2024年版 無料のマークシートシステム
0. はじめに
2010年頃まで私が参加していた大学の研究プロジェクトではSQSというマークシートシステムをオープンソースで開発していて、そのプロジェクトの中で私はSQSと連携するデータ分析システムの開発をしていました。SQSは全国的な利用事例があったソフトウェアで、少し前までは私も学力調査やアンケート調査などで利用してきたのですが、さらに簡単に導入できることを目指して開発してリリースしたマークシートシステムが Mark2 になります。
私がSQSと連携するデータ分析システムを開発していた頃は、SQSの他に無料で利用できるマークシートシステムとしてMarkScanがありました。MarkScanは神奈川県立総合教育センターが開発していたソフトウェアで数年前に公開を停止されていたのですが、作成に関わっていた方に権利が移譲されて公開されました。
マークシートというニッチな分野ですが、少し動きがあったので2024年現在の状況について調べました。
1. Mark2
まずは私を含む開発チームが2019年頃から開発をしているMark2です。
1-1. 調査票の作成方法
PowerPoint形式のファイルで調査票のテンプレートを無料で配布しています。このファイルに質問文などを記入して印刷することで調査票を作成することができます。
テンプレートを編集するだけでなく、自由な位置にマーク欄を配置するなどのカスタマイズした調査票の作成も可能です。
1-2. マーク認識の実行方法
WebブラウザでMark2のページを開いて、座標ファイルの読み込み
にはテンプレートに含まれている座標ファイルを指定して、画像ファイルの読み込み
には回収したマークシート用紙をスキャンした画像ファイルを指定します。
Mark2でマーク認識を実行する画面
Mark2のマーク認識はWeb Assemblyという技術を利用してWebブラウザ上での処理をしています。Webブラウザでマーク認識する画像を指定する画面が開きますが、画像は外部のサーバに送信されることなく、PCでマーク認識の処理が完結します。
1-3. Mark2の特徴
- 特別なソフトのインストールの必要がなく、Webブラウザのみで利用可能です。
- モダンなWebブラウザであれば問題ありませんが、Internet Explorerや10年以上前のWebブラウザでは起動しません。
- 調査票はPowerPoint形式のテンプレートが無料で公開されているので、それを編集して利用します。
- テンプレート以外にも自由にマーク欄を配置することが可能ですが一定のスキルが必要となり、個別にカスタマイズする場合は有料で対応しています。
1-4. Mark2の開発状況(2022年7月〜2023年12月)
最近は以下のような開発に取り組みました。
- ファイルの圧縮を導入して実行時のダウンロードサイズを大幅に削減
- Mark2はBlazorという技術を利用していて、Blazor関連の技術情報の発信で有名な@jsakamotoさんに教えてもらった方法をMark2に反映させました。
- Blazor WebAssembly 製マークシートシステム Mark2 のダウンロードサイズ 100 MB を、20 MB に削減する
- Microsoft Storeからインストール可能なMark2 Desktopを公開
- 座標リポジトリをCDNに移行して座標リポジトリ利用時の起動時間を短縮
2. MarkScan
神奈川県立総合教育センターが公開を停止した数年後、作成に関わっていた方に権利が移譲されて再び公開されました。
2-1. 調査票の作成方法
WindowsのデスクトップアプリのMarkBuilderで調査票を作成します。
2-2. マーク認識の実行方法
WindowsのデスクトップアプリのMarkScanでマーク認識を実行します。読み取り状況の確認など、詳細に把握できるようになっています。
2-3. MarkScanの特徴
- マークシート形式の調査票が簡単に作成できます。
- マーク認識のパラメーターを詳細に設定することが可能です。
3. SQS
SQSの利用にはJavaが必要となるので、実行するPCにはJavaをインストールする必要があります。JavaがインストールされているPCであれば、Windows / Mac / LinuxでSQSを起動することができます。
3-1. 調査票の作成方法
SQS SourceEditorというソフトウェアを利用して調査票を作成します。GUIの画面で設問情報を入力するとPDFが出力されます。
SQSアプリケーション(sqs-core) 2つのJavaWebStartアプリケーションより
3-2. マーク認識の実行方法
SQS MarkReaderというソフトウェアを利用してマーク認識の処理をします。起動して表示されたウィンドウに画像ファイルと調査票のPDFを格納したフォルダをドラッグアンドドロップするとマーク認識の処理が開始されます。
3-3. SQSの特徴
- GUIの画面で調査票の作成ができます。
- 作成される調査票のレイアウトはスペースが大きいので、調査票の枚数が増える傾向にあります。
- JavaがインストールされているPCであれば、Windows / Mac / LinuxでSQSを起動することができます。
4. OGSS
OGSSは2021年に公開されたマークシートシステムで、動画やマニュアルが充実していました。採点の効率化を意識した機能が搭載されていて、記述問題の採点機能などもあります。
こちらの解説動画がわかりやすかったです。
4-1. 解答用紙の作成方法
解答用紙はWordで作成します。テンプレートが用意されているので、それを編集するのが簡単なようです。
4-2. マーク認識の実行方法
OGSSのページの右上のリンクからファイルをダウンロードします。ダウンロードしたZIPファイルを展開すると.exe
ファイルがあるので、Windowsソフトのようです。私の環境はMacのため、実際にOGSSを起動して検証はしていません。
起動したソフトでスキャンした画像を読み込み、そこでマーク欄の座標の位置を調整をしていきます。
4-3. OGSSの特徴
- 採点を効率化するための機能を搭載しています。
- 解答用紙はWordで作成できるので多くのユーザが利用しやすいように思いました。
- マーク認識の際にスキャン画像を見ながらマーク欄の位置を調整するのは独創的で、こういうアプローチもあるのかと参考になりました。
5. マークシート・タマ
マークシート・タマはiPhoneとiPadのカメラでマークシートを撮影して使うアプリです。
5-1. 調査票の作成方法
マークシートのテンプレートがPDFで公開されています。
5-2. マーク認識の実行方法
iPhoneかiPadの端末でApp Storeからマークシート・タマをインストールします。
回収された調査票をカメラで撮影するとマーク認識ができます。
5-3. マークシート・タマの特徴
- iPhone / iPadのカメラを利用してマーク認識します。
- 調査票として2種類のテンプレートが無料で利用可能です。
- 調査票のカスタマイズはできないようです。
6. まとめ
この1年半ではMarkScanの再登場が大きな動きでした。SQS, OGSS, マークシート・タマは前回の記事の投稿(2022年7月)からアップデートは無かったようです。
私も引き続きMark2の開発を頑張っていきたいと思います。Mark2の利用やMark2の調査票のカスタマイズを検討される場合は、お気軽にお問い合わせくださればと思います。
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