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🔐 暗号の世界へようこそ! ~金庫と郵便ポストのセキュリティ進化論~ 🚀

2024/06/22に公開

ネットショッピングでクレジットカード情報を入力するとき、盗聴されてないか不安になったことはありませんか?

「LINEのメッセージは本当に相手にだけ届いているの?誰にも覗かれていないか心配…」

そんな不安を解消してくれるのが、「暗号」🔑 という技術です。

インターネット社会の今、あなたの大切な情報は、目には見えないところで暗号によって守られているのです。

🗝️ 数千年の間、暗号は「金庫」だった 🔐

昔々、暗号といえば「金庫」のようなものでした。

送信者と受信者だけが、同じ鍵🔑を持った金庫を使って、秘密のメッセージを守っていたのです。

これが、「共通鍵暗号」 と呼ばれる方式です。

🗝️ 共通鍵暗号はシンプルで分かりやすい仕組みでしたが、大きな弱点がありました。

それは、「鍵の受け渡し」を安全に行うことが非常に難しい、ということです。

もし、金庫の鍵🔑が途中で盗まれてしまったら…? 秘密のメッセージは簡単に解読されてしまいますよね。

✉️ そして、「郵便ポスト」の発想へ!📮

そこで登場したのが、「公開鍵暗号」という画期的な技術です。

公開鍵暗号は、誰でも手紙を入れられる「郵便ポスト」のように、誰でも暗号化できる仕組みを提供します。

  • 📮 誰でも手紙を入れられるけど、取り出せるのは郵便配達員だけ!

郵便ポストって、誰でも手紙を入れられますよね? でも、郵便物を取り出せるのは、特別な鍵を持った郵便配達員だけです。

公開鍵暗号も同じように、「公開鍵」🔐を使って誰でも暗号化できますが、復号化できるのは「秘密鍵」🔑を持った人だけです。

🤝だから、鍵の受け渡しは不要!

💡 コラム:公開鍵暗号は、あなただけの私書箱 ✉️

公開鍵暗号のイメージは、「郵便ポスト」📮というより、あなた専用の「私書箱」に近いかもしれません。

この私書箱には、誰でも手紙 💌 を投函できる「投入口」がついています。 この投入口が「公開鍵」🔑 です。

あなたは、あなたの名前が書かれた私書箱を、SNSのプロフィール欄にメールアドレスを公開するのと同じような感覚で、誰でもアクセスできる場所に設置できます。 そして、誰でもあなたの公開鍵を使って、私書箱に手紙を投函することができます。

もしくは、私書箱、公開鍵はメールアドレスと同じように、あなたが伝えたい相手にだけ教えても構いません。万一その通信が誰かに盗聴されたとしても、あなたにとっては自分のメールアドレスがバレたのと同じダメージしかないでしょうね!

私書箱を開けて手紙を読むためには、あなただけが持っている特別な「鍵」(秘密鍵) 🗝️ が必要です。この私書箱の鍵は、郵便ポストの鍵を持っている郵便局員ではなくて、あなた自身が保管して管理しているのです。

ただし、私書箱を設置する際には、なりすまし攻撃には注意が必要です。😈 悪意のある人が、あなたの名前を勝手に使って偽物の私書箱を設置したらどうなるでしょうか? その偽物の私書箱に投函された手紙は、あなたではなく、悪意のある人がこっそり読んでしまうかもしれません。

このような偽造を防ぐためには、デジタル証明書 🛡️ のように、私書箱が本当にあなたのものであることを証明する仕組みが必要になります。

🤔 ちょっと待って!その私書箱、本当にあなた?

公開鍵暗号は便利ですが、「その公開鍵(私書箱)、本当に正しい人のもの?」という問題が出てきます。

公開鍵は誰でも知っていいって、なんだか不思議ですよね?

