EDTAによるキレート滴定

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EDTA
キレート滴定
指示薬

【EDTA(エチレンジアミン四酢酸, Ethylenediaminetetraacetic acid)】

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■ 1. 定義

  • 分子式:C₁₀H₁₆N₂O₈
  • アミノ基(−NH₂)とカルボキシル基(−COOH)を持つ多座配位子(hexadentate ligand)。
  • 金属イオンに強く結合して錯体を形成する性質を持つ。

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■ 2. 錯体形成の仕組み

  • EDTAは 6 つの配位部位(2つの窒素、4つの酸素)を持ち、金属イオンを「爪のように」挟み込む(キレート効果)。
  • 錯体は非常に安定で、金属イオンの溶解度や反応性を大きく変化させる。

例:M²⁺ + H₄Y ⇌ [MY]²⁻ + 4 H⁺
(M:金属イオン, H₄Y:EDTAの酸形)

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■ 3. 性質

  • 水に可溶、pHに依存してプロトン化状態が変化。
  • 錯体の安定度は金属イオンの種類や溶液のpHによって大きく変わる。
  • Ca²⁺、Mg²⁺、Fe³⁺、Cu²⁺ など広範な金属イオンと錯体を作る。

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■ 4. 応用

(1) 分析化学

  • キレート滴定:EDTAを標準溶液として金属イオン濃度を定量する。
    • 例:硬水中の Ca²⁺, Mg²⁺ の定量。

(2) 工業・生活

  • 水の軟化:Ca²⁺やMg²⁺を錯化してスケール(水垢)を防止。
  • 保存料:金属イオンが食品や化粧品を劣化させるのを防ぐ。
  • 医療:重金属中毒(Pb, Hg など)の解毒剤として使用。

(3) 生化学

  • 金属依存酵素の活性を阻害するため、実験で酵素活性を調整する際に利用される。

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■ 5. 特徴的な利点

  • 多座配位による非常に強い錯体安定度(キレート効果)。
  • 幅広い金属イオンを捕捉できる。
  • 分析から工業・医療まで応用範囲が広い。

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■ 6. まとめ

  • EDTAは代表的なキレート剤で、金属イオンの「捕獲・安定化」に優れる。
  • 定量分析(EDTA滴定)、水処理、医療など幅広く利用される。
  • 「キレート効果」による安定な錯体形成が核心。

【EDTA滴定における指示薬】

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■ 1. なぜ指示薬が必要か

  • EDTAは多くの金属イオンと無色の錯体を形成するため、終点を目視では確認できない。
  • そこで、金属イオンと弱い錯体を作り、色の変化を示す「金属指示薬(metal indicator)」が用いられる。

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■ 2. 代表的な指示薬

(1) エリオクロムブラックT(EBT)

  • 最も広く使われる。
  • pH ≈ 10(アンモニア緩衝液中)で使用。
  • 溶液色の変化:
    • 金属イオンと結合 → 赤紫色錯体
    • EDTAが金属を奪うと → 青色(フリーの指示薬)
  • 主に Ca²⁺, Mg²⁺ の滴定(硬度測定)に利用。

(2) カルシオン(Calcein)

  • 蛍光性指示薬。
  • Ca²⁺の滴定に利用され、EDTAが加わると蛍光が変化。

(3) ムレキシド(Murexide, アンモニウムプルプラート)

  • Ni²⁺, Co²⁺ の滴定に有効。
  • 金属存在下で赤色、EDTAにより金属が奪われると黄色。

(4) キシレノールオレンジ(XO)

  • 多用途な金属指示薬。
  • pHによって色が変化し、Fe³⁺やBi³⁺などの滴定に利用。

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■ 3. 使用の仕組み

  • 指示薬(In)は金属イオン(M²⁺)と可逆的に結合して、金属指示薬錯体(M–In)を形成。
  • EDTAは指示薬より強い錯体を作るため、滴定の進行とともに金属はEDTAへ移行する。
  • この移行点で色が変化 → 滴定終点を確認できる。

例:
M–In(赤紫) + EDTA → [M–EDTA](無色) + In(青)

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■ 4. 注意点

  • 指示薬は金属との結合が「弱すぎても強すぎてもダメ」:
    • 弱すぎる → 終点の色変化が不明瞭。
    • 強すぎる → EDTAが金属を奪えず終点に到達しない。
  • pH管理が重要:指示薬や錯体の安定度はpHに強く依存する。

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■ 5. まとめ

  • EDTA滴定の終点確認には「金属指示薬」を用いる。
  • 代表例:エリオクロムブラックT(硬度測定に必須)。
  • 滴定反応は「金属–指示薬錯体 → 金属–EDTA錯体 + 指示薬」という置換反応として進行。

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