📖

ストリーミング音声認識API/SDKの最新比較(2025年時点)

2025/02/12に公開

(本記事は、このツイートの趣旨に則り、OpenAIのDeep Research機能を使って調査した結果を公開したものです)

はじめに

OpenAIの「Whisper」は高精度な音声認識モデルとして注目されていますが、リアルタイム処理には向いていないとされています。実際、Whisperは一定長の音声をまとめて処理するバッチ指向の設計のため、ストリーミング用途では遅延が大きくなりがちです。そのためリアルタイムでの文字起こし用途では、他のサービスを検討する必要があります。現に Deepgram などの他社ソリューションは、速度と精度の面でWhisperを上回ると報告されています[1]。本稿では、Webアプリやデスクトップアプリ(ElectronやReact NativeなどJavaScriptベースの開発環境)で統合可能な、クラウド提供のストリーミング音声認識API/SDKについて、最新の主要プロダクトを比較検討します。

調査の要件:

  • ストリーミング音声入力対応で、リアルタイムに文字起こしが可能なAPI/SDKであること
  • Web/Electron/RNなどJSベースのアプリから利用可能であること(ブラウザまたはデスクトップで動作)
  • クラウドインフラで運用できる(クラウドAPIまたはクラウドSDKとして提供される)
  • Google MeetやZoomの音声のような、デバイス上でキャプチャした音声をリアルタイム処理できること(=マイク入力やシステム音声を取り込み可能なこと)

これらを踏まえ、主要なプロバイダ(Google、AWS、Microsoft、Deepgram、AssemblyAI など)のサービスについて、リアルタイム音声認識精度、遅延(レイテンシ)、コスト、開発のしやすさなどの観点から比較します。


主要なストリーミング音声認識プロバイダ

1. Google Cloud Speech-to-Text

Google提供のクラウド音声認識サービスです。ストリーミングAPIを備えており、双方向のgRPCストリームでリアルタイム音声を送信し、逐次結果を取得できます(※REST APIは同期/非同期認識のみ)[2]

  • 対応言語: 125以上の言語・地域に対応。多言語の音声認識で定評があります。
  • モデル: 音声の種類に応じて最適化されたモデル(標準、電話音声向け、動画音声向けなど)を選択可能。
  • 精度: 業界トップクラス。DeepgramやAssemblyAIのような専門サービスが追い上げていますが、Googleも非常に高精度です。
  • リアルタイム性能: ストリーミングAPIでは発話中でも「暫定結果」を逐次返し、数百ms〜1秒程度の遅延で字幕表示可能とされます。
  • コスト: [3]
    • 標準モデル: $0.006 / 15秒 → 約$0.024 / 分
    • 毎月60分の無料枠あり + 新規利用者は$300相当のクレジット
  • 統合のしやすさ:
    • Node.jsの公式SDK (@google-cloud/speech) があり、gRPC通信を内部処理してくれます。
    • ブラウザから直接の利用は鍵管理の面で非推奨ですが、ElectronならNode.jsで統合可能。
  • 補足機能: 自動句読点挿入、単語タイムスタンプ、話者分離、カスタム語彙など。

2. Amazon Transcribe (AWS)

AWSの音声認識サービス。リアルタイム音声ストリーミングに対応した Amazon Transcribe Streaming API を提供しています[4]

  • 対応言語: 英語・日本語など主要言語を数十カバー。
  • 精度: 大手クラウドの中でも高水準。DeepgramやWhisperに僅差で劣るという報告もありますが、十分実用レベル。
  • リアルタイム性能: 暫定結果を逐次返す仕組みあり。
    • 部分結果の安定化機能(Partial Results Stabilization)によって、1〜5秒程度の遅延があるケースも報告[4:1]。設定次第では1秒未満に収まることも。
  • コスト: [5]
    • $0.024 / 分(最初の25万分/月まで)。大量利用で割引あり。
  • 統合のしやすさ:
    • AWS SDK for JavaScript でWebSocket接続の署名生成が可能。ただしストリーミングAPIは自力実装がやや複雑。
    • AWS Chime SDKなどと組み合わせると会議音声のライブ文字起こしが容易。
  • 補足機能: カスタム語彙、話者区別、キーワード検出、不適切コンテンツマスキングなど。

