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スプリントで回すデータ基盤運用

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はじめに:なぜデータチームにスクラムを導入したのか?

データ基盤チームというと、「問い合わせベースで動く」「属人化しがち」「日々の改善が後回しになる」──そんなイメージを持たれることが少なくありません。

株式会社イノベーションのデータ基盤チームでは、こうした課題を乗り越え、継続的に価値を届ける組織へ進化するために、スクラム開発を導入しました。

スクラム開発の基本的な考え方については、チームメンバーの横山さんがこちらの記事にまとめているので、あわせてご覧ください 👉 note記事リンク

本記事では、運用体制の全体像、スクラム導入によって得られたメリット、直面した課題とその対応策、そして今後の展望について紹介します。


チーム構成とスクラム体制

チームは3〜4名で、主な役割は以下のとおり

  • データ連携・変換処理(BigQuery、Cloud Composer、Dataform)
  • データマートの整備
  • 可視化・レポート配信(Qlik、Google スプレッドシート)

スクラム運営概要

  • スプリント期間:2週間
  • 定例サイクル
    • 月曜:スプリントプランニング
    • 金曜:レビュー+ふりかえり
    • 毎日:デイリースクラム(10分)

スプリントで扱うタスクの種類

分類 具体例 備考
基盤整備 新規Dataformモデル作成、DAG改善、テスト追加 技術的負債・構造改善系
データ要求対応 KPI追加、集計定義変更 事業部からの依頼対応
品質向上 assertion・nullチェック追加、メタデータ整備 モデルの健全性向上
ドキュメント整備 README記述、定義一覧、活用ガイド 利用者支援、属人性の解消

割り込み対応対策として、全体の20〜30%のバッファを確保しています。
さらに、属人性の解消のためにペアプロ(ペア開発)を積極的に組み込み、ナレッジの共有を促進しています。


やってよかったこと

1. 振り返りが文化として定着

KPT形式で毎週ふりかえることで、「改善ポイントを自然に言い合える」チームに進化しました。

ふりかえりの質を高めるための取り組みとしては、日々の小さな気づきや良かったことを思い出しやすくする工夫も今後の課題です。

2. 技術的負債の返済が計画的に進むように

改善タスクをあらかじめバックログに積んでおき、スプリントごとに少しずつ着手。

中長期の改善もスプリントに取り込めるようになりました。

3. ペアプロ文化で設計認識のズレが減少

スクラム導入初期は、PRレビュー中心で設計や実装の知識共有を行っていましたが、それだけでは書いた人しかわからないタスクが残りやすいという課題がありました。

そこで現在では、1スプリントに一人1つ、ペアプロしたいタスクを選び、そこにペアプロのサブタスクを設定するという運用を取り入れています。

  • 運用ルールのポイント
    • 毎週のスプリントプランニングで、各自が1つ「ペアプロしたいタスク」を選ぶ
    • 該当タスクには「ペアプロで実施する」というサブタスクを追加
    • 担当以外のチームメンバーと1hのペアプロ時間を確保
    • なるべく異なる組み合わせで回すことでナレッジの拡散効果を狙う

4. チーム全体の可視性と連携が向上

チケットベースでタスクを管理し、毎日のデイリーで進捗を共有することで、「誰が何をしているか」が明確に。スプリントレビューでは他チームからのフィードバックも得られるようになりました。

さらに、スプリントにあらかじめ20〜30%のバッファを確保しておくことで、急な差し込み依頼や緊急対応にも柔軟に対応可能に。

この運用により、「本来やるべきタスクが後回しになる」リスクを軽減しつつ、価値提供のスピードも維持できています。


課題とその対策

課題 どう乗り越えたか
タスクの見積もり精度がブレる タスクは1日=2pt換算で見積もり、プランニングポーカーを活用してチーム内の認識をすり合わせ。見積もり精度よりも、会話を通じた認識の統一を重視。
割り込み対応でスプリントが崩れる スプリントに20〜30%のバッファを設けて、緊急対応やイレギュラーなタスクにも柔軟に対応可能な体制に。
タスクが作業ベースになり、価値が見えづらくなることがある タスクは「プロジェクト」と明確に紐づけて管理。さらに、スプリントゴールを「何の価値を届けるか?」という視点で定義し、プロダクト目線での成果志向をチーム全体で意識。
属人化のリスクが残る 1スプリントに一人1タスク、ペアプロを前提としたサブタスクを設定する」という運用を導入。知識の偏りを減らし、チームでのナレッジ保有を強化。

今後の展望

1. ふりかえりのナレッジ蓄積と活用

現在はKPTを都度メモで記録していますが、以下のような仕組み化を検討しています

  • Slackでの気づき共有用チャンネルを設け、日々の小さな学びをストック
  • 定期的にふりかえり内容を振り返って、「再発傾向」や「成長ポイント」をチームで分析
  • 蓄積されたKPTをNotionなどに整理し、新メンバーのオンボーディング資料にも活用

「ふりかえりのメタふりかえり」でチームの継続的成長を支援

2. スプリントゴールの価値定義の深化

「何の価値を届けるか?」を起点にしたスプリントゴール設計を、より解像度高く実践していきます。

チームで「誰のために」「何を実現するのか」という視点を持ち、プロダクト思考のスクラムを実現します。

3. マルチスキル化の促進

属人性を減らすだけでなく、チームとして柔軟性を高めるために以下を検討

  • スキルマップを用いた自己/相互評価と成長支援
  • タスクの難易度に応じたメンターペア設計
  • 週ごとに「プチローテーション」して違う領域に触れる機会を創出

「誰でも最低限対応できる」状態から「どのタスクでも複数人が対応できる」状態へ

4. プロダクトバックログの整備と連携強化

これまではスプリント単位での改善を重視していましたが、中長期視点でのロードマップ管理にも取り組みます

  • 月次でのテーマ設定
  • 関連部署と四半期レビューを実施し、期待される価値のすり合わせ
  • 上位のプロダクトバックログとの整合性をとることで、会社全体の優先順位と同期

5. スクラムメトリクスの可視化と活用

継続的改善の軸として、以下のようなスクラム指標をトラッキング予定

  • ベロシティ推移
  • スプリント達成率
  • ペアプロ実施率

定量的なデータをもとに、「なんとなくうまくいっている」から「意図して改善を回している」チームへ


おわりに:スクラムは「文化」として育てるもの

スクラムは単なるタスク管理の手法ではなく、継続的に改善し、価値を届ける文化の礎です。

データ基盤は“作って終わり”ではなく、“使われ続けてこそ価値がある”もの。だからこそ、日々のふりかえりやチーム内連携、そしてペアプロやスプリントレビューといった活動が、未来の信頼される基盤づくりに繋がっていくと信じています。🦍

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