が年収に直結しているのでしょう。
また、日本企業の中にはTOEICスコアに応じた手当を出すところや、昇進要件に英語力を含めるところもあります。外資系IT企業や社内公用語が英語のプロジェクトで活躍できれば、キャリアパスの選択肢も一段と広がります。総じて言えるのは、英語を武器にできるエンジニアは 「できること」の幅と深さが増し、それが評価や報酬にも反映されるということです。
おわりに:英語力をキャリアの武器にしよう
「AIが翻訳してくれるから英語はいらない」というのは、一見もっともらしく聞こえます。しかし実態は、AI翻訳の限界を補い、グローバルな情報に直接アクセスし、国境を越えて活躍するために、英語力の重要性はむしろ高まっている のです。英語ができることは、今やエンジニアにとって単なる便利スキルではなく、キャリアを切り拓く強力な武器と言えるでしょう。
生成AIの進化で定型的な翻訳や文章作成は自動化が進むかもしれません。それでも、人間同士が直接コミュニケーションし、最新の知見を交換し合う場から英語が消えることはありません。英語で自分の意見を発信し、多様なバックグラウンドの技術者と対等に議論できる力は、これからの時代ますます貴重になります。ぜひ英語という武器を手に入れ、AI時代の波を味方につけてください。それが周りとの差を生み出し、エンジニア人生の可能性を大きく広げてくれるはずです。
Discussion