はじめての同人誌
第9回 技術書同人誌博覧会で理系のための経理入門なる同人誌を「う-04」ブース香美山社中で頒布した代表のきくゆたともうします。人生ではじめて同人誌なるものを出版することが出来ました。ここにその記録を残しておきたいと思います。なお、zenn で記事を書くのも初めてです。よろしくお願いいたします。
はじめに
知人の編集者に「こんなネタで本を書きたいなぁ」と話して、コンセプトと章立てをメールしたのが 2013年7月12日でした。それからずっと書く書く詐欺を続けて10年後に同人誌としてようやく出版できました。なお当時のタイトル案は「理系のための経理超入門」でした。
そうこうするうちに月日が経ってしまいました。仕事の関係から Elixir 言語に没頭することになり、NervesJP や kochi.ex というコミュニティに関わるようになりました。そこで myasu さんと知り合い、彼から同人誌の出版を勧められました。
Elixir や Nerves に関係するネタは片っ端から公開してきてますが、どうも同人誌として書きたくなるようなひとまとまりがないなと思ってたところ「そうだ塩漬けにしてた経理ネタがある」とポテンシャルの低いところにストンと収まりまったというところです。
執筆
同人誌をどこで販売しようかということで、最初は 2023夏のコミケに応募しました。こちらは残念ながら落選でした。ただし、今年は夏まで怒涛の忙しさだったので当選してたら倒れてたかもしれません。技書博に申し込んだのがおそらく 2023.09.10 です。後は〆切ドリブンでした。2ヶ月後の2023.11.10に最終版PDFを上げるというのが最初に設定した〆切です。
最初は、事務手続き、表紙のイラストの依頼、執筆ツールの準備でやってる気分を出しました。ただ、なかなか本文に手がつかない状態が続きます。業務の方でガッツリ頭を使ってるので、そうやすやすと物書き脳が動き始めませんでした。これとは別個に科研費の提案書を書かねばならぬというミッションがあり(学内〆切2023.09.14)、こちらで無理やり物書き脳を酷使して、これがリハビリになってようやく物が書けるようになりました。
放っておくと目の前の業務でさっぱり進まないので、人と打合せをするときに進捗を披露するという形のプチ締切を切って進めました。アイディアはあったので章立ては比較的すぐに出来ました。しかしなかなか中身が書けず。
- 2023.10.12 preface と introduction をほぼ書いてます。これは多分に「お気持ち」的なことを書けば良いので書きやすかったです。
- 2023.10.22 このあたりから Re:VIEW や mermaid と仲良くなるのに時間をかけてます。github の最初のコミットがこの日です。
- 2023.11.07 些細な話ですがB5のつもりでいたのをA5にしました。その方が同人誌っぽそうと思ったからです。なお、Re:VIEW の設定を替えようとして、デフォが A5 だったのに後で気づきました。
スケジュールの変更
このあたりで、到底当初の 2023.11.10 までに完成しないことが確定したので、スケジュールを変更しました。ただ、最終的にはこれも守れずでした。
- 2023.11.10(fri) 当初の〆切(まるで無理)
- 2023.11.13(mon) 早期割引に向けた〆切(ここまでにほぼ書き込んでないと割引なしの入稿も困難)
- 2023.11.14(tue) 印刷入稿 早期割引限界
- 2023.11.16(thu) 書くのはここまで
- 2023.11.19(sun) 最終校正
- 2023.11.20(mon) 入稿(割引なし)
- 2023.11.21(tue) 入稿(割増)ここが入稿の限界
執筆途中で行き詰まる
こういうときに限って業務の方で外せない作業が発生します。現場での予期せぬトラブルというのが一番の想定外になります。そんなこんなで元々少ない睡眠時間が減って行って、まとまった集中できる時間が必要な執筆が相当圧迫されて行きました。
加えて、アイディアはあるから後は書き下ろすだけと思ってた部分で、書いていたら元々のアイディアではうまく書けないことが判明しました。経理で出てくる書類の貸借対照表ってのがわかりにくいので、それを理系の視点から書けばわかりやすくなるだろうというのがひとつの柱なのです。そのモデルに欠陥がありました。それで 2023.11.12 当たりでウンウン言ってました。そんなこんなで、ほぼ書き終えておこうと思ってた期日 2023.11.13 も軽く過ぎてしまいます。
元のアイディアを改善してなんとか書けるぞと書き進んで行きましたが、2023.11.16 にそれでもうまく書けないことが判明して、これはかなり焦りました。中核をなす部分なので、これが解決できなければ、それも割りと早いタイミングで解決できなければ、執筆を一旦断念して、印刷・頒布もあきらめねばなりません。
仕事の打合せついでにプチ締切を切って執筆を進めるというのは維持してました。次が 2023.11.18 です。ここで何らかのまとまった状態になってないともうアウトというのが見えてきてるところで、ようやく最終的なアイディアにたどりつきました。文章や体裁は後から追い込めると思ったので、説明の都合上で大量に発生する図と表をとにかく作りまくりました。
