LEGOスクラムを主催して学んだこと
はじめに
私が所属している開発部ではとあるWebサービスの開発を行なっていますが、開発のプロセスとしてはウォーターフォールに色濃く影響されたものが採用されています。
以下の課題がありました。
- 開発の粒度が大きく、機能提供(新しいバージョンのリリース)までの期間が長い
- 新機能を提供しても、お客様からフィードバックを受ける機会がない
- リリース済みの既存機能に対して改善を行う文化がない
これらの課題を解決するため将来的にスクラムの導入を検討し始めているのですが、
その一環として開発部内でLEGOスクラムを実施することになりました。
LEGOスクラムは、LEGOを使ったまちづくりを行うワークショップで、
まちづくりの過程をスクラムで実施することでスクラムを体験してもらうための試みです。
今回、私たちは以下の目的で開催しました。
- スクラムを実際に体験してもらい、経験としてスクラムの良さを理解してもらう
- チームビルディングの一環とし、普段接する機会の少ないメンバーとのコミュニケーションの場とする
なお、今回は試験的に一部のメンバーのみで開催し、将来的に開発部全員で実施する予定です。
LEGOスクラムとは
LEGOスクラムは、レゴブロックを使って「街づくり」をテーマにスクラム開発を体験的に学ぶアクティビティです。参加者はチームに分かれ、プロダクトオーナーから提示される要求に基づいて、複数のスプリントを繰り返しながら街を作り上げていきます。
LEGOによる街づくりとスクラム開発の親和性
レゴブロックを使った「街づくり」によるスクラム開発体験
LEGOスクラムの最大の特徴は、実際のソフトウェア開発ではなく、誰もが親しみやすいレゴブロックを使うことです。参加者はチームとなり、住宅、商業施設、公共施設などさまざまな建物を作成し、街を発展させていきます。
これにより、プログラミングやシステム開発の知識がなくても、スクラム開発の本質的な部分を体験できます。
例えば、家族のペルソナに基づいて「公園が欲しい」「スーパーマーケットが必要」といった要求をプロダクトバックログとして整理し、それをスプリントで実現していくプロセスを体験します。
スクラム学習のための利点
技術的な障壁なくスクラムのプロセスや価値を学べる
ソフトウェア開発の専門知識がなくても参加できることがLEGOスクラムの大きな利点です。これにより、開発者だけでなく、プロダクトオーナー、マネージャー、営業担当者など、さまざまな立場の人々がスクラムの基本を理解できます。
具体的には以下のような要素を体験できます。
- プロダクトバックログの作成と優先順位付け
- スプリントプランニングでの作業見積もり(プランニングポーカー)
- デイリースクラムでの進捗確認と障害の共有
- スプリントレビューでのフィードバック
- レトロスペクティブでの改善点の特定
特に見える形で成果物を作るため、抽象的になりがちなスクラムの概念が具体的に理解しやすいという効果があります。
反復開発の実践
複数のスプリントを通じて徐々に街を作り上げる体験
LEGOスクラムでは通常2〜3回のスプリントを通じて、徐々に街を成長させていきます。この過程で参加者は以下のような反復型開発の価値を体感できます。
- 漸進的な改善: 1度に完璧を目指すのではなく、徐々に改善していくことの効率性
- 頻繁なフィードバック: 早期かつ頻繁なフィードバックによる方向修正の効果
- 価値の継続的提供: スプリントごとの「動くもの」の提供による価値の創出
- 変化への適応: 変化への対応力の向上
例えば、1スプリント目で作成した建物に対して「もう少し大きくしてほしい」「色を変えてほしい」などのフィードバックを受け、2スプリント目で改善するといった流れを体験します。これにより、フィードバックに基づく改善の重要性を実感できるのです。
従来の学習方法との違い
従来のスクラムトレーニングとの違いと効果
LEGOスクラムは座学中心のスクラムトレーニングと比較して、以下のような違いと効果があります。
-
体験型学習による高い記憶定着率
受け身な講義よりも、実際に手を動かして体験することで、学びが深く記憶に残ります。 -
楽しみながら学べる環境
LEGOという「遊び」の要素があることで、参加者は気楽に、積極的に参加できます。 -
チームビルディング効果
共同作業を通じて、普段接する機会の少ないメンバー間の交流が深まります。 -
失敗のコストの低さ
実際の開発プロジェクトと違い、失敗しても大きなリスクがないため、安心して試行錯誤できます。 -
全員参加型のワークショップ
従来の研修では発言しない人も、LEGOの制作を通じて自然と参加できます。
