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デザイン組織でベロシティ管理を始めてわかったこと

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1. はじめに

私たちのデザイン組織は、複数のプロダクトとコミュニケーション案件を横断しながら日々活動しています。しかし、その活動の成果はどうしても「感覚的」「定性的」に語られがちです。

「チームの進捗はどれくらい?」
「どこにリソースを割いているのか?」
「この施策は事業にどんな成果をもたらしたのか?」

こうした問いに即座に答えられないと、チームとしての改善も、事業との連携も難しくなります。そこで私たちは、エンジニアリングチームでよく使われる「ベロシティ管理」をデザイン組織に導入しました。

デザイン組織での本格的なベロシティ運用はまだ事例が少なく、手探りのチャレンジです。この記事では、その取り組みで得られた学びや変化を紹介します。

2. クオリティ追求と効率化はトレードオフではない

デザインにおいては、どうしても「時間をかけるほどクオリティが上がる」という思い込みがあります。しかし、実際には以下の2つの要素を分けて考えると、必ずしもトレードオフにはならないことが多いです。

思考の時間:課題理解、アイデア発散、コンセプト設計
作業の時間:ビジュアル制作、UI構築、ガイドライン整備

ポイントは、時間を削るのではなく「時間の使い道をシフトする」ことです。作業に使う時間を効率化して、思考に割く時間を増やすことで、クオリティと効率化の両立が可能になります。

例:
デザインシステムを活用して作業スピードを上げ、その分をUXリサーチやコンセプト設計に投資する。

3. 導入前に抱えていた課題

実際に運用を始める前に見えていた課題は以下の5つです。

1.ストーリーポイント(SP)の付け方が難しい
デザインタスクは粒度や不確実性が大きく、見積もりがバラバラになりやすい。

2.チーム全体の限界値が見えない
1スプリントで「どこまで進めるか」が分からず、計画が不安定になりがち。

3.横断的な稼働状況が把握できない
プロダクトとコミュニケーション案件が混在し、全体像をつかみにくい。

4.バックログ不足による計画精度の低下
事前にタスクが整理できず、プランニングが感覚頼りになる。

5.時間配分がブラックボックス化している
どのタスクにどれだけ時間を使うべきか説明できず、リソース最適化や優先順位付けが難しい

これらの課題が重なり、計画や議論が「なんとなく」で進むことが多く、改善サイクルが回りにくい状態でした。

3. 取り組んだこと

1.SP(ストーリーポイント)の共通化
・デザイン特有の基準を設定
→ 複雑性 / 不確実性 / コミュニケーションコスト / 外部依存度
・Fibonacciスケール(1/2/3/5/8/13)を採用し、時間ではなく相対評価で運用。
・基準タスクカタログを用意し、チーム内で認識をそろえる。

2.バックログ製造会でタスクを棚卸し
・毎週「バックログ製造会」をユニット毎に開催し、事前にタスクを洗い出し。
・JiraとClickUp上で粒度を揃えて登録、プランニング精度を向上。

3.半自動ダッシュボードで可視化
・完了SP、残タスク、進捗率を自動集計し、スプリントごとの変化をグラフ化。
・定点観測を可能にし、全員が同じデータを見ながら議論できる状態に。

4.カテゴリ別の時間配分をトラッキング
タスクを6つのカテゴリに分類し、稼働時間を集計。

💻 実作業(Design Work)
🗣️ ミーティング(Meetings)
✅ レビュー(Review)
🤝 チームビルディング(TeamBuilding)
📚 ワークショップ(Workshop)
🧩 自己学習(study)
⚙️ その他(Others)

このデータにより、会議が多すぎる/レビューが不足しているなど、リソース配分の偏りを数字で把握できるようになりました。

4. 実際に得られた成果

1.稼働の可視化
チーム全体の生産性をリアルタイムで確認可能に
プランニング精度の向上
バックログの棚卸しで計画のブレが減少
2.目標設定との紐付け
スプリントゴールとタスクを指標ベースで説明できるように
3.セルフマネジメント促進
メンバーが自身の稼働を客観視できるようになった

5. ベロシティ管理をしてわかったこと

1.文化づくりが最重要
仕組みだけ導入しても機能しません。可視化した数字をチーム全員が信頼し、改善につなげる文化づくりが不可欠でした。

2.SPの精度は継続的な調整が必要
プロダクト案件とコミュニケーション案件では評価軸がズレやすいため、毎回のレトロで振り返りを行い、少しずつ精度を高めています。

3.バックログ製造は意外と負荷が大きい
タスクを適切な粒度に分解し優先順位を決めるには、想像以上の時間と労力がかかります。日常ログを記録し、会議当日は効率的に棚卸しできる仕組みづくりが課題です。

4.数字は議論の出発点にすぎない
ベロシティ管理は、あくまで議論を深めるための共通言語です。数字を見て終わるのではなく、そこから「なぜそうなったか」を問い続けることで初めて改善につながります。

5. 可視化がモチベーションにつながる
チームメンバーが自分の稼働を数字で確認できるようになり、「もっと効率的に進めよう」という意識が自然と高まりました。これは管理のためではなく、自己成長のための可視化であることがポイントです。

6. 今後の展望

1.データドリブンな運用への進化
JiraやClickUpの連携を強化し、さらに精度の高い分析へ。

2.事業成果との接続強化
デザイン活動が事業に与えるインパクトを、数字で語れるようにしていきます。

3. 長期的な成長施策
・SP基準のブラッシュアップ
・時間配分トラッキングの自動化
・リソース戦略に基づく人員計画との連携

7. まとめ

私たちはこれからも、この挑戦を続けていきます。ベロシティ管理を導入したことで、これまで感覚頼りだった稼働や計画が可視化され、チーム全体で同じ指標をもとに議論できるようになりました。特に、半自動ダッシュボードとカテゴリ別トラッキングは、リソース配分やチーム成長を定量的に把握するための強力な武器になっています。

デザイン組織ならではの複雑さもありますが、「デザインの価値を数字で語る」ための第一歩として、継続的に進化させていきたいと考えています。

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