書評 カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」
カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」
この本は、経営コンサルタントである弘子ラザヴィ氏が、米国で学んだカスタマーサクセスの概念と実践を日本企業に向けて紹介したものです。カスタマーサクセスとは、自社の製品やサービスを顧客に売るだけではなく、利用してもらうなかで、顧客の成長や成功へと導くことを意味します。
第1章 日本企業こそカスタマーサクセスが必須である理由
第１章では、日本企業がカスタマーサクセスを必要とする理由を説明しています。著者は、デジタル時代において、価値の源泉が所有から体験に変わり、経済取引の選択権がユーザーへ移行したことを指摘します。その結果、従来のモノ売り切りモデルではなく、カスタマーを虜にするリテンションモデルが成長の鍵を握るようになったと述べます。リテンションモデルとは、少額・親密な継続取引によって、カスタマーのライフタイムバリューを最大化するビジネスモデルです。著者は、このモデルがSaaS だけでなく、モノづくりを含むあらゆる業種に広がっていることを示し、日本企業が成功の自縛を解く必要があることを強調します。
第2章 カスタマーサクセスとは一体何か
第２章では、カスタマーサクセスの本質と実践指針を解説しています。著者は、カスタマーサクセスは日本伝統の商慣行の進化形であり、「商いは買っていただいた後が大切」の精神で「カスタマーに“成功”を届ける」ことだと定義します。そして、リテンションモデルの成功要因として以下の5つを挙げます。
- ライフタイムバリューの最大化
- 買ってもらってからが勝負
- 手放せない・外せないプロダクト
- データからカスタマーの未来を創る
- スケーラビリティ構築力
これらの要因について具体的な事例や方法論を紹介しながら、カスタマーサクセスが日本企業にどういう意味を持つかを説明しています。
第3章 日本におけるカスタマーサクセスの現状
第３章では、日本におけるカスタマーサクセスの現状と展望を考察しています。著者は、世界からみた日本企業のカスタマーサクセスパフォーマンス指標、ベンチマーク調査2018 の結果をもとに、日本企業がカスタマーサクセスに対してどれだけ取り組んでいるかを分析します。その上で、リクルートマーケティングパートナーズ 、メルカリ 、Sansan など日本産のカスタマーサクセスの事例を紹介し、日本企業がカスタマーサクセスを実現するために必要な要素や課題を指摘します。また、CCO（チーフ・カスタマー・オフィサー）の新設がカスタマーサクセスにどのような影響を与えるかについても言及しています。
付録 キャリアとしてのカスタマーサクセス
この章にとても共感しましたが、付録では、キャリアとしてのカスタマーサクセスについて述べています。著者は、カスタマーサクセス人材とはどのような人材か、どのような仕事があるか、どのような魅力があるかを解説しています。また、カスタマーサクセス人材に求められるスキルや資格、キャリアパスや給与水準などについても触れています。
カスタマーサクセス人材は主に以下のような特徴があると本書では触れられています。
- 共感性が強い
- 感情よりも論理やデータを優先して意思決定をする
- 関係性を重視し長期・全体への目配りができる
- 自分と違うタイプの人と知り合うのが好きで影響力を活かした協業が上手い
- 未知のことに挑戦し未踏のフロンティアを歩くのが好き
自分もカスタマーサクセス事業に従事している身として、この特徴には確かにと思わされる部分が多いです。データや論理優先の意思決定は個人的にできていないので、今後改善していきたいと思います。
おわりに
本書は、カスタマーサクセスという概念を日本企業に向けてわかりやすく紹介した入門書です。著者は、米国で学んだカスタマーサクセスの知識と経験をもとに、日本企業の現状や課題に対して具体的な提言やアドバイスを行っています。また、多くの事例やデータを用いて、カスタマーサクセスの必然性と本質を説得力ある言葉で伝えています。本書は、カスタマーサクセスに興味があるビジネスパーソンや経営者はもちろん、これからカスタマーサクセスの仕事に就きたい人にも役立つ一冊だと思います。
参考
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