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【読書メモ】ダニエル・E・リーバーマン『運動の神話』上

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このスクラップの目次

  1. 読みたいと思った理由
  2. 目次を読んで
  3. エピローグ/著者・訳者について
  4. 人は休むようにできているのか、それとも走るようにできているのか
  5. 身体的に不活発な状態ー怠けることの大切さ
  6. 座ること、それは新たな喫煙か?
  7. 睡眠ーなぜストレスは休息を妨げるのか
  8. スピードーウサギでもなくカメでもなく
  9. パワー ー ムキムキからガリガリまで
  10. 戦いとスポーツ ー 牙からサッカーへ
  11. 感想など
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https://www.amazon.co.jp/-/en/ダニエル-E-リーバーマン-ebook/dp/B0BDF9QQX8/ref=sr_1_1?keywords=ダンエル・+e+・リーバーマン‘運動の神話’上&qid=1672387324&sr=8-1

読みたいと思った理由

HONZで「2022年 今年の一冊」を読んでいて、科学に触れたくなった。本当はカルロ・ロヴェッリの『科学とは何か』を読みたかったが、近くの本屋になかったので代わりにこれを買ってきた。

運動については大学受験生のときに健康オタクになって蓄えた知識で問題なく生活できているつもりだが、丁度いいここらで知識をアップデートしよう。

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目次を読んで

パート1「身体的に不活発な状態」は全体的に面白そう。
中身を見た感じ文字がぎっしり詰まっていて読みにくそうなので、前から順番に読んでいって、のめり込めたらパート2も読もうか。

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エピローグ/著者・訳者について

著者のリーバーマンはハーバードの古人類学者。未開のケニア人たちがトレッドミルを上手に歩けないことから、「私たちは運動するように進化してきたわけではない」というインサイトを展開する。

本書の前提は、進化論的・人類学的な視点が、「運動のパラドックス」すなわち「私達は運動するようには進化してこなかったはずなのに、運動は、なぜ、どのようにして、これほど健康に役立つのか」という疑問の理解に貢献するというものだ。

健康に関する現代の研究の多くは、例えば「運動習慣と収入の相関」などを明らかにする疫学的なものだ。これらは「運動がどれくらい良いことか」に示唆を与える一方で、「なぜ運動が良いことなのか」という問いには答えることができない。

これに対して著者は進化論的・人類学的なアプローチを用いることで、現代の「運動の神話」についての再検証を試みる。

本書のマントラは、運動の生物学は進化に照らしてみなければ筋が通らず、行動としての運動は人類学を通してみなければ筋が通らないというものだ。

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訳者の中里京子さんは大ベテランでいらっしゃいますね。科学トピックにも強そう。

1955年生れ。翻訳家。主な訳書に『ハチはなぜ大量死したのか』『不死細胞ヒーラ』『依存症ビジネス』『ファルマゲドン』『食べられないために』『限界を突破する5つのセオリー』『描かれた病』『ピアノ・レッスン』など。

https://www.shinchosha.co.jp/writer/4663/

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1. 人は休むようにできているのか、それとも走るようにできているのか

アイアンマンレースとララヒッパリを対比した導入は見事だった。先進国の(物好きな)人々はアイアンマンレースに参加するために激しいトレーニングを行うが、霊的な儀式として100キロ以上ボールを追いかけて走るタラウマラ族の人々はトレーニングの類を一切行わない。

トレーニングという概念がどれほど「先進的」であるのかが、タラウマラ族の老人エルネストへのインタビューから見て取れる。

だが、どうやってトレーニングしているのかと訪ねたとき、彼は質問の意味が理解できなかった。私を始めとするアメリカ人は、健康を維持し、レースに備えるために週に何度もランニングをするのだと説明すると、彼は不審な顔つきをした。更に質問を重ねると、無駄なランニングなど馬鹿げていると思っていることを、かなりはっきり示した。エルネストは信じられないという面持ちで、「必要もないのに、なぜ走ろうなどと思うのか」と尋ねてきたのだ。

