Google がサードパーティクッキー廃止を撤回したので経緯をまとめてみた
2024年7月22日、GoogleがChromeにおけるサードパーティクッキーの廃止を撤回しました。
「そもそもなぜGoogleはサードパーティクッキーの廃止を決定したのか?」
「そしてなぜその廃止を撤回することになったのか?」
といったことが気になったので、ことの経緯をまとめてみました。
前提
経緯を説明する前に前提知識の説明をします。これらの概念についてご存知の方は「なぜGoogleはChromeからサードパーティクッキーを廃止することにしたのか」まで読み飛ばしてください。
Cookieとは
Cookie とはWebサイトに訪れたユーザーの情報を、一時的に保存しておくための仕組み(ファイル)です。
クッキーを用いることで、ページ遷移したり、時間を空けて再びWebサイトに訪れた際(2回目以降のアクセス時)に、同一のユーザーかどうか(正確には同一のブラウザかどうか)の判別を可能にします。
例えば、Amazonや楽天といったECサイトで、買い物かごに入れた商品が再びログインした際に残っている、またログイン時にIDの入力が不要になることがあると思います。これは、Cookieの働きによるものです。
ファーストパーティクッキーとサードパーティクッキー
Cookieには大きく分けて2つの種類があります。それが「ファーストパーティークッキー(1st Party Cookie)」と「サードパーティクッキー(3rd party cookie)」です。
ファーストパーティクッキーは、訪問しているWebサイトのドメイン(ホスト)から直接発行されるクッキーのことです。ECサイトのログイン情報や閲覧履歴・カート情報などの保存は、このファーストパーティクッキーのデータを用いて行われます。
https://successjp.salesforce.com/article/NAI-000777 から引用
サードパーティクッキーは訪問しているWebサイトとは異なるドメイン(ホスト)から発行されるクッキーのことです。
一定期間ブラウザに記録されユーザーの判別が可能となり、主に広告の効果測定・リターゲティング広告・アフィリエイトなどに活用されます。
https://successjp.salesforce.com/article/NAI-000777 から引用
例えば、あるECサイトで商品などを検索した後、別のサイトの広告枠に検索した商品の広告が表示されるのはこのサードパーティクッキーを活用したリターゲティング広告の機能によるものです。
なぜGoogleはChromeからサードパーティクッキーを廃止することにしたのか
リターゲティング広告はCV率が高くマーケティングおいて重宝されていました。
ではなぜGoogleはサードパーティクッキーを廃止することにしたのでしょうか。
各規制当局によるサードパーティクッキーへの懸念
リターゲティング広告は便利な一方、過去に自分が行った行動を監視されているようで気味が悪いという意見もありました。
それを受けて各国の規制当局がサードパーティクッキーへの規制を開始します。
有名なものがEUによるGDPRです。日本では改正個人情報保護によって規制されています。
これらの規制により、広告配信の最適化などを主な目的とするサードパーティークッキーを使用する際には、基本的には同意が必要となりました。
※ファーストパーティークッキーは、主にユーザーの利便性向上等を目的としているとして同意取得が義務付けられません
Webサイトにアクセスするとよく、「すべてのCookieを受け入れますか?」というポップアップが出てくると思います。
あれは上記の規制により、サードパーティクッキーの使用にユーザーの同意が必要になったため実装されたものです。
ユーザーからすれば「Cookieってなに?」と疑問や不安も感じるでしょうし、UXとして不便ですよね。
AppleがSafariでサードパーティクッキーを廃止
上記のような各国の規制が進んでいく過程で、AppleがSafariからサードパーティクッキーを廃止することを決定しました。
Appleは広告で稼ぐ企業ではないため、Googleと違いブラウザからサードパーティクッキーを廃止することにためらいはありませんでした。
Safariに対し、ドメインを横断するトラッキングを防止する機能である「ITP(Intelligent Tracking Prevention)」を搭載。
2017年から徐々に規制を強めていましたが、2020年3月のアップデートによりサードパーティクッキーをデフォルトで全面的にブロックしました。
同じブラウザを開発する企業として、Appleに習い、GoogleもChromeのサードパーティクッキーに対し何かしらの対応を迫られることになりました。
プライバシーサンドボックスの開発
GoogleはAppleと違いWEB広告で稼ぐ会社です。
ブラウザに表示する広告の効果が低下すれば、広告枠を顧客に売るのも難しくなります。
Safariのようにためらいもなくブラウザからサードパーティクッキーを廃止することはできません。
そこでGoogleが新たに発表したのが「プライバシー・サンドボックス」というツールでした。
プライバシー・サンドボックスは、これまでターゲティング広告を配信する際、個人を特定していた形から個人を特定しない、興味関心データをベースに分けられたグループ単位で配信される形となります。
配信対象が”個人”から”グループ”となることで精度が下がり、広告の費用対効果も低下するのではないかと危惧があったものの、「サードパーティクッキーの代替案であるプライバシー・サンドボックスを完成させ、2023年までにサードパーティクッキーを段階的に廃止する」という決定をGoogleは下したのです。
なぜサードパーティクッキーの廃止を撤回することになったのか
満を持してサードパーティクッキーの廃止を決定したGoogleですが廃止に難航します。
その原因の一つとなるのが、英国の競争・市場庁(CMA)の反発による、「プライバシー・サンドボックス」の開発の遅れです。
サードパーティクッキーはWEBの世界に開かれた技術であり、一企業が独占的に開発や仕様把握しているものではありません。
一方プライバシー・サンドボックスはGoogleが開発するツールであるため、「デジタル広告の競争を弱め、自社の市場支配力を強固にする恐れがある」という考えのもと、グーグルが代替手段で自社に有利な仕組みを取り入れようとしているのではないかと懸念を表明したのです。
Googleはこれら規制当局や各広告業界との調整に苦戦し、2023年に予定していたものの延期に延期を重ねました。そして最終的に2024年7月22日、サードパーティクッキー廃止を断念し、撤回するこを発表したのです。
EUのGDPRなどによりサードパーティクッキーを規制され、その代替案として提示したものが不正競争を疑われ、Googleはなんとも不憫だなと感じると共に、WEB広告ビジネスの限界を感じます。
今後サードパーティクッキーはどうなるのか
本来GoogleがChromeからサードパーティクッキーを廃止することができれば、事実上サードパーティクッキーの終焉といっても良い状態になるはずでした。
ですがChromeのサードパーティクッキーは今後も残り続けることになったので、民間企業によるサードパーティクッキーの廃止は失敗し、廃止するとすれば法律レベルで禁止することが必要になってくると思います。
とはいえそのような法律は広告業界から猛烈な反発を受けることも間違いないでしょう。
そしてそこまでして廃止するほど、サードパーティクッキーが凶悪なものであるというわけでも無いように思います。
Googleはプライバシー・サンドボックスの開発は継続すると発表しているので、プライバシー・サンドボックスが完成した際にまた新しい動きがあるかもしれません。
今後の動向にも注目したいと思います。
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