これらの特徴により、LEGOスクラムは単なるスクラムの手法を学ぶだけでなく、「反復的な改善」「フィードバックの重要性」「自己組織化チーム」といったアジャイルの本質的な価値観を、楽しみながら経験できるワークショップとなっています。
ワークショップの準備
事前計画
-
ワークショップの全体設計(座学→実践の流れ)
- 事前にスクラムの基本を座学で勉強した後、ワークショップでスクラムを実践する流れにしました。
- 座学は1時間でしたが、スクラムの細かい用語など全て説明しても受講者は理解できないと考え、反復開発の重要性やスクラムの3本柱など要点に絞った説明を行いました。
必要資材
-
資材リスト
- LEGOクラシック 黄色のアイデアボックス
- LEGOクラシック おうちをつくろう
- 模造紙
- 付箋
- ハサミ
- マジック
チーム設計
-
チーム編成と「家族」という設定の意図
- 試験開催ではチームは2つにしました。
- LEGOでまちづくりをするために各チームで1家族という設定にし、父や母などペルソナを考えました。
- これは、まちづくりに家族として参加し、各ペルソナの視点で欲しい施設や建物などを提案するための設定です。
バックログ準備
-
プロダクトバックログ(建物リスト)の準備とポイント
- 各チームの家族設定に基づいて、ユーザーストーリーを用意します。
- ユーザーストーリーは、要求の背景がわかるように「私は〇〇(ペルソナ)として〇〇(建物、施設など)が欲しい。なぜなら〇〇(理由)だからだ」という内容にします。
ユーザーストーリーの例
ワークショップの実施内容
- 座学:スクラムの基礎知識の説明
- チーム分けとユーザーストーリー作成の進め方
- プロダクトビジョンの設計とカンバンボード作成
- プロダクトバックログの作成と優先順位付け
- プランニングポーカーを用いた見積りの実施方法
- 複数スプリントの実施(計画→実行→レビュー→振り返り)
参加者の様子
スクラム未経験な方とLEGOに触れたことがない方がほとんどだったので、正直、最初はうまくいくかかなり不安でした。
1回目のスプリントではかなり手探り感が強く戸惑っている様子が見られましたが、ふりかえりやその後の改善によりスプリントを経るごとに進め方や街がよくなっていく様子が見られました。
プランニングポーカーの様子
LEGOブロックを集める様子
街を作成中
ファシリテーターとしての工夫
LEGOスクラムは案外細かい部分も多く対策なしだと混乱することが予想されたため、今回はLEGOスクラムを一緒に企画した同僚を各チームに一人ずつ配置し、プロダクトオーナーやスクラムマスターの補助を行うようにしました。
結果的にはこれがよく、チームの状況を観察しながら良いタイミングでフォローすることができ、想定よりもスムーズに進行することができました。
本番ではさらにチーム数が増えますが、今回スクラムを体験した方を各チームに配置することで、スムーズに進められるようにしたいです。
参加者からのフィードバックと効果
試験的開催の概要と目的
今回のLEGOスクラムワークショップは、開発部全体で行う前の試験的な開催として企画しました。参加者は12名(2チーム編成)と私(オブザーバー)の計13名という小規模な構成で実施し、以下の目的を設定しました。
- 実際のワークショップの流れと時間配分を検証する
- 参加者の反応や学びのポイントを把握する
- 本番開催に向けた改善点を洗い出す
- ファシリテーション方法の検証と改善
2チーム(AチームとBチーム)に分かれての実施により、チームごとの取り組み方の違いや相互作用も観察することができました。
アンケート評価の全体傾向
プレLEGOスクラムワークショップ後のアンケート結果からは、少人数の試験的開催ながら、参加者が総じてワークショップに対して高い評価を示していることがわかりました。以下に主な傾向をまとめます。
- スクラムの理解度:スクラムの基本概念や各イベントの流れについて、ほとんどの参加者が「4〜5」(5段階中)と高評価
- 反復開発の価値:短いスプリントでの開発や反復的な改善の利点について、多くの参加者が「4〜5」と評価
- チーム協働:チーム内のコミュニケーションや一体感について「4〜5」と高評価
- フィードバック:早期・頻繁なフィードバックの価値についても高い理解を示した
一方で、ワークショップの運営面では以下の点に改善の余地がありました。
- LEGOブロックの量:多くの参加者が「2」(不十分)と評価。2チームでの取り合いも発生
- 説明のわかりやすさ:一部の参加者が「2〜3」と評価。少人数でも聞こえづらい場面があった
- 時間配分:全体的には適切とされたが、一部の参加者からは時間管理などについて提案あり
特に印象的だった参加者の気づきや感想