そこで登場するのが、デジタル署名、PKI、証明書です。

✍️ デジタル署名:改ざん防止の電子印鑑🛡️

デジタル署名は、電子データに本人確認と改ざん防止を施す技術です。

📝 従来の署名・印鑑は、偽造のリスクがある

🛡️ デジタル署名は、秘密鍵で作成し、公開鍵で検証

  • 秘密鍵で作成した「電子印鑑」をデータに押す。
  • 公開鍵で「電子印鑑」が本物かどうかを確認。

✅ データの信頼性を保証!

デジタル署名があれば、もうハンコは必要なくなると思いますか? 🤔💭

🏢 PKI:私書箱の管理局 🏢

PKIは、公開鍵暗号を安全に利用するための仕組みです。

🏢 PKIは、信頼できる機関「認証局」🔑

  • 認証局は、「この私書箱は間違いなく〇〇さんのものです」と証明書を発行してくれる。

📜 証明書:公開鍵の信頼性を保証する書類 📜

  • 証明書は、私書箱の「賃貸契約書」のようなもの。
  • 証明書を見ることで、受け取った公開鍵が本当に正しい人物のものなのかを確認できる。

🔍 信頼できる私書箱かどうかを確認できる!

💡 コラム:暗号に使われる専門用語

  • 暗号化: データを第三者に解読できない形に変換すること。🔑🔒
  • 復号化: 暗号化されたデータを、元の形に戻すこと。🔑🔓
  • ハッシュ関数: データを入力すると、常に同じ長さの「ハッシュ値」と呼ばれる値を出力する関数。改ざん検知などに利用されます。

🤝 ハイブリッド暗号:安全さと速さの両立 🚄

公開鍵暗号は安全ですが、処理が重いのが欠点です。そこで、ハイブリッド暗号が登場! 🚀🚀🚀

🚀 ハイブリッド暗号は、両方のいいとこどり

  1. 公開鍵暗号で、共通鍵を安全に共有。(私書箱に、別の金庫の鍵を入れるイメージ)
  2. 共通鍵暗号で、高速なデータ通信を実現。(金庫の中身は、従来通りやり取り)

🚄 安全でスピーディーな通信を実現!

🔐➡️✉️➡️🚀 暗号技術の進化は、これからも続く!

共通鍵暗号から公開鍵暗号、そしてハイブリッド暗号へ…

暗号技術は、私たちの安全を守るために、日々進化し続けています。

これで、あなたも暗号マスター! 😎✨


歴史を重視して暗号技術を知る

あなたがこれまで公開鍵暗号を理解できなかった理由

その理由は 「木を見て森を見ず」になってしまっているからです。

しかも「木」は簡単な話でもないので、そこで諦めてしまう。

まず、「森」を見ることから始める、物事をちゃんと理解したいときにはかならず「森」から始めましょう。この原則は、この暗号のトピックに限った話ではありません。

それはたいてい歴史です。

暗号の歴史:秘密を守る人類の戦い〜共通鍵暗号から公開鍵暗号へ

暗号の歴史は、人類の秘密を守る長い戦いの記録です。古代から現代まで、その本質は変わっていません。それは「いかに安全に情報を伝えるか」という永遠の課題です。

共通鍵暗号

古代エジプトの神官たちがヒエログリフを用いた時代から、20世紀半ばまで、暗号技術の基本は「共通鍵暗号」でした。これは、金庫のアナロジーで考えるとわかりやすいでしょう。

共通鍵暗号は、まるで頑丈な金庫のようなものです。メッセージを金庫に入れ、鍵をかけて送ります。受け取る側は同じ鍵で開けます。

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金庫は安全に見えますが、致命的な弱点があります。それは「鍵の配送問題」です。 金庫の鍵を誰かに渡すには、直接会うか、信頼できる使者を送るしかありません。敵の目をかいくぐって、この大切な鍵を安全に届ける。それは、まるでスパイ映画のような緊張感に満ちた任務でした。

