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Storage Transfer Service の新オプション「マネージド・プライベート・ネットワーク」で S3 からの転送コストを削減

2024/06/28に公開

1. 背景

株式会社 Hogetic Lab 取締役 CTO の岩尾です。

当社 Hogetic Lab では多くのデータ基盤案件を手がけており、その中で Amazon S3 から Google Cloud へデータを転送する機会が頻繁にあります。そのような背景もあり、今回の Storage Transfer Service の新オプションに大変注目しています。

Storage Transfer Service に、Amazon S3 からのデータ転送コストを大幅に削減できる新オプション「マネージド・プライベート・ネットワーク」が追加されました。このオプションは、データ転送のコスト構造を根本的に変える可能性を秘めています。

2. マネージド・プライベート・ネットワーク概要

マネージド・プライベート・ネットワークは、Google Cloud の Storage Transfer Service を利用して Amazon S3 から Google Cloud Storage へデータを転送する際の革新的な新オプションです。Google Cloud の公式リリースノート(2024年5月17日付)によると:

Storage Transfer Service now supports transfers from Amazon S3 over a Google-managed private network. Transfer jobs that select this option pay no AWS egress fees; instead, a flat per-GiB rate is charged by Google Cloud. This allows you to transfer data at a potentially lower overall cost.

(出典: https://cloud.google.com/storage-transfer/docs/release-notes?hl=ja#May_17_2024)

このオプションを有効にすると、Google が管理する Cross-Cloud Interconnect 経由でデータ転送が行われ、Amazon S3 の Egress 料金が回避されるということです。代わりに Google Cloud 側で GiB あたりの固定料金が課金されますが、この料金は Amazon S3 の従来の Egress 料金よりも大幅に安価です。

設定も非常に簡単で、Google Cloud コンソールから転送ジョブを作成する際に「マネージド プライベート ネットワーク」のチェックボックスをオンにするだけで有効化できます。

3. コスト削減のメカニズムと具体例

マネージド・プライベート・ネットワークを利用することで、データ転送コストを劇的に削減できます。従来の Amazon S3 の Egress 料金は、データ転送量に応じて 0.09 USD/GB から 0.05 USD/GB の範囲で変動していました。しかし、新オプションでは一律 0.03 USD/GiB の料金体系となります。

具体的な例を挙げると、ゲームやライブストリーミングのデータ転送では、1 日に数百 GB から数 TB の転送が発生することがあります。これまでは、そのような大量転送で 1 日あたり 1 万円以上のコストがかかるケースもありました。しかし、この新オプションを使用すれば、そのコストの約 1/3 で済むようになります。つまり、同じデータ量を転送しても、コストを 66% 以上削減できる可能性があるのです。

ただし、注意点として、AWS からの LIST や GET コールなどのオペレーション料金が別途発生する可能性があります。そのため、総コストを計算する際には、これらの付随する料金も考慮に入れる必要があります。

4. 対応リージョンと注意点

現時点で、マネージド・プライベート・ネットワークは限られた Amazon S3 リージョンでのみサポートされています。対応リージョンは以下の 6 つに限定されています:

  • us-east-1
  • us-east-2
  • us-west-1
  • us-west-2
  • ca-west-1
  • ca-central-1

この新オプションを利用する際は、料金体系の変更に伴い組織全体での予算見直しが必要になる可能性があることに注意が必要です。従来 AWS 側で発生していた料金が Google Cloud 側に請求されるようになるため、予算の再検討が求められる場合があります。

5. 業界への影響と戦略的考察

このような革新的なオプションがなぜ可能になったのか、業界の動向を考察してみると興味深い洞察が得られます。

AWS がこのような大幅なコスト削減を可能にするオプションを許容している背景には、クラウド市場での競争戦略が関係している可能性があります。具体的には:

  1. BigQuery の強さ:Google Cloud の BigQuery は、データ分析基盤として非常に強力で人気があります。多くの企業がデータ基盤の選定時に BigQuery の存在を理由に Google Cloud を選択するケースが増えています。

  2. ハイブリッドクラウド戦略:AWS としては、データ基盤は Google Cloud に譲っても、サービス側(アプリケーション層)では AWS を使ってほしいと考えている可能性があります。つまり、以下のようなハイブリッドクラウド構成を許容する戦略を取っているのかもしれません:

    • サービス側: AWS
    • データ基盤: Google Cloud
  3. 長期的な顧客維持:データの移動を容易にすることで、顧客が完全にAWSから離れてしまうリスクを低減し、部分的にでも顧客を維持する戦略と考えられます。

このような戦略的な動きは、クラウド市場全体の競争環境や、顧客にとっての選択肢の幅を広げることにつながります。結果として、ユーザー企業にとってはより柔軟で効率的なクラウド利用が可能になるという利点があります。

6. まとめ

マネージド・プライベート・ネットワークオプションは、Amazon S3 から Google Cloud Storage への大規模なデータ転送を行う企業にとって、コスト削減の大きな機会となります。特に当社のように、頻繁にクラウド間でのデータ転送を行う企業にとっては、重要な選択肢となるでしょう。

このオプションは単なる技術的な改善以上の意味を持ち、クラウド業界全体の戦略的な動きを反映している可能性があります。ユーザー企業としては、このような動向を注視しつつ、自社のニーズに最適なクラウド戦略を柔軟に構築していくことが重要です。

ただし、リージョンの制限や組織内での予算調整の必要性など、いくつかの考慮点があります。これらを十分に検討した上で、自社のニーズに合わせてこの新オプションの活用を検討することをお勧めします。クラウド間のデータ転送が、より効率的で経済的になる新時代の幕開けと言えるかもしれません。

Hogetic Lab

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