複数の有名OSSにコントリビュートしてわかったこと ─ Docker Compose, Gin, 他...
概要
Docker ComposeやGinといった世界的に利用されているOSSから、開発支援ツールであるESLintやClaude Codeまで、これまでにさまざまなプロジェクトへコントリビュートしてきました。
本記事では、実際に行った修正や機能改善、レビューで得られた学び、そして複数のOSSに関わる中で気づいたプロジェクトごとの文化や開発スタイルの違いについて紹介します。
「OSSに興味はあるけど、どうやって関わればいいかわからない」という方に、具体的な事例と再現性のあるステップをお伝えします。
主な活動範囲
プロジェクト名 | 主な貢献内容 | PRリンク |
---|---|---|
🐳 Docker Compose | バグ修正、テスト追加、内部リファクタリング、パフォーマンス改善 | https://github.com/docker/compose/pulls?q=is%3Apr+author%3Asuwakei+is%3Aclosed |
🍸 Gin | ドキュメント修正、機能改善 、バグ修正 | https://github.com/gin-gonic/gin/pulls?q=is%3Apr+author%3Asuwakei+is%3Aclosed |
🤖 Claude Code | 機能追加 | https://github.com/anthropics/claude-code/pulls?q=is%3Apr+is%3Aclosed+author%3Asuwakei |
📏 ESLint | 潜在的なバグ修正 | https://github.com/eslint/eslint/pulls?q=is%3Apr+is%3Aclosed+author%3Asuwakei |
🗄️ Prisma | 機能改善 | https://github.com/prisma/prisma/pulls?q=is%3Apr+author%3Asuwakei+is%3Aclosed |
OSSコントリビュート活動をやる意味
OSS(オープンソースソフトウェア)へのコントリビュートは、単なる「善意のボランティア活動」ではありません。自分自身のスキルアップやキャリア形成、そして世界中の開発者とのつながりを得られる、非常に価値の高い活動だと思っています。
1. 技術力の向上
OSSは、多くの場合プロダクション品質のコードで構成されています。そこに貢献するためには、プロジェクト特有の設計やコーディング規約、テスト戦略を理解する必要があります。
実務では触れられない規模・品質のコードベースを読み、修正し、レビューを通す過程は、確実に技術力を底上げしてくれます。
2. レビューから学べる
有名OSSでは、経験豊富なメンテナーや世界中のコントリビューターがコードをレビューします。
このフィードバックは非常に具体的であることが多く、設計の考え方やより良い書き方を知るきっかけになります。実務の外にある「別の視点」に触れられるのも大きな魅力です。
3. 世界に自分の足跡を残せる
リリースノートに自分の名前が載る、世界中のユーザーが使うソフトに自分のコードが入る──これはOSSならではの達成感です。
GitHubの公開PRやIssueはポートフォリオにもなり、採用面接や技術コミュニティでの信頼にもつながります。(OSS活動に興味がある方の大半はこの部分に期待していると思います)
このようにコントリビューターとして表示されたりします。
4. 英語・コミュニケーション能力の向上
多くのOSSは英語でやり取りします。技術英語を使ってやりとりする経験は、ドキュメント作成や海外チームとの協業スキルにも直結します。
共通した始め方
OSSのプロジェクトによって開発文化や規模は違いますが、**「最初の一歩」**は意外と共通しています。ここでは、複数プロジェクトで試してきた中で、ほぼ毎回使える手順を紹介します。
1. 興味のあるプロジェクトを選ぶ
自分が普段使っているツールやライブラリから始めるのがおすすめ
日常的に触れているとコードや仕様の背景が理解しやすい
GitHubでスター数が多いプロジェクトはドキュメントやガイドラインも整っている場合が多い
2. CONTRIBUTING.md と README.md を熟読する
ほぼすべてのプロジェクトに「貢献方法」が書かれたガイドラインがあります
環境構築方法、テストの実行方法、コード規約などが明記されているので、これを読むだけで迷いが減ります
3. Issueを探す(Good First Issue / Help Wanted)
GitHubのラベル「good first issue」や「help wanted」は初心者向けの修正や改善の入口
既存のIssueから始めると、プロジェクトの流れに沿って作業できる
4. ローカルで環境を動かす
クローンやフォークしてビルド、テストが通るところまでをまず確認
ここで動かせないとPRを出す前に詰まるので重要なステップ
5. 小さな変更から始める
変数名の改善、コメント追加、typo修正、テスト追加など
小さなPRはレビューも早く、心理的ハードルも下がる
5.5. 気になった箇所を自分から修正してみる
Issueを探してもすぐに取り組めそうなものが見つからないこともあります。
そういうときは、自分が気になった部分(ドキュメントの不備、ログ出力の改善、処理の冗長さなど)を見つけて、新しくブランチを切って直接PRを出してみるのもおすすめです。
多くのOSSでは「必ずIssueを立ててからPRを出す」ルールはなく、小さな改善であれば直接PRを出すほうが歓迎されやすいケースもあります。
もちろん大きな仕様変更や新機能追加は事前にIssueで相談したほうがいいですが、軽微な修正なら思い切って行動してみると経験値が溜まります。
6. レビュー対応を楽しむ
指摘は改善のチャンスと捉える
説明不足や意図の食い違いがあれば質問してOK
柔らかい表現と簡潔な英語でやりとりすると通りやすい
