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Microsoft 365 Copilotの価値と向き合い方を考える

2024/12/13に公開

はじめに

はじめまして、某総合商社で情シスをやっているKaz Asadaと申します。XではKaz Asada | しがない情シスとして情報発信しています。
https://x.com/kasada0901
実は社外向けの発信を始めたのは今年4月に入ってから、まだまだ新参者ですがよろしくお願いいたします。
普段はMicrosoft 365の運用、Power Platformの運用、社内コミュニティ運用、グローバルイントラネットの運用、その他もろもろのSaaSの導入支援・管理などを実施しています。

ひょんなことから当社では、今年4月よりMicrosoft 365 Copilotをグローバル全社員(約8,800ライセンス)導入し、現在目下利活用展開活動中です。
段階拡大などなく、世の中にもCopilot展開支援できるパートナーが少ない中でも一斉スタートした展開活動。まさにデスマーチ!そんな中から見えてきた世界をいろいろと発信しています。

Microsoft 365 Copilotの展開思想の発信が多いですが、ツール自体も大好きなので、その辺のお話しはまた今度。

1. Microsoft 365 Copilotを考える

Microosft 365 CopilotがGA(一般提供)開始されてから早一年。Microsoftの発信もCopilotだらけの世界です。先日のMicrosoft Ignite 2024でも、さまざまなMicrosoft 365 Copilotの発表がありました。
https://www.microsoft.com/en-us/microsoft-365/blog/2024/11/19/introducing-copilot-actions-new-agents-and-tools-to-empower-it-teams/

一方で、「ROIが出ない」や「ユースケースがわからない」などさまざまな声が世界各地から上がっているようです。特に日本では「ユースケース」というキーワードが良く聞かれますが、Microsoft 365 Copilotの利用において、独自のユースケースを追い求める必要があるのでしょうか。

Microsoft 365 Copilotのグローバル全社展開から見えてきた世界を、しがない情シスの独自観点から解きほぐしてみます。

2. Microsoft 365 Copilotの価値は何か?

ツールを導入する際に言われるのが、「ROI」。このシステム投資に対して、得られるリターンは何か?社員の労働時間または社員そのものの削減か、売り上げの向上か?いずれにしても、数字として測れるものに注目されがちです。

もちろん、Microsoft 365 Copilotを活用することで、社員の労働時間削減を実現することも可能です。一方で、生成AIならではの価値にも目を向けてみましょう。

Microsoft 365 CopilotとChatGPT


そもそもMicrosoft 365 CopilotとChatGPTの違いは何か。大きな違いは「Officeアプリに組み込まれている」ことと考えます。McKinseyの調査"The social economy: Unlocking value and productivity through social technologies"では、ナレッジワーカーの労働において60%の時間をOfficeツールを要するタスクに費やしているという結果が出ています。この調査は2012年に発表されたもので、After コロナの現在では、テレワークやハイブリッドワーク、オンライン会議の普及により、その割合はさらに大きくなっていると容易に想像できます。

一般的にアプリケーションを切り替えながらタスクをこなしていくと、コンテキストスイッチという心理的・身体的な負荷が発生します。集中力が乱され、ストレスが増加していきます。例えばメールの返信文案を生成AIで作りたい時に、メーラーから本文をコピーして、ChatGPTに移動して、プロンプトを入力して、生成された回答をまたメーラーに張り付ける。この作業でもかなりの負荷はかかっているはずです。
https://asana.com/ja/resources/context-switching
Microsoft 365 Copilotの特徴の1つ目は、コンテキストスイッチが発生しないこと。普段利用するMicrosoft 365の中に自然と溶け込んだCopilotにより、アプリ間の移動なく、生成AIを活用できる点です。先ほどのメールの例では、Outlookで読んだメールに対して、Copilotでそのまま返信文案を作成できます。無駄なアプリの切り替えがなく、コピペ作業も不要です。

また、仕事で生成AIを利用する際には、社内データを用いることが多いのでは。Microsoft 365 Copilotは、言わずもがなMicrosoft 365上のデータを活用することができます。「あのデータどこだっけ」で見つけたデータをChatGPTにアップロードする手間がないだけでなく、そもそも「あのデータどこだっけ」からCopilotで解決することも。
*メインストレージがオンプレやBoxなどの場合、Graph Connecterでの連携の手間があります。

ITリテラシーの高くない社員や管理職、経営者などが生成AIを活用する際に、これらMicrosoft 365 Copilotの特徴が、ハードルを下げる大きな要素となりうると考えられます。

時間削減だけがMicrosoft 365 Copilotの効果か?


