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DeepFakeに対してNFTができること、できないこと

2022/03/21に公開

はじめに

「DeepFakeはNFTがあれば防げる」的な言説を見かけたが、正しいと言える部分もあるし、正しくない部分もある。この一文だけ見ると捏造された動画に対してあたかも検知機能がNFTに備わっていると誤解されかねない。

正しくない情報が一人歩きして、私のところに突然「DeepFake対策にNFTを使えると聞きました!これでビジネスしたいです」という相談が来ることが予想され、誤解を解くのに何日も無駄な労力を費やして困る事態となるのは明白であるため今のうちに反論しようと思う。

まとめ

  • NFTやブロックチェーンができることは、特定のアドレスの人が情報を発信したことだけがわかる。
  • 発信された情報(動画や画像等)についての真贋鑑定は不可能。
  • 動画から情報発信者を特定することはできない
  • DeepFakeで作られた動画の真贋鑑定機能はNFTにはない

DeepFakeはNFTがあれば防げるのか?

まず問題を「誰が情報を発信したのか」と「何を発信したのか」二つに分解したい。

「誰が情報を発信したのか」に対してのブロックチェーン

ブロックチェーンでは秘密鍵毎にアドレスが割り当てられている。
動画をNFTにすることでNFTには作者のアドレスが記録されるため、「誰が情報を発信したのか」は明白となる。

しかし、あくまで「どのアドレスが発信したのか」がわかるだけであって、現実世界のAさんなのか、B企業なのか、U政府なのかはわからない。

ウォレットと現実の人との紐付け方法について

アドレスと本人の紐付けが必要であれば、信頼できる情報源から「0xaaa....」は田中太郎さんのものであるとお墨付きを貰う必要がある。

似たような例として、Twitterのアカウントが本人であることを証明について解説すると、

  1. アカウントの所有者が自分を証明する書類を提出する
  2. Twitter社が書類の信憑性を確認する。
  3. 信憑性の裏付け根拠としては、例えば免許証であることとする
  4. 免許証が信頼できるかは政府機関が信頼できるかに依存する。
  5. 政府機関が信用できるかは、国民の政府に対する信用度だったり、法律による裏付けが存在することとする。

のように複数の信頼のチェーンによって成り立っている。

ブロックチェーンの場合はどうかというと、

  1. 私は田中太郎である
    と宣言しておしまいである。CAのオレオレ証明書程度の信用度しかないのが現状である
    仮に自分のtwitterアカウントでウォレットのアドレスを公開し、ブロックチェーンに住所氏名年齢職業を書いたとしても、第三者(例えば金融機関)が本人確認書類として認めてくれないのは明白でしょう。

DID(Decentralized Identity)ではここの信用度をなんとかしようと頑張っている企業はいるが、実用的になるのはまだまだ先の話なため本書では割愛する。

では、現在のブロックチェーン技術で、0xaaa....が誰のものかを証明したい場合にはどうすれば良いのか。
それは、信頼できる情報源でアドレスを所有していることを公知にすることである。

例えば、ウクライナ政府のウォレットアドレスをなぜ本物であると世界中の人がみなしたかを例にとって説明しよう。

まずは初期状態として、ブロックチェーンネットワーク内にアドレスが1個生成されたとしても、それが現実の誰なのかとは紐づいていない状態である。
冒頭で「信頼できる情報源からお墨付きをもらう必要がある」とお伝えしたように、「twitterのバッチがついた政府公認のアカウント」がウォレットは政府のものであるとお墨付きを与えたことになる。
政府機関というのは信頼のチェーンにおける超上位の存在であるため、世界中の人は本物であるとみなすことができたのだ。(政府機関の場合オレオレ証明でも信用できてしまうので例としては不適切かも...?)
仮に私のTwitterアカウントで「0xaaaaa....」は政府のアドレスです。寄付よろって言っても誰も信用しなかっただろう。

お墨付きを与える手段はtwitterに限った話ではなく、信頼できる情報源であればなんでも良い。
政府機関のHPや官報でも良いし、株式会社のIR情報でも良い。

DeepFakeに対してできることとしては、普段と異なる媒体から情報発信されたら怪しいと思ってよく、
その情報源の一種として、政府のHP、公式Twitterアカウント、公式Youtubeチャンネルに加えて、
「普段から使われているブロックチェーンのアドレスから」がパターンとして一つ増えた程度の理解で今のところはいいだろう。
ブロックチェーンである必要はないし、かといってブロックチェーンであってはいけない理由も無い。

動画からNFTを逆引きすることは不可能である。

DeepFakeの場合、動画があらゆる媒体で複製され伝播されることになるが、ではNFTを使えば動画の発信者が特定できるわけではない。
あくまでNFTから動画のURLが特定ができるだけであって、動画からNFTを調べることは現在のところ難しい。

動画に電子署名でも付いていれば話は変わってくるが、DeepFakeな時点で本物の電子署名をつけることは不可能である。電子署名がなければ偽物と判定して良いと思う。
しかし、電子署名が欲しいのであればブロックチェーンである必要はなく、従来通りのCAの認証局を使った電子署名の方が信用度は高い。

「何を発信したのか」についてのブロックチェーン

ブロックチェーンは正規の手順で書き込まれたデータに対して改竄することはできないが、
DeepFakeの場合は偽の動画を正規な手順でブロックチェーンに書き込むことになるため、偽の動画が改竄できないと言った結果を生むだけである。

よって、ブロックチェーンに書き込まれたデータはDeepFakeではないと言い切ることは不可能である。
また、他人がYoutubeにアップロードした動画がDeepFakeか否かを判定する機能はNFTにはそもそも備わっていない。
NFTはあくまで動画URLへの参照ポインタでしかないのだ。

もしDeepFakeを見破りたいのであれば、AIを使って見破る方法が研究されているため、ブロックチェーンではなくそっちでやってほしい。

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