第二次世界大戦中のドイツ軍が採用したエニグマ暗号機が良い例です。エニグマ暗号機は、日々変更される複雑な暗号化設定を用いていました。この設定情報は、厳重に管理されたコードブックを介して、各部隊に物理的に配布されていました。もしこのコードブックが敵に奪われれば、その日のうちにドイツ軍の通信内容はすべて解読されてしまうという、極めて重大なリスクを抱えていたのです。

そして、1960年代後半から1970年代にかけて、状況は劇的に変化します。1969年のARPANET登場を皮切りに、デジタル通信の時代が幕を開けたのです。通信の規模と頻度が飛躍的に増大し、事前に信頼関係を築いていない不特定多数の相手との通信が必要になりました。さらに、リアルタイムの通信要求により、鍵の事前共有が困難になりました。物理的な鍵の受け渡しに頼っていた共通鍵暗号は、もはや限界を迎えていたのです。

公開鍵暗号

この新たな課題に応えるべく、1976年にディフィーとヘルマンが「新しい暗号の方向性」を発表し、画期的な「公開鍵暗号」の概念を提唱しました。これは、郵便ポストのアナロジーで考えるとよいでしょう。誰でも手紙を投函できるが、特別な鍵を持つ郵便局の担当職員だけが郵便物を取り出せる、そんなポストのような仕組みです。

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ポストの鍵は郵便局員だけが厳重に管理していれば良く、我々一般市民はその鍵をわざわざ共有している必要などありません。つまり、 「公開鍵暗号」によって人類が数千年に渡って抱えてきた、「共通鍵暗号」から切り離せなかった「鍵の配送問題」が遂に解決されるのです。

この郵便ポストのアナロジーでは、郵便局員が管理しているのが「秘密鍵」としても、「公開鍵暗号」なるものの「公開鍵とはいったい何なのか?」という疑問がでるでしょう。

郵便ポストの投函口そのものが「公開鍵」になると理解してください。つまり、誰でも郵便ポストの中に郵便物を投函することが可能ですが、郵便物は必ずポストの投函口を通過させる必要はある、と理解すれば良いです。

しかし、この革命的なアイデアには大きな課題がありました。それは、この概念を実際に実装する方法が見つからなかったのです。公開鍵暗号を実現するためには、郵便物の投函が一方向でしかなく逆に取り出せない事と同じように、「一方向関数」と呼ばれる特殊な数学的性質を持つ関数が必要でした。

一方向関数とは、ある入力から出力を計算するのは簡単ですが、その逆、つまり出力から元の入力を求めるのが極めて困難な関数です。まるで、卵を割って作ったオムレツから元の卵の形を復元するようなものです。

この一方向関数の探索は、暗号学者たちにとって大きな挑戦となりました。理論的には存在し得るものの、実用的で安全な一方向関数を見つけることは容易ではありませんでした。ディフィーとヘルマン自身も、彼らの論文でいくつかの候補を提案しましたが、完全な公開鍵暗号システムを構築するには至りませんでした。

この状況は、まるで宝の地図を手に入れたものの、その宝のありかを示す重要な手がかりが欠けているようなものでした。公開鍵暗号という革命的なアイデアがあるにもかかわらず、それを実現する具体的な方法がない - これは暗号学界にとって大きな課題でした。

しかし、この難問に対する解答は、予想以上に早く見つかりました。1977年、MITの研究者たち、リベスト、シャミア、エーデルマンによってRSA暗号が発表されたのです。RSA暗号は、大きな素数の積の因数分解の困難さを利用した一方向関数を実現しました。これにより、公開鍵暗号は単なる概念から実用的な技術へと進化したのです。

RSAの発明は、数千年にわたる暗号の歴史における革命でした。これにより、インターネットを介した安全な通信や電子商取引が可能となり、現代のデジタル社会の基盤が築かれました。

