もしあなたがデジタル庁のPMだったらどうやって半分の時間で目標を達成しますか?
PMの思考パズル的なやつ
前口上
菅内閣の目玉としてデジタル庁の設立が検討されています。日本政府は行政のデジタル化の観点で見ると他国に比べて出遅れており、それを改善したいという思惑があるようです。
マイナンバーカードの普及率が低いというのは有名な話ですね。
報道によると行政のデジタル化をまず5年で達成するという前提で必要な工程表をまず作成するそうです。気が長いですね。要件の複雑さがわかっていないのでなんとも言えない部分はあるのですが、民間企業なら90%のユースケースを半年で実装できるなんてこともありそうだなと思いました。
2020/10/09から11/06までデジタル改革アイデアボックスという窓口が開かれており、デジタル化について自由について意見を募集しています。よりいい改善案を提示できれば実際に採用され日本のデジタル化を加速できるかもしれません。
IT業界では短期間に急成長するベンチャーのことをスタートアップといいます。デジタル庁自体は政府の機関ですが短期間で何かを達成するためにそのノウハウを活用する部分があるかもしれません。実際デジタル改革Idea BoxのロゴにもGovernment is a Startupとありますね。
あなたは転職してデジタル庁というスタートアップのプロダクト・マネージャーになったとします。
もしあなたがデジタル庁のPMだったらどうやって半分の時間で目標を達成しますか?
現状を障害としてとらえてみる
Webサービスにおいてシステムが止まってしまうことは一般に障害と呼ばれます。障害対応は大きく現状の問題の止血をまずするファーストエイド、よりよい改善で将来の禍根を残さない恒久対応2種類に分けられます。
行政のシステムは稼働が停止したわけではないですが、現状の状態は理想的でないので広義の障害状態というか病にかかっていると仮定します。ファーストエイドと恒久対応で何を提案しましょうか。
ファーストエイド: APIにフォーカスする
確定申告でe-taxを使ったことがありますが、難易度が高いですね。土日に動いていなかったり、スマホやWeb対応をうたっていても結局はWindowsのデスクトップ版でしかできない操作があったりと今までいい思いをしたことがほぼありません。
とりわけMacは地獄です。完全外注していて納品時期が秋頃なのか、肝心の冬の確定申告時期にSafariで操作しようとすると、その頃には最新バージョンが変わっておりサポート外と言われる。納品したら終わりで継続的な改善が全くなくドッグフーディングできていない。
行政のサービスはUXが悪く、例えばPC向けのサイトしかなくスマホで入力フォームが崩れるなどはよく起きる事象かと思います。
いっそのこと全てのデジタル化のフェーズを2つに分けて最初はAPIにフォーカスしてみてはどうでしょうか。
フェーズ1はAPIのみの開発です。全ての行政サービスはJSON APIで処理できるようにします。ユーザーインターフェイスの部分は民間企業が開発で競争を促す前提です。民間企業は別途追加の手数料を取ることができます。
その上でフェーズ2として官製のUIの開発を始めます。民間企業と同じAPIを使います。
地方ごとにシステムを持っている場合なら例えば民間のサービスが一定閾値ある都市部ではそもそもUI部分は官で開発しないというのも一つの意思決定だと思います。
ファーストエイド: ICカード認証を一旦捨てる
マイナンバーの認証方式には二種類ありICカードを使った方式とID・パスワード方式があります。ICカードはカードリーダーが必要なため現時点ではあまり普及していませんが、セキュリティーの観点から政府はICカード方式の方を原則としています。
現状普及していないならそのやり方にこだわらない方がいいと思うんですよね。ユーザー数は正義というか。もちろん詐欺などの件数をモニタリングしていく必要はあります。
例えば政府のシステムを受託している会社があるとしてICカードもサポートするとどうしても開発が遅れてしまいます。スタートアップではやらないことを決めるのはやることを決めること以上に大切です。現状普及に失敗したICカードは捨ててID・パスワード方式のみで全行政システムが動くことにフォーカスすべきでないでしょうか。
政府の制度変更はよくXX年からという単位で語られますがそれも変な話でKPIベースで決めたいですね。全国民のID・パスワード方式定着率が90%を超えたら再度ICカードを検討するとか。
恒久対応: 開発チームの内製化
次に恒久対応について考えます。
行政のシステムを作るとなった際、現状では外注が前提になっているのをまず疑問に感じます。e-taxの例でも触れましたが納品したら終わりという形態だと継続的な改善が見込めません。
スタートアップでは内製開発が多数派ですし、行政システムの開発・運用も内製ベースにすべきではないでしょうか。
ソフトウェア・エンジニアは他職種と比べると現状年収が高いため公務員の給与テーブルを別で持つ必要はあります。また変化のはやい業界のため開発力担保のために原則副業はOKにすべきだとも思います。
恒久対応: ICカードのQRコードを複雑なアクセストークンに
免許証とICカードの一体化も検討されていますが、マイナンバーカードが普及したところでICカード認証が基本だとカードリーダーのところでつまづき結局使われない可能性が高いように感じます。
一部のスマートフォンによってはICカードを読み取れますが全てではないです。ハードウェアに依存した認証方式はスケールしないやり方だと思います。
Webサービスやアプリの認証でアクセストークンを使うというのは民間のサービスではよく使われる手法です。マイナンバーカードにはQRコードもついているのですが、読み止まれる内容は番号そのものです。数字だけで桁数もそれほどないとアクセストークンとして使えません。
画像認識の発展はすごいもので例えばクレジットカード決済に使われるStripeのSDKではカードの画像からクレジットカード番号を入力することができます。数字だけの番号程度なら手でも入れられますし、OCRのタスクで言えば簡単な方だと思います。
QRコードはより人間が入力するのが困難なものほどワークする方式で単なる数字の読み取りに使うにはオーバースペックです。アクセストークンに使った方が真価が発揮できると思います。
仮に免許証と一体化したマイナンバーカードver.2を作るのならそのQRコードは行政サービスへアクセスするアルファベットや数字、記号を含むトークンにすべきではないでしょうか。
例: "A8_97AetX9CvQnvmjKPzSArfAjr3-W289tnL"
QRコードならほぼどのスマートフォンでも読み取れますし、ICカードリーダーも不要なため普及率の向上が期待でき、IDパスワード方式よりセキュアだと思います。
最後に
自分の案に賛同していただける方はぜひ個別のページで賛成を押してください。
もっといい案があるという人はZennのコメントやTwitterに書いてもいいですが、ぜひデジタル改革Idea Boxに投稿しましょう!
デジタル化推進本部の会議を見ると誰もノートPCを持っていないというのが現状みたいなんですよね。最終的にはGitHub上にホストされた日本国憲法リポジトリにプルリク送れるようになってくれくらいには思っていますが、まずは相手の土俵にたつことも重要なのではないかと思います。
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