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SteampipeとExcel Power Queryで実現するAWS構成定義書自動化ガイド

2025/03/24に公開

はじめに

手動で作成した AWS 環境の構成定義書は、継続的なメンテナンスが必要であり、大きな負担となります。また、情報の更新漏れや整合性の欠如など、多くの問題が生じます。

本記事では、SQL クエリを用いて AWS リソースの属性情報を CSV 形式で抽出し、その CSV ファイルを Excel の Power Query で読み込むことで、構成定義書の作成プロセスを大幅に自動化します。CSV ファイルの抽出や Excel へのインポートは手動操作が必要ですが、その手順自体はシンプルで再現性があります。

構成定義書のサンプル

以下は、本手法で作成できる構成定義書のサンプルです。この例では、EC2 インスタンスの構成情報を取得し、Excel シートに読み込んでいます。

https://github.com/JHashimoto0518/zenn-content/blob/main/images/spac/image-3.png

本手法のメリット

この手法には以下のメリットがあります。

  • single source of truth の実現

    AWS 環境の現在の構成を最新で唯一の正確な情報源(single source of truth: SSOT)とみなします。自動生成された構成定義書は、システムの状態を反映する「読み取り専用の表現」であるため、手動更新によるメンテナンスの必要性がなくなります。システム変更時は、Steampipe で最新情報を取得し、Excel で読み込むだけでシステムとドキュメントの同期を維持できます。

  • 構築手法に依存しない

    Steampipe が直接 AWS API から構成情報を取得するため、マネージメントコンソール、CLI、または IaC ツール(例えば、CloudFormation、Terraform、CDK など)などの構築手法に依存しない汎用的な手法です。

  • システムのライフサイクルに依存しない

    システムのライフサイクルに依存せず、いつでも最新の情報を取得できます。特に、構成定義書が存在しない、あるいは定義書を更新できずに陳腐化してしまった状況において、システムの実態を把握するために有効です。

  • クラウドサービスに依存しない

    AWS 以外の構成定義書を作成することも可能です。Steampipe はプラグインを切り替えることで、AWS だけでなく、Azure、GCP、Kubernetes など、さまざまなクラウドプロバイダーのリソース情報を取得できます。

構成情報を CSV で抽出する

このセクションでは、Steampipe の概要とセットアップ方法、そして実際に AWS リソース(ここでは EC2 インスタンス)の構成情報を CSV 形式で抽出する手順を説明します。

Steampipe とは

Steampipeは、SQL でクラウドリソースの情報を抽出できるオープンソースツールです。プラグインを導入することで、AWS、Azure、GCP、Kubernetes など、さまざまなクラウドプロバイダーのリソース情報を SQL で取得できます。Steampipe を利用することで、AWS リソースの属性値を効率よく取得できます。

AWS CloudShell とは

今回は Steampipe の実行環境として AWS CloudShell を利用します。

AWS CloudShell は、マネージメントコンソールから直接アクセスできる、ブラウザベースのシェル環境です。

https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/cloudshell/latest/userguide/welcome.html

CloudShell で利用する credential はマネージメントコンソールから引き継がれるため、IAM ユーザーさえあれば、認証情報のセットアップは不要です。

Steampipe をセットアップする

マネージメントコンソールにサインインし、ヘッダにある CloudShell のアイコン(>.の形をしています)をクリックします。

以下のコマンドを CloudShell のターミナルで実行し、Steampipe と AWS プラグインをインストールします。

sudo /bin/sh -c "$(curl -fsSL https://steampipe.io/install/steampipe.sh)"
steampipe plugin install aws

https://steampipe.io/downloads?install=linux

EC2 インスタンスの構成情報を抽出する

以下の手順で、AWS の EC2 インスタンスの構成情報を CSV 形式で抽出します。

https://hub.steampipe.io/plugins/turbot/aws/tables/aws_ec2_instance

  1. SQL クエリをファイル ec2-ins.sql に記述する

    cat << EOF > ./ec2-ins.sql
    SELECT
      tags->>'Name' AS "名前",
      instance_id AS "インスタンスID",
      instance_type AS "インスタンスタイプ",
      image_id AS "イメージID",
      private_dns_name AS "プライベートDNS",
      private_ip_address AS "プライベートIP",
      public_dns_name AS "パブリックDNS",
      public_ip_address AS "パブリックIP",
      vpc_id AS "VPC ID",
      subnet_id AS "サブネットID",
      placement_availability_zone AS "アベイラビリティゾーン",
      root_device_name AS "ルートデバイス名",
      key_name AS "キーペア",
      platform_details AS "プラットフォーム",
      architecture AS "アーキテクチャ"
    FROM aws_ec2_instance
    -- 終了したインスタンスは除外
    WHERE NOT instance_state = 'terminated'
    ORDER BY "名前";
    EOF
    
