Rustで作る自作データベース:第零回 なぜRustでデータベースを実装するのか
はじめに
エンジニアとして成長するには、使用しているツールの内部構造を理解することが重要です。多くの開発者は日々データベースを使用していますが、その内部がどのように動作しているかを深く理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
この連載では、Rustを使ってゼロからデータベースを実装していきます。単なる玩具ではなく、最終的には実用レベルの機能を備えたデータベースを目指します。
🔸なぜRustなのか?
🔸なぜデータベースなのか?
そしてどのような実装アプローチを取るのか。この記事では、これから始まる連載の全体像と目的について説明します。
なぜRustでデータベースを実装するのか
Rustの特性とデータベース実装の相性
Rustは以下の特性を持つプログラミング言語です:
- メモリ安全性 - ガベージコレクションなしで安全なメモリ管理
- 高いパフォーマンス - C/C++に匹敵する実行速度
- 強力な型システム - コンパイル時に多くのバグを捕捉
- 並行処理の安全性 - データ競合を防ぐ所有権モデル
これらの特性は、データベースのような高性能で信頼性が求められるシステムの実装に最適です。実際、MaterializeやSurrealDBなど、Rustで実装された新しいデータベースが増えています。
学びの深さと広さ
データベースを実装することで、以下のような幅広い知識とスキルを身につけることができます:
- データ構造とアルゴリズム(B-Treeなど)
- ストレージエンジンと永続化
- 並行処理と排他制御
- 分散システムの原理
- クエリ最適化と実行計画
- パーサーとインタプリタの実装
これらは、単なるアプリケーション開発では得られない深い知見です。
実装するデータベースの概要
目指す機能と特徴
このシリーズで実装するデータベースの主な特徴は以下の通りです:
- SQL対応のRDBMS - 基本的なSQLクエリをサポート
- 軽量で高速 - Rustのパフォーマンスを活かした実装
- 拡張性を考慮した設計 - クリーンアーキテクチャとCQRSパターンを採用
- RESTful API - 様々な言語から利用可能なインターフェース
- 全文検索機能 - Tantivyの統合(後期フェーズ)
- クラウドストレージ連携 - AWS S3互換(後期フェーズ)
- WebベースのGUI - 管理画面(後期フェーズ)
最終的には、個人プロジェクトや小規模アプリケーションで実際に使える水準を目指します。
技術スタックと構成
カテゴリ | 選定技術 | 理由 |
---|---|---|
バックエンド | Axum/Rust | 高性能なWebフレームワーク |
ストレージエンジン | 自作(Rust) | B-Tree + WALベースの永続化 |
SQL処理 | sqlparser-rs | SQLパース用Rustライブラリ |
全文検索 | Tantivy | Rustネイティブの検索エンジン |
ORM | なし(独自実装) | DBの内部構造を理解するため |
連載の進め方と目次
この連載は、ステップバイステップで機能を追加しながら進めていきます。各回は独立した記事として読めますが、連続して読むことで全体像が見えてくる構成です。
予定/公開している記事一覧
-
基本的なSQL対応RDBMSの設計と実装 [公開済み]
- プロジェクト構成とクレート選定
- SQLパーサーの実装
- 基本的なCRUD操作のハンドリング
- REST APIの実装
https://zenn.dev/kazuma0606/articles/0f73247666781d
-
B-Treeインデックスの実装とクエリ最適化
- B-Tree構造の設計と実装
- インデックスを活用したクエリ実行
- パフォーマンス最適化
-
WALとMVCCによるトランザクション処理
- Write-Ahead Logging(WAL)の実装
- MVCC(Multi-Version Concurrency Control)の実装
- トランザクション分離レベル
-
ディスクI/Oとメモリ管理の最適化
- ページキャッシュの実装
- メモリマッピングの活用
- バッファプール管理
-
全文検索機能の統合(Tantivy)
- 全文検索インデックスの実装
- SQLクエリとの統合
-
クラウドストレージとの統合(S3互換)
- クラウドネイティブなストレージ層
- 分散アーキテクチャの基礎
-
GraphQLとRESTfulインターフェースの実装
- 柔軟なデータアクセスレイヤー
- スキーマ自動生成
-
WebベースのGUIと実用的なデプロイ
- 管理インターフェースの実装
- Dockerコンテナ化と運用
実装アプローチ:クリーンアーキテクチャとCQRS
このデータベースの実装には、クリーンアーキテクチャとCQRS(Command Query Responsibility Segregation)パターンを採用します。これにより、拡張性が高く、テスト可能なコードベースを構築します。
+--------------------+ +---------------------+
| インターフェース層 | | アプリケーション層 |
| (API, CLI) | -----> | (Commands/Queries) |
+--------------------+ +---------------------+
^ |
| v
+------------------+ +----------------------+
| ドメイン層 | | インフラストラクチャ層 |
| (エンティティ) | <----- | (DB, パーサー) |
+------------------+ +----------------------+
クリーンアーキテクチャの利点
- テスト容易性 - ビジネスロジックを分離して単体テスト可能
- 変更への耐性 - 特定のレイヤーを修正しても他のレイヤーへの影響が少ない
- 技術選択の柔軟性 - インフラストラクチャを後から変更可能
- 関心の分離 - 各レイヤーが明確な責務を持つ
CQRSの利点
- 読み取りと書き込みの最適化 - それぞれ異なる要件に合わせて最適化可能
- スケーラビリティ - 読み取りと書き込みを分離してスケールアウト可能
- 複雑さの管理 - 関心事を分離して複雑なシステムを管理しやすく
連載を通じて得られるもの
この連載を最後まで読み進めることで、以下のような知識とスキルを得ることができます:
- Rustの実践的なスキル - 実用的なシステムでのRustの使い方
- アーキテクチャ設計 - クリーンアーキテクチャとCQRSの実践
- データベース内部の理解 - RDBMSの動作原理と実装詳細
- システムプログラミング - I/O、メモリ管理、並行処理
- プロジェクト構成 - 大規模Rustプロジェクトの構成方法
まとめと今後の展望
この連載では、Rustの強みを活かしながら、一歩ずつデータベースを実装していきます。最終的には、単なる学習プロジェクトを超えて、実用可能なデータベースシステムを構築することが目標です。
次回からは、実際にコードを書きながら、データベースの基本構造を実装していきます。最初のステップは、SQLパーサーとインメモリストレージの実装です。
もし興味があれば、この連載をフォローしてください。Rustとデータベースの深い世界への旅が始まります。
リポジトリ
この連載のコードはこちらのGitHubリポジトリで公開しています:
実装を進める中で、質問やフィードバックがあれば、コメントやIssueでお気軽にお知らせください。
一緒にRustでデータベースを作る旅を楽しみましょう!
Discussion
github リポジトリ追加しました!
インメモリデータベースとして最低限の機能のみ実装されています。