今日、私たちがオンラインバンキングやセキュアなメッセージングを利用できるのは、この長い暗号の歴史と、鍵配送問題を解決した公開鍵暗号のおかげです。そして、暗号技術の進化は今も続いています。量子コンピュータの時代に向けて、新たな暗号方式の研究が進められているのです。

暗号の歴史は、人類の知恵と創造力の証です。古代の神官から現代の数学者まで、秘密を守り、そして解き明かそうとする人々の飽くなき探求は、これからも続いていくでしょう。技術が進歩し、社会が変化しても、安全に情報を伝えるという根本的な課題は変わりません。暗号技術は、この永遠の課題に挑戦し続ける人類の知恵の結晶なのです。

公開鍵暗号の多様な数学的基盤

ここで、 「大きな素数の積の因数分解の困難さを利用した一方向関数を利用したRSA暗号」というのは、「公開鍵暗号」の単なるひとつの実装方法に過ぎない 、ということに注意が必要です。

たしかに歴史的には大きな転換点であり現在の主流の暗号方式ではありますが、あくまでそれはひとつの実装方法にすぎず、公開鍵暗号方式は、素因数分解問題以外にも、様々な数学的な問題の困難性を利用して安全性を担保しています。

以下に、素因数分解問題以外の数学的問題に基づく公開鍵暗号方式の例をいくつか紹介します。

1. 離散対数問題に基づく方式

  • ElGamal暗号: 楕円曲線上の離散対数問題の困難性を利用しています。鍵生成、暗号化、復号化の各過程で、楕円曲線上の点の加算やスカラー倍算を行います。
  • DSA (Digital Signature Algorithm): デジタル署名を作成・検証するためのアルゴリズムで、ElGamal暗号と同様に離散対数問題の困難性を利用しています。
  • ECDSA (Elliptic Curve Digital Signature Algorithm): 楕円曲線DSAとも呼ばれ、DSAを楕円曲線上で適用したものです。DSAよりも短い鍵長で同等の安全性を提供できます。

2. その他の数学的問題に基づく方式

  • RSA暗号: 素因数分解問題の困難性を利用しています。鍵生成には2つの大きな素数を使用し、暗号化・復号化にはモジュロ演算を用います。
  • NTRU暗号: 格子暗号の一種で、格子上の最短ベクトル問題(SVP)や最近ベクトル問題(CVP)の困難性を利用しています。
  • McEliece暗号: 符号理論に基づく暗号で、線形符号の復号化問題の困難性を利用しています。

公開鍵暗号理論がもたらした革命:デジタル署名から現代のセキュア通信基盤へ

1976年のディフィーとヘルマンによる「新しい暗号の方向性」は、公開鍵暗号という画期的な概念を生み出し、共通鍵の配送問題を解決する道筋を示しました。続く1977年、リベスト、シャミア、エーデルマンが発表したRSA暗号は、この概念を具体的なアルゴリズムとして実装し、公開鍵暗号を現実のものとしました。

RSA暗号の登場は、単に暗号化技術を実現しただけではありませんでした。公開鍵と秘密鍵の特性を逆転させることで、デジタル署名という新たな概念も明確になりました。

  • 暗号化/復号化: 公開鍵で暗号化されたメッセージは、対応する秘密鍵でのみ復号化できます。
  • 署名/検証: 秘密鍵で作成されたデジタル署名は、対応する公開鍵でのみ検証できます。

この暗号化と署名のペアは、RSA暗号に限定されず、あらゆる公開鍵暗号アルゴリズムに適用できる普遍的な概念であることが判明しました。これは、公開鍵暗号理論が単なる暗号化技術ではなく、デジタル署名技術も含む包括的なセキュリティ基盤になりうることを示唆していました。

デジタル署名、PKI、証明書は、相互に連携して、情報の信頼性を確保する役割を担っています。デジタル署名は、データの信頼性を証明し、PKIは公開鍵と秘密鍵のペアの信頼性を保証し、証明書は公開鍵の信頼性を証明します。これらの技術は、セキュアな通信や電子商取引など、様々な分野で活用され、現代社会において欠かせない存在となっています。

