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万博が開幕するので、大阪万博1970を振り返る

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「温故而知新、可以為師矣。」(古きを温ねて新しきを知れば、以て師と為るべし)
――孔子『論語・為政』

温故知新とよく言うように、万博が開幕した良い機会なので1970年の大阪万博がどのようなものだったのか振り返ってみた。筆者はこの時代は生きていなく、クレヨンしんちゃんの映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」で見た知識程度しか無いので今一度どのようなことが想像されたのか整理してみた。

はじめに:万博は「未来のショールーム」だった

2025年、再び大阪の地で万博が開催される。
その開催を前にふと思ったのは、55年前の大阪万博(Expo’70)は、どんな“未来”を描いていたのだろう? という問いだった。

この記事では、1970年の大阪万博が描いた未来ビジョンを「過去の想像」として掘り起こし、
2025年の現実と比較しながら、「何が実現し、何が叶わなかったのか?」を読み解いていく。


万博1970が夢見た21世紀

Expo’70で提示された未来の姿は、単なる技術の展示ではなかった。
そこには、人類がどう生きるか/どんな社会を築くかという価値観の提示が込められていた。

以下に、主要な未来ビジョンを7つに整理し、2025年からの視点でそれぞれ振り返る。


1. 📺 ユビキタスなテレビ電話

  • 展示:電子通信館でテレビ電話が体験可能。業務連絡でも活用
  • ビジョン:映像付き通話が日常になる世界
  • 現在:ZoomやFaceTimeなどの普及で実現。専用機ではなくスマホ主導の形に

2. 📱 携帯電話・個人端末の普及

  • 展示:コードレス電話の試作機(当時の“携帯電話”の先駆け)
  • ビジョン:場所を選ばずコミュニケーションが取れる未来
  • 現在:スマートフォンが世界中で普及。データ・音声・AIまですべて統合

3. 🚄 磁気浮上式鉄道(リニアモーターカー)

  • 展示:未来交通の象徴として構想
  • ビジョン:地上を超高速で移動できる社会
  • 現在:試験導入中。高コスト・インフラ整備など課題あり

4. 🚁 パーソナル・エアモビリティ(空飛ぶ車)

  • 展示:空中都市や空中インフラの模型(直接展示はなし)
  • ビジョン:空を活用した個人の移動手段
  • 現在:eVTOLの開発進行中。商用化には社会制度・騒音問題など課題多し

5. 🏙️ メタボリズム建築による都市構造

  • 展示:カプセル住宅、スパイン都市構造、空中都市(丹下健三・菊竹清訓ら)
  • ビジョン:都市は“成長する有機体”。変化に柔軟なモジュール都市
  • 現在:思想はスマートシティや仮設建築などに継承。巨大統合構造は未実現

6. 🌊 海底都市と深海開発

  • 展示:三菱未来館の海底都市・海中発電所
  • ビジョン:人類の活動圏を海底へ広げる
  • 現在:研究施設は存在も、居住型都市は実現せず。水圧・エネルギー・生態系が壁

7. 🛰️ 宇宙ステーションと宇宙生活

  • 展示:アポロ月面着陸・宇宙船・宇宙ステーション構想
  • ビジョン:宇宙に生活・研究拠点を構える未来
  • 現在:ISSが稼働中。民間含めた新ステーション計画も進行中

比較してみる:1970年 vs 2025年

技術・構想 万博1970のビジョン 2025年の現実
ユビキタスなテレビ電話 映像を伴う日常的な通信 スマホ・Zoom等で実現済
携帯電話・コードレス通話 どこでも話せる通信手段 スマートフォンが多機能端末に進化
磁気浮上式鉄道 超高速で都市間を結ぶ交通 一部地域で導入、高コストが課題
パーソナル・エアモビリティ 空飛ぶ個人交通手段 eVTOL開発中、社会実装は未達
メタボリズム建築 成長する都市構造をモジュールで実現 概念は継承、全体構造物は未実現
海底都市 居住可能な深海都市 研究施設のみ、都市規模は未達
宇宙ステーション 宇宙に生活・研究の場 ISSが稼働、月面拠点も構想中

なぜ、いくつかの夢は実現しなかったのか?

万博1970で描かれたビジョンの多くは、今日から見れば「理にかなった」ものだった。
それでも実現しなかった理由には、単なる技術の問題にとどまらない、より複雑な背景がある。


🔧 1. 技術の“進化スピード”と“成熟スピード”は違う

  • 夢を描くには、構想と実現を結ぶ技術が必要
  • 例えば「海底都市」には、超高圧に耐える素材、持続可能な生命維持、エネルギー供給、
    そしてそれらを統合運用する高度なシステム設計が必要だった

アイデアは早かったが、技術は“運用可能な形”に成熟していなかった

💡 示唆:技術的ブレイクスルーがあっても、それが社会の“基盤”になるまでには
  標準化・信頼性・運用性という「地味な技術」の整備が欠かせない


💰 2. 社会の優先順位は、時代によって変わる

  • 万博後すぐに起きた**オイルショック(1973)**は、エネルギー大量消費型の都市構想を打ち砕いた
  • バブル崩壊や格差の拡大によって、経済効率と持続可能性が優先される時代に突入
  • さらに、パンデミックや戦争などの不確実性が、**“夢よりリスク対応”**へと人々のマインドを動かした

社会が抱える“現実的な痛み”が、未来への投資を押し留めた

💡 示唆:夢が実現するには「共感される現実感」が必要
  → テクノロジーは、“誰のどんな課題をどう変えるか”を語れることが鍵になる


🏗️ 3. 技術と社会システムの“接続不全”

  • リニアやeVTOLは今も技術開発が進んでいるが、「空間」「法制度」「運用コスト」「安全基準」「騒音」など、
    社会の側が対応しきれていない
  • メタボリズム建築のような都市全体構想も、現実の都市が**「分散的にしか変われない構造」**を持っていることがネックに

社会システムが“技術の受け皿”になっていなかった

💡 示唆:本当の意味で技術を実装するには、制度・文化・経済圏のアップデートが不可欠
  技術“だけ”が進んでも、社会“全体”が追いつかない限り、それは現実にならない


万博2025に何を重ねるか?

1970年万博が描いたのは「技術と未来の夢」。
2025年の万博は、より「人と社会」の在り方にフォーカスしている。

AI、ウェルビーイング、脱炭素、ダイバーシティ…
かつての“成長の物語”は、今“持続と共生の物語”へと軸足を移しつつある。


おわりに:「未来は、過去の想像の延長線上にある」

いかにも昔の未来予想図みたいな世界観であるが、ただの夢物語で終わっているのではなく、今も構想が続いているコンセプトである。
2025の大阪万博がどのような反響になるか、引き続き楽しみ。

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