そろそろブロックチェーンを電力消費量で批判するのはやめないか
はじめに
ブロックチェーンに関する記事がアップロードされるたびに、判で押したように本題と全く関係のない電力消費問題で批判する人が一定存在する。NFT, DeFi, Web3などの領域で新しいビジネスやサービスが生まれようとしている中で電力消費量に関する誤った知識による批判によってイノベーションが阻害される事態が起きている。
ごく一部のブロックチェーンが大量の電気を消費するからといって、ブロックチェーン全体を批判するのは誤りであることを認識してほしい。
「ブロックチェーン=電力の無駄使い」ではなく、「ブロックチェーン技術を使った極一部のXXが電力を消費しているが、他は別に大したことない」という認識に変わることを期待している。
※筆者はブロックチェーン関連の人なので、基本的にはポジショントークです。
ブロックチェーンと一括りに批判するのは主語がデカすぎる
ブロックチェーンのプロダクトは既に無数に存在する。有名どころを挙げるだけでも下記くらい存在しており、全部まとめてブロックチェーンと呼んでいる。
電力消費量は合意形成アルゴリズムによるところが大きいが、ブロックチェーンプロダクト毎に合意形成アルゴリズムは異なっている。
最も深刻なのはProof Of Work(PoW)を使用したものであるが、電力消費量が少ないProof Of Stake(PoS)を採用しているブロックチェーンプロダクトも多数存在する。
そのため、「ブロックチェーン=電力の大量消費」としてしまうと、電力消費量が少ない Proof of Stake を採用しているパブリックネットワークや、合意形成に電力を対して消費せずノード数も少ないプライベートネットワークも含まれるため、主語がデカすぎる。
正しく批判するのであれば、「ブロックチェーン=電力の大量消費」ではなく、「BitcoinもしくはPoWは電力の大量消費」と範囲を限定して批判するのが正しい。
ブロックチェーンプロダクトの一例
- Bitcoin(Proof Of Work)
- Ethereum(Proof Of Work -> Proof Of Stake)
- Ethereum Classic(Proof Of Work)
- Corda(Proof Of Stake)
- Hyperledger Fabric(Raft)
- Solana(Proof of History)
- Polygon(Proof Of Stake)
- Optimism(Rollup)
- arbitrum(Rollup)
- Avalanche(Proof Of Stake)
- Astar Network(Proof of Authority -> Nominated Proof of Staking)
- Cardano(Proof Of Stake)
- BNB Chain(Proof of Staked Authority)
Bitcoinの電力消費量
正確に測定することは不可能であるため、学術界隈ではいくつかのデータをもとにあらゆる角度から推定をしている。難しい話になるので、詳細が気になる方は調査レポートの本文を読んでほしい[1]。
Bitcoinの電力消費量を調査している所によると、Bitcoinの年間消費電力量は204.50 TWhと推定されており、電力消費量ランキング23位のタイとほぼ同じ量の電力を消費していると推定されている。大量の電気を消費していると言って差し支えはないだろう。
時期にもよるがマイニングに使用している電力の約4~5割は再生可能エネルギーと原子力発電によるものであると推定されている。そのため、CO2排出量だけ見ると電力消費量ランキング43位のチェコ共和国と同程度まで減っている。それでも国レベルの電力消費量であるため電力消費とCO2排出量を減らせという意見は尤もである。
引用元: https://digiconomist.net/bitcoin-energy-consumption
Ethereumの電力消費量
Ethereumの年間消費電力量はおよそ75~90TWhと推定されている。[2]
電力消費量ランキング36位のフィンランドと同等であり、CO2排出量は48位のスイスと同程度である。[3]
Bitcoinほどではないが国レベルの電力を消費していると言って過言ではないので、現時点では批判して良いと考えている。
しかし、Ethereumは合意形成アルゴリズムをProof Of WorkからProof Of Stakeに変更する大型アップデートを控えており、実現すると電力消費量が99.95%削減されると計算されている。
具体的な計算式は公式サイトに記載があるが、10万トランザクションを捌くのに必要な電力量はわずか0.667 kWhであり、クレジットカード決済のVisaが同程度のトランザクションを捌くときに使用するエネルギーの約0.4%と試算されている。
Proof Of Stakeが実装された後であれば、 VISAよりも低電力なため電力の無駄使いとは言えなくなる。
年間消費電力の試算
マイニングノード1台あたりの電力消費量 1.44kWh / day
シャーディングのノード数 10,000台
1.44kWh daily usage * 10,000 network nodes = 14,400kWh per day.
