AI Weekを開催しました!〜AIエージェント時代の開発現場への挑戦〜
はじめに
株式会社ジャンボCTOの花野です(@hnnkns)。
突然ですが、もし「手でコードを書くのを完全に禁止」したら、開発現場はどうなると思いますか?
私たちは2025年6月、この挑戦的な問いに実際に取り組んでみました。「AI Week」と名付けたこのイベントで、エンジニア全員がAIツールだけで開発を行う1週間を過ごしたのです。
きっかけはメルカリさんの事例でした。これに刺激を受けて、私たちも「AIネイティブな開発組織」を目指してチャレンジすることにしたんです。今回は、その結果と学びをシェアしたいと思います。
なお、AIエージェント開発についての考えはこちらの記事にもまとめていますので、興味があればぜひご覧ください。
AI Weekって何?
シンプルに言うと、1週間、手でコードを書くのを完全にやめて、AIツールだけで開発するイベントです。
具体的なルール
- キーボードで直接コードを書くのは禁止
- Cursor、ClaudeCode、Devinなど、AIツールのみを使用
- 既存コードの修正もすべてAI経由で
- PR作成やレビューもできる限りAIを活用
これによって、全員が強制的に「AIありき」の開発を経験することになります。
なぜこんな極端なことをしたのか
「禁止」にした理由
正直に言うと、組織全体をAI-Nativeにしたかったからです。
「手で書いた方が早いから」という理由でAIツールを使わない人、結構いますよね。でも、それって目先のことしか見ていないんじゃないかと思うんです。
今だけを見ると | 長い目で見ると |
---|---|
確かに手で書く方が早い | AIと一緒に働く習慣が身につく |
すぐに結果が出る | 生産性が飛躍的に向上する |
今までのやり方で安心 | 新しい働き方を確立できる |
今の生産性を多少犠牲にしても、将来の圧倒的な生産性アップのために「AIと向き合う時間」を作る。これがAI Weekの本当の狙いでした。
エンジニアの役割が変わっていく
これからのエンジニアは「コードを書く人」から「AIエージェントをうまく使いこなす人」に変わっていくはずです。
AI Weekは、この変化を組織全体で体感してもらう機会でもありました。
私たちの組織について
エンジニア総数:30名
- iOS: 12名
- Android: 6名
- Web: 4名
- Unity: 3名
- Backend: 2名
- インフラ: 3名
なお、インフラチームについては、普段IaC化されたコードを扱っているものの、そこまで頻繁にコードを変更するわけではないため、今回のAI Weekでは対象外としました。
また、Unityチームは発足したばかりで開発環境がまだ整っていない状況だったため、こちらも対象外としています。
使っているAIツール
全エンジニアに以下のツールを提供しています。
主なツール
- Cursor: AIとペアプロできるIDE
- ClaudeCode: 賢いAIアシスタント
- Devin: 自動でタスクをこなすAIエンジニア
- ChatGPT: なんでも相談できるAI
- GitHub Copilot: コーディング支援、PRレビュー
- CodeRabbit: コードレビュー専門AI
使い分けの例
- 普段のコーディング → Cursor、ClaudeCode
- 設計の相談 → ChatGPT、Cursor
- ちょっとした補完 → GitHub Copilot
- 簡単なタスク → Devin
- コードレビュー → GitHub Copilot、CodeRabbit
確かにコストはかかりますが、エンジニアの時給を考えると十分ペイする投資だと思っています。
実際にやってみてどうだったか
数字で見る結果
マージされたPR数の変化:
- AI Week前: 週345件
- AI Week中: 週383件(1.1倍に増加!)
- AI Week後: 週373件(1.08倍で継続)
正直、最初は生産性が落ちると思っていました。でも、むしろ1.1倍に増えたんです。これには驚きました。
分野ごとの数字の変化
各分野でAIの効果に差が見られました。
iOS(12名):
- AI Week前: 週89件
- AI Week中: 週125件(1.4倍に増加!)
- AI Week後: 週62件(残念ながら大幅減少)
Android(6名):
- AI Week前: 週49件
- AI Week中: 週94件(1.9倍に増加!)