特徴
ここからは私がコントリビュートしてきたリポジトリの特徴とおすすめを紹介します。
🐳 Docker Composeの特徴
対応の速さ
基本的に有名OSSだとPRを出しても数週間~数ヶ月放置されることが多いのですがDocker Composeは数日で対応してくれることが多くスピード感があります。
小さなPRの扱い
大きなOSSの中では珍しくコメント修正やtypoでも積極的にレビューしてくれてマージされることが多いです。
学びやすさ
あまりコードも複雑ではなくDocker Composeを使ったことがあればどの機能と今見ているコードが対応しているかわかりやすく書かれてます
レビューの質
細かい修正に対しても「なぜ必要か」を添えてコメントしてくれることが多く、理解を深めながら改善できました。OSS初心者でも安心感があります。
おすすめ度
✅初心者でも安心
なので勉強中の方や自身のある方にも個人的にはおすすめです。
🍸 Ginの特徴
対応の速さ
数週間ほど対応に時間がかかることがが多いです。
小さなPRの扱い
大きなOSSの中では珍しくコメント修正やtypoでも積極的にレビューしてくれてマージされることが多いです。
学びやすさ
それなりに複雑な印象を受けましたので勉強中の方には少し難し目かもしれません。
レビューの質
レビュー自体はシンプルですが、指摘があった場合は「Goらしい書き方」や「パフォーマンス上の配慮」など実務に直結する内容が多く勉強になりました。
おすすめ度
💡学びが多い中級者向け
Goメインに使っている方はGinの内部構造はかなり勉強になるので貢献してみることをおすすめします。
🤖 Claude Codeの特徴
対応の速さ
最低でも一週間は対応に時間がかかることが多いです。
小さなPRの扱い
typoやコメント修正など小さな変更はあまり応じてくれません。
学びやすさ
コードベース自体はモジュールごとに整理されており、理解しやすい部分も多いです。AI系のプロジェクトらしく新しい設計や思想に触れられるのが面白い点。
レビューの質
規模がまだ小さい分、機能追加やバグ修正に対してはかなり丁寧にフィードバックをくれます。
おすすめ度
💡学びが多い中級者向け
AI関連に興味がある方や、新しい設計思想に触れたい方におすすめです。
📏 ESLintの特徴
対応の速さ
機能追加やバグ修正などの変更であれば数日で返信をくれ、かなり丁寧なレビューをくれます。
小さなPRの扱い
コメント修正やtypoなどの小さな修正はあまり応じてくれず割と放置される傾向にあります。
学びやすさ
コードが膨大でいろいろなコードが依存しあっているのでNode.jsの勉強中!という方は少し厳しいかもしれませんが、自身がある方はかなりおすすめ
レビューの質
レビューは厳しめですがとても論理的で、設計方針や互換性など広い観点から指摘を受けられます。読みながら「こういう風に考えるのか」と学びになる点が多いです。
おすすめ度
🔥チャレンジングな上級者向け
自身がある方は積極的に貢献してみると多くの実績を手に入れられるのではと思います。
🗄️ Prismaの特徴
対応の速さ
1~2週間は放置される傾向にあります。
小さなPRの扱い
コメント修正、追加やtypo修正は放置される傾向にあります。
バグ修正や機能改善のPRを出しても少しレビューが厳しかったりするので、ESLintと同じく勉強している人向けではなく自身がある方向けです
学びやすさ
コードは膨大で複雑なので学びやすいとは言えず自身のある方向けです。
レビューの質
レビューは非常に厳格で、設計・互換性・長期的な影響まで考慮されています。そのため手戻りは多いですが、得られる知見は深く大きいです。
おすすめ度
🔥チャレンジングな上級者向け
ORMの内部を理解できるので、業務で使うときにトラブルシュート力が高まる。
ORMの内部構造を知りたいかつ実績が欲しい人向け
次のステップ
ここまで紹介した流れを読んで「やってみようかな」と思った方は、ぜひ一歩踏み出してみてください。OSS活動は**「小さく始めて、続けていく」**ことが一番大事です。
1. 自分の興味に近いプロジェクトを選ぶ
まずは「普段使っているツール」「実務で触れているライブラリ」から選ぶのが良いです。
身近なソフトならコードを読むモチベーションも続きやすく、修正点も見つけやすいです。
2. 小さなPRから出す
最初はtypo修正やドキュメント改善でも構いません。
「小さな成功体験」を積み重ねることで、心理的なハードルが下がります。
3. 気になる箇所を修正してみる
もしIssueが見つからなければ、自分が気になったところを直して直接PRを出すのもおすすめです。
「必ずIssueから」ではなくても大丈夫なケースが多いので、まずは動いてみるのが早道です。
4. レビューを楽しむ
レビューは「ダメ出し」ではなく「学びの機会」です。
特に有名OSSでは、業界トップクラスの人から直接フィードバックを受けられることもあり、これは実務では得られにくい貴重な経験です。
5. 続ける
1回で終わる必要はありません。
複数のプロジェクトに小さな貢献を続けるだけで、知識も広がり、自分の名前も少しずつ知られていきます。
まとめ
OSSへのコントリビュートは、最初はとっつきにくく感じるかもしれません。しかし、実際にやってみると「思ったよりも小さな一歩から始められる」ことに気づきます。
私自身、Docker ComposeやGinのような有名プロジェクトに小さな修正を出すところからスタートしました。そこからレビューを受けたり、複数のOSSに関わったりする中で、技術力だけでなく「書き方・伝え方・協働の姿勢」など多くを学ぶことができました。
この記事で紹介した共通の始め方や、プロジェクトごとの特徴を参考に、ぜひ自分の気になるOSSを探して一歩踏み出してみてください。
小さな修正が世界中のユーザーに届く体験は、開発者としてかけがえのない財産になるはずです。
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