AIの知性を起動する構文プロンプト ― 判断構文から始まるレビューの再設計
AIの知性を起動する構文プロンプト ― 判断構文から始まるレビューの再設計
— AIが“なぜそう考えたのか”を語る時代にようこそ
AIによる開発工程のサポートが普及する中、私は違和感を覚えていました
出力は良い。でも、判断の構造が見えない
どこが問題か、どう直すべきかは出てくる
しかし、なぜその判断をしたのか?どんな価値基準でその結論を出したのか?
そこがブラックボックスのままでは、“信頼できるレビュー”とは言えないと感じたのです
この記事では、AIレビューに「判断構造を言語として明示するプロンプト」を与えることで、出力の構造がどう変化するかを紹介します
なぜAIレビューが“惜しい”と感じるのか
多くのAIレビューは、以下のような出力になります
- 大文字小文字の区別がされていない → 不具合になるかも
- テストが足りない → カバレッジ不十分
- コメントがない → 可読性に欠ける
これらはどれも表面的には正しいですが、判断の背景や優先順位が語られないため、なぜその指摘が重要なのかが伝わりません
AIは何をどのように見てどう判断したのか?それを語るようにするべきです
起動プロンプト:「知性構文」を問い直す3つの質問
そこで私は、AIに以下の3つの問いを投げかけるプロンプトを設計しました
1. 「なぜその情報を優先したのか?」
目的:判断の価値基準と選択優先順位を言語化する
含意すべき視点:
- どの設計原則や業務優先が判断を導いたか?
- 他の可能性と比較したとき、なぜそれを採用したのか?
- その選択は「誰にとって、どんな状況において」最適なのか?
2. 「読解における構造的焦点の配列とは何か?」
目的:コードや仕様を読む際の思考のズームと焦点移動の構造を明示する
含意すべき視点:
- どのレイヤ(入力→変換→出力など)にどんな順序で注意を当てたか?
- 意図的に読み飛ばした箇所、強く解釈した構造単位はどこか?
- 読解中に変更・反転した観点や前提はあったか?
3. 「ドメイン前提と判断構造はどう接続するのか?」
目的:ビジネスルール・ドメイン知識と、設計上の判断の接続点と伝播構造を明らかにする
含意すべき視点:
- どの業務前提が、どの構文・関数・テスト・設計単位にマッピングされているか?
- その接続は強制的(制約ベース)か、選択的(トレードオフ)か?
- ドメイン前提の抽象度をどの粒度で判断構造に取り込んでいるか?
このプロンプトを使うと、AIは「問題点を洗い出す」以上のことを語り始めるようになります
before → after で見る構造的変化の差
通常の出力(抜粋)
- 大文字小文字を区別せず比較すべき →
name.lowercase()
を使う - テストに“C”と“c”があるが、意図的な検証がない
- DB状態の検証が不足 →
assertThat(records.size).isEqualTo(...)
を追加
→ 確かに正しいが、判断の根拠や読解順序が語られていない
構文プロンプト後の出力(抜粋・抽象化済)
- 「この判断は“入力整合性の明示化”を最優先にしており、ユーザーが意図的に重複を避ける体験を保証する構造と接続しています」
- 「読解では、まず構文定義→検証ロジック→UIのエラーハンドリングの順に焦点を移動し、途中で“UIの挙動が仕様にどう対応するか”という観点に反転しました」
- 「ドメイン前提である“ラベル名は一意であるべき”という規則が、バリデーション関数・テストケース名・型定義にどう伝播しているかを追跡しました」
→ 出力は判断の根拠・読解順序・業務との接続を含んだ一貫した説明となり、設計判断の再利用が可能になる
なぜこの構文がAIに効くのか?
このプロンプトは、AIに対して以下の3層の思考パターンを強制的に起動します
- 判断構造:なぜその選択をし、何を捨てたか
- 読解の焦点の移動:どこから読み、どこを省略したか
- 業務接続:ビジネスルールと実装がどうつながっているか
これは単なる「賢い回答」ではなく、AIが“自分の思考プロセスを言語として説明する”状態を生み出すのです
Closing — コードレビューは私たちの思考の構造を観測する場である
AIがコードを書く時代はすでに始まっています
次に来るのは、「AIが自身の判断の背景を語れるかどうか」が問われる時代です
判断とは、知性の構造です
それは、私たちが何を見て、どう判断したか?の構造です
そしてコードレビューとは、その構造を観測する場です
そのための問いを設計することで、AIもまた“判断できるモノ”として成長し始めます
このプロンプトは、私がそうなるための”始まり”として設計しました
これからのAIは、開発でも設計でもレビューでも、「私はなぜそう考えたのか」を説明してくれます
なぜなら、そのように設計したのですから
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