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私がポモドーロ・テクニックで集中できなかった理由とその解決策

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TL;DR

私がポモドーロ・テクニックで集中できなかった原因は、ポモドーロアプリで常識となっているタイマー表示ポモドーロ数計測にあると考えました。

そこで、作業中はタイマーを完全に隠す「Blind Pomodoro」というポモドーロアプリを作りました。
https://junyau.github.io/blind_pomodoro/

ポモドーロ数の記録機能も統計機能もありません。ただ「時間を忘れて集中する」ためだけのシンプルなWebアプリです。(スマホには対応していません。PC用です。)

※この記事は既存のアプリや「タイマー表示」「ポモドーロ数計測」機能を否定するものではありません。あくまで私個人の体験に基づくものです。

はじめに

25分作業して5分休憩するーー有名な時間術「ポモドーロ・テクニック」。
私はこれを5年ほど使い続けてきた自称ヘビーユーザーです。

しかし最近、うまく集中できないことが増えました。ことあるごとにタイマーを確認してしまい、作業に集中できないのです。

  • 「まだ5分しか経ってないな」
  • 「残り10分か、もう少し頑張ろう」
  • 「あと2分だから、これは次のサイクルに回そう」

残り時間とにらめっこしているうちに、気づけば作業よりタイマーに意識を割いている時間の方が長くなっていました。

さらに、そうして積み上がった質の低い作業記録がアプリ上に蓄積され、「今日はこんなに作業したよ!おめでとう!」とアプリから祝福される。私もそれに応えるように「今日はよく頑張ったなぁ」と錯覚する始末。

しかし本来、知的生産は「かけた時間」ではなく「生み出した成果」が大事なはずです。

ではなぜ作業を効率的にするために導入したポモドーロ・テクニックで、逆に生産性が下がってしまったのか。この問題について考えるうちに、2つの仮説にたどり着きました。

仮説➀ : タイマー表示が集中を阻害している

タイマーが表示されていると、常に残り時間を意識しながら作業を進めることになります。その結果、本来は作業に向けるべき認知リソースが時間の監視に分散し、集中状態に入りにくくなってしまうのではないかと考えました。

さらに残り時間が少なくなると「これは次のサイクルに回そう」と、惰性で作業をしてしまう現象も起きます。

「タイマーを見なければいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、見えない場所に置いても結局は確認しに行ってしまう。時間が区切られている以上、時間を気にしないのはほぼ不可能なのです。これは、休憩という「報酬」を求める人間の心理特性が影響しているのだと考えています。

では改めて、ポモドーロ・テクニックの利点とは何でしょうか。私は以下の3点が重要だと思います。

  • 開始ハードルの低減 :「25分だけ」と区切ることで心理的負担が減り、作業に取りかかりやすくなる。
  • 持続可能な作業リズム : 定期的な休憩により疲労を防ぎ、作業興奮を維持できる。
  • タスクの細分化促進 : 時間制約によって作業が自然に分割され、タスクを細分化する習慣が身につく。

ここで重要なのは、これらの効果はタイマーが常に表示されていることに依存していない、という点です。むしろタイマー表示は、本来の目的である集中状態の創出を阻害している可能性すらあります。

したがって、現在のポモドーロアプリで常識となっているタイマー表示を廃止することこそが、効果を高め、生産性を向上させる鍵になるのではないかと考えました。

仮説② : ポモドーロ数の可視化が「手段の目的化」の元凶になっている

多くのポモドーロアプリには、消化したポモドーロ数を記録する機能があります。日・週・月ごとに集計され、グラフ化や分析もしてくれる。一見すると便利そうですが、私はこの機能こそが「手段の目的化」の元凶だと考えています。

ポモドーロ・テクニックの本来の目的は作業の効率化です。しかし数値化によって、ユーザーはどれだけ消化したかに満足してしまい、作業の質や成果は二の次になりがちです。

さらに1日の目標ポモドーロ数設定機能や消化数のSNS共有機能は、その傾向をより強めてしまいます。

もちろん、こうした機能にメリットが全くないわけではありません。「今週は10ポモドーロしかできなかった。なぜだろう?」と振り返るきっかけになったり、成果が測定しにくい学習や創造的作業においては、ある種の指標になるかもしれません。