未開の人類とされる彼らが特別なトレーニングもなしに高強度の運動をこなせる理由は(もちろん彼らもアイアンマンレースの参加者と同じように肉体的・精神的な苦痛と戦いながら行う)、彼らが日々勤勉に肉体労働を行っているからだ。

では、そんな彼らの運動量と、現代の私達の運動量はどれくらい異なるのか?著者はPALという指標を用いて説明する。

PALは、24時間以内に消費するエネルギー量を、ベッドから一歩も出なかった場合に身体維持に消費するエネルギー量で割った比率だ。この比率は、体格差の影響を受けないという利点がある。

ばらつきはあるものの、狩猟採集民のPALは男性平均1.9、女性平均1.8で、自給自足農民のPAL(男性平均2.1、女性平均1.9)をわずかに下回るぐらいだ。この値は、先進国の工場労働者や農民のPAL(1.8)とほぼ同じで、先進国のデスクワークの人々のPAL(1.6)より約15%高い。

個々にもう一つ、これらの数値の驚くべき解釈方法がある。すなわち、ほとんど運動をしない一般の人でも、1日1~2時間歩くだけで、狩猟採集民と同じくらいの身体活動ができることになるのだ。

運動が医療的・商業的・産業的に「神話」となっていった理由は、技術の進歩のおかげで人々が省エネで活動できるようになり、そのまま生活していると太ってしまうからだ。

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2. 身体的に不活発な状態ー怠けることの大切さ

私の実家の猫や動物園のゴリラがいつ見ても寝転んでいるのは「人間のせいで歪な生活を送っているからだ」とばかり思っていたが、実はそうでもないらしい。野生のチンパンジーは一日の大半を食事か消化に費やし、起きている時間の約半分は昼寝や毛づくろいなどに使っているという。「平均的な一日にチンパンジーが登る標高は約100メートル、歩く距離は3~5キロほどでしかなく」、私たちの親戚は生来の怠け者だと言える。

エクササイズをせずに怠けている間にも、私たちの体は活発に活動している。「生き続けるために欠かせない基本プロセスの維持に使われるエネルギー(=基礎代謝量)」は1500カロリーほど(一般的なアメリカ人男性の場合?)で、これだけでも相当な量のエネルギーが消費されていることになる。

これに種々の活動が加わってくるので、1日の総エネルギー消費量(DEE)は基礎代謝量の1.5倍ほどになるという。このDEEの計測方法がちょっと面白かった。

DEE測定のために、ガスマスクを手にした科学者に一日中付きまとわれる必要はもうなくなった。その代わりに私たちは今、あなたの尿を調べる。より正確に言うと、希少な水素原子(重水素)と酸素原子(重酸素)を決められた量含む、非常に高価で無害な水を飲んでもらい、その後数日間に渡って尿を採取させてもらうのだ。不気味な手品のように聞こえるかもしれないが、尿中における重原子の減少速度を測定すれば、発汗、排尿、呼吸によって水素と酸素が体外に排出される速度が計算できる。水素は水分の形でのみ体外に排出されるが、酸素は水分と二酸化炭素の両方の形で体外に排出されるため、尿中におけるこの2つの原子の濃度の違いを調べれば、呼吸によってどれだけの二酸化炭素が発生したか、つまりどれだけのエネルギーが使われたかが正確に計算できるのだ。

しかし本当に、私たちの体はそれほどのエネルギーを消費しなくてはならないのか?もっと節約して心臓を動かしたり、あるいはもっと節約して髪や爪を伸ばすのをやめたりはしないのか?