試験開催ながら、12名の参加者からは多様な気づきが報告され、アンケートの自由記述には貴重な意見が多く寄せられました:
-
「30%の精度」で進める価値
「30%くらいの精度でもアウトプットを出して、フィードバックをもらうことで依頼主と共に精度を上げることができるという点」(参加者より)
-
タスク分割の適切なバランス
「タスクの分割しすぎは状況によって、進捗を停滞させる懸念があることに気づき、タスクの割り当てを改善できた」(参加者より)
両チームとも1スプリント目ではタスクを細かく分割しすぎて非効率になり、2スプリント目で改善していったことが報告されました。
-
プロセス改善の本質
「LEGOスクラムを通じて特に印象に残ったのは、『改善の対象が成果物そのものではなく、プロセスである』という点」(参加者より)
スクラムの本質を捉えた深い洞察として、単に「何を作るか」ではなく「どう作るか」の改善に焦点を当てる視点が生まれました。
-
AチームとBチームの対比からの学び
「Bチームはターンを重ねる毎に作業が合理的、効率的になり作業が減っていったが、Aチームは明らかにことなっていた」(参加者より)
2チーム構成にしたことで、同じ条件でもチームによって改善の度合いや方向性が異なることが観察でき、実際のスクラム開発での多様性を示唆する貴重な気づきが得られました。
「体験型学習」の効果を実感した場面
少人数の試験的開催でも、LEGOスクラムワークショップの最大の強みである「体験を通じた学び」の効果が発揮されました。参加者からは以下のような報告がありました。
-
スプリントを重ねることによる成長実感
「スプリントを繰り返すごとにチームワークが生まれていったことと、成果物のクオリティも上がっていくことを実感することができた」(参加者より)
-
「まずは出してみる」文化の体験
「まずは精度を求めすぎずにアウトプットを出し、そこからフィードバックを得て改善していくという姿勢も、良い改善として機能していた」(参加者より)
-
実際に手を動かすことの価値
「そもそもスクラムについてまったく知らない状態だったのでそこについて実際に手を動かして学ぶことができた」(参加者より)
-
自己組織化チームの形成
「2スプリント目くらいから、積極的に自分達で声をあげて『わたし〇をやります』とか声かけながら進められてスムーズに進行できた」(参加者より)
各チーム6名という比較的少人数だったからこそ、全員が主体的に参加でき、チームの自己組織化が進みやすかった面もあると考えられます。
「楽しさと学びの両立」の実現度
今回の試験的開催でも、LEGOブロックを使った創造的な活動を通じて学ぶというアプローチは非常に効果的でした。
-
創造的提案の自由度
「要件がないものに対する提案とそのやり方に関しては個人的にとても学びになった。実際の開発になったら要件に含まれていないものを勝手に作る行為は誰もしない(常識的にできない)が、LEGOスクラムはアクティビティの延長という気楽さもあってか『いいじゃん!やっちゃおうぜ!』のノリやテンションがあったからこそ実行に移った」(参加者より)
-
楽しみながらの気づき
「レゴスクラムは楽にやろうと思えば、いくらでも楽できる。やる事を増やそうと思えば、いくらでも膨らませられる。これは、現実の開発同様、チームメンバーの人格に依存するところが大きい」(参加者より)
-
全員参加を促す効果
全員参加度については評価項目で多くの参加者が「4〜5」と評価しており、少人数のチーム編成とLEGOという親しみやすい素材を使うことで心理的安全性が高まり、積極的な参加が促されたと考えられます。
本番開催に向けた改善提案
試験的開催の最大の目的は本番開催に向けた改善点の洗い出しです。12名の参加者からは、非常に具体的で実践的な提案が多数寄せられました。
-
資材の充実
「LEGOのブロックがチーム間での取り合いになるため、各チーム毎に用意してほしい」
「机を広く使いたかったので、カンバンボートはやっぱり壁に貼りたい」
「付箋の粘着力が次第になくなってきた」
本番では開発部全体で複数チームが参加するため、各チームに十分な量のLEGOブロックを用意する必要があります。
-
時間管理の工夫
「フェーズ開始&終了のアラーム(音/チャイム)を設定し、切り替えを明確にするとわかりやすいかも」
「残り時間が把握しづらくて慌てることがあったため、見える位置にタイマーを置く、あるいは時間管理の担当を決めるなど」
特に大人数になる本番では、時間管理がより重要になります。全体で見えるタイマーの設置やチャイムの使用を検討します。
-
説明方法の改善
「タイムラインにそって『次にやることは〇〇です。ここでは〇〇の観点で話し合いをしてください。』といった一言があると何を今からするのかわかりやすくなる」