次に、Microsoft 365 Copilotの効果を考えてみます。世の中のCopilotに対する怨嗟の第一位は「時間削減」。定量的に計測でき、投資に対するリターンとして最も容易に想定される効果です。時間削減のキーワードと一緒によく出てくるのが「ユースケース」。ここは次章Microsoft 365 Copilotの向き合い方でお話しします。

一方で、生成AIによる効果として「クオリティ向上」にも注目すべきです。例えば、今までやり方で1時間かけて提案書を作成するのと、同じ1時間かけながらもCopilotと壁打ちしながら作成した提案書の場合、「削減時間」は発生しません。ただし、後者の提案書の方がより品質が高く、1回の提案で受注できればどうでしょうか。大きな効果と考えられます。

では、どうすればクオリティ向上を計測できるのか。これは業務プロセスKPIの改善効果で図っていくことができますが、そもそも各業務に正しくKPIが設定されていない場合は、計測すらも難しい世界です。計測の考え方は、またどこかでご紹介するとして、Copilot(生成AI)により、アウトプットのクオリティ向上という効果があることは、しっかりと認識しておくべきです。

そのほかにも副次効果として、「能力向上」「情報活用」「心理的安定」が考えられます。「情報活用」は先に触れた通り。「能力向上」は、Copilotの存在により未経験分野への一歩が軽くなることです。例えば私はExcelが得意ではありません。とあるシステムの利用率データ分析をしたい際、何からどう手を付ければいいかもわからない中で、Copilotに相談するとささっと分析の観点と、関数を出してくれました。この時点で、「あぁ、こんな観点があるんだ」「こんな関数の使い方ができるんだ」と学び、そこから自分でさまざまな関数の組み合わせにトライするハードルが下がりました。

また、「心理的安定」ではCopilotがあることで、「忙しくても調査タスクをさっとできる」「会議に参加できなくても簡単にキャッチアップできる」ため、心理的ストレスの低減効果をもたらすことです。以下のデータは、Microsoft 365 Copilotの先行利用プログラムに参加した際、社内の参加者から上がってきた回答結果です。まだ日本語にもろくに対応していなかった2023年末当時で、社内先行利用者の約85%が定性効果を感じていると答えました。

Microsoft 365 Copilotの効果・価値を見出す際に削減時間だけに目を向けがちですが、そのほかの価値を認識して、社員に訴求していくことで、社員のCopilotへの向き合い方が変わるかもしれません。

3. ユースケースの前にまずはユニバーサルタスクから

Microsoft 365 Copilotを利用する企業の担当者やユーザーからよく言われるのが「良いユースケースは何ですか」です。皆さん、3時間が5分になるような「一撃必殺」で大きな効果が出る使い方を模索されています。「良いユースケース」がないから使い方・使い道がわからないというユーザーも多々います。でも、Copilotにそれを求めるのが正解でしょうか?

Microsoft 365 Copilotは、名前の通り、Microsoft 365にインテグレーションされたCopilot(生成AI)です。では、Microsoft 365は何でしょうか。一般的なオフィスワーカーなどが利用するメールやチャット、会議、ファイル編集ツールなどの集まりです。(厳密にいうともっと魅力がありますがここでは割愛)
これらの普遍的な業務タスク(ユニバーサルタスク)をこなすためのツールがMicrosoft 365であって、そのうえで実行されるタスクをサポートするのがMicrosoft 365 Copilotです。

例えば、Typingで丁寧に作成することで5分かかるメールが、誤字脱字ありきの伝えたいことを乱雑に入れてCopilotで文章化させ、2分で終われば3分の削減です。仮にそれが1日に10通あれば、それだけで30分の削減です。

このように1分、2分の削減の積み重ねこそがまず初めに狙いに行くべきポイントで、いわばCopilotは「たいあたり」を乱れ打ちするためで、「一撃必殺」技を大事に持って、ここぞの1回でキメルためのツールではありません。普段の業務プロセスでいかに自然と溶け込ませて、新しいタスク処理の仕方になれることが先です。それができた際には、自然と各人独自のピカピカな「一撃必殺」も見つかることでしょう。

オンコパで非活用時間の活用に

また、ユニバーサルタスクの実行方法として、今まで活用できていなかった時間や手段を拡大する考え方もあります。

しがない情シスが地道に広げていっている考え方が、オンコパです。今までは誤字脱字まみれになり、ろくな使い道のなかった音声入力ですが、Copilotを組み合わせることで、誤字脱字まみれの文章でもリライトさせることできれいな文章にできます。

私は実際に、ちょっとした移動の際も、伝えたいことも整理もせず、ざっとスマホに音声入力し、Copilotで「文脈を把握して誤字脱字を修正して自然なチャットにして」と音声入力でリライトしています。部下への指示が多い方は、丁寧な5W1H付の指示をテキストに起こすのはめんどくさいと思うので、ぜひオンコパで「誤字脱字修正して、指示内容を分かりやすい箇条書きにして」とリライトしてみてください。
https://speakerdeck.com/kasada/yin-sheng-xcopilot-onkopanoshi-jie

終わりに

ITツールに関度高い社員だけがいらっしゃる企業では、この記事の内容は全く意味をなさないですが、多くの企業ではそうではないはず。当社の展開活動の中でも、まだ触ったことがないのに「ユースケース」を求める方もたびたび見受けられます。

真に社員がCopilot(生成AI)を活用できるようにするには、展開担当は「プロンプト」や「ユースケース」といった「エサ」を大量生産するのではなく、「エサの取り方(向き合い方)」を伝えていくべきです。そんなしがない情シス流の考え方を今後も普及していきます。

参考

先日のJapan Microsoft 365 コミュニティ カンファレンス 2024で登壇した際の動画と資料
https://www.youtube.com/watch?v=PArJB-jxhyg
https://speakerdeck.com/kasada/microsoft-365-copilotendoyuzajiao-yu-noshi-jie

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