【Jetpack Compose】状態の読み取りを遅延してパフォーマンスを向上させる
この記事は RNIアドベントカレンダー2023 2日目の記事です。
はじめに
皆さんは Jetpack Compose を使っていますか? Compose は Android アプリ開発者の間で広く浸透してきていて、多くの方が利用しているのではないかと思います。私自身も業務で使っており、その恩恵を日々実感しています。
Compose は非常に強力なツールですが、パフォーマンス周りに関しては少しテクニックが必要だったりします。方法はいくつか存在しますが、今回は状態の読み取りを遅延させる手法について紹介したいと思います。
再コンポーズについて
まずは再コンポーズについて軽く触れたいと思います。
Android Developers で以下のような説明があります。
再コンポーズとは、入力が変更されたときにコンポーズ可能な関数を再度呼び出すプロセスです。これは、関数の入力が変更された場合に発生します。新しい入力に基づいて再コンポーズされると、Compose は変更された可能性のある関数またはラムダのみを呼び出し、残りはスキップします。パラメータを変更しない関数またはラムダをすべてスキップすることで、Compose で効率的に再コンポーズできます。
Jetpack Compose は State の変更を監視します。再コンポーズは、 State#value が参照されている状態でその値が変更された場合にトリガーされます。
次に示すのは、ボタンをタップすることでカウントアップするコンポーザブルの例です。
@Composable
fun MyAppScreen() {
SideEffect { Log.d("compose-log", "MyAppScreen") }
var count by remember { mutableStateOf(0) }
Column(
modifier = Modifier
.fillMaxSize()
.wrapContentSize()
) {
CountText(count = count)
Button(onClick = { count++ }) {
SideEffect { Log.d("compose-log", "Button") }
Text(text = "Count Up")
}
}
}
@Composable
fun CountText(count: Int) {
SideEffect { Log.d("compose-log", "CountText") }
Text(
text = "Count $count"
)
}
CountText
の引数として count
を渡しているため、ボタンがタップされてcount
の値が変更されると、それに応じて MyAppScreen
と CountText
が再コンポーズされ表示が更新されます。一方で、Button
は引数に変更がないため再コンポーズはスキップされています。
再コンポーズのスコープについて
先程のコンポーザブルは以下のようなUIツリー構造になっています。
MyAppScreen
└── Column
├── CountText ← ここで count を読み取っている
│ └── Text
└── Button
└── Text
Compose は、状態の読み取り位置から最も近い親のスコープを見つけて再コンポーズを行います。
上記の例だと、状態である count
は CountText
の引数として渡されているため、そこから最も近い親のスコープである MyAppScreen
が再コンポーズのルートになります。
注意: Column は inline 関数として定義されており restartable でないコンポーザブルのため、スコープとしては機能しません。再コンポーズされる場合は親コンポーザブルも再コンポーズされます。
状態の読み取りを子コンポーザブルに移動する
次に状態の読み取りを子コンポーザブルに移動して、再コンポーズされる範囲を狭めてみます。
以下は、 CountText
に渡している引数を Int ではなくラムダに変更した例です。
@Composable
fun MyAppScreen() {
SideEffect { Log.d("compose-log", "MyAppScreen") }
var count by remember { mutableStateOf(0) }
Column(
modifier = Modifier
.fillMaxSize()
.wrapContentSize()
) {
CountText(countProvider = { count }) // 引数をラムダに変更
Button(onClick = { count++ }) {
SideEffect { Log.d("compose-log", "Button") }
Text(text = "Count Up")
}
}
}
@Composable
fun CountText(countProvider: () -> Int) {
SideEffect { Log.d("compose-log", "CountText") }
Text(
text = "Count ${countProvider()}"
)
}
引数をラムダにすることで、count
が読み取られるタイミングを CountText
内の Text
まで遅延することができます。
MyAppScreen
└── Column
├── CountText
│ └── Text ← ここでラムダを呼び出して count を読み取っている
└── Button
└── Text
こうすることで、count
が変更されたときに状態を読み取っている箇所から最も近いスコープである CountText
が再コンポーズされるだけで済みます。
ラムダ版のModifierを使ってフェーズをスキップする
次はラムダ版のModifierについて見ていきます。が、その前に Jetpack Compose の3つのフェーズについて軽く触れておきます。
Compose では、以下のように役割が異なる3つのフェーズを経てUIが表示されます。
- Composition → 何を表示するかを決める
- Layout → どこに配置するかを決める
- Drawing → どのように描画するかを決める
「どこに配置するか」や「どのように描画するか」のみを変更する場合は、ラムダ版のModifierを使って状態の読み取りを遅延させることで、フェーズをスキップすることができます。
以下は Slider
を使って CountText
の表示位置を移動するコンポーザブルです。
@Composable
fun MyAppScreen() {
SideEffect { Log.d("compose-log", "MyAppScreen") }
var count by remember { mutableStateOf(0) }
var sliderValue by remember { mutableStateOf(0f) }
BoxWithConstraints {
val maxWidth = constraints.maxWidth
Column(
modifier = Modifier
.fillMaxSize()
.wrapContentSize()
) {
CountText(
countProvider = { count },
xOffsetProvider = { (sliderValue * maxWidth).toInt() }
)
Button(onClick = { count++ }) {
SideEffect { Log.d("compose-log", "Button") }
Text(text = "Count Up")
}
Slider(value = sliderValue, onValueChange = { sliderValue = it })
}
}
}
@Composable
fun CountText(countProvider: () -> Int, xOffsetProvider: () -> Int) {
SideEffect { Log.d("compose-log", "CountText") }
val xOffset = with(LocalDensity.current) { xOffsetProvider().toDp() }
Text(
modifier = Modifier.offset(x = xOffset, y = 0.dp),
text = "Count ${countProvider()}"
)
}
これだとスライダーを動かすたびに CountText
が再コンポーズされてしまいます。
今回、位置の変更に使っているModifier.offset
にはラムダ版と非ラムダ版があります。
// ラムダ版
fun Modifier.offset(offset: Density.() -> IntOffset): Modifier
// 非ラムダ版
fun Modifier.offset(x: Dp = 0.dp, y: Dp = 0.dp): Modifier
ラムダ版のModifier.offset
を使ってCountText
を書き換えると以下のようになります。
@Composable
fun CountText(countProvider: () -> Int, xOffsetProvider: () -> Int) {
SideEffect {Log.d("compose-log", "CountText")}
Text(
modifier = Modifier.offset { IntOffset(xOffsetProvider(), 0) },
text = "Count ${countProvider()}"
)
}
スライダーを動かしてもログが出力されなくなったのは、Modifier.offset
に渡されたラムダが Layout フェーズで参照されるためです。これにより、状態の読み取りが Layout フェーズまで遅延され、Composition フェーズがスキップされます。
値が頻繁に変更される場合には、ラムダを使用するModifierの方が適していることが多そうですね。
また、ラムダを渡すことでフェーズをスキップできる Modifier は他にも以下のようなものがあります。
おわりに
以上、状態の読み取りを遅延させる方法について紹介しました。
今回の方法が実際に効果を発揮するかどうかは、状況によって異なります。また、パフォーマンスの早すぎる最適化は徒労に終わってしまうどころか、保守コストを増加させてしまうこともあると思います。ですので、まずは基本的な対応に留めておき、問題が生じた際にはボトルネックとなっている箇所を特定して対応していくのが効率的だと思います。
今回紹介したような方法を記憶に留めておくと、必要な時にとれる選択肢が増えるかもしれません。
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