印刷はねこのしっぽさんにお願いするつもりでした。とっくに割引料金で行ける〆切は過ぎてて、通常料金の〆切が 2023.11.20(mon) 10:00 です。ここをターゲットに書きまくりました。2023.11.16の木曜日から睡眠時間が少なすぎて、このころの記憶がはっきりしません。最初は脳が動かなくなると仮眠取って復活させて書き進めてましたが、最後の方になると仮眠ぐらいでは脳が元に戻りきらなくなって VScode の前で立ち往生という状態が頻発するようになりました。
そうして〆切の 2023.11.20(mon) 10:00 を迎えたのですが、これ、ラッキーが2つあって、まず、ねこのしっぽさん月曜日が定休日のハズだったんですね、それがこの日は営業してた。そして通常は 10:00 〆切なのが技書博パックを使うと 13:00 になってました。この4時間は助かりました。見直す時間もろくになく、数値があってることだけ確認してオンラインで入稿しました。それが 12:55 ごろです。ところが入稿直後にPDFを見ると、表紙・裏表紙入れて全部で100ページ、本文が96ページのところ、本文がいつのまにか98ページになってたんです。最後に気を効かせたつもりで追加した数行が悪さをしました。慌てて削って元の状態に戻して、Re:VIEW でコンパイル。改めてPDFを入稿して完了。確認のメールが帰ってきたときは12:59を過ぎてました。
フォントが埋め込まれてない
ものの数時間してねこのしっぽさんから連絡がありました。「PDFに埋め込まれてないフォントがある。」とのこと。フォントなんて Re:VIEW に明示的には指定していませんから、こう言われてもどうすればよいか全くわかりません。次の入稿の〆切は翌日 2023.11.21(tue) 10:00 です。これには本当に参りました。これは Re:VIEW で Mermaid を使ったことに起因してます。ここの経緯については別途 記事にしたのでご覧ください。これで物理本作成用に入稿するためのPDFとオンラインで販売するためのPDFと作成できました。
入稿後
バタバタだったので、丁寧に校正をしたのは入稿が完了してからです。幸い、致命的なバグは見つかりませんでした。開いてない閉じ括弧があるとか、文章のつながりが妙に不自然とか、そういうレベルでした。これ、オンライン版では修正されてます。
大きく失敗したのは「奥付」です。慌ててる状態で作ってるので、連絡先と印刷所を記載するのを失念していました。これは 2023.11.23 に気づいて、深夜に家人にお願いしてシールをつくってもらいました。家にインクジェットプリンタ用のシール型の印刷用紙があって大変ラッキーでした。
あと、当日は売れた数だけ領収書を渡すものだと思って大量に領収書を作成しておきました。ただこれ、実際には領収書を受け取る方がほとんどいらっしゃらずで、大量に余ってます。それも日付入のが。
道具
同人誌を書くのに以下を使いました。
ふつーに Emacs で LaTeX を書いてと思ってたところ、myasu さんより Re:VIEW を勧められまして、物理本とepubとが出力できるならこれは便利と使うことにしました。図はパワポか Google slide で良いかなと思ってたところ、git 使うならそうじゃないよなということで制約条件系作図ツールとでも言うのでしょうか、図のついでに図はそれまで PlantUML を使ってたのを Mermaid ってのに乗り換えました。グラフも描きたくなったので100年ぶりに Gnuplot を使いました。
エディタは「開発もしているのだから VSCode を使わなくちゃ使わなくちゃ」と思いつつ、これまで慣れ親しんで来た Emacs/vi から離れられなかったのを、ついに VSCode に乗り換えました。これは Awesome Emacs の完成度が上がってたのが大きいですね。ただ、ちょっとした本文編集は Emacs を立ち上げてしまったり、ちょっとした config 編集は vi を立ち上げてしまったり… というのはどうしてもついてまわります。
版管理については何も考えてなかった≒やるつもりがなかったところ、kochi.ex メンバより厳しく「git を使いなさい」との御指導を受け、これもたまに使っては使い方を忘れるというのを繰り返してたのを乗り越えるべく使うことにしました。
Re:VIEW と仲良くなる
なれぬ Re:VIEW 使ってていくつかハマったので記録を残しておきます。
- epub 形式で出力したときの目次の章立てがナンバリングされる
- エラーしたときに原因が良くわからない
- Mermaid の図が徐々に小さくなっていく
- Mermaid 使った部分のフォントがPDFに埋め込まれない
最初のはあきらめて、オンライン出版のときに epub 形式ではなく PDF で出力するようにしました。
2番目のは VScode の様子も見ながら注意しながら書いて、徐々に慣れることで解決する感じでした。
- Markdown 風での指示で書いてしまう。
- LaTeX 風の指示で書いてしまう。e.g. //footnote でなく \footnote とか。
