エンジニアに必要なコンサルタント的ロジカルシンキング
技術と業務をつなぐ思考法の3ステップ
🧩 はじめに:なぜこのテーマなのか?
- システムエンジニア初学者に対して、「とりあえずコード書け」「アーキテクチャ学ぶべし」とかそういう場当たり的なフィードバックをしたことがあり、それもそれで大事だが、本質的には思考力を学んでほしいという思いがあり。
- ロジカルシンキング一般本は、なんとなくビジネス教材でありシステム開発とは畑が違うといった錯誤を持っているシステム開発初学者がいたりするので、そのGapを埋める文書を作成してみた。
🔍 背景にある課題感
-
ロジカルシンキングとコーディングの関係性が体系化されていない
実務で相関があるにもかかわらず、明示的に教える教材や文化が少ない。技術書や初学者向け教材では思考プロセスが “暗黙知” 扱いになりがち。 -
初学者に「アーキテクチャ」や「設計」を教えるのが難しい
動くコードが正義のフェーズでは、構造化・抽象化の意義が伝わりづらい。結果、設計力は経験でしか磨けないように見えてしまう。 -
「業務設計も得意なエンジニア」はなぜそうなれたかが語られない
コードと業務設計に共通する “OS” が言語化されていないため、再現性ある育成につながっていない。 -
育成の場に「思考プロセスの訓練」が欠落している
技術スキルは研修で磨かれるが、「なぜその構造なのか」「どう考えたのか」を問う文化が弱い。コードレビューも “できたかどうか” に偏りがち。
📌 要旨
本記事では、エンジニアがさらに成長するために必要な 「コンサルタント的ロジカルシンキング」 を解説する。
技術的思考とビジネス思考の共通点を理解し、日々のコーディングから抽出できる思考パターンを業務設計にも応用する方法を、具体的な 3 つのステップで示す。
🎯 対象読者
- コードは書けるが設計に壁を感じているエンジニア
- 技術力をビジネス視点で高めたいエンジニア
- 技術と事業の橋渡しをしたいテックリーダー
🧱 Step 1|エンジニアリングとビジネス思考の共通基盤を理解する
プログラミング的思考 | コンサルタント的思考 |
---|---|
問題を小さく分解する | 課題を MECE に分解する |
条件分岐を整理する | 判断基準をツリー化する |
抽象化⇔具体化を往復する | 本質と具体例を行き来する |
エッジケースを検証する | 例外シナリオを網羅する |
インターフェースを明確にする | 責任範囲・役割を明確にする |
- 両者とも「要素を分解し、関係性を構造化し、再構成する」プロセス を用いる
- エンジニアはこの思考法の基礎力をすでに備えている
- 問題をどう定義し、どこに切り分け、どうつなぎ直すかが鍵となる
🛠 Step 2|エンジニアの思考をビジネス設計に応用する
エンジニアリングスキル | ビジネス設計への応用 |
---|---|
コードのリファクタリング | 業務プロセスの最適化と標準化 |
データモデリング | 組織の役割・責任の整理 |
要件定義 | 顧客ニーズの背景理解と本質的解決策の提案 |
マイクロサービス設計 | 組織のモジュール化と連携設計 |
パフォーマンス測定 | KPI 設計と改善サイクル構築 |
なぜエンジニア思考がビジネスにも有効なのか?
- 分析と統合の反復:分解→分析→再構成は設計の本質。ビジネス課題も同様に扱える
- 構造化の習慣:依存関係や責任の明示が、業務設計にも転用できる
- 目的意識の強さ:仕様に込められた意図を読む力が、ビジネスでも本質を見抜く視点につながる
🧪 Step 3|エンジニアがビジネス思考を磨く 3 つの実践テクニック
1. 「なぜ」を 5 回繰り返す
-
技術課題の例:ログインバグの深掘り
- 認証トークンが無効になっている
- セッションの有効期限が想定より短い
- タイムゾーンの変換ロジックが不正確
- 国際対応の設計が抜けていた
- 要件定義の段階でグローバル展開が議論されていなかった
-
ビジネス課題の例:新機能の利用率が低い
- ユーザーがその機能の存在に気づいていない
- UI/UX が直感的でない
- ユーザーの行動パターンと合っていない
- ペルソナ設計とユーザーリサーチが不十分だった
- 開発プロセスにユーザー視点が組み込まれていなかった
「なぜ」を繰り返すことで、表層ではなく “構造の歪み” にアプローチできる。
2. 抽象化レベルを意識して課題を分解する【現場編】
🧭 業務改善を抽象化レベルで分解してみる
レイヤ | 業務レベルの例 | 技術応用の例 |
---|---|---|
戦略 | 業務の属人化を減らし、生産性を高める方針 | 情報を整理・可視化して引き継ぎコストを下げる設計指針 |
戦術 | 属人業務を洗い出し、共通フローに落とし込む | ワークフローの標準化と自動化ルールの明文化 |
実行 | Excel業務をスプレッドシート+GASに移行 | スクリプトの実装と手順書作成 |
🧭 定例資料の見直しを構造で捉える
レイヤ | 業務レベルの例 | 技術応用の例 |
---|---|---|
戦略 | 定例資料の工数を削減し、報告の質を上げる | 作業の“人依存”を減らす設計方針 |
戦術 | 資料の目的・頻度・構成を再整理する | 自動更新可能な構成を検討 |
実行 | AppSheetでの自動生成+API連携を試行 | スプレッドシートからの連携設計 |
3. 構造化して図解・チームで共有する
📊 技術選定マトリクス(例)
評価軸 | フレームワークA | フレームワークB | フレームワークC |
---|---|---|---|
性能 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
学習コスト | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ |
メンテ性 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ |
コミュニティ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ |
将来性 | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
総合スコア | 20点 | 18点 | 21点 |
📈 事業案評価:SWOT × 3C
💼 事業B:AI観光ナビアプリ
- Strength(自社の強み):生成AIの自然言語対応力
- Weakness(自社の弱み):観光業界の知見不足
- Opportunity(外部機会):訪日観光客の急増
- Threat(外部脅威):他社による類似施策の増加
3C分析
- Customer:訪日外国人観光客(スマホ世代)
- Company:企業PR施策と連携可能
- Competitor:翻訳アプリや大手ツアーサービス
頭の中だけで考えず「構造を外に出す」こと。これが共通理解・納得感・再現性を生む。
✅ おわりに
🔧 今すぐできるアクションプラン
-
業務の中で「なぜ?」を5回繰り返してみる
└ 今日対応したバグや業務上の違和感に対して、根本原因を深掘りする。 -
今週使った業務資料やツールを1つ選び、3階層で整理する
└ 「戦略/戦術/実行」に分けて、自分がどのレイヤーを考えているかを可視化する。 -
チームの意思決定を1件だけ図にしてみる
└ 評価軸や判断材料を表にし、ドキュメントやMTGで共有してみる。
どれも「明日から5分で始められる」ステップ。思考の質は、構造の意識から変わる。
思考はスケールする。コードを書く脳は、ビジネスも設計できる。
📘 用語ミニ辞典
用語 | 超シンプル説明 |
---|---|
MECE | 「漏れなく、ダブりなく」課題を整理する技法 |
ロジカルシンキング | 因果関係や構造を明確にする論理思考法 |
フレームワーク思考 | 汎用的な思考枠組みで体系的に分析する方法 |
KPI/KGI | 達成度を測る指標(Key Performance/Goal Indicator) |
抽象化レベル | 物事をどれだけ具体 or 抽象で捉えるかの思考視点 |
本質思考 | 現象の背後にある “根本原因” を探る思考法 |
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