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【レビュー文化】AI時代だからこそ「学ぶレビュー文化」を大事にしたい(コードレビュー)

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AI時代だからこそ「学ぶレビュー文化」を大事にしたい

発展するAIとコミュニケーションの関係

ここ数ヶ月、AIはますます発展していることを、みなさんも感じているかと思います。

そんなAI時代だからこそ「学ぶレビュー文化」を大事にしたいという考えが、私の中で強くなっています。
何を学び、なぜその文化が大事なのか、そして、どうやってその文化を実現するのかについて、この記事は「コードレビュー」以外でも活用できるような考えとなるように私の解釈を加えています。

この記事を書こうと思ったのは、私自身が教育係を担当することになり、「レビュー」についてちゃんと考えたいと感じたからです。
私の「レビュー」が、関わる人々の「学び」になるように、ここに悩み考えた結晶を残します。
ぜひ周りの人に共有してみてください。

AI時代だからこそ「学ぶレビュー文化」を大事にしたい


AI時代におけるコミュニケーションのギャップ

AIは大量の情報を処理し、人間が求めた回答を行うことが可能です。
対話型生成AIが普及し、私たちの生活の中で言葉を用いたコミュニケーションは人間だけのものではなくなったようにも感じます。
特にAIの活用が進んだことで、「怒らない先生」や「気分に左右されない同僚」としての活用も容易に行われるようになりました。
そんな、高効率なAIとのコミュニケーションに慣れてしまうと、人間同士の対話に対して、無意識に「話したことを理解してもらえていない」と感じてしまうかもしれません。

これは難しいところで、AIとの対話に慣れたことにより、人間に対しても無意識に「話したことをわかってくれる理解者としての振る舞い」を期待しているかもしれません。
人間同士のコミュニケーションは、AIほどに効率的ではなく、時には非効率であったり、感情的であったりします。
AIとのコミュニケーションがあたりまえの様になってくることで、人間とのコミュニケーションにギャップを感じることが増えているのではないかと考えています。

ちなみに、AIとの対話においてもコミュニケーションにギャップが生じます。
例えば、以前のGPT-4oと比較して、GPT-5は精度や論理性を重視した結果、機械的で事務的な印象が増し、「人間らしさが失われた」と話題になったことが印象的です。
悩み相談をしても、論理的な解決策に注力するあまり、共感的な表現が減少したとされています。

https://shift-ai.co.jp/blog/36334/

レビューはコミュニケーションの基本

私はソフトウェアエンジニアなので、コードレビューを業務で行うことがよくあります。

コードレビューとは、一般的に作業者が作成したプログラミングコードなどを確認し、コメントし改善を図るプロセスです。
コードレビューは主にプログラミングを行う人が対象ですが、「レビュー」というプロセスは、プログラミングを行う人だけのものではありません。

例えば、デザイナーが作成したデザイン、プロジェクトマネージャーが作成したドキュメント、あらゆるタスクにはフィードバックと修正が伴います。

タスクを行ったら、そのタスクの完了を報告します。
その際に、フィードバックをもらい修正することもあるでしょう。

このように「レビュー」とは、職種を問わないコミュニケーションの基本であると、私は捉えています。

レビューの目的は「正しさ」ではない

AI時代における「レビュー」のリスクは、AIの論理性に対する期待を人間のコミュニケーションにそのまま持ち込んでしまうことです。
それは、レビューを「正しさ」の指摘合戦の場にしてしまう恐れがあります。

私は、レビューにどのような目的を持つべきかを改めて考えました。
そこで参考になったのが、「Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス[1]」などを基にしたいくつかの知見です。

https://speakerdeck.com/dayoshik/googlenosohutoueaenziniaringu-karaxue-ndasosukodorebiyu

https://zenn.dev/yumemi_inc/articles/google-code-review

これらの知見の中で示されているように、成果物の「正しさ」をチェックすることは、レビューの多くの目的のひとつに過ぎません。

私は、レビューの真の目的は、プロダクトとチームを持続可能に成長させることにあると理解しています。

これはAIには(まだ)達成できない、人間が行うコミュニケーションによって実現されます。

具体的には、以下のような目的を想定しています。

  • チームのオーナーシップを心理的に促進する
  • 知識共有を可能にし、属人化を防ぐ
  • コードベースや成果物全体での一貫性を強制する

チームのオーナーシップを心理的に促進する

オーナーシップとは、「当事者意識」や「責任感」を持って取り組む態度を指します。

レビューは、「個人の成果物」を「チームの資産」へと正しく移し替えるための重要なプロセスです。
レビューを挟むことで、作業者が作成したコードは「チームのもの」となり 、レビュワーもそのコードに対して品質と未来に責任を持つことになります。

