デジタルアクセシビリティアドバイザー認定試験(Basicレベル)を受けてきたよ
デジタルアクセシビリティアドバイザー認定試験(Basic レベル)を受けてきて、無事合格しました。
受けるにあたって勉強したことや感想などを振り返りとしてまとめておきます。
受験を考えている方への参考になれば幸いです。
デジタルアクセシビリティアドバイザー認定試験とは
公式サイトから引用します。
デジタルアクセシビリティアドバイザー(Digital Accessibility Advisor/略称:DAA)とは、ICT機器などのデジタル機器を障害のある人や高齢者に対して、その困りに合わせて適切にコーディネートし、その利活用をサポートできる知識と技術を認定された人材であり、デジタルアクセシビリティのマインドを持つ支援者とも言えます。
公式サイトには動画での解説もあります:
まだまだできたばかりの新しい試験なので、内容や提供されている情報には更新が多いようです(1 年ほど前にサイトを見たときからコンテンツが追加されていたり、試験範囲が少し広がったりしています)。
受験するつもりの方は、公式サイトで最新情報を確認してください。
ターゲット
「デジタルアクセシビリティアドバイザー」という名前から、そういう職業や役職があるのかと思うかもしれませんが、特にそういうことではありません。
家電販売員、学校の先生、作業療法士など、日々の仕事の中で障害のある人や高齢者と関わる方、もしくは家族など身近にそういった人がいる方が主な対象です。そういった方々がデジタル機器を紹介したり、使い方を教えたりする際に役立つ知識を持っていることを認定します。
Webアクセシビリティに興味がある人にとっての価値
上記で、「障害のある人や高齢者と関わる方が主な対象」とは書きましたが、Web アクセシビリティに興味を持っている人にもぜひ受けてほしいです。
ただし、そういう人が期待している内容とは違う可能性が高いことには注意してください。というのも、正直、Webエンジニア・デザイナーの仕事に"直接"使える内容はほぼないからです。
ここで「"直接"使える内容がない」と書いたのは、裏を返せば「間接的には役に立つ」ということです。
例えば、この試験の範囲では「OS 標準のアクセシビリティ機能」を学びます。
Web アクセシビリティを考慮した実装を進める上で、どのような支援技術が存在するのかは前提知識として必要になります。
スクリーンリーダーという機能があること、どのようなことができるのかを知らないと、スクリーンリーダーを考慮した Web サイトの実装もできません。
それ以前に、社会における障害の歴史を知っておくことで、なぜアクセシビリティに取り組むべきなのかという根本的な理解も深まります。
より深くアクセシビリティを理解するための基盤となる知識を得るために、この試験を受けるのはおすすめです。
私自身が受けようと思ったのは、もともと Web アクセシビリティを中心としてアクセシビリティに興味があったからです。
役に立つかというよりは、アクセシビリティに関する体系的な知識を学んでおきたいという動機でした。
すぐに役立つ知識がほしい人向け
もし、Web アクセシビリティの具体的なテクニックを学びたい文脈で勉強しようとしているなら、以下のような書籍を読んで勉強するのが個人的にはおすすめです。
- エンジニア向け:『Webアプリケーションアクセシビリティ――今日から始める現場からの改善』
- デザイナー向け:『見えにくい、読みにくい「困った!」を解決するデザイン』
受験方法
CBT 方式の試験です。
全国のテストセンターで、1 年中いつでも受けられます。
なお、締め切り駆動型である私の場合は、受験日を決めないでいた結果、先延ばしにしてテキストを買って読んでから受験するまで 1 年近く経ってしまいました。
同じようなタイプの方は、思い立ったらすぐに受験日を決めて申し込むのがよいと思います。受験日という締め切りがあればそれに向けて勉強できます。
学習教材として提供されているコンテンツ
公式テキスト
試験の公式テキストがありますので、まずはこれを買いましょう。
このテキストが出題範囲となりますので、受験には必須です。
なお、私が買った去年の時点では紙版しかなかったのですが、現在は電子版も提供されているようです。
ただし、紙版でも末尾の QR コードから PDF 版をダウンロードできます(※少なくとも私の買った、Basic レベル第 3 版では。今はそうでなければすみません)
公式テキストは改訂がされており、Basic レベルの最新版は第 4 版です(2025 年 7 月 1 日からはこの版からの出題)。
私が持っているのは第 3 版で、大まかな内容としては差はありませんが、第 4 版では ChromeOS に搭載されているアクセシビリティ機能についての記述が追加されています。
もしテキストを買ってから時間が経っている場合は、最新版を改めて買い直したほうがいいかもしれません。
試験対策講座(模擬問題など)
模擬問題や動画教材、解説資料がセットになった試験対策講座が販売されています(この 1 年の間に追加されたようで、この記事を書いているときに知りました…)。
公式テキストだけでは学習しづらい場合はこちらを購入するのもよさそうです。
DAAコミュニティ(動画教材)
「DAA コミュニティ」という Discord コミュニティがあるようです(こちらも恥ずかしながら、この記事を書いてる途中に存在を知りました)。
このコミュニティ内では情報共有を目的としているほか、Basic レベルの試験に役立つ動画コンテンツが無料で公開されているそうです。
これから学習を進める方はぜひ参加してみてください。
私の場合の勉強の仕方
試験に合格したいという目標はありつつも、アクセシビリティに関する知識を得たいという目的が強かったので、テキストを読みながら気になった内容については追加で Web でいろいろ調べたりもしました。