  2. Steampipe を利用して SQL クエリを実行し、結果を CSV ファイルに抽出する

    steampipe query --output csv ./ec2-ins.sql > ./ec2-ins.csv
    

    抽出される CSV ファイルのサンプルです。※出力に ID 等が含まれますが、該当環境は検証後に削除済みです

    cat ./ec2-ins.csv 
    名前,インスタンスID,インスタンスタイプ,イメージID,プライベートDNS,プライベートIP,パブリックDNS,パブリックIP,VPC ID,サブネットID,アベイラビリティゾーン,ルートデバイス名,キーペア,プラットフォーム,アーキテクチャ
    ec2Bastion,i-02059f9af149877ba,t2.micro,ami-0599b6e53ca798bb2,ip-172-16-0-217.ap-northeast-1.compute.internal,172.16.0.217,ec2-54-248-206-252.ap-northeast-1.compute.amazonaws.com,54.248.206.252,vpc-0743c3e1c8762fa02,subnet-0596b3ed4c21c6abb,ap-northeast-1a,/dev/xvda,kpair-test,Linux/UNIX,x86_64
    ec2Web,i-0b9aee37d0d95137b,t2.micro,ami-0599b6e53ca798bb2,ip-172-16-2-166.ap-northeast-1.compute.internal,172.16.2.166,,,vpc-0743c3e1c8762fa02,subnet-08517c5867d9a34be,ap-northeast-1a,/dev/xvda,,Linux/UNIX,x86_64
    
  3. CloudShell のメニューから CSV ファイルをダウンロードする

    CloudShell のメニューから[アクション]→[ファイルのダウンロード]を選択し、ec2-ins.csv をダウンロードします。

構成情報を Excel シートに読み込む

このセクションでは、Power Query の概要と、先のセクションで抽出した CSV ファイルを Excel シートに取り込む手順について説明します。

Power Queryとは

Power Query は、Excel に組み込まれたデータ取得および変換ツールで、さまざまなデータソースから情報を取り込み、整形できます。これにより、Steampipe で抽出した CSV ファイルのデータを Excel シートに読み込むことが可能になります。

CSV ファイルを Excel シートに読み込む手順

  1. Excel を起動し、[データ]タブを選択する

  2. [データの取得]→[テキストまたは CSV から]をクリックし、先ほどダウンロードしたec2-ins.csvを選択する

  3. [データの変換]をクリックする

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  4. Power Query エディターが起動したら、[1行目をヘッダーとして使用]をクリックする

    alt text

  5. [閉じて読み込む]をクリックして、Excel シートにデータをインポートする

    alt text

CSV データを元に Excel のテーブルが作成されます。これが構成定義書となります。

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構成変更を定義書に反映する

Steampipe で、いつでも最新の構成情報を取得できます。システムの構成変更があった場合は、以下の手順で構成定義書を更新することができます。

検証用の環境に以下の変更を加えるとします。

  • Bastion インスタンスのインスタンスタイプを t2.micro から t3.micro に変更
  • Web2 インスタンスを追加

環境を変更した後で、EC2 インスタンスの構成情報を抽出するセクションの手順をもう一度実行し、最新の CSV ファイルを CloudShell からダウンロードします。そして、既に Excel シートに読み込まれた古い CSV ファイルを上書きします[1]

CSV ファイルを上書きしたら、テーブルを右クリックし、[更新]を実行します。

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テーブルが更新されると、Excel シートに最新の構成情報が反映されます。

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まとめ

本記事では、Steampipe と Excel Power Query を利用して、AWS のリソース情報から構成定義書を生成する手法を解説しました。

このアプローチにより、手動によるメンテナンス負荷を大幅に削減でき、かつ常に最新の構成情報を基にした信頼性の高い構成定義書を維持することが可能になります。

次のステップ

今動いているシステムを SSOT とみなし、そのシステムから構成ドキュメントを生成した場合、そのドキュメントは、ある関心事に焦点を当てたシステムの状態を写し出すビューであると考えることができます。

例えば「サーバーへの通信許可」が関心事であるならば、EC2 インスタンスとセキュリティグループの情報を抽出することで、インスタンスに許可された通信を把握できます。このように、システムの構成情報を様々な視点で抽出することで、システムの特定の側面に焦点を当てた構成定義書を生成することが可能です。

次回は SQL JOIN で関連リソースの情報を結合し、特定の関心事に焦点を当てた構成定義書を生成する手法について解説する予定です。

脚注
  1. CSV ファイルの上書きに失敗する場合は、Excel ファイルを一度閉じると上書きできることがあります。 ↩︎

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