14,400KWh * 365 day = 5,256,000 kWh / year = 525.6万 kWh = 0.5256 TWh
VISAの電力消費量
参考情報として記載するが、VISAの電力消費量は、10万トランザクションあたり148KWhである[4]。
2020年の年間取引量が140,839,000,000件であるため[5]、年間消費電力の推定値は0.20844172 TWhとなる。
VISAはオフィスやデータセンターを2020年に再生可能エネルギー100%に移行したため、消費電力はPoSより高くても環境負荷に関してはVISAの方が低い。[6]。
Polygonの電力消費量
Layer2のブロックチェーンプロダクトはいくつかあるが、ここでは代表してPolygonの消費電力を例に挙げる。
合意形成アルゴリズムにProof Of Stakeを採用しているPolygonの年間消費電力量はおよそ0.00079TWh(788,400KWh)と推定されている。[7]
BitcoinやEthereumと比べても、十分小さいと言える。
0.00079TWhがどれくらいの規模の電力なのかについて参考情報を提示すると、スイスのトゥール湖上にある浮体式太陽光発が年間で0.0008TWhを発電しており、地域の約220世帯の電力需要と同程度である[8]。
300KWh/月 x 220世帯 x 12ヶ月 = 790,000KWh≒0.00079TWh
Private Network
Private Networkで使われるブロックチェーンプロダクトで使用される合意形成アルゴリズムは低電力なものがほとんどである。
例えば、Hyperledger Fabricの合意形成アルゴリズムはRaftを使っている。
Raftはブロックチェーンでのみ使うものではなく、Kubernetesのクラスターで使用しているし、分散データベースの裏側に使われている技術である。
他にPrivate Networkでよく使われる合意形成アルゴリズムとして、Proof Of Authority(PoA)があるが、せいぜいマイナーノード数台分のサーバーが使用する消費電力量が上限となる。
PoAやRaftはPoSよりもさらにサーバーの台数が少ないため電力消費量は少ないといって良い。
PoWは悪なのか
必ずしもそうとは言えない。
地球上には使われずに捨てられるエネルギーというものがたくさん存在する。
BitcoinのProof Of Workであれば電力と通信環境さえあればマイニングは可能であるため、捨てられるエネルギーを活用できるとの意見も存在する。
一例として以下のようなものがある。
- 雨季のダムで過剰生産される電力
- 天然ガスや石油の加工時に発生する捨てられるエネルギー
- エリア内で消費しきれなかった余剰電力
- パイプラインの無いエリアで天然ガスが湧いてしまった場合、輸送手段がなく焼却して捨てていたエネルギー[9]
捨てていたエネルギーから得られた収益を環境負荷の低減のための投資に活用する企業も現れている。
とはいえPoWの合意形成アルゴリズムに参加する全てのマイナーが捨てられるエネルギーを活用しているわけではない。外からは見分けがつかないため、一律禁止とする動きがEUやニューヨーク州で進められている[10]。
まとめ
- PoW以外の合意形成アルゴリズムを使っているブロックチェーンプロダクトに向かって電力の無駄使いというのはやめよう。
- PoSはVISAより低電力
- 再エネを使っているVISAの方が環境負荷は低い
Discussion
おっしゃることも分かりますが…
消費電力が現在の10%でも、かなりのもので。
スマホで、写真を撮ることすらままならないぐらい、という感覚でなければ、そろそろ地球は終わると思います。