デジタル署名:データの信頼性を担保する技術

デジタル署名は、秘密鍵を使ってデータに署名し、そのデータが送信者によって作成され、改ざんされていないことを証明する技術です。

デジタル署名の仕組み:

  1. ハッシュ関数: 送信者は、データのハッシュ値を計算します。ハッシュ値は、データの指紋のようなもので、データの内容が変わるとハッシュ値も変化します。
  2. 秘密鍵による署名: 送信者は、秘密鍵を使ってハッシュ値に署名します。これは、デジタル署名と呼ばれる電子的なサインです。
  3. 署名付きデータの送信: 送信者は、署名付きデータと公開鍵を一緒に受信者に送信します。
  4. 公開鍵による検証: 受信者は、公開鍵を使って署名を確認します。署名が正しい場合、データが送信者によって作成され、改ざんされていないことを証明します。

デジタル署名の利点:

  • 改ざん防止: データの改ざんを検知することができます。
  • 認証: データが特定の送信者によって作成されたことを確認できます。
  • 否認防止: 送信者は、データを送信したことを否認できません。

PKI:信頼の基盤を築く仕組み

PKI (Public Key Infrastructure) は、公開鍵と秘密鍵のペアを発行・管理し、そのペアの信頼性を保証する仕組みです。デジタル署名、暗号化、認証など、様々なセキュリティ機能の基盤となります。

PKIの役割:

  1. 鍵の発行: PKIは、信頼できる機関 (認証局) によって発行された公開鍵と秘密鍵のペアを発行します。
  2. 鍵の管理: PKIは、鍵の有効期限、鍵の所有者、鍵の使用用途などを管理します。
  3. 信頼の保証: PKIは、認証局の信頼性を担保することで、公開鍵と秘密鍵のペアが信頼できるものであることを保証します。

PKIの構成要素:

  • 認証局 (CA): 公開鍵と秘密鍵のペアを発行し、証明書を発行する機関です。
  • 登録機関 (RA): 鍵の申請や証明書の発行を支援する機関です。
  • 証明書管理システム: 証明書の発行、更新、失効などを管理するシステムです。

証明書:公開鍵の信頼性を証明する電子的な身分証明書

証明書は、PKIによって発行される電子的な身分証明書のようなもので、個人の名前や組織名、公開鍵などが記載されています。証明書は、その情報が信頼できるものであることを証明し、デジタル署名や暗号化などのセキュリティ機能において、公開鍵の信頼性を担保する役割を果たします。

証明書の内容:

  • 発行者: 証明書を発行した認証局の名前
  • 有効期限: 証明書の有効期間
  • 対象者: 証明書が発行された個人または組織の名前
  • 公開鍵: 対象者の公開鍵
  • 署名: 認証局の秘密鍵で署名されたデジタル署名

証明書は、デジタル署名において、受信者が送信者の公開鍵を信頼する根拠となります。

RSA暗号の仕組み

一応「木」について説明します。

実際これは個別の実装方式についてのAdvancedの話であり、「森」を理解するときにはまったく必要ではありません。

しかし、実際のRSAの剰余演算の式を眺めることで、 公開鍵暗号理論が、暗号化、復号化、署名、検証の4つの技術に強い数学的な対称性がある非常に美しい理論であること が感じ取れると思います。

繰り返しになりますが、これはRSA暗号に特有の数学的な対称性ではなく、公開鍵暗号理論のすべての実装について一般化された特性です。


RSA暗号の一方向性を実現する上で、剰余演算が非常に重要な役割を果たしています。

剰余演算 (mod) とは

剰余演算 (modulo operation) は、ある数を別の数で割ったときの余りを求める演算です。例えば、13 を 5 で割ると、商は 2 で余りは 3 です。これを、