これにより、作業者が自分だけの責任感で進めたり、作業者以外が他人事と振る舞ったりすることを防ぎ、チーム全体で適切な当事者意識を形成できると考えています。

知識共有を可能にし、属人化を防ぐ

属人化とは、ある業務が「個人の能力や経験によって成り立っている状態」を指し、コミュニケーション不足や情報の非公開が原因で発生します。

レビューは、この属人化を防ぐ効果的な手段のひとつです。
レビューを行うことで、少なくとも一人の他のエンジニアがその変更を把握することを保証します。

さらに、レビューは「メンタリング」の重要な機能も果たします。
レビューの中でレビュワーが設計原則を教えたり、レビュアーが「なぜ、その手段をとったのか」と質問したりすることで、知識共有が促進されます。

静的なマニュアルはすぐに管理しづらくなりますが、レビューツール上に残された「Why」や「質問」のやり取りは、文脈といっしょに参照されることで「生きたドキュメント」として機能し続けます。

コードベースや成果物全体での一貫性を強制する

レビューは、成果物全体での一貫性を強制する役割も担います。

一貫性は、単なる構造の綺麗さの問題ではありません。
それは、組織と技術の両面において「スケーラビリティ」の前提条件になります。
一貫性が保たれていれば、元の作者以外の人間や、自動リファクタリングツールでさえも、コードを理解し、安全に保守できます。

レビュワーとレビューイの関係づくりが「学ぶレビュー文化」につながる

レビューの目的が「学び」や「オーナーシップ」である以上、それを実現するためには、感情に寄り添うための仕組みと意識が必要です。

レビューは「信頼の上に成り立つ対話」であり、単なる業務フローの一部ではありません。

もし、レビュー文化の醸成に失敗し、「レビューを受けるのが恐い」と感じさせてしまえば、レビューイは防衛的になり、学びは停止してしまいます。

レビューは「正す場」ではなく、「育てる場」であるべきです。
その文化を実現するためには、レビュワー(確認者)とレビューイ(作業者)双方に具体的な技術が求められます。

まず共通の心構えとして、お互いに「勉強し合う関係性」というマインドを持つことが重要です。

レビューイは、レビューを依頼する際に「何をレビューしてほしいのか」を整理し、「なぜこの実装を選択したのか(Why)」を記述しておくことが、円滑なコミュニケーションにつながります。

レビュワーは、以下の点を意識することが求められます。

  • 相手の意図を尊重する: 自分の考えを押し付けるのではなく、作業した内容を尊重します。まず「なぜ、その手段をとったのか」と質問形式でヒアリングし、議論を建設的に進める姿勢が重要です。
  • 具体性を重視する: 曖昧な指摘はフラストレーションを生みます。「良くない」ではなく、具体的な改善案を提示すべきです。
  • ポジティブな表現を心がける: 攻撃的なトーンを避け、提案型の表現を努めましょう。良い点は積極的に褒めることが重要です。
  • お気持ち度合いをコメントする: レビューイの心理的負荷を軽減するため、「Why」を書き、そのコメントが「修正必須」なのか「(教育的な)感想」なのか、温度感を明示することが有効です。
  • 断片的な指摘を避ける: フィードバックと修正の回数が減るように、まとまったフィードバックを提供すること。非同期なコミュニケーションが続くことはお互いに疲弊しやすいため、同期コミュニケーションで保管することも検討しましょう。

これらのルールは、単なる「優しさ」の推奨ではありません。
「学ぶレビュー文化」の前提条件である「心理的安全性」を実現し、チーム全体での学びを促進するための手法です。

