通常業務にスクラムを“少しだけ”持ち込んだら、コミュニケーションが改善した話
1. はじめに
こんにちは。
前期は新規サービス立ち上げの検証に従事し、試験的にスクラムを導入して業務を進めていました。
今期からは元の業務に戻りましたが、スクラムの良さを実感していたため、必要な範囲でプラクティスを取り入れることにしました。
この記事では、それまで感じていた課題と、スクラム導入によって得られた効果を紹介します。
2. 背景(前期のスクラム実践)
前期は4名で数か月間、新サービス立ち上げの検証に従事し、その中でスクラムを実践しました。
プロジェクトでは、スクラムの主なプラクティスを一通り実施しました。
- プランニング
- デイリースクラム
- スプリントレビュー
- レトロスペクティブ
それまでの業務と比較すると、スクラムはコミュニケーションの改善に特に効果があると感じていました。
理由として、従来の業務ではチームでの会議が週1回のみでしたが、スクラムイベントを継続すると打ち合わせの機会が自然と増える点があります。
また、スプリントの目的や達成度について頻繁に議論するため、目的志向の打ち合わせが増え、会話の質も向上しました。
3. 今期:通常業務に取り入れた“少量スクラム”
前期のプロジェクトで感じたスクラムのメリットを今後も活かすため、通常業務に戻った後もチームにスクラムのプラクティスを少し取り入れました。
具体的には、以下のスクラムイベントを取り入れて業務を進めています。
なお、チームメンバー全員が離れた場所で働いており、リモートで業務を進めています。
- インセプションデッキの作成
- チームで開発する機能のWHYに焦点を当て議論を行い、メンバーが同じ方向を向いて開発できるようにします。
- 新サービスの開発ではないため、インセプションデッキ全項目の作成はしていません。以下の項目に絞って議論しています。
- 我々はなぜここにいるのか
- やらないことリスト
- トレードオフスライダー
- スプリントプランニング(毎週月曜)
- 開発のロードマップを見ながら、今スプリントの目標とタスクを決めます。
- デイリースクラム(毎日)
- 日々の状況や課題の有無について共有し、必要に応じて別途打ち合わせを設けて課題を解決します。
- スプリントレビュー(毎週金曜)
- スプリント内の各人の成果物をチーム内で共有し、フィードバックを受けた上で次スプリントでの改善などに繋げます。
- 本来のスプリントレビューはステークホルダーなども交えてフィードバックを受けるものですが、業務の都合上開発チームのメンバーだけで行っています。
また、レトロスペクティブも取り入れて業務プロセスの改善にも繋げたいのですが、後回しになっており、まだ実施できていません。早めに取り入れたいです。
4. 効果と変化(Before/After)
- コミュニケーション不足
- 会議が週1回だった頃から圧倒的にコミュニケーション量が増え、以下の点が改善できたと感じています。
- リモートで業務しているため、毎日話す機会を設けたことで課題の相談などがやりやすくなった。
- 毎日話すことで、単純に前よりメンバー同士の仲が良くなった(と感じる)。
- 会議が週1回だった頃から圧倒的にコミュニケーション量が増え、以下の点が改善できたと感じています。
- 情報共有の抜け漏れ
- 毎日会話することで、安易にツールに頼るよりも状況を共有しやすくなりました。
- 目的のズレ
- スプリントプランニングで必ずロードマップとそのスプリントの目標について話し合いを行うことで、メンバーが方向性を見失わずに自分の業務に集中できるようになりました。
5. 導入Tips
5-1. 解決したい課題を洗い出す
スクラムガイドや各種書籍にはさまざまなプラクティスが書かれていますが、会社やプロジェクトによっても仕事の進め方が異なるため、いきなり全てを真似するのは難しいと思います。
そのため、まずは身の回りの解決したい課題を洗い出した上で、可能なところからスクラムを取り入れることがよいと考えます。
5-2. アジャイル・スクラムの理念を忘れない
スクラムにはさまざまなスクラムイベントが定義されていますが、私は最初「部分的に取り入れて大丈夫なのか……?」と疑問に思っていました。
しかし、スクラムも目的を達成するための1つの手段なので、下記の原則さえ忘れなければ特に問題ないと考えました。
- 忘れてはいけない原則
- アジャイルの価値
- プロセスやツールよりも個人と対話を
- 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
- 契約交渉よりも顧客との協調を
- 計画に従うことよりも変化への対応を
- スクラムの基本理念
- 経験主義の三本柱:透明性・検査・適応
- 短いタイムボックスで「完成(Definition of Done)」の増分を継続的に提供
- 価値基準:コミットメント・集中・オープンネス・尊敬・勇気
- チームの前提:自己管理・職能横断
- アジャイルの価値
ただ、守破離という言葉があるように基本を忘れたまま自分たちに合わせて都合の良い解釈をするのはNGです。
5-3. 導入イベントの最小セット(表)
最初は以下の最小セットから始めると運用しやすく、効果が出やすいです。
| イベント | 頻度 | 目安時間 | 目的 | 進め方の型 | アンチパターン |
|---|---|---|---|---|---|
| デイリースクラム | 毎日 | 10〜15分 | 状況共有・阻害要因の早期発見 | 昨日/今日/阻害要因。深掘りは別会議に分離 | その場で課題を議論して長時間化、報告だけで対話なし |
| スプリントプランニング | 毎週(月) | 30〜45分 | 目標定義・優先度合意 | スプリント目標→バックログ→見積りの順 | 目標が曖昧、タスク羅列だけで終わる |
| スプリントレビュー | 毎週(金) | 30分 | 成果確認・フィードバック獲得 | デモ→気づき→次スプリントへの反映 | デモ無しの口頭報告のみ、振り返りと混同 |
| レトロスペクティブ(推奨) | 2週に1回(最小) | 30分 | 改善アクションの合意 | KPT または Start/Stop/Continue | 感想会で終わる、具体アクション不在 |
| インセプションデッキ(抜粋) | 初回+必要時見直し | 30〜60分 | WHY整合・やらないことの明確化 | なぜここに/やらないこと/トレードオフを短時間で合意 | 全項目を完璧に作ろうとして前進が止まる |
補足:現在はレトロスペクティブ未実施ですが、早期導入を推奨します(短時間・低頻度で十分)。
6. 今後の展望
スクラムを導入し効果を実感しており他グループにも展開していきたいという気持ちはあるものの、第三者にわかりやすく効果を示すための準備ができていません。
今後はスクラム導入による効果を定量的に計測するための準備を行い、わかりやすい指標を作った上で社内に広めていきたいです。
また、自チームでもまだまだ手探りな部分が多く基本を理解できたとは言えない状態であるため、こちらも引き続きスクラムを実践しながら理解を深め改善していきたいです。
7. まとめ
- 通常業務でも、スクラムの「少量導入」で十分な改善が得られる
- まずは課題を洗い出し、イベントを最小構成で継続する
- 経験主義(透明性・検査・適応)と価値基準を常に意識する
- デイリーと短いスプリントプランニングがコミュニケーションと目的整合を高めた
- 効果は定性+定量(指標づくり)で可視化し、次の改善につなげる
- 明日からの一歩:10分スタンドアップと今週の目標共有から始める
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