3. Microsoft Azure Speech Services

Microsoft AzureのCognitive Servicesの一部として提供される音声認識。Speech SDKが公式で各プラットフォーム向けに公開されています。

  • 対応言語: 日本語含む主要言語対応。多言語自動検出や翻訳機能も利用可能。
  • 精度: 2017年に「人間並み」と発表以来、改良を重ねて高精度を維持。WhisperやAssemblyAIと僅差との報告もある[6]
  • リアルタイム性能:
    • 1秒未満の低遅延とされます[7]。まれにネットワーク要因で数秒遅れることもあるが、全般的に安定。
  • コスト: [8]
    • $1.0 / 時間(→ $0.0167 / 分)と大手3社では最安。
    • カスタムモデルはやや割高。
  • 統合のしやすさ:
    • JavaScript向けSpeech SDK があり、ブラウザ / Node / Electronどれでも簡単に利用可能。
    • マイク入力や無音検知などもSDKが内部で処理。
  • 補足機能: 自動句読点、話者識別、カスタム音声認識、翻訳、音声合成との連携などが充実。

4. Deepgram

音声認識に特化したスタートアップ企業。低遅延かつ大規模エンドツーエンドDLモデルを特徴としています[9][4:2]

  • 対応言語: 英語中心だが、日本語にも対応。
  • 精度: 大手クラウドと同等か場合によりわずかに劣るという報告もあれば、Deepgram自身は他社より高いと主張する[10][1:1]。実利用では十分高品質。
  • リアルタイム性能:
    • 「300ms以内」の超低遅延を謳う[9:1]。AWSの1〜5秒程度と比べ大幅に速いと比較データを公表[4:3]
  • コスト: [11]
    • ストリーミングで $0.0059 / 分(約$0.354 / 時間)と非常に安価。
    • $200相当の無料クレジットも提供。
  • 統合のしやすさ:
    • シンプルなWebSocket APIと公式JS SDKがあり、Node/ブラウザ/Electronなどから容易に接続できる。
  • 補足機能: 自動句読点やキーワードスポッティング、後処理での話者分離など。専門用語辞書も設定可能。

5. AssemblyAI

こちらも音声認識特化の新興企業。最新のディープラーニングモデル「Universal-2」などをクラウド提供しています[6:1][12]

  • 対応言語: 近年多言語対応を進め、日本語もサポート開始。
  • 精度: 2023年以降、大幅に向上。独自ベンチマークではGoogleやAWSより高いとされる[6:2]。実際の比較でもトップクラスとの報告多数。
  • リアルタイム性能:
    • WebSocketベースで低遅延を実現。Deepgram並みと評価するユーザーも多い。
  • コスト: [13]
    • $0.47 / 時間(→ 約$0.0078 / 分)。Deepgramよりやや高いが、大手よりは格安。
    • 初回クレジットあり。ストリーミング機能は有料アカウントのみ利用可。
  • 統合のしやすさ:
    • 専用JS SDKは無いが、WebSocket APIのサンプルが充実。
    • ElectronやReact NativeでもNode.jsのWebSocketで実装可能。
  • 補足機能: テキスト要約、キーワード抽出、感情分析、有害チェックなどの付加サービスも豊富。話者分離はベータ提供中。

その他サービス

  • Speechmatics: 英国企業。特に英語の多様なアクセントや専門用語に強いと評判。精度最重視なら有力[1:2]。ただし価格は$1.20/時間程度と大手より高め。
  • IBM Watson: かつて先行していたが、近年はモデル更新が少なく精度・遅延で若干劣るとの評価。
  • Rev AI: プロ向けの高精度音声起こしで有名だが、リアルタイムは$0.25/分と高額。
  • Soniox: 新興サービス。独自ベンチマークでWhisperを上回ると発表。日本語は限定的。
  • Symbl.ai: 会話内容の分析やアクションアイテム抽出が強み。リアルタイムAPIはあるが、精度は外部モデル依存か要検証。