法律の条文を読んでみる
第 1 章の「障害を理解する」では、法令に関する内容がたくさん出てきます。
私は割とこういう法律とか(Web の仕様書とか)読みに行くのが好きなので、出てきた法律を検索して条文を読みました。
法律の条文は e-Gov の法令検索システムで読めます(例:障害者基本法)。
細かいところまで触れておくと、フックが多くなり思い出すのにも役立ちます。
法律読むとき知っておくとよい:「理念法」と「実定法」
これは公式テキストでも触れられている部分ですが、「障害者」といっても大きく 2 つの定義があることがわかります。
1 つは「障害者基本法」で定義されている広義の障害者の定義です。
身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
一方、「障害者総合支援法」で定義されているのは、各種行政サービスを受ける対象となる障害者の定義です(長いしわかりにくいので引用はしないのですが、簡単に言えば障害者手帳を持っているかいないかの定義です)。
これを理解する前提として、「理念法」と「実定法」という法律の分類があることを知っておくとわかりやすくなります。
「こういう方針でいきましょう」というのが理念法で、罰則規定など具体的な制度を定めたのが実定法です。
この場合、障害者基本法が理念法であるため広い言い方になっているわけですね(障害者基本法に限らず、〇〇基本法というのはだいたい理念法)。
気になったところは関連資料を探してみる
公式テキスト内にも、関連資料としてウェブサイトがいくつか紹介されています。
その他、自分で探したものも含めて読んだサイトの一部を以下に貼っておきます。
-
第4 日本の障害者施策の経緯:文部科学省
- 障害者施策が時系列で整理されています
-
合理的配慮等具体例データ集(合理的配慮サーチ):障害者制度改革担当室 - 内閣府
- 公式テキストにも記載のある、障害者差別解消法における合理的配慮の具体事例集です。
-
意思伝達装置一覧
- パソコンやスマートフォンに搭載されている機能では利用が難しい重度障害者向けの装置の例です。
-
「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について
- ICF(国際生活機能分類)の厚生労働省による翻訳・解説
- 分類コードが載っている
OS のアクセシビリティ機能を使ってみる
第 3 章の「OS 標準のアクセシビリティ」では具体的なアクセシビリティ機能が紹介されます。
テキストで読むだけではイメージしにくかったり覚えにくかったりするので、実際に使ってみるのがよいでしょう。
単語帳で用語を覚える
「Anki」という単語帳 OSS があり、これを使って用語を覚えました。
パソコンで単語を登録し、スマホアプリで同期して空いた時間にやってました。
受験した感想
公式テキストに記載されている用語を一通り答えられるようになっていれば、問題なく合格できる難易度です。
4 択の選択肢式、かつ単語を問う問題が多いので、すぐに終わります。
制限時間は 60 分ですが、1 周するには 15 分、見直しをしても 30 分程度で終わりました。
体感としては、「OS 標準のアクセシビリティ」の範囲の、具体的な機能名を厚めに聞かれた印象でした(アドバイザーになるには具体的な機能を言えることが重要ということなんでしょうか)。
各 OS における機能の具体的な名称が聞かれるので、しっかり覚えておくとよいでしょう。
「障害を理解する」のセクションの問題は、内容をよく読めば一般知識で解けるような問題が多かった気がします。
結果
440 点で合格でした ✌️
セクションごとの結果も出ますが、結構バランスよく取れてました(障害を理解する:86%、テクノロジーを理解する:92%、OS 標準のアクセシビリティを理解する:87%)。
学んだあとの感想
これは試験に対してではなく、内容(障害や支援技術)についての感想の書き殴りです。
- 障害・障害者に対する考え方が今の形になったのが意外と最近でびっくり
- 社会モデルの概念や、合理的配慮の概念が国内法に入ったのが 2011 年の障害者基本法の改正でのこと。たった 10 年ちょっと前のこと。
- 日本における法整備や、社会全体での考え方のシフトはまだまだできてきたばかり、なんなら途上だと感じた。
- 最近でも今年(2025 年)6 月に手話施策推進法が成立したりと、徐々に法整備が進められている。
- そんな中でこの数年、数十年でデジタルテクノロジーが果たしている役割は大きい
- 個人がデバイスを持つ世の中になり、わざわざ専用の機器を用意せずとも、支援技術を活用しやすくなった
- さらに生成 AI 技術により、「目の見えない人の代わりに画像を説明する」など支援の幅も広がっている
- Android の TalkBack にはすでにAIによる画像説明の機能が搭載されていました
- メガネがあれば多少視力の低い程度なら障害と感じないのと同じように、デジタルデバイスがあれば障害を意識しないでいいような、そんな社会であってほしい
- OS のアクセシビリティ機能が充実していっていて喜ばしい一方で、まだまだ足りていない部分も存在
- 例:Android の Voice Access は日本語に対応していない
- アクセシビリティ機能に関しては、Windows や Android と比較すると Apple 製品の方が強い印象
- ハードウェアとソフトウェアの両方をセットで作っているからなのは大きそう
- アクセシビリティ機能の強化を積極的に発信している
障害、アクセシビリティ、支援技術について考える機会となり、学習してよかったです。
同じような興味を持っている方はぜひ受験してみてください。
関連・参考リンク
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