Linux 使いになりたい人向けの Intel N100 ミニ PC で構築する開発環境(15)- VirtualBox
はじめに
これは、Linux 使いになりたい人向けに Intel N100 ミニ PC を使って開発環境を構築する方法を解説する記事の第15弾です。第1弾はLinux 使いになりたい人向けの Intel N100 ミニ PC で構築する開発環境(1) - 構築する開発環境について にあり、そこから第2弾へと続いています。そちらからご覧ください。
ここで使用する Intel N100 ミニ PC の仕様は次のものを前提とします。
項目 | 内容 |
---|---|
OS | Windows 11 Pro |
CPU | Intel N100 |
メモリ | 16GB |
ストレージ | SSD 512 GB |
画面出力端子 | HDMI×2 |
WiFi | 5G/2.4G |
イーサネット | RJ45×1 |
Bluetoot | BT4.2 |
USB | USB3.0×2/USB2.0×2 |
このマシンで最終的に Windows と Ubuntu Desktop が使えるように環境構築することを目指します。zenn.dev を購読している人のレベルを考えると、画面キャプチャはそれほど必要がないと考えているため少なめです。また、説明についても明示しないとわかりにくいと思われるものに絞っているので少なめです。
今回は仮想化ソフトウェア VirtualBox
の環境を用意する方法について説明します。VirtualBox は Windows、macOS、Linux に対応しているので、これを使うと、それぞれの OS で同じように仮想マシンを使えるようになります。
仮想マシンには、VirtualBox をインストールした物理マシンの OS とは別の OS をインストールして利用することができるようになります。お試しの環境を構築して使ったり、少し古い世代の OS の環境を維持したりするために使ったりします。
また、仮想マシンは物理マシンと比べると管理が楽になるので、筆者は普段使う環境も仮想マシンで用意して使っています。仮想マシンであれば、OS の移行作業も仮想環境の中で気軽にできます。
仮想環境だと、やりなおしがしやすいですし、同じマシン上で並行して移行元と移行先の仮想マシンを動かすことができるので、余計なファイルコピーの手間などをかけなくても済みます。仮想マシンはエクスポートしたものを別の物理マシンへインポートして使うことも簡単にできるので、パソコンのリプレース時も短時間で移行作業ができます。また、OS も含めたバックアップも単純なファイルコピーで済みます。
最近は、Docker と Git が動く環境を用意して、必要なデータと環境は Git のリモートリポジトリで管理して、パソコンや OS の設定はクラウドサービスを利用して同期がとれるようにすれば良いので、仮想マシンを使うというのは、少しハードルが高いかもしれません。とはいえ、仮想マシンでないとできないこともありますし、Docker や Git と比較しても、手軽に利用できるものなので、使いこなせるようにしたいところです。
VirtualBox
VirtualBox は、x86 や AMD64/Intel64 の CPU を搭載したコンピュータマシンを仮想化するためのソフトウェアです。このソフトウェアを使うと、仮想マシンというものを用意して、それに OS をインストールして動かすことができます。
公式サイトは https://www.virtualbox.org/ にあります。ライセンスは GNU General Public License (GPL) version 3 で配布されているため、無償で利用できます。
VirtualBox 公式サイト
VirtualBox を使うと、次のようなメリットがあるため、非常に便利です。
- 仮想マシン上に物理マシンの OS とは別の OS の環境を構築可能
- 物理マシンで設定ミスをしたときに復旧するのが大変な場合でも、仮想マシンであれば手軽に復旧可能
- 興味を持った OS を仮想マシンへインストールして試用することが、物理マシンを使うよりも手軽に実現可能
VirtualBox は、基本的に Intel や AMD の CPU 向けの OS で動作可能です。次のパソコン向けの主要な OS に対応しています。
- Windows
- Linux
- macOS
最新の VirtualBox では、ハードウェアによる仮想化支援機能が必須となっているため、次のいずれかの機能を持つ CPU が必要です。
- VT-x (Intel 系の CPU)
- AMD-V (AMD 系の CPU)
そのため、VirtualBox を使用したい場合は、それなりに高性能なマシンが必要になります。高性能な CPU 以外にも、十分なメモリとディスクドライブ容量を備えたマシンを用意することをおすすめします。
VirtualBox をインストールしたら、実際に仮想マシンを作成して使ってみましょう。ここでは次の内容について説明します。
- 仮想マシン新規作成時に指定する項目
- 仮想マシン新規作成方法
- 仮想マシンの基本設定項目
- 仮想マシンの UEFI 設定画面の使い方
仮想マシンを作成したら OS をインストールしてみたいと思うところですが、ここでは、その前に理解しておいた方が良い基本事項について説明します。
仮想マシンに OS をインストールするにしても、どんな設定がされた仮想マシンを使うのか、ソフトウェアを起動するものの優先順はどう指定するのか、UEFI 設定画面ではどんな指定ができるのか、といったことを理解しておいた方が、作業がしやすくなります。
UEFI というのは、Unified Extensible Firmware Interface(ユニファイド・エクステンシブル・ファームウェア・インターフェース) の略で、オペレーティングシステムとマシンのファームウェアとの間のソフトウェアインターフェースを定義する仕様です。UEFI は EFI(Extensible Firmware Interface、エクステンシブル・ファームウェア・インターフェース)と呼ばれることもあります。
UEFI 設定画面を表示して、CPU やメモリの細かい設定や、起動デバイスの選択ができます。ここでは、仮想マシンの設定画面で指定できる基本項目と、UEFI 設定画面で指定できる項目について、簡単な内容ですが先に説明します。
なお、こういった仮想マシンで UEFI 設定画面の操作に慣れておくと、物理マシンで UEFI 設定画面を操作するハードルが下がるというのもあります。物理マシンで UEFI 設定を間違えるとマシンの動作が不安定になったり、故障の原因になったりしますが、仮想マシンではそういった心配はありません。間違えてわからなくなっても、リセットしたり、仮想マシンを作り直したりすれば良いだけです。
いずれにせよ、ここで仮想マシンの設定についての基本を理解するようにしましょう。
仮想マシンの設計と新規作成
仮想マシンを使うにあたっては、どんな仮想マシンを用意するのか設計してから新規作成します。新しいパソコンを購入するときに、どんなスペックのものにするかを決めるのと同じです。