精度の比較

いずれのサービスも クリアな音声なら90〜95% ほどの文字認識率を達成する場合が多く、実用上十分な水準です。しかし雑音や専門用語が多い場合など、モデル間で数%のWER差が生じることもあります。

  • 人間レベル: GoogleやMicrosoftは「人間と同等」と謳うが、実際には理想環境下のテスト結果。ノイズや早口では5〜15%ほどの誤りがあり得る。
  • Deepgram vs 大手: Deepgramは独自比較でGoogle/AWSより優れると主張[10:1][1:3]。第三者評価ではほぼ同等 or わずかに劣る報告もあり、状況次第。
  • AssemblyAIのUniversalモデル: 社内比較ではGoogleやAWSを上回ると発表[6:3]。独立検証でもトップクラス。
  • Speechmatics: 訛りや専門領域に強く、精度最優先なら選ばれることもある[1:4]
  • 総合: 最新モデルはどれも高精度。用途ごとにテストして誤認識傾向を比較し、カスタム辞書の有無などを考慮して決めるのが望ましい。

リアルタイム性能と遅延の比較

遅延(レイテンシ) はライブ字幕用途では重要です。どのサービスも部分結果 (Interim results) を返す仕組みにより、話し途中でもテキストを更新します。

  • Deepgram: 「300ms以下」で更新し続けると公言[9:2][4:4]。AWSの1〜5秒に比べ圧倒的に速いとアピール。
  • AssemblyAI: 具体数値は非公表だが、Deepgramに匹敵する低遅延との評判。
  • Azure/Google: ~0.5〜1秒未満で部分結果が返る報告が多い[7:1]
  • AWS: 部分結果安定化機能の設定により1〜2秒以上のラグが出ることも[4:5]。要調整。
  • 補足: ネットワーク状況や無音検知の設定で実際の体感遅延は変動します。部分結果は後から訂正が入る可能性もあり、Partial Result Stabilization の有無などで挙動が異なる。

コストの比較

以下はおおまかな1分あたりの料金(2025年2月時点)です。

  • Google: $0.024 / 分(標準モデル) → 1時間あたり$1.44[3:1]
  • AWS: $0.024 / 分(最初の25万分)[5:1]
  • Azure: 約$0.0167 / 分($1.0 / 時間)[8:1] → 大手では最安
  • Deepgram: $0.0059 / 分(約$0.354 / 時間)[11:1] → 最安クラス
  • AssemblyAI: $0.0078 / 分(約$0.47 / 時間)[13:1] → 大手より安いがDeepgramよりはやや高い
  • Speechmatics: $1.20 / 時間(推定)とされるが要問い合わせ
  • Rev AI: リアルタイム$0.25 / 分と非常に高額
  • IBM Watson: $0.02 / 分程度(参考値)

使い放題プランやボリュームディスカウントがある場合もあり、大規模導入時は個別交渉すると料金が下がる可能性があります。


開発の容易さとJavaScript統合

Web/Electron/React Nativeなど、JSで開発する場合のポイントを整理します。

  • 公式JS SDKの有無
    • Google: Node.js向け公式ライブラリあり。ブラウザ直接は非推奨。
    • AWS: AWS SDK for JavaScriptで認証周りはサポート。ただしストリーミングのWebSocket部分はやや複雑。
    • Azure: Speech SDK (JavaScript) が充実。ブラウザ/Electron/Node環境でワンストップ実装可能。
    • Deepgram: 公式JS SDKあり。WebSocket接続を簡単に扱える。ブラウザやElectronとも相性良い。
    • AssemblyAI: JS用SDKは無いがWebSocketサンプル多数。自力でwsモジュールなどを使って数十行で実装可。
  • ブラウザでのマイク音声取得:
    • Web Audio/MediaStream APIで生音声を取得 → サービスに送信。AzureやDeepgramはサンプルが豊富。
  • セキュリティ:
    • APIキーをクライアントに埋め込むリスクに注意。通常はバックエンド経由が望ましい。
    • ElectronならNode経由で安全にキー管理しやすい。
  • Zoom/Meet音声の取得:
    • 公式APIは映像やチャット取得は充実しているが、音声取得は制限多め。
    • ZoomはSDKでボットが会議音声を取得可能[14]。Google Meetは公式音声APIなしなので仮想デバイスやエクステンションなど工夫が必要。
    • いずれのサービスも「音声ストリーム」さえ取得できればリアルタイム処理可能。