「朝一の説明で最初にどかっと説明されるより、各フェーズ前に『今からやること』として毎回説明してもらった方が集中力を高めて聞けそう」
「説明の際はマイクを使ったほうが良さそう」
12名規模でも声が聞こえづらい場面があったため、本番ではマイクの使用が必須です。また、説明内容も各フェーズの直前に簡潔に伝える方式に改善します。
-
要件設計の見直し
「ペルソナ1人に対し3要件は結構多かったかも(価値提供よりも『完成させること』に意識が向きすぎてしまった)」
「個人の要件だけでなく家族全体としてどんな街にしたいかという思いがあってもいいかも(街のテーマでもいいかも。『自然と共存できる街』や『コンパクトシティ』的な)」
本番では要件数の適正化と、より価値提供に焦点を当てた要件設計に改善します。
オブザーバーとして参加した私の視点からも、今回の試験的開催は非常に有意義でした。2チームという小規模な構成ながら、チーム間の違いを観察したり、ファシリテーション方法を試行錯誤したりする貴重な機会となりました。参加者からの率直なフィードバックは、本番開催をよりよくするための具体的な内容が多く、これらを活かして開発部全体での開催に臨みたいです。
主催者としての振り返りと改善点
LEGOスクラムワークショップの試験的開催を終えて、主催者・オブザーバーとして多くの気づきと改善点を得ることができました。ここでは、アンケート結果も踏まえながら、次回の本格実施に向けた振り返りと改善提案をまとめます。
タイムテーブルの最適化(各ステップの所要時間)
時間管理は、ワークショップ全体の流れを左右する重要な要素でした。アンケートでも多くの参加者から時間に関する意見が寄せられています。
「残り時間が把握しづらくて慌てることがあったため、見える位置にタイマーを置く、あるいは時間管理の担当を決めるなどすると、もっと落ち着いて取り組めるように感じました」
今回のワークショップでは、特にスプリント内の実装フェーズで時間が足りないと感じる参加者が多かったようです。20分という制限時間の中で、レゴブロックを探す時間と実際に組み立てる時間のバランスが難しかったという声がありました。
次回に向けた改善案として、
- 各フェーズ開始・終了時に明確なアラーム音を使用する
- 残り5分などの節目でアナウンスを入れる
などの改善を行いたいです。
より効果的なスクラム体験のための工夫
アンケートからは、スクラムの本質を体験してもらうための様々な改善提案がありました。
「タイムラインにそって『次にやることは〇〇です。ここでは〇〇の観点で話し合いをしてください。』といった一言があると何を今からするのかわかりやすくなると思いました」
「朝一の説明で最初にどかっと説明されるより、各フェーズ前に『今からやること』として毎回説明してもらった方が集中力を高めて聞けそうだった」
これらの意見を踏まえ、以下の改善を行いたいと考えています。
-
進行と説明の改善
- 各フェーズ開始・終了時に明確なアラーム音を使用
- 必要な情報を各フェーズ直前に簡潔に説明
- マイクを使用し、視覚的な補助も活用
-
リソースの拡充
- チームごとに十分なLEGOブロックを用意
- カンバンボードを壁に貼れるよう変更
-
環境面の工夫
- チーム間の適切な距離の確保
- リラックスできる雰囲気づくり(お菓子や飲み物の準備)
-
チーム編成と支援体制
- 多様な視点を持つメンバーでチームを構成
- 今回の経験者を各チームに配置してサポート役に
- チームごとに相談役(メンター)を配置
今回の試験的開催で得られた知見を活かし、本番ではより学びの多い、充実したLEGOスクラム体験を提供できるよう準備を進めていきたいと思います。
まとめ:LEGOスクラムの価値
今回LEGOスクラムを実施してみて、やはり座学だけに比べるとスクラムを経験することでより深く学べると思いました。
実際の開発と紐付けた上でスクラムの良さを理解してくれた参加者もおり、主催した自分としても、スクラムのメリットを再認識できた場でもありました。
また、特にチームビルディングとしては特に利点を感じました。
弊社の開発部はリモート勤務が多いため同じチームの同僚としか話さないことも多く、コミュニケーションの場が少ないことが懸念に感じていました。
今回は同じ場所に集まってLEGOスクラムを実施したのですが、まちづくりを通じてかなり活発にコミュニケーションが取られていました。
主催側の自分も普段話さない人とたくさん話すことができ、楽しかったです。
今回の試験実施を通じてもっと広めていきたいという気持ちが強くなったため、本番の開催に向けて頑張っていきたいです。
参考
今回LEGOスクラムを実施するにあたり、下記の記事を大変参考にさせていただきました。
Discussion