13 mod 5 = 3 

と表します。

RSA暗号における剰余演算

RSA暗号では、この剰余演算が暗号化、復号化、署名、検証の全てにおいて利用されます。

  • 暗号化: 平文 m を公開鍵 e でべき乗し、公開鍵 n で割った余りを計算することで、暗号文 c を得ます。
    c = m^e mod n 
  • 復号化: 暗号文 c を秘密鍵 d でべき乗し、公開鍵 n で割った余りを計算することで、元の平文 m を得ます。
    m = c^d mod n
  • 署名: メッセージ m を秘密鍵 d でべき乗し、公開鍵 n で割った余りを計算することで、署名 s を得ます。
    s = m^d mod n
  • 検証: 署名 s を公開鍵 e でべき乗し、公開鍵 n で割った余りを計算することで、元のメッセージ m を得ます。もし、計算結果と元のメッセージが一致すれば、署名が正しいことを証明できます。
    m = s^e mod n

なぜ剰余演算が一方向性をもたらすのか

剰余演算を用いることで、計算結果が常に一定の範囲内に収まるようになります。この性質により、暗号化と署名は容易に行えますが、復号化と検証は非常に困難になります。

具体的には、公開鍵 (n, e) から秘密鍵 (d) を求めるには、n を素因数分解する必要があります。しかし、n が非常に大きな数であるため、素因数分解は非常に困難です。

一方、暗号化の計算 m^e mod n や署名の計算 s = m^d mod n は、公開鍵または秘密鍵を用いることで比較的簡単に実行できます。これは、剰余演算の性質により、計算途中の値が n よりも大きくなることはありません。そのため、たとえ m や e, d が大きな数であっても、計算は現実的な時間内で完了します。

しかし、復号化の計算 m = c^d mod n や検証の計算 m = s^e mod n は、秘密鍵 d を知らないと非常に困難です。d は、n を素因数分解しなければ計算できないため、攻撃者は事実上、総当たり攻撃などの非効率的な方法でしか m を求めることができません。

このように、RSA暗号では、剰余演算の特性を利用することで、暗号化と署名は容易に、復号化と検証は困難にするという一方向性を実現しています。これにより、公開鍵を公開しても秘密鍵が漏洩するリスクを低減し、安全な通信を可能にしています。

RSA暗号における鍵ペアの生成

  1. 2つの大きな素数 p, q を選びます。
  2. n = p * q を計算します。
  3. φ(n) = (p - 1) * (q - 1) を計算します。(φはオイラーのトーシェント関数)
  4. φ(n) と互いに素な整数 e を選びます。(通常、65537 が用いられます)
  5. e * d ≡ 1 (mod φ(n)) となる整数 d を計算します。(d が秘密鍵となります)

RSA暗号の例:平文「HI」の暗号化、復号化、署名、検証

  1. 秘密鍵と公開鍵の作成:

    • 2つの素数として、p=17, q=23 を選びます。
    • 公開鍵 n = p * q = 17 * 23 = 391
    • 公開鍵 e = 5 (391より小さく、352と互いに素な数)
    • 秘密鍵 d = 281 ((e * d) ÷ 352 の余りが 1 となる数)
  2. 暗号化:

    • 平文「HI」を数値に変換: H=8, I=9
    • 各数値を公開鍵(e=5, n=391)で暗号化:
      • H: 8^5 mod 391 = 32768 mod 391 = 160
      • I: 9^5 mod 391 = 59049 mod 391 = 232
    • 暗号文は (160, 232) となります。
  3. 復号化:

    • 暗号文 (160, 232) を秘密鍵(d=281, n=391)で復号化:
      • 160^281 mod 391 = (非常に大きな数) mod 391 = 8 (H)
      • 232^281 mod 391 = (非常に大きな数) mod 391 = 9 (I)
    • 復号化された数字を文字に戻すと「HI」になります。
  4. 署名:

    • 数値 8, 9 を秘密鍵(d=281, n=391)で署名:
      • H: 8^281 mod 391 = (非常に大きな数) mod 391 = 278
      • I: 9^281 mod 391 = (非常に大きな数) mod 391 = 104
    • 署名は (278, 104) となります。
  5. 検証:

    • 署名 (278, 104) を公開鍵(e=5, n=391)で検証:
      • 278^5 mod 391 = (非常に大きな数) mod 391 = 8 (H)
      • 104^5 mod 391 = (非常に大きな数) mod 391 = 9 (I)
    • 検証の結果、元のメッセージ「HI」と一致するため、署名は正しいと証明されます。

注意点

  • 正確性: この例は教育目的で簡略化されています。実際のRSA実装では、はるかに大きな素数と鍵を使用します。
  • セキュリティ: 同様に、この例で使用されている小さな数値は、教育目的には適していますが、実際の使用には安全ではありません
  • モジュラー指数: 計算(特に「非常に大きな数」と記述されている部分)は、効率的なアルゴリズム(例:モンゴメリ乗算)を使用して行われます
  • 署名プロセス: 署名は確かに暗号化と似たプロセスを使用しますが、通常はメッセージ全体ではなく、メッセージのハッシュに対して行われます。これは効率性とセキュリティのためです。
  • メッセージエンコーディング: 「HI」を直接数値に変換する方法は単純化されています。実際のシステムでは、より複雑なエンコーディング方式を使用します。
  • パディング: 実際の実装では、予測可能性を減らすためにパディングスキームを使用します。この例では省略されています。

要約すると、この説明は基本的な概念を正確に表現していますが、教育的な目的で最大限単純化されています。実運用に耐えうるセキュリティシステムの設計には適していません。実際のRSA実装にはさらに多くの複雑さがありセキュアな設計になっています。

公開鍵暗号とハイブリッド暗号:安全と速度のバランス

公開鍵暗号は、RSA暗号など、計算コストが高いことで知られています。しかし、その真価は、鍵の配送問題を解決する点にあります。

従来の共通鍵暗号では、鍵の配送が大きな問題でした。安全に鍵を配送するには、物理的な手段(特使など)が必要となり、効率が悪く、セキュリティリスクも高まるという課題がありました。

公開鍵暗号は、この鍵の配送問題を解決する画期的な技術です。しかし、公開鍵暗号は計算コストが高いため、メッセージ全体を暗号化するとパフォーマンスが低下してしまいます。

ここでおそらく賢明なプログラマなら以下のように考え実装することでしょう。

これは計算コストが高すぎてまったくパフォーマンスが出ない愚鈍な実装だな

共通鍵だけを公開鍵暗号方式の郵便ポストに投函して送れば事足りる

それで既に「共通鍵の配送問題」は解決済みだ

後は全部その共通鍵で従来どおりの通信なのだからパフォーマンス出るだろう

そしてこれが実際に行われていることです。この方式はハイブリッド暗号と呼ばれています。

ハイブリッド暗号は、公開鍵暗号で共通鍵を安全に配送し、その後は共通鍵暗号でメッセージを高速に通信する方式です。これは、公開鍵暗号の利点(安全な鍵配送)と共通鍵暗号の利点(高速な通信)を組み合わせた、理想的な方法です。

現在、SSH通信など多くの通信システムでは、このハイブリッド暗号方式が採用されています。つまり、私たちが日常的に利用している多くの通信システムでは、公開鍵暗号は共通鍵の配送にのみ用いられ、メッセージ自体の通信は高速な共通鍵暗号で行われています。

このように、公開鍵暗号は、安全な鍵配送という重要な役割を担い、ハイブリッド暗号という形で、現代の通信システムの安全と速度を支えています。

「森」を見ることの重要性

このように、共通鍵暗号、公開鍵暗号、ハイブリッド暗号、一見無機質な用語や難解に見えた概念であっても、その歴史的文脈と土台から丁寧に追跡し理解しておくことで、それはすんなりとしかも興味深く深く理解することが可能になります。

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