- ウォーニングやエラーメッセージで理由が明示されない。
先に書いたように、Mermaid を Re:VIEW で使ったときの問題はなかなかハマりましたんで Re:VIEW で mermaid を使った際にT3フォントが埋込まれないらしい場合の対処(図が徐々に小さくなる場合の対処も) という記事にまとめました。
本番会場
第9回技書博は入稿の週の土曜日です。私に強く同人誌を勧めてくれたmyasu さんがお手伝いに来てくれました。というか、ほとんどの準備は彼がやってくれたようなものです。myasu さんの いっしょに学ぶ Python & Elixir & Rustも一緒に販売しましたので、ご興味のある方はこちらもどうぞ。
あと前日の別件会合で我々の「一緒に同人誌やろうよ。楽しいよ。なんでやらないの?」隕石に当たってしまった pojiroさんもブースを手伝ってくださいました。ありがとうございました。彼の同人誌を読めるのも遠くないことでしょう。
事業でブースを出したこともありまして、ブース担当者の経験が無いわけではないです。しかし、同人誌のサークルでのブースは、事業やってて展示会に出すのとは随分と趣が異なります。和気あいあいとしてるし、いらっしゃってる参加者の方々の興味をもってるレベルが元々強いですし、興味が薄くても話は聞いてくれるし。お声がけして、簡単に内容を説明して(これが時間が短いのでなかなかのチャレンジングな作業)、そしてお買い上げ頂いたときのお金のやりとり、大変楽しい時間でした。
なお、隣のmegusunu LabさんのブースQRコードを編むには手編みのQRコードがおいてあって、来場のみなさんがかなりの確率でそこで一旦足を止めるので、その後ゆっくりとこちらのブースにやってくるのでより一層話しかけやすくてよかったです。
まとめと今後の課題
ずっと温めてたネタを同人誌の形で頒布できたのは素晴らしい一歩となりました。オープンソースソフトウェアでも「バグがあるかもしれないけどとにかくリリースして公開するのが良い」という教えがあるように、とにかく世に出すことが重要で、それをクリアできました。
しかしながら元々は、もっともっと従来とは異なる視点で経理という考え方にアプローチして、ずっと新しい方法論を提供したいと考えていました。残念ながら今回の原稿は満足の行くものではありません。現実の経理を意識しながら書き進める間にどんどん現状の視点に近づいてしまい、後から見直すと凡庸な出来に見えます。これは時間を置いて、改めてピンから考え直していきたいと思ってます。
あと出展者として。次回やるならフリーペーパーを出したいです。多少話を聞いてくれた来場者の方でご購入まで至らなかったときにお渡しできると良いなと思いました。あと、技書博はどうも懇親会まで参加してコンプリートのようなので次の機会があったら懇親会も出ようと思います。みなさん、またお会いしましょう。
謝辞
私を沼に誘ってくれた、そして多くのノウハウを伝えてくれて、さらにお手伝いしてくれた myasu さん、ありがとうございました。この先にも連続する沼があるようですが、泳ぎに行きましょう。
お手伝いしてくれた pojiro さん、ありがとうございました。この先の沼、一緒に泳ぎに行きましょう。
Creative Studio DNA さん、素敵な表紙をありがとうございました。度重なる修正に対応していただいて感謝です。なお、物理本のみ帯ありで、オンラインのは帯なしにしてます。
場所柄、お昼ごはんの調達が難しいという懸念がありました。これはランチ、それも美味しいお弁当の提供があって大変助かりました。ランチスポンサーの ソシム株式会社 さま、ありがとうございました。
記録
以下に原稿を書き始めてからオンライン販売用のドキュメントができるまでの Github の commit log (の一部)を残しておきます。
Date: Fri Nov 24 02:55:07 2023 +0900 new revision for online pubhlishing
Date: Fri Nov 24 00:14:35 2023 +0900 create a new sh command for avoiding T3 fonts with images in png not pdf
Date: Thu Nov 23 16:11:39 2023 +0900 version 1.0 for paper publishment
Date: Thu Nov 23 16:06:37 2023 +0900 version 1.0, sent to the printer, the final version which was a outlined pdf with Adove acrobat
Date: Mon Nov 20 13:01:17 2023 +0900 version 1.0, sent to the publisher
Date: Mon Nov 20 10:18:24 2023 +0900 version 0.9
Date: Mon Nov 20 06:33:22 2023 +0900 write write write ...