この問いに答える実験が、WW2の最中にともすれば非人道的な形で行われている。ミネソタ飢餓実験だ。

最初の12週間、この実験はさほど過酷なものではなかった。なぜかと言うと、初期の調整段階で被験者全員に1日3200キロカロリーの贅沢な食事を与えて、全員の体調を均一にならしたからだ。被験者たちはまた、週に22マイルのウォーキングと、洗濯や薪割りと言った典型的な肉体労働を15時間行うように求められた。(中略)そして、1954年2月12日、食事の量が突如1日1570キロカロリーに半減されたのである。それと同じくらい重要だったのは、毎週22マイルのウォーキングを含めて、それまでと同じ運動量を維持しなければならなかったことだった。

研究者らは、「身長、体重、体脂肪量、安静時の脈拍、赤血球数、体力、聴力、心理状態、はては精子の数まで、被験者に関するありとあらゆるデータを測定した」。食事制限中、被験者らは空腹に苛まれ、体重を落としたり無気力になったりした。

そして彼らの体の中ではもっと驚くべきことが起こっていた。通常時には平均1590キロカロリーの基礎代謝が、飢餓時には平均964キロカロリーにまで減少していたのだ。その減少幅は約40%にのぼる。

飢餓状態にいた男性の安静時代謝率が劇的に低下したことから得られる重要な教訓は、人間の安静時代謝は柔軟であるということだ。そして最も重要なのは、安静時の代謝とは、費やさなければならない量ではなく、体が生命維持のために費やすことを選択した量である、という事実だ。

調査によれば、体は単純にカロリーを節約していたわけではない。

脳などの「必須」期間を優先し、生殖のような「犠牲にできる」機能は手放し、体温、活動能力、体力の維持などの「削減可能な」機能を大幅に縮小していたのだ。

普段、私たちの体が「必須ではない機能」に多量のエネルギーを割いているのはなぜか?それは「それが繁殖を最大化するから」と考えるのが進化人類学では自然とされている。みんな大好きチャールズ・ダーウィンだ。

人間の体のエネルギー配分先は、大きく次の5つに分類されるー 成長 / 維持 / 蓄積 / 活動 / 繁殖
成長期には繁殖にエネルギーを回す必要はないし、活動しない日に余ったエネルギーは蓄積される。そんな風に、体は柔軟にエネルギー配分を変化させている。繰り返しになるがその目的関数は繁殖回数(または成功率)だ。

トレードオフの中で限られたエネルギーを配分していると考えると、野生のチンパンジーのように「怠けて」エネルギーを節約するのは戦略的にも見える。実際PALで見ると、大部分の野生動物は2.0~4.0であるのに対し、ヒトやチンパンジーはこの範囲の下位に属している。

一方でチンパンジーと狩猟採集民を比較すると、後者のほうがずっと活動的な生活をしているという。ヒトがチンパンジーに似た類人猿から進化したのだとしたら、どうしてわざわざ活発的になったのだろうか?それは一言で言うと「繁殖戦略の違い」だ。人はチンパンジーよりも多くのエネルギーを必要とする生活様式を選択した代わりに、チンパンジーの2倍の速さで繁殖できるようになった。追加のエネルギーを獲得する努力のおかげで、より大きな脳や多くの脂肪も手に入れた。ただし、カロリー不足になるリスクはチンパンジーよりもずっと大きいのだが。

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「脳はやたらとエネルギーを消費する」とか、「思考はエネルギーコストが高い」みたいな話を『サピエンス全史』や『生命科学的思考』で読んだな

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3. 座ること、それは新たな喫煙か?

エネルギーを節約したいのならば、座ることは非常に自然に見える。しかしデスクワークが増えた現代ではむしろ人々は「いかに座らないでいられるか」にあくせくしている。長時間座っていることが健康リスクをもたらすと(疫学的な研究で)盛んに示唆されているからだ。

最も根本的な疑問は、もし人間が不必要な身体活動を避けるように進化してきたのなら、なぜ座ることがこれほど致命的なのか、である。

まず、私たちは日頃どれくらい座っているのだろうか。

私たちが座って過ごす時間は、かつての世代より長くなっていることは確かだ。1965年から2009年の間に、アメリカ人が座って過ごす時間は43%増加し、イギリス人や他の脱工業化社会の人々では、更にそれよりわずかに多く増加したという証拠がある。私は、祖父母が私と同じ年齢だった頃に比べて、1日2~3時間多く座って過ごしているわけだ。

