30分の出会い、あるいはGISという優しい迷路
最近、GISという得体の知れない言葉に心惹かれている。
それは、遠く離れた農地の様子を知りたいという切実な願いから始まった旅路で、私が出会った優しい迷路のようなものだ。今日は、この迷路の入り口を30分だけ歩いてみた。
まずは地理空間データについて。
地理空間データとは、この世界のあらゆる場所に、心臓の鼓動のように刻まれている情報のことらしい。
「ここがどこか」という位置情報と、「この場所がどんな場所か」という特徴(属性情報)が、一つになったデータだという。たとえばテレビやスマートフォンで見る天気予報などがそれに当たる。それはまるで、場所の住所と、そこに住む人の物語がセットになった情報のように感じられた。
そして、その膨大な物語を整理し、地図という美しい形で可視化してくれるのが、GIS(地理情報システム)という名の優しい案内人だ。GISは、このような地理空間データを取り扱うためのシステムであり、ソフトウェアでもある。
地図に物語を載せる、と考えると、途端に難しそうな響きが消えていく。
案内人には二つのタイプがいるようだ。
一つは、有償のプロフェッショナル、ArcGIS。もう一つは、無償で誰にでも門戸を開いてくれる、オープンソースのQGIS。
プログラミングの経験が乏しい私にとって、QGISは「君からでいいよ」と言ってくれる、懐の深い友人のように思えた。
この世界を地図に描くには、いくつかの道具がある。
地図は、原則として点、線、面という図形からできているらしい。
ポイント(点):郵便局や畑の目印。
ライン(線):道路や川の流れ。
ポリゴン(面):区画された畑や行政区域。
これらの図形には、それぞれ異なる物語(属性情報)が紐づけられている。これらを総称して、ベクターデータと呼ぶそうだ。
もう一つの道具は、ラスターデータ。
これは衛星画像や空から撮った写真のような、ピクセルの集合でできた絵画のようなもの。
それぞれのピクセルには、色(RGB)だけでなく、赤外線や近赤外線といった、私たちの目には見えない光の情報が、値として隠されている。
たった30分、本をめくっただけなのに、私の頭の中にあった「地図」という漠然とした概念が、点や線や面、そして無数のピクセルからなる、生き生きとしたデータへと姿を変えていくのを感じた。これは単なる情報のインプットではない。私の心の中に、地図の新しい見方という、小さな種が植え付けられたような気がしている。この種がどんな地図を、どんな物語を育むのか。少し胸が高鳴っている。
参考文献
『ArcGIS Pro ではじめる地理空間データ分析』 桐村喬 著
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