しかし、振り返りという観点で考えると、私は日記や日報の方が優れていると思います。理由は3つあります。

  • 質的な振り返りができる : 「今日は3時間集中したが方向性を間違えた」「1ポモドーロしかできなかったが重要な気づきがあった」など、数字では捉えられない本質を記録できる。
  • 文脈の保存 : 「なぜ10ポモドーロしかできなかったか」を考える際、数字だけでは答えはでない。「体調が悪かった」「緊急案件があった」「そもそもその作業が不要だと気づいた」など、文脈こそが重要。
  • 手段の目的化を防ぐ : 日記には「◯個書いた」という分かりやすい達成指標がないため、内容そのものに向き合わざるを得ない。

つまり、ポモドーロアプリの統計機能は「振り返りっぽいもの」を与えてくれるだけで、本当の内省には適していないと考えています。ポモドーロ・テクニックを実践しているからといって、すべてをポモドーロ単位で考える必要はないはずです。

したがって、ポモドーロ数の可視化は廃止し、振り返りは日記や日報で行ったほうが良いと私は考えました。その方が本来の目的である作業効率化から逸れることなく、ポモドーロ・テクニックの効果を最大限に引き出せるのではないでしょうか。

つくったもの

これら2つの仮説を元に、Blind Pomodoroというポモドーロタイマーを作りました。

コンセプトはただひとつ―― 「時間を忘れて集中する」 です。

設計思想はとてもシンプルです。

  • 作業中 : タイマーは完全に隠し、「作業に集中してください...」というメッセージだけを表示
  • 休憩中 : タイマーを表示し、残り時間を確認できる
  • 記録機能なし : ポモドーロ数の記録・統計・目標設定などは一切なし

ポイントは作業中と休憩中で非対称な設計にしたことです。休憩時間には次の作業に向けて心を整える時間も含まれていると考えています。そのため休憩中にはあえてタイマーを表示し、作業復帰の準備をサポートする仕組みにしました。


作業中の画面


休憩中の画面

既存のポモドーロアプリで当たり前になっている「タイマー表示」や「ポモドーロ数の計測」を削ぎ落としただけのアプリなのでとてもシンプルです。


サイドバーの設定

また、複数モニターを使う環境では全画面表示にできたり、作業中はサイドバーを開けない仕様にするなど、余計なものに触らせない工夫も盛り込んでいます。

使用感

Blind Pomodoroを使い始めてから、作業への没入度が明らかに変わりました。

25分という時間の区切りによって「とりあえず始めよう」と作業に取りかかりやすくなり、かつタイマー表示がないことで時間を気にせず目の前の作業に没頭できる。ポモドーロ・テクニックの「開始ハードルの低さ」と、タイマー非表示による「深い集中」が両立できたことで、想像以上に快適な作業環境になりました。

とはいえ、このアプリは誰にでも合うわけではないと思います。実際に使ってみて感じた「合う人」「合わない人」を整理すると、こんなイメージでしょうか。

合う人

  • タイマーを見てしまって集中できない人
  • ポモドーロ数を追うことに疲れた人
  • とにかくシンプルなツールが好きな人

合わない人

  • 残り時間を確認しながら作業したい人
  • 記録や統計で自分を管理したい人
  • 数値目標でモチベーションを保ちたい人

万人受けするツールではありませんが、私と同じように「タイマーや統計に縛られて逆に集中できない」と感じている人にとっては、役立つかもしれません。

さいごに

「ポモドーロタイマーでは集中できない」という悩みから出発し、その理由を言語化し、解決策として Blind Pomodoro を作りました。

アプリ開発は新機能を次々と追加する「足し算」が重視されがちですが、ときには常識や前提を疑い、あえて「引き算」することで、本当に必要なものが浮かび上がることもあると思います。

ちなみに技術構成(?)はHTML,CSS,Vanilla JSです。Claudeに書いてもらったので二時間ぐらいで出来上がりました。

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