ただ、座っている時間=活動していない時間と考えるのはやや早計だ。立ちながらぼーっとすることもあれば、座りながらヴァイオリンを演奏することもあるだろう。そこで、心拍数をベースに1日の活動度合いを観察し、非/工業化社会の人々を比較してみる。

...21世紀のアメリカ人が中強度のレベルまで心拍数を上げる割合は、非工業化社会の人々の半分から1/10でしかない

確かに、工業化社会に生きる私たちはずいぶんと怠けているらしい。

座ることの何がそんなにいけないのか?著者が最も懸念する影響は、長時間座り続けることにより体に炎症が起きることだ。

デンマークの研究者たちが行った実験では気がかりな結果が出た。健康な若い男性たちにお金を払って、二週間に渡り、心のカウチポテトさながら座り続け、1日に1500歩以上歩かないようにしてもらったのだ。その結果(中略)、内臓脂肪はわずか2週間に7%も増えてしまっていた。気がかりなことに、これらの被検者は脂肪が増えるに連れ、食後に増加した血糖を吸収する能力の低下などの、慢性炎症の典型的な徴候を示し始めていた。

ただしこの実験においては、座り続けることは炎症の間接的な理由でしか無い。より直接的なものとして、血液中の脂肪と糖の濃度コントロールがある。

座るのをちょっと中断して、しゃがんだり、膝をついたりして筋肉を使うと言った軽い断続的な活動を行うと、長時間何もせずに座っている場合より、血液中の脂肪と糖の濃度を下げることができるのだ。脂肪と糖は必要不可欠な燃料だが、血中濃度が高すぎると炎症を引き起こす...

困った。仕事柄、座り続けることは避けられない。スタンディングデスクを買うか?いや、ただ突っ立っていても動いていないんじゃしょうがないだろう。

こんな私に朗報だったのは、貧乏ゆすり程度の運動でも効果があるということだ。

...落ち着きなく体を動かした人たちは、じっと座っていた人たちに比べて、1日あたり100~800キロカロリーも多く消費していた。他の研究でも、座ってもぞもぞ体を動かすだけで、一時間に20キロカロリーも消費されること、そしてお父着なく動く腕や足には有益なレベルの血流が促進されることが判明した。さらにある研究では、落ち着きなく体を動かす人の死亡率は、他の運動、喫煙、食事習慣、飲酒などの要因を補正したあとで、30%も低いという結果が出ている。

また、「デスクワークが悪」という神話も眉唾なところがあるらしい。

...12時間以上座っている人は、座っていない人に比べて死亡率が高い傾向にあることは多くの疫学調査で明らかになっているものの、仕事で座る時間(職業的座位行動)が長い人の死亡率が高いことを示す前向きな研究はまだ行われていない

反面、余暇時間における座り方は、最もよく死亡率を予測する指標となる。それが示唆することは、社会経済地位及び朝・夕・週末の運動習慣は、平日に職場で座っている時間の長さよりも、健康に重要な影響を与えるということだ。

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本筋と関係ないけど好きなところ

英語に相当する物がない便利なドイツ語に「ジッツフライッシュ(Sitzfleisch)」という単語がある。直訳すると「お尻の肉」だが、比喩的には、なにか困難なことを成し遂げるために長時間我慢して座り続ける能力のことを指す。それが意味するところは、根気と忍耐力だ。

単なる統計的な関連性だけでなく、そのメカニズムが知りたい。

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4. 睡眠ーなぜストレスは休息を妨げるのか

睡眠の効用、睡眠のパターン、自律神経系、「8時間眠れ」は神話など、他でもよく見るような話が多かった。

面白かったのは、自分が当たり前だと思っている「暗くて静かな部屋で、柔らかいベッドの上で眠る」のは文化的に構築された睡眠だということ。

...現代人が暗くて静かな環境で眠ることを好むのは、文化により定着した週間だ。静かで暗い場所でないと眠れないという人は、進化の麺から見て異常なのである。

睡眠の質に関しては、章末に載ってる「これさえクリアすればOK」的な問答集が全てだなと思った。

自分の睡眠に満足しているか?
一日中、居眠りせずに起きているか?
夜中の2時から4時の間は眠っているか?
夜間に目が覚める時間は30分以下か?
6時間から8時間の睡眠時間が取れているか?

