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JLCPCBへの発注用ファイルをKiCad8で出力

2024/11/06に公開

はじめに

提供は受けていません
KiCad8.0を使って発注用ファイル3種を出力し、JLCPCBにPCBA(プリント基板の作成、表面実装部品の実装)を依頼しました。
備忘録として発注用ファイルの出力手順を記します。
なお、作成した基板の詳細、KiCadの基本的な用語や操作方法は説明しません。

概要

本記事では発注用ファイルの出力手順について書きます。
出力するファイルと大まかな手順は以下の通りです。

発注用ファイル

形式 内容
圧縮ガーバーファイル zip 基板の外形、配線等
BOMファイル CSV 実装する部品の一覧
CPLファイル CSV 部品の実装位置

ちなみにBOMは Bill Of Material 、CPLは Component Placement List の略です。

大まかな手順

  1. 回路図を作成
  2. 部品を選定、シンボルと紐付け
  3. BOMファイルを出力
  4. 基板を設計
  5. 圧縮ガーバーファイルを出力
  6. CPLファイルを出力

以下で各手順の詳細を書きます。
(手順1、2、6に関して、JLCPCBが専用のKiCadプラグインを用意しているようです[1]が、本記事では説明しません。)

手順1:回路図を作成

使うもの:KiCad 回路図エディター

回路図エディターで回路図を作成します。
一般的なKiCadの使い方に従えばよいため本記事では省略します。

手順2:部品を選定、シンボルと紐付け

使うもの:KiCad 回路図エディター、webブラウザ

予備知識:BOMファイルの形式

実際に発注に用いたBOMファイル(の一部)を以下に記します。

BOM.csv
Comment,Designator,Footprint,LCSC PN
4.7u,"C1,C2",Capacitor_SMD:C_0603_1608Metric,C19666
1u,C5,Capacitor_SMD:C_0603_1608Metric,C15849
2.2k,"R1,R2",Resistor_SMD:R_0603_1608Metric,C4190

わかりやすく表に直すと下表のようになります。

Comment Designator Footprint LCSC PN
4.7u C1,C2 Capacitor_SMD:C_0603_1608Metric C19666
1u C5 Capacitor_SMD:C_0603_1608Metric C15849
2.2k R1,R2 Resistor_SMD:R_0603_1608Metric C4190

JLCPCBはPCBAで実装する部品をLCSC(電子部品の卸売業者、JLCPCBの系列会社?)から調達します。
また、LCSCが取り扱う製品には“LCSC Part Number”という番号が割り振られています。
BOMファイルには1行ごとにシンボルの値(抵抗なら抵抗値、コンデンサなら静電容量など)、リファレンス≒名前、フットプリント、LCSC Part Numberの4項目を記載します。
同一部品を複数シンボルで使うときは上記BOM.csvの2行目のように1行にまとめることもできます。

手順2-1:部品とシンボルを紐付けるための下準備

KiCad上で各シンボルにLCSC Part Numberを紐付けられるようにします。

まず回路図エディターの「シンボルフィールドを編集」ボタンを押します。
すると「シンボルフィールドテーブル」ウィンドウが開きます。
次に「+」ボタンをクリックします。
すると「フィールドを追加」ウィンドウが開きます。
次に「新しいフィールド」欄にLCSC PNと入力します。
最後に「OK」ボタンをクリックします。

手順2-2:部品を選定

注:手順2-2、2-3は全部の部品まとめてではなく、一つずつこなす方がおすすめです。

まずJLCPCB、LCSCのサイトから実装する部品を選び、LCSC Part Numberを控えます。
Basic Partsを選ぶとお金が節約できます。
それぞれのサイトのリンクを以下に貼っておきます。

https://jlcpcb.com/parts/all-electronic-components

https://www.lcsc.com/products

JLCPCBの検索、フィルタリング機能は貧弱なので結構苦労します。
私の場合、Basic Partsの製造業者はある程度限られていることに着目したらスムーズに選定できました。

例えば2.2kΩ、0603パッケージのチップ抵抗を探すとします。
JLCPCBのwebサイトでチップ抵抗を検索すると、Basic Partsは主にuni-royalという会社が製造しているようです。
そうしたらLCSCのwebサイトでuni-royalのページへ飛び、そこから「Resistors」→「Chip Resistor-Surface Mount」→「2.2kΩ、0603」とフィルタリングしてヒットした製品の型番ないしLCSC Part Numberを控えます。
今度はJLCPCBのwebサイトに戻り、控えた番号で検索してBasic Partsであることを確認して完了です。