- AI Week後: 週73件(減少したものの、元より高い水準を維持)
Web(4名):
- AI Week前: 週154件
- AI Week中: 週168件(微増)
- AI Week後: 週117件(減少)
分析してみると、モバイル開発(iOS・Android)の方がAIの恩恵を受けやすいように見えます が、Webチームは元々、AIエージェント開発がかなり進んでいるチームだったので、一概には判断できなさそうです。
一方で、AI Week後の数値を見ると、Androidチームだけが元の水準より高い状態を維持しています。これは、チーム内でのAI活用の習慣化がうまくいった例と言えるでしょう。
みんなの声
良かった点:
- 「複数のタスクを同時に進められるようになった」
- 「コーディングよりも設計に集中できる」
- 「AIと話しながら新しい書き方を学べる」
- 「自然とベストプラクティスが身につく」
- 「世界中の優秀なエンジニアと一緒に働いてる感じ」
困った点:
- 「AIの提案を理解するのに時間がかかることがある」
- 「プロンプトを考えるより手で書いた方が早い場合も」
- 「生成されるコードの品質にばらつきがある」
- 「エラーの原因がわからないとデバッグが大変」
- 「AIに頼りすぎて基礎力が落ちそうで心配」
実は、数値が下がってきている現実
ただ、正直に言うと、AI Week後の数値は徐々に下がってきています。
最初は週373件だったPR数も、今では週350件前後まで戻りつつあります。これは予想していた通りではありますが、やはり「元の習慣に戻ろうとする力」は思った以上に強いですね。
なぜこうなるのか?理由はシンプルで、日常業務に追われると、つい「いつものやり方」に戻ってしまう からです。
- 「今日は忙しいから、とりあえず手で書いちゃおう」
- 「この小さな修正なら、AIを使うまでもないかな」
- 「AIに説明するより、自分でやった方が早そう」
こういった積み重ねが、結果的に元の開発スタイルに戻ってしまう要因になっています。
今後の最大の課題:AIエージェント開発の浸透
AI Weekを通じて気づいたのは、技術的な課題よりも、むしろ組織的な課題の方が大きいということです。
具体的には、AIエージェント開発の浸透が一番の課題になってきそうです。
これは単に「AIツールを使う」という話ではなく、働き方そのものを変える必要があるということです。
- 個人の意識改革だけでは限界がある
- チーム全体での取り組みが必要
- 継続的な学習とフォローアップが重要
- 評価制度も見直しが必要かもしれない
見えてきた課題:AI格差が生まれている
「AIレバレッジ係数」という考え方
AI Weekを通じて、エンジニアのAI活用能力に大きな差があることがわかりました。
そこで「AIレバレッジ係数」という指標を考えてみました:
係数 | どんな人? | 結果 |
---|---|---|
1.5以上 | AIを自在に操る達人 | 生産性が爆上がり |
1.0〜1.5 | うまく使いこなしている | 着実に生産性アップ |
0.5〜1.0 | 使ってるけど手間取る | 微妙に向上or現状維持 |
0.5未満 | AIに振り回されている | むしろ生産性ダウン |
係数が1を下回ると、かえって生産性が落ちてしまうんです。そうなると「やっぱり手で書いた方が...」となってしまいます。
結論:AIがどんなに進化しても、プログラミングの基礎力は必要
格差の現実
同じチーム内でも、エンジニア間で2〜5倍の生産性差が生まれていることがわかりました。
この差を生む要因:
- プロンプトをうまく書けるかどうか
- AIの出力を正しく評価できるか
- 複数のAIツールを使い分けられるか
- そもそものプログラミング力
実際の例
うまくいっている例:
シニアエンジニアAさん:
- Cursorで基本実装と設計レビュー
- ClaudeCodeで複数のタスクを並列処理
→ 通常1週間かかる機能を1日で完成
苦戦している例:
ジュニアエンジニアBさん:
- AIの提案をそのまま使ってエラー
- なぜエラーになるか理解できない
- 修正→エラー→修正の繰り返し
→ いつもより時間がかかってしまう
AI Week後も続けていること
習慣を定着させるために
AI Week後、マージ数が少し戻り始めたので、以下の取り組みを始めました:
- AIを使いこなすエンジニアによる社内ライブコーディング
- 各プラットフォームごとのライブコーディングイベント
- AIツール費用は引き続き会社が全額負担
社内ライブコーディングの様子はXでも発信しています!
「Tmux × Git Worktree × Claude Codeで実現する並列AIエージェント開発」
意識を変えていく
これまで: AIは便利な補助ツール
これから: AIは一緒に開発するパートナー
この意識の変化を組織全体に広げていくことが、次の課題です。
これからのエンジニアに必要なスキル
AI Weekを通じて見えてきた、重要なスキルがあります:
1. AIと協働するスキル
- プロンプトエンジニアリング: 意図を的確に伝える
- AIの出力を評価する力: 生成結果が正しいか判断
- ツールの使い分け: 場面に応じて最適なAIを選ぶ
2. 設計力の強化
- 要件分析: 実装はAIに任せて設計に集中
- アーキテクチャ設計: 全体像を把握する力がより重要に
- 品質保証: AIの出力に責任を持つ
3. 批判的に考える力
- コードレビュー: AIが書いたコードの問題を見つける
- セキュリティ: 脆弱性を見逃さない
- パフォーマンス: より良い実装を判断できる
まとめ:これからの開発組織に向けて
AI Weekで学んだこと
- AI格差は現実。そして今後もっと広がる
- 目先の生産性より、長期的な習慣づくりが大事
- 分野によってAIの効果は大きく違う
- 基礎力があるエンジニアほどAIを活かせる
これから必要なこと
個人として:
- AIと一緒に働くスキルを身につける
- 批判的に考える力を磨き続ける
- 学び続ける姿勢を持つ
組織として:
- AIツールへの投資を続ける
- AI活用の研修を制度化する
- 新しい評価基準を作る
最後に
「エンジニア = コードを書く人」という定義は、確実に「AIエージェントをうまく使いこなす人」に変わりつつあります。
AI Weekは、この変化を組織全体で体験し、新しい開発スタイルへの第一歩を踏み出すきっかけになりました。
私たちは、AIエージェント時代の開発を一緒に探求してくれるエンジニアを探しています。少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ気軽にお話ししましょう!
採用情報:

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