音の展示で役立つ機材と技術集Vol.01
はじめに
先日space orbitさんで音とグラフィックの展示をさせていただきました。
こちらの記事では、主に以下についてお話しできればと思います。
記事を書くモチベーションは、
- 音の展示がもっと増えてほしい
- そのためにハードルとなっている部分があれば知見をシェアして取り除きたい
です。
グラフィック部分はyamagutidesignさんが制作されているので、今回は音とデバイスとプログラミングに特化して書いていきます。
展示の外観・概要
展示入って最初の外観はこんな感じ。
奥には、以前FOSTEXさんの天井4chSpeakerのために制作させていただいた音システムの2ch version(左)やiPS細胞の音シミュレーション作品(右)があったり
展示に合わせてアルバムBiotopをリリースしたので、カセットテープも販売していました。
ちなみにオンラインでも販売しているので気になる方は是非買ってみてください..!(デジタル音源のDLコードも同封してます)
展示した作品のWeb体験版
展示した作品は、動くグラフィックや音、シミュレーションだったりするので画像では伝わりにくいかと思います。
展示に来られなかった方や、展示の追体験を家でもしたい方のためにWebページもつくりました
音×グラフィックの作品一覧
↓スーファミのコントローラのような感覚で物体や音を動かすことができます(技術的な解説は後述)
ぜひ遊んでみてください
音の展示に求められる要件
音の再生にはどうしても電源が必要になり、展示として一般的に想像される絵画の展示などとは違って、再生デバイス、スピーカーなどが必要になってきます。また音のみだと見た目として少し寂しくなります。
以上のことから、音の展示に求められる最低限の要件は以下だと考えています。
- 電源
- スピーカー
- 音の再生デバイス
- 画廊のスタッフの方がシステムのON・OFFを行える機能
- 音と連動する映像や、世界観を増幅できるポスターや絵画など
- それぞれの音同士が心地よく混ざり合う(複数の音を用いる場合)空間設計
これに加えて、絵画の展示などの静的な展示では実現できないインタラクティブシステム(センサーやコントローラーなどを用いた表現)があるとより魅力的な展示になるかと思います。
用いた機材
電源や電源タップがある前提で書いていきます。
音×グラフィック(ループ)
左に見える正方形ディスプレイで、音×グラフィックの作品をエンドレスで流していました
ここで用いた機材は以下です
BLUECANVAS
正方形ディスプレイです。bluetoothとwifi環境でしか動作しませんが、正方形で壁にかけられるため、インパクトが強くとても良いです。
アーティストのYuma Kishiさんが個展で使われていたものを安く譲っていただきました。もちろんamazonでも購入できますが、欲しい方いらっしゃれば更に安くお譲りします。
FOSTEX ワイヤレス・ボリュームコントローラー PC1BT(White)
BLUECANVASの音を出すのにBluetoothが必要なため、アクティブスピーカーに接続可能なボリュームコントローラーを準備しました。
FOSTEX モニタースピーカー NF04R 黒
アクティブスピーカー。展示のメインの音として使用。
有り難いことにFOSTEXさんにご提供いただいたスピーカーなのですが、今回の展示の音との相性がとてもよく、サイズも小型のため使用させていただきました。(重量はしっかりしています)
MOGAMI 2549 XLR(オス)→RCA 2本ペアケーブル (1.5m)
音×グラフィック(ゲーム)
IODATA LCD-AD173SESW
新品で購入すると2万円以上して高いですが、自分は楽天で中古で買っています。中古だと1500円くらいで買えることが多く、このモニター自体少し使用感ある方が味が出るので中古の購入をおすすめします。
FOSTEX 小型アクティブ・スピーカー PM0.1e/AZ
1万円程度で買える小型スピーカーで、なにより非常に軽いです。ただ音量は展示で出すには全く問題ないボリュームが出て、音質も問題ありません。
Raspberry Pi 4 8GB
展示物ごとにPCを準備するのは金銭的にも大変ですし、展示の場所を多くとってしまいます。そのためラズパイなどの小型PCを使用するのがとても良いです。見た目的にも基盤剥き出しなのはかっこいい。
Smraza Raspberry Pi 4 USB-C (Type C)電源
Sandisk microSDカード 32GB
ラズパイは、OS含めデータが全てSDカード一つで管理されます。そのためSDカードが必要になりますが、基本そんなに容量は食わないので32GBで充分です。
SHULIANCABLE HDMI to VGA アダプタ (15CM)
IODATA LCD-AD173SESW(モニタ)がHDMIに対応しておらず、VGAで接続する必要があります。
Micro hdmi-hdmiケーブル 1.5M
ラズパイの映像出力はMicro HDMIなので、Micro HDMIからHDMIへの変換コネクタが必要です。
RASPBERRY PI IQAUDIO DAC PRO
ラズパイ自体にもイヤホンジャックがついていますが、びっくりするほど音質が悪い(そもそも音楽を再生する想定ではないらしい)ので、オーディオインターフェースが必要になります。
RASPBERRY PI IQAUDIO DAC PROはラズパイ専用の高音質オーディオインターフェースで、ラズパイに直接装着できて、音も良いのでおすすめです。
フジパーツ オーディオケーブル 2ピン-2ピン 1m
RASPBERRY PI IQAUDIO DAC PROからスピーカーに接続するためのスピーカーケーブルです。
RASPBERRY PI COMPATIBLE USB GAME
スーパーファミコンに似たデバイスです。(先がUSBになっている)ゲームパッドして使用できますし、ラズパイにも対応しています。