まとめ

リアルタイム音声認識を必要とするアプリ向けに、主要クラウドAPI/SDKを比較しました。ポイントは以下の通りです。

  1. 大手クラウド(Google / AWS / Azure):

    • 信頼性・実績があり、多言語対応や追加機能も豊富。
    • Azureは特に価格が安くSDKが充実。
    • GoogleやAWSは同プラットフォーム上でのサービス連携が便利。
  2. 新興サービス(Deepgram / AssemblyAI):

    • 低価格・低遅延が最大の魅力。
    • 開発者フレンドリーなAPI設計でJS統合も容易。
    • 英語中心だが日本語対応も進み、精度もトップクラスに迫る/肩を並べる。
  3. 精度:

    • どれも実用十分だが、音声の質や用途により数%差が出る。
    • AssemblyAIやDeepgram、Speechmaticsは英語に強みがある。
    • 大手クラウドも多数言語や特殊機能に優位性。
  4. リアルタイム性能(遅延):

    • Deepgramは300ms以下をアピールし最速クラス。AssemblyAIもほぼ同等。
    • Azure/Googleは0.5〜1秒程度、AWSは設定により1〜2秒かかる場合あり。
    • ライブ字幕なら遅延重視でDeepgram/AssemblyAIが候補。
  5. コスト:

    • Google/AWS: $0.024/分($1.44/時)。
    • Azure: $0.0167/分($1.0/時)。
    • Deepgram: $0.0059/分($0.354/時)と格安。
    • AssemblyAI: $0.0078/分($0.47/時)で格安。
    • 利用量次第で大きな差に。無料枠やトライアルを活用して比較を推奨。
  6. 開発統合:

    • AzureのJavaScript SDKが最も扱いやすく、ブラウザから直接使う場合でも統合が簡単。
    • Google/AWSも公式Node.jsライブラリがあるが、ストリーミング処理に少し手間がかかる。
    • Deepgram/AssemblyAIはWebSocketで軽量実装が可能。

結論:

  • どのサービスも既にWhisperをリアルタイムで使うより高い即時性を提供可能。
  • コスト重視なら Deepgram / AssemblyAI 、多言語や総合力を求めるなら Azure / Google / AWS から選ぶのが王道です。
  • ライブ字幕用途で極限の低遅延を狙うなら Deepgram が有力です。
  • 実際に自社の音声で試して比較し、モデルの誤認識傾向やカスタム辞書の効果を含め検証するのが最適です。
  • 各社ともモデルを日々アップデートしており、常に最新の性能や価格を確認することが重要です。

参考文献・リンク

脚注
  1. Reddit等開発者フォーラムでのDeepgram vs Whisperに関する議論(2024-2025年) ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  2. Google Cloud Documentation - Speech-to-Text gRPC Streaming ↩︎

  3. Google Cloud Speech-to-Text 料金 ↩︎ ↩︎

  4. AWS Transcribe Streaming - Developer Guide ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  5. Amazon Transcribe 料金 ↩︎ ↩︎

  6. Medium等でのOpenAI Whisper vs AssemblyAI vs Azure/Google精度比較記事(2024-2025年) ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  7. Azureユーザーフォーラムにおける遅延報告 (例: Microsoft Q&A) ↩︎ ↩︎

  8. Microsoft Azure Speech Services 料金 ↩︎ ↩︎

  9. Deepgram公式「300ms以下の低遅延」を謳う技術紹介ページ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  10. VoiceWriter「2025年音声認識API比較」動画・ブログなどでDeepgramやAssemblyAI、Whisperとの比較を言及 ↩︎ ↩︎

  11. Deepgram 公式料金ページ ↩︎ ↩︎

  12. AssemblyAI ライブ音声認識ガイド (WebSocket API) ↩︎

  13. AssemblyAI 新料金発表 (ブログ) ↩︎ ↩︎

  14. Zoom/Meet音声取得に関するサードパーティSDK情報やRecall.aiなどの事例 ↩︎

Discussion