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アラームをかけずに4~5日眠ったときの安定睡眠時間が適正の睡眠時間って聞いたことある。

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5. スピードーウサギでもなくカメでもなく

2足歩行の我々は4足歩行のほとんどの動物よりも走るのが構造的に遅い。ストライドが小さいから。
速く走れない代わりに、人間は比較的に持久力のある動物だ。速く走るよりもATP(アデノシン三リン酸)の消費量が少なく済み、枯渇までの時間が長いから。

運動しているときのエネルギー供給の仕組みが面白い。

  • 筋肉細胞に蓄えられているATPは、数歩歩くにもやっとの量しかない。人は1時間の歩行で13.6kgのATPを使い、ふだんの1日には全体重を超えるATPが必要になるため、ストックするのは得策ではないから。
  • 最初のATPが枯渇する前に、クレアチンリン酸というATPに似た分子が使用される。クレアチンリン酸の貯蔵量は10秒の疾走で60%、30秒で100%枯渇する。
  • これらの「時間稼ぎ」の間に、糖の分解によるATPの補充が始まる。その供給速度は30秒の疾走中にエネルギーのほぼ半分を補充できるほど素早い。
  • しかし、解糖すると糖分子の使われなかった半分が乳酸+水素イオンに変換され、水素イオンが筋肉細胞を酸性に変えるため、疲労や痛み、機能低下が生じる。「その結果、スプリンターは30秒ほどで足が焼けるような感覚に襲われることになる。」
  • 解糖と並行して、ミトコンドリアで酸素を使ってエネルギーが生産される。酸素を使って糖分子一個を燃焼させると、解糖する場合の18倍のATPを生産できる。しかし速度が大幅に遅い。
  • ミトコンドリアは脂肪もタンパク質も燃焼させることができる。安静時、体はエネルギーの約70%を脂肪燃焼から得るが、この工程は非常にゆっくりだ。速く走れば走るほど糖の燃焼が必要になる。
  • したがって、長距離においては最大酸素摂取量(酸素の消費能力)が大きく影響し、これは人によって大きく異なる

あと遅筋と速筋の比率は遺伝がかなり影響する。遺伝的に有利な形質を訓練するほうが伸びるに決まってるので、子育てするときは判断材料として予め遺伝子を調査してもらうのも良いかもしれない(もちろん何をやるかは当人の自由だが)。そういった意味で遺伝子の本も読んでみたい。

章末ではHIITが激推しされていた。

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人間の脚と動物の脚の比較については『ソッカの解剖学ノート』によく書いてある。ところどころ抜粋。

  • 視野を確保し腕を自由にするために選択された直立二足歩行は、デメリットが多い
    • バランスがむずい
    • 4足に比べて一本の足が支える荷重が大体2倍
    • 移動速度が遅い
    • 天敵に見つかりやすい
  • なのでいろんな工夫がされている
    • まず接触面積を広くする
    • 扁平足だと地面の凸凹の衝撃を直で受けたり走りにくかったりするので、移動時の接地面積を少なくできるように足を縦にアーチ状にする
    • 直立時のバランスが取りやすいように、足を外側が平べったい横のアーチ状にする
    • 地面をつかめるように足先を分ける(指)

また、人間は体毛が少なくて感染が発達しており、耐熱を効率的に冷やすことができるので、持久力があるとも。

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6. パワー ー ムキムキからガリガリまで

ボディビルダーのような体つきは、狩猟採集民から見たらとても奇妙だろう。あんな体つきはジムのような設備がなければなし得ないし、そもそも俊敏さが失われるデメリットが有る。

