エンジニアリングとビジネスの関係性に関する一考察
はじめに
エンジニアリングとビジネスの関係性とエンジニアのビジネスへの関わり方について考える。
エンジニアリングとビジネスとは何か
まず、エンジニアリングとビジネスの定義を確認する。
エンジニアリングとは
エンジニアリングとはなにか。辞書を引いてみると、工学とある。
〘名〙 (engineering) 工学。工学技術。
では、工学とはなにか。さらに辞書を引くと「XXを目的として、YYを用いて、ZZする学問」とある。
こう‐がく【工学】
〘名〙 工業に役立てることを目的として、自然科学的手法を用いて、新製品、新製法、または新技術を研究する学問。
つまり、工学は目的と手法が限定されている学問である。
ビジネスとは
一方、ビジネスとは何者なのか。辞書を引いてみると、仕事、事業とある。
〘名〙 (business) 仕事。職業。事務。また、事業。商売。
では、事業とはなにか。さらに辞書を引くと「一定の目的で同種の行為を行う経済活動」とある。
〘名〙
① しごと。わざ。じごう。
② 一定の目的で同種の行為を継続的にまたは繰り返して行なう経済活動。
つまり、ビジネスは目的は一定しているが手法はとはない活動なのである。
エンジニアリングとビジネスとの比較
目的、手法、活動の観点でエンジニアリングとビジネスを比較すると次のようになる。
項目 | エンジニアリング | ビジネス |
---|---|---|
目的 | 工業に役立てること | 一定の何か |
手法 | 自然科学的手法 | 問わない |
活動 | 学問的活動 | 経済活動 |
ビジネスは工業に比べると目的と手法の自由度が高い。
実務上の状況を考えるとイメージしやすい。
利益率向上という経営目標に対して、エンジニアリングでは製造コスト削減や製品機能の追加などの技術的に解決できる方法で利益率を改善しようとする。
一方で、ビジネスではアウトソーシング、オフショア、人件費削減など様々な方法で利益率を改善しようとする。ビジネスでは手法に制限がないのでどのような方法も取れる。
エンジニアリングとビジネスの境界
どこからどこまでがエンジニアリングか。ビジネスとの境界はあるのだろうか。
では、経営工学はエンジニアリングだろうか。
経営工学もまたエンジニアリングと言ってよいだろう。マクロ経済、ミクロ経済や金融工学といった学問と同様にお金に関する数学的な問題の一種である。
たとえば、マネジメントはエンジニアリングだろうか。
マネジメントの半分は、エンジニアリングと言えるだろう。マネジメントに含まれるスケジュール管理やリソース管理は数学的で自然科学的な問題であり、チーム管理やリーダーシップは心理学的あるいは社会科学あるいは人文科学的な問題である。社会科学や人文科学は自然科学とは異なり人間やその社会活動を対象としており、エンジニアリングが手段とする自然科学とは異なる。したがって、半分はエンジニアリングでもう半分は非エンジニアリングと言えるだろう。
では、経営戦略や経営者のビジョンはエンジニアリングであろうか。
経営戦略や経営者のビジョンはビジネスだろう。経営工学や数学と言ったお金に関する定量的評価に支えられているので、一見してエンジニアリングのように見える。しかし、その本質は、経営者の目指す目的である「一定の何か」を体現している標語に過ぎない。標語は自然科学的な手法で導き出されるものではないため、エンジニアリングとは言えないだろう。指標は従業員を含めたステークホルダーに訴えかけるために作られる、いわば社会科学的な手法である。
これらの例から次のことがわかる。
- 目的と手法に着目してエンジニアリングかビジネスかを峻別することはできそうである。
- 一定の目的を持つビジネスを自然科学的な手法を実現するエンジニアリングが支えている。ただし、手法には、社会科学的・人文科学的な非エンジニアリング的なものもある。
エンジニアのビジネスへの関わり方について
ここまでの分析を踏まえて、エンジニアのビジネスへの関わり方のポイントを以下の2つにまとめた。
- 第一に、ビジネスの「一定の目的」を達成するための自然科学的な手法、すなわちエンジニアリングを実践すること、が肝要である。エンジニアリングはなにがしかの形でビジネスの目的に役立つものでなければならない。
- 第二に、社会科学的・人文科学的な非エンジニアリング要素の有用性を認め、学び、実践すること、が肝要である。ビジネスを支える要素はエンジニアリングだけではない。
ビジネスとエンジニアリングは切っても切り離せない関係にあるので、まぁ好き嫌いに限らず、はばひろいしやで上手に付き合っていくしかない。
Discussion