Date: Mon Nov 20 04:00:05 2023 +0900 write write write ...
Date: Mon Nov 20 00:08:04 2023 +0900 balance.re almost finished
Date: Sun Nov 19 22:55:20 2023 +0900 cover page design changed
Date: Sun Nov 19 21:34:13 2023 +0900 write write write ...
Date: Sun Nov 19 13:09:24 2023 +0900 write write write ...
Date: Sun Nov 19 11:10:45 2023 +0900 choumen -> choubo
Date: Sun Nov 19 10:58:40 2023 +0900 write write write ...
Date: Sat Nov 18 17:23:48 2023 +0900 merge whatis.re to intro.re
Date: Sat Nov 18 11:24:07 2023 +0900 new file for ending
Date: Sat Nov 18 11:07:01 2023 +0900 append preface.re
Date: Sat Nov 18 10:43:20 2023 +0900 change structure
Date: Sat Nov 18 01:43:44 2023 +0900 much written practical.re
Date: Sat Nov 18 00:33:52 2023 +0900 much written practical.re
Date: Fri Nov 17 11:40:47 2023 +0900 holible troubles with mermaid, toooo
Date: Fri Nov 17 02:14:11 2023 +0900 holible troubles with mermaid
Date: Thu Nov 16 20:18:58 2023 +0900 many figures
Date: Thu Nov 16 09:17:46 2023 +0900 new file balance.r
Date: Wed Nov 15 17:42:39 2023 +0900 fancy graphes
Date: Wed Nov 15 02:50:12 2023 +0900 write write write ...
Date: Wed Nov 15 01:56:12 2023 +0900 write write write ...
Date: Tue Nov 14 22:12:24 2023 +0900 write write write ...
Date: Sun Nov 12 10:30:43 2023 +0900 write write write ...
Date: Sat Nov 11 12:44:52 2023 +0900 writing more and more
Date: Sat Nov 11 11:12:13 2023 +0900 minor change
Date: Sat Nov 11 09:53:37 2023 +0900 easy switch to ebook/print
Date: Thu Nov 9 18:41:30 2023 +0900 fine back cover pages, but not used
Date: Thu Nov 9 18:40:38 2023 +0900 fine cover pages
Date: Thu Nov 9 17:29:32 2023 +0900 trying config.yml
Date: Thu Nov 9 09:10:49 2023 +0900 getting many catalog.yml
Date: Thu Nov 9 01:23:54 2023 +0900 append text
Date: Thu Nov 9 00:54:45 2023 +0900 correct single entry accounting tables
Date: Thu Nov 9 00:11:49 2023 +0900 append sentences
Date: Wed Nov 8 22:06:10 2023 +0900 challenge to modify
Date: Wed Nov 8 21:18:03 2023 +0900 spliting into chapter files
Date: Mon Oct 23 00:05:41 2023 +0900 appending a graph with mermaid
Date: Sun Oct 22 22:50:04 2023 +0900 test for editting, appending some lines
Date: Sun Oct 22 22:49:07 2023 +0900 test for editting, appending some lines
Date: Sun Oct 22 22:37:53 2023 +0900 remove an empty line on the top
Date: Sun Oct 22 22:30:56 2023 +0900 Update README.md
Date: Sun Oct 22 22:30:31 2023 +0900 Update README.md
Date: Sun Oct 22 22:25:09 2023 +0900 Create README.md
Date: Sun Oct 22 22:21:42 2023 +0900 initialize for the documents
Date: Sun Oct 22 22:07:35 2023 +0900 initialize for the documents
Discussion