レビューを効果的かつ効率的に行う仕組み

文化や心理が重要だとしても、プロセスが非効率では文化は定着しません。
レビューが「めんどくさい」(量が多すぎる、単純なミス指摘が不毛)と感じられたり、開発の「ボトルネック」になったりしては、元も子もありません。

レビューを効果的かつ効率的に行うためには、「仕組み化」が重要です。

  1. レビュー観点表の活用

レビュー観点表は、推奨する項目を示すチェックリストのようなものです。
これにより、レビュワーは観点の抜け漏れを防ぎ、レビューイはセルフチェックが可能になります。
観点には、機能性、可読性、セキュリティ、パフォーマンスなどが含まれます。
過去のレビューの要点を反映させることで、チームの「再利用可能な文脈」となります。

  1. レビューにメタデータをつける

レビューコメントに、レビュワーの意図や温度感を示すメタデータを付与します。
例えば、「修正必須」や「修正任意」といった言葉をいれることで、レビューイが「肯定」なのか「否定」なのかを読み取るコストを削減できます。
shields などを活用してバッジで視覚化することも、不要なコミュニケーションコストの削減に繋がります。

https://shields.io/

https://qiita.com/iganin/items/aee297eade84849cc9cd

これらは単なる効率化ツールではありません。
「観点表」はレビュワーのスキルへの依存を減らし、「メタデータ」はコミュニケーションをパターンに当てはめてコミュニケーションをシンプルにします。

これらは、「学ぶレビュー文化」だけでなく、チーム全体をスケールさせるための、重要な仕組みです。

AIのレビューと「人間が学ぶ」レビュー

ここまでは、人間同士のレビュー文化について述べてきました。

人間同士のレビューが「学ぶ」ことを目的としている以上、AIによるレビューは不要なのか、と思うかもしれません。

結論から言えば、私はAIのレビューは「学ぶレビュー文化」を不要にするどころか、むしろそれを「可能にする(Enable)」存在と考えています。

作用内容をAIに読み込ませレビューさせるプロセスは、以下のような点で非常に優れています。

  • 単純なミスの指摘: 誤字や一般的な知識による単純なところ 、構文エラー、フォーマット、未使用変数などの静的解析。
  • 一貫性と速度: 大量のコードを、人間の気分に左右されず「正確かつ一貫して」処理できること。
  • 既知のパターンの検出: 既知のセキュリティ脆弱性のパターン(SQLインジェクションなど)の検出。

これらは、人間が「不毛に感じる」とされる作業であり、AIはレビューの「正しさ」のチェックを自動化するのに最適です。

AIが「不毛な」作業を引き受けることで、人間は時間的・精神的なリソースを確保できます。

つまり、AIは「正しさ」のレビューを担当し、人間は「学び」のレビューを担当するということです。

そして人間は、そのリソースを「なぜこのアーキテクチャなのか?」、「このビジネスロジックで正しいか?」といった、AIにはできない「学び」のための本質的な対話に集中できる。

まとめ

AI時代だからこそ、人間の「学ぶレビュー文化」の価値は相対的に高まっており、それを大事にする必要があると考えました。🌱

私自身、教育係としての悩みから「レビュー」を再考しましたが、その結論は「レビューの目的を定め、AIと人間の役割分担を明確にすること」でした。

  • AIを「怒らない先生」として活用し、タイポや構文といった「正しさ」の指摘を自動化する。
  • 人間は「育てる文化」の中で、AIには理解できない「意図」や「文脈」といった本質的な「学び」に集中する。

この両輪を回すことこそが、AI時代のプロダクト価値を最大化し、持続可能なチームを育てる鍵であると確信しています。

この記事が、あなたのチームの「レビュー文化」を見直すきっかけになれば幸いです。
ぜひ、明日からのレビューに役立ててください🌻

もし参考になったところや、疑問に感じたところがあれば「レビュー」いただけますと嬉しいです。

参考記事など

参考になりました🙇‍♂️

https://zenn.dev/coderabbit_jp/articles/abc569b3df41b4

https://developers.gmo.jp/technology/54359/#レビュアー3つの心得

https://note.com/kuma_kumabase/n/n1ff5121f5258

脚注
  1. Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス ↩︎

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