手順2-3:LCSC Part NumberをKiCadに入力

まずKiCad回路図エディターの「シンボルフィールドを編集」ボタンを押します。
すると「シンボルフィールドテーブル」ウィンドウが開きます。
次にの「LCSC PN」の横の「表示」欄にチェックを入れます。
次に部品に対応したリファレンスが書かれた行の「LCSC PN」欄に先ほど控えたLCSC Part Numberを入力します。
このとき、見やすさに応じて「表示」の下のチェックボックスにチェックを入れたり外したりすることをおすすめします。
また、実装を依頼しないシンボルの「LCSC PN」欄は空欄で大丈夫です。

全部の(実装を依頼する)シンボルについて「LCSC PN」欄を入力したら「OK」ボタンを押します。

手順3:BOMファイルを出力

使うもの:KiCad 回路図エディター、テキストエディタ(Excel等CSVファイルを編集できるソフト)

手順3-1:KiCadを使ってBOMファイルを出力

まず回路図エディターの「シンボルフィールドを編集」ボタンを押します。
すると「シンボルフィールドテーブル」ウィンドウが開きます。
次に「表示」欄について、「Reference」「Value」「Footprint」「LCSC PN」の横の「表示」欄にチェックを入れ、他の「表示」欄はチェックを外します。
次に「エクスポート」タブへ切り替えます。
次に「規定のフォーマット」欄で「CSV」を選びます。
次に「出力ファイル」欄にBOMファイルのファイル名を入力します。
なんでもいいですが、BOM.csv等わかりやすい名前がおすすめです。
最後に「エクスポート」ボタンを押します。
プロジェクトフォルダを確認すると「出力ファイル」欄で指定したファイル名のCSVファイルがあるはずです。

手順3-2:BOMファイルを修正

出力されたBOMファイルをJLCPCBの仕様に合わせて修正します。

まずBOMファイルを適当なテキストエディタで開きます。
メモ帳でも何でもいいですが、Excelだと見やすくて楽です。
私はLibre Office CalcというExcelに似た無料ソフトを使いました。
開いたら1行目の“Value”を“Comment”に、“Reference”を“Designator”に書き換えます。
次に実装を依頼しないシンボルが書かれた行を削除します。
最後にBOMファイルに上書きします。
このときCSV形式で保存してください。xlsx形式などで保存してはいけません。

手順4:基板を設計

使うもの:KiCad PCBエディター、webブラウザ

手順4-1:デザインルールを設定

この手順は必須ではありません。
設計する基板がJLCPCBの製造能力を上回らないよう制約を設けます。

まずPCBエディターの「基板の設定」ボタンを押します。
すると「基板の設定」ウィンドウが開きます。
次に「デザインルール」→「制約」をクリックします。
次に各項目を入力していきます。
下記webページではJLCPCBの製造能力(配線の最大/最小幅など)についてまとめてあります。このページを参考に入力します。

https://jlcpcb.com/capabilities/Capabilities

典型的な2層基板なら下表のようになると思います。

最小クリアランス 0.1
最小配線幅 0.16
最小接続幅 0.16
最小アニュラー幅 0.075
最小ビア直径 0.25
導体から穴のクリアランス 0.1
導体から基板端クリアランス 0.2
最小スルーホール 0.15
穴から穴へのクリアランス 0.45
最小マイクロビア直径 0.25
最小マイクロビア穴径 0.15
アイテムの最小クリアランス 0.15
最小テキスト高 1
最小のテキストの太さ 0.153

最後に「OK」ボタンを押します。

手順4-2:基板を設計

PCBエディターで基板を設計します。
一般的なKiCadの使い方に従えばよいため本記事では省略します。

手順5:ガーバーファイルを出力

使うもの:KiCad PCBエディター、zip圧縮ができるツール

手順5-1:KiCadを使ってガーバーファイルを出力

まずPCBエディターの「ファイル」→「製造用出力」→「ガーバー(.gbr)」をクリックします。
すると「プロット」ウィンドウが表示されます。
次に各項目を以下のように設定します。

  • 「出力フォーマット」欄で「Gerber」を選びます。
  • 「出力ディレクトリ」欄に適当なフォルダ名を入力します。
  • 製造を依頼するレイヤーの「含めるレイヤー」欄にチェックを入れます。
    • 典型的な2層基板ならF.cu、B.Cu、F.Paste、B.Paste、F.Silkscreen、B.Silkscreen、F.Mask、B.Mask、Edge.Cutsの9種です。
  • 「リファレンス指定子をプロット」欄にチェックを入れます。
  • 「フットプリントのテキストをプロット」欄にチェックを入れます。
  • 「プロット前にゾーンの塗りつぶしをチェック」欄にチェックを入れます
  • 「Protelの拡張子を使用」欄にチェックを入れます。
  • 「ハンダマスクがない部分のシルク印刷を除去する」欄にチェックを入れます。
  • 「ビアのテンティング」欄にチェックを入れます。

