AIによる主観的感覚(クオリア)の翻訳・可視化
プロジェクト概要
Qualia Portalは、1枚の写真という「記録」に、AIの力で撮影者の主観的な感覚世界(クオリア)を掛け合わせることで、「記憶」のような「記録」、あるいは「記録」と「記憶」の間に存在する、全く新しい映像体験を創造するプロジェクトです。言葉では表現しきれない感情や感覚が息づく心象風景への入り口(ポータル)として、写真を再定義します。
対象ユーザーと課題
-
対象ユーザー:
写真に込められた言葉にならない想いや感覚を、より豊かに表現し、他者と共有したいと願う人。 -
課題:
写真は出来事を正確に「記録」しますが、その場の空気感や胸の高鳴りといった、その瞬間にだけ存在した主観的な「記憶」そのものを他者と共有することは、静止画だけでは困難です。この「記録」と「記憶」の断絶が、表現における一つの課題となっています。
ソリューションとアプローチ
本プロジェクトは、AIを「感覚を翻訳する新しい言語」として活用することで、この課題を解決します。「記録」である1枚の写真から、AIがそこに込められたであろう「記憶」としての主観的な感覚世界を解釈し、視覚と聴覚で再構築した映像を生成します。
言葉にできない感覚(クオリア)は無数に存在し、その可視化・翻訳のアプローチもまた無限に考えられます。そこで今回は、特定のクオリアを一つ定め、それを映像として表現するための一連の処理をプリセットとして実装するアプローチを採用しました。これにより、複雑な心象風景を具体的かつ再現性のある形で表現することを目指します。
特徴
-
クオリアの可視化という新概念
単なるリアルな動画生成ではなく、人が世界を主観的にどう捉えているかという「クオリア」の可視化に焦点を当てています。今回はその一例として、時間が極度に引き伸ばされ、一つの対象に意識が集中する感覚を 『時間の停滞と焦点』 というプリセットとして実装しました。 -
"軸のずれた"世界の再構築による心象表現
私たちの心象風景は、単一のイメージではなく、様々な感覚が混じり合った複雑なものです。そこで本プロジェクトでは、AIの能力を活かし、時間、空間、物理法則といった世界の「軸」を意図的にずらした複数の世界(例:無意識の鼓動、時間の粒子化、音の結晶化、色彩の滲出)を映像として生成します。これら一つ一つを、心象風景を構成するための 「要素」 として扱い、最終的にそれらを合成・再構築することで、人が無意識に感じている世界の歪みや、特定対象への強烈な集中といった、複雑な感覚を表現する独自のアプローチを採用しています。 -
AIを組み合わせた生成パイプライン
画像生成AI(Gemini 2.5 Flash Image (Nano Banana))でコンセプトとなる静止画を定義し、それをキーフレームとして動画生成AI(Veo3)でそれぞれに固有の時間と音を持つ「要素」としての映像素材を生成。最終的にそれらを合成するというパイプラインを構築し、映像表現を実現します。
システムアーキテクチャ図
全体システム構成
データフロー(画像アップロード → AI処理フロー)
今後の発展可能性
-
よりパーソナライズされたクオリアの映像化
将来的には、ユーザーからのキーワード入力、心拍数などの身体情報、撮影場所や時間などの多様な情報をインプットとすることで、より個人の感覚に寄り添った映像を生成することを目指します。プロンプトの自動生成や、情報収集・生成を役割分担するAIエージェントの連携により、個別最適化された体験の実現も考えられます。 -
動的な映像生成への展開
現在は固定のプリセットですが、様々なクオリアを認知科学や心理学をはじめとした様々な観点から要素分解し、それぞれに対応する映像生成・合成処理をライブラリとして多数用意することで、インプットに応じて動的に処理を組み合わせることも考えられます。これにより、さらに多様で繊細な心象風景の表現が可能になります。
思い
AIが虚構を無数に生成しうるこれからの世界で、そのポジティブな可能性を探求したいと考えました。本プロジェクトは、AIを「言葉にできない感覚を翻訳する言語」と捉え直し、人がより深く共感し合うための新しいコミュニケーションに活かす試みです。AIが生み出す「虚構」が、現実の人間関係をより豊かにする触媒となる、そんな未来への一歩を目指しています。
Discussion