iPS細胞の音シミュレーション
こちらは音×グラフィック(ゲーム)と同じ機材です。
ソフトウェア
音×グラフィック(ループ)
こちらはBLUECANVASのアプリに作った作品をアップロードするだけなので、特に技術的に必要なことはありません。
音×グラフィック(ゲーム)
まずラズパイで音・映像を動かす必要があるため、ラズパイで使用可能なソフトウェアを選定する必要があります。
自分は普段からSuperColliderとopenFrameworksを愛用してますが、どちらもラズパイOSに対応にしているためこちらを使用しました。
ただ体感的に、SuperColliderやopenFrameworksを普段から用いている人は非常に少ないと思います。特にSuperCollider使いの方はアーティスト活動を始めてからまだ出会ったことない気がします。
そこで、ラズパイに対応している、映像・音のソフトウェアをいくつか紹介していきます。もし普段からお使いのソフトウェアがあれば、是非ラズパイで試してみてください。
映像系
openFrameworks
openFrameworksについては、公式のダウンロードページのlinux armの項目からダウンロードしてzipを解凍します。その後セットアッガイドに従えば環境構築完了です
Processing
processingもRaspberry Pi OSに対応しているので、そのままインストールできます。
音系
SuperCollider
SuperColliderはGithubからcloneしてbuildすればインストールできます。以前書いた以下の記事を参考に環境構築してみてください。
SuperColliderはOSC通信で音を出すことができるので、openFrameworksなどの映像と同期して音を出すことが可能です。TidalCycles
上の記事でTidalCyclesもインストールできるので、ラズパイでライブコーディングすることも可能です。
Sonic Pi
Raspberry Pi OSに対応しているので、ダウンロードすればそのまま使えます。
Puredata
以下の記事のほか、「Puredata ラズパイ」で検索するとたくさん動かす方法が出てきます。合わせてご確認ください。
--- (以下、動作未確認) ---
Bitwig
BitwigはLinux OSに対応しているみたいなので、ラズパイにいれるOSをLinuxにすれば動くと思います。ただ、こちらは記事が出てこなかったため、もしためされた方がいらっしゃれば教えてください。
CYCLING '74 Max 8.5 + RNBO
RNBOが、Raspberry Pi 3/4へのエクスポートに対応しているみたいです。動作確認してませんが、こちらでエクスポートしたものをラズパイで動かせそうです。(ここはあまり知識がないですすみません)
Ableton Live
公式のダウンロードページでは、macOSとWindowsにしか対応していないと書いてありますが、以下の記事をみてみると、Windows版のAbleton Liveがなぜかラズパイでも動くと書いてあります。眉唾感ありますが、試してみる価値はあるかもしれません。
その他のソフトウェアはラズパイには対応していなそうでした。もし他にも対応しているものがあれば是非教えてください。
音の展示をしてみたい方にむけて
機材やソフトウェアの紹介をしてきましたが、アイデア次第ではもっと機材費にお金をかけずに実現することも可能だと思います。
たとえばギターアンビエントをやられている方でしたら、ギターの音をルーパーに録音しておいて、エフェクターボードを展示するとかもいいかと思います。3,4人で展示して、ディレイなどのエフェクターのつまみをお客さんが触れるようにする、みたいな展示もみてみたいです。
電子音のための自作エフェクター展示とかもよさそうですね。
また映像を別で作らなくても、Puredataなどはそのままソフトウェアの映像を投影するだけでも面白そうですね。
技術的な補足
音が心地よく混ざり合うためには
スピーカー観点
今回の展示でもそうしたように、一つのスピーカーからすべての音を出すのではなく音ごとにスピーカーを分けたほうが空間としての魅力が出る、と思っています。
また必ずしも「音質のいい音=魅力的な音」ではなく、いい音がするスピーカーとスマホのスピーカーの音を同時に鳴らすと不思議な立体感が生まれたりもします。音質のコントラストは結構たのしいです。
和音観点
今回の展示物のキーはAかEのみにしていたと思います。体感では似ている2つくらいのキーで作るのが個人的には一番魅力が出るかと思います。たまにDとE♭の音がぶつかるのも心地よいうなりになったりします。
リズム観点
今回の展示物のBPMはすべて60でした。ただこれはそこまで気にする必要はなく、同時に鳴らして心地よければ問題ないです。逆に、音を家で作っているときから作った複数の音を同時に鳴らす実験をしてみるのがいいと思います。(これも不思議と面白いです)
ラズパイの電源ON・OFF問題
ラズパイは電源のブチ切りをするとSDカードのデータが破損擦ることがあります。そのため展示当日にはROM化(データの書き込みの禁止)しておいたほうが良いです。
Web体験版制作
作品のなるべく展示に近い音を届けたかったので、下記の技術を用いてSuperColliderを無理やりJavaScriptに変換し、React+Vite+TypeScriptで制作しました。
インタラクティブなシステムは通常持ち帰れないですが、なにかしら持ち帰ったり家でも遊べるように作りました。フロントエンドのみで動作するので、サーバ代もかからないです。
ちなみに動きはSVGを直書きして、各物体の位置をstate管理、動きに合わせてSuperColliderに音を出させています。
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