また、多分「ドリル/配置ファイルの原点を使用」欄のチェックは外したほうがいいです。
最後に「プロット」ボタンを押します。
「出力ディレクトリ」欄で指定したフォルダを確認するとガーバーファイルがあるはずです。
(ガーバーファイルの個数は「含めるレイヤー」欄で指定したレイヤーの数と同じになります。)

手順5-2:マップファイル、ドリルファイルを出力

1つ前の手順と同様に「プロット」ウィンドウで作業します。
まず「プロット」ウィンドウの「ドリルファイルを生成」ボタンを押します。
すると「ドリルファイルを生成」ウィンドウが開きます。
次に「出力ディレクトリ」欄に適当なフォルダ名を入力します。
さきほどガーバーファイルを出力したディレクトリと同じにすることおすすめします。
次に各項目を以下のように設定します。

  • 「長円穴ドリルモード」は「代替ドリルモードを使用」を選びます。
  • 「マップファイルフォーマット」は「Gerber X2」を選びます。
  • 「ドリル原点」は「絶対座標」を選びます。
  • 「ドリル単位」は「mm」を選びます。
  • 「ゼロの扱い」は「小数点フォーマット(推奨)」を選びます。

最後に「マップファイルを生成」ボタン、「ドリルファイルを生成」ボタンの2つを押します。
「出力ディレクトリ」欄で指定したフォルダを確認するとドリルファイル、マップファイルがあるはずです。
(ドリルファイル、マップファイルの個数はそれぞれ2個ずつになります。)

手順5-3:ファイル群を1つにまとめる

ガーバーファイル、ドリルファイル、マップファイルをzip圧縮で1つのファイルにまとめます。
これが圧縮ガーバーファイルになります。
zip圧縮の方法はなんでもいいです。
私はzipコマンドを使いました。
ターミナルでプロジェクトフォルダに移動して下記コマンドを実行すると圧縮できます。(Windowsだとできないかも)

$ zip gerber Gerber/*

手順6:CPLファイルを出力

使うもの:KiCad PCBエディター、テキストエディタ(Excel等CSVファイルを編集できるソフト)

手順6-1:KiCadを使ってCPLファイルを出力

まずPCBエディターの「ファイル」→「製造用出力」→「部品配置ファイル(.pos,.gbr)」をクリックします。
すると「部品配置ファイルを生成」ウィンドウが開きます。
次に「出力ディレクトリ」欄を入力します。
どのフォルダでもよいのですが、空欄すなわちプロジェクトフォルダがおすすめです。
次に各項目を以下のように設定します。

  • 「フォーマット」は「CSV」を選択します。
  • 「単位」は「mm」を選択します。
  • 「ファイル」は「基板で単一ファイル」を選択します。
    • 片面しか実装しない場合は「表面と裏面で別ファイル」でも大丈夫です。

また、多分「ドリル/配置ファイルの原点を使用」欄のチェックは外したほうがいいです。
最後に「部品配置ファイルを生成」ボタンを押します。
「出力ディレクトリ」欄で指定したフォルダを確認するとプロジェクト名-all-pos.csvというファイルがあるはずです。
(「表面と裏面で別ファイル」を選択した場合プロジェクト名-top-pos.csvプロジェクト名-bottom-pos.csvの2個が出力されます。)
これがCPLファイルです。

手順6-2:CPLファイルを修正

出力されたCPLファイルをJLCPCBの仕様に合わせて修正します。
BOMファイルの修正とおおよそ同じ流れです。

まずCPLファイルをExcel等で開きます。
開いたら1行目の各項目を以下のように書き換えます。

  • “Ref”→“Designator”
  • “PosX”→“Mid X”
    • MidとXの間は半角スペース
  • “PosY”→“Mid Y”
    • 同上
  • “Rot”→“Rotation”
  • “Side”→“Layer”

次に実装を依頼しないシンボルが書かれた行を削除します。
最後にCPLファイルに上書きします。
このときCSV形式で保存してください。xlsx形式などで保存してはいけません。
ファイル名はKiCadが自動で設定した名前だと長くて読みづらいので、CPL.csvなど簡潔な名前に変更することをおすすめします。

おしまい

圧縮ガーバーファイル、BOMファイル、CPLファイルの出力手順は以上になります。

脚注
  1. https://jlcpcb.com/help/article/how-to-generate-bom-and-centroid-files-from-kicad-8 ↩︎

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