「狩猟採集民は筋骨隆々だ」というステレオタイプがあるが、それはイメージに過ぎない。実際には平均的な現代人と変わらない体つきであるどころか、低身長・低体重の傾向にあったと推測されている。ただ彼らが日頃からよく肉体活動をしていることは確かで、肉体の老化度合いは現代人よりずっと遅いらしい。

ちなみにチンパンジーは成人男性よりも30%力が強く、ネアンデルタール人は現代人よりもずっと筋肉質であるらしい。

筋肉は加齢とともに減少するが、これは定期的な(そこまで強くはない)筋力トレーニングでかなり予防できるようだ。

章末に、この本の主題の一つである「どれくらい運動すればいいのか」についての文章があった。

専門家パネルによる最新のエビデンスによると、私の場合、一週間毎日行う有酸素運動に加えて、週に二回、8~10種類の抵抗運動をそれぞれ10~12回繰り返して行うのが最適だという。そして、65歳に達したら、ウェイトトレーニングの反復回数を10~15回に増やすように推奨している。

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7. 戦いとスポーツ ー 牙からサッカーへ

ヒトは類人猿よりも暴力を振るう頻度が遥かに少ないため、「私たちは腕力と頭脳を交換した」と信じられている。だがヒトは戦うことを完全にやめたわけではない。今でも狩りをする人間はいるし、戦闘の変形であるスポーツは相変わらず盛んに行われている。

そもそも人はどのくらい暴力的なのだろうか?リチャード・ランガムは攻撃性を「反応的攻撃性」と「能動的攻撃性」の2つに分類した。

この違いを説明するために、今、私があなたの手から、この本を乱暴に奪い取ったとしよう。あなたは憤慨して大声を上げ、本を取り返そうとするかもしれないが、おそらく私を攻撃しようとはしないだろう。あなたの脳は、反応的攻撃性に基づく行動を即座に抑制しようとするからだ。だが、もしあなたがチンパンジーだったら、私の盗みに対して即座に、かつて加減せずに、暴力で応酬するだろう。

要するに、ヒトは能動的攻撃性のほうが高く、類人猿(というより動物?)は反応的攻撃性が高い。

人の暴力性については、「人間は自然状態で暴力的である」というホッブズ的な見方と、「道徳的な行動を堕落させる文化的な態度や環境によって人は暴力的になる」というルソー的な見方がある。「攻撃性の低下と人類の協調性は一体となって進んできた」というダーウィンが提唱した(ルソー的な)考えは長年人気を博したが、相次ぐ世界大戦を経て人々はよりホッブズ的な考えを持つようになった。今でも決着はつかない。

古人類学的にこの問題を論じるときは、「性的二型」と呼ばれる体格の違いに着目する。すなわち、メスよりもオスの体が大きければオス同士の争いが多かっただろうと、自然淘汰を前提に逆算する考え方だ。アウストラロピテクスのオス・メスの体格差は約1.5倍だったのに対し、ホモ・エレクトゥスのそれは1.2倍程度に収まるので、ホモ属は比較的穏やかであったと考えられている。

戦いが武器とともに行われると考えたとき、投擲能力に着目するのも面白い。狩猟採集民は槍のような武器を投げることで戦っていたため、投擲のための機能が発達していた。今の人類もチンパンジーよりよほどオーバースローが上手い。投擲能力もホモ・エレクトゥスから見られる特徴のようだ。性的二型の分析と照らし合わせると、武器での戦いは主に狩猟で行われていたのかもしれない。武器を用いて計画的に狩猟することは明らかに「能動的攻撃性」である。

また、偶発的な遊びと違って厳格なルールに則って行われるスポーツは、反応的攻撃性を抑制するのに一役買っているだろうと著者は主張する。

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感想など

  • 人類学的な見方はだいぶ興味がそそられた。下巻や他の本も読んでみたい。
  • 遺伝子、ホルモン関連の話も興味ある。基礎知識を仕入れたい。
  • 自分もプリミティブで素朴なものが正しいと考えがちだが、それが本当にそうなのかはよくわからない
  • 表紙が好き
このスクラップは2023/01/02にクローズされました