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システムテスト仕様書:項目の選び方と作成する意味

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このドキュメントは、システムテスト仕様書にどのような項目を選び、なぜそれらを作成するのかを説明するガイドです。実務で使える観点と優先順位付けの考え方、テンプレート例を含みます。


1. なぜシステムテスト仕様書を作るのか(目的)

  • 要件どおりにシステムが動作することを保証するための「設計された検証計画」を持つ。
  • ステークホルダー(開発、QA、プロダクト、運用)で期待値を合わせるため。
  • 不具合の再現性を高め、修正と回帰テストを効率化するため。
  • テストの自動化やCI連携を行う際の入力資料として使えるため。

2. 項目を選ぶ際の基本的な考え方

項目選定は“すべてを網羅する”ではなく“リスクと価値に基づく優先順位付け”が重要です。以下の基準で評価します。

  • ビジネスインパクト: その機能がビジネスへ与える影響の大きさ(高→優先)
  • 使用頻度: 利用者が頻繁に触れる機能は優先度を上げる
  • 技術的リスク/複雑度: 新技術、複雑なトランザクション、依存が多い部分は重点的に
  • 変更頻度: 最近変更や追加された機能は回帰リスクが高い
  • 依存性(外部サービス): 外部APIや認証基盤など失敗リスクが高い箇所
  • 法的/セキュリティ要求: コンプライアンス/個人情報に関わる部分は必須

各機能に対して「重要度(High/Medium/Low)」と「リスクスコア(例:1–5)」を付与すると選定と説明が楽になります。

3. 優先度付けの実践方法(テンプレート)

  • ステップ1: 全機能のリストアップ(要件仕様書から抽出)
  • ステップ2: 各機能に対して評価軸を記入(ビジネス影響、使用頻度、技術リスクなど)
  • ステップ3: 合成スコアを計算し、上位からテストケースを設計
  • ステップ4: 高優先度は自動化、中位は手動テスト+自動化候補、低はサンプリング

推奨フォーマット(CSV/スプレッドシート):

機能ID 機能名 ビジネス影響 使用頻度 技術リスク 合成スコア 優先度
F-001 ユーザー登録 5 4 2 11 High

4. 各項目に必ず含めるべき内容(最小要件)

  • テストID・名前
  • 対象機能(要件参照ID)
  • 目的(何を検証するか)
  • 前提条件(初期データ、環境設定)
  • 入力(テストデータ)
  • 手順(できるだけ具体的に)
  • 期待結果(合格判定の具体値)
  • 実施結果/実施者/実施日時
  • 重要度(P0/P1/P2など)
  • 不具合リンク(検出時)

これらは、再現性と報告のために必須です。

5. 非機能項目の選び方(性能・セキュリティ等)

  • 性能: ユーザ数・同時接続・レスポンス閾値をビジネス条件から逆算して設定する
  • 耐久性(長時間負荷): 主要バッチ処理や持続負荷があるなら追加
  • セキュリティ: 認証/認可、入力検証、脆弱性スキャンの対象を明確に
  • 可用性/フェイルオーバ: 主要障害シナリオをいくつか定義

非機能は「代表的シナリオ」を優先し、詳しい試験設計は別紙(性能仕様)へ分離しても良い。

6. 記述レベルのガイドライン

  • 高レベル(シナリオ): ビジネスフローを確認するため。開始点〜終了点の手順を示す
  • ミドルレベル(機能): 各APIや画面の主要パスとエラー系の代表値
  • 低レベル(詳細手順): 再現性や自動化のために必要な具体手順やコマンド

推奨: 主要フローは低レベルまで記述し、周辺/低優先度は高〜中レベルで留める。

7. メンテナンス性を高めるための運用ルール

  • テストケースは要件IDに紐づける
  • 変更時は影響範囲を明示して更新を行う(小さい変更でも必ず差分を残す)
  • 自動化済み/未自動化のフラグ管理
  • 実行履歴を保存(誰がいつ実行して何が起きたか)

8. ドキュメント構成(推奨テンプレート)

  1. 文書情報
  2. 目的・範囲
  3. 参照資料
  4. テスト方針
  5. テスト環境
  6. テストスコープと優先度付け
  7. テストケース一覧(表形式)
  8. 非機能テスト計画
  9. 受け入れ基準
  10. 欠陥管理とエスカレーション
  11. リスクと緩和策
  12. 付録(テストデータ、スクリプト、接続情報)

9. 具体例(短いサンプル)

  • 選定理由: ユーザー登録はビジネス上重要かつ利用頻度が高いためHigh
  • 最低限のテストケース: 正常登録、メール重複、パスワード強度、外部メールサービスの失敗時の挙動

10. チェックリスト(作成時に確認すること)

  • 対象要件が最新か?
  • 前提条件が環境で再現できるか?
  • 合格基準は定量的か?(曖昧な表現は排除)
  • 不具合報告のテンプレートは決まっているか?

保守・運用の次ステップ — 実務への落とし込み

本ガイドは、システムテスト仕様書の“何を・なぜ”選ぶかを明確にするための実践的な指針を提供しました。ここからは、作成した基準とテンプレートを実務に落とし込み、継続的に運用して価値を出すフェーズです。

運用時のポイントとしては、次の3点を意識してください。

  1. 定期的な見直し: 要件変更や障害発生を受けてテストケースを更新する。リリース毎、もしくは週次のレビューを推奨します。
  2. エビデンスの一元管理: 実行結果、ログ、スクリーンショット、テストレポートを参照可能にして、解析とトリアージを速やかに行えるようにする。
  3. 改善ループの運用: 不具合の傾向分析からテストを追加・修正し、テストの有効性を継続的に高める。

最後に一言。このガイドは「初期の判断基準」と「維持運用の道筋」を提供するためのものです。実際のプロジェクトに反映するときには、チームの体制やリリース頻度、利用者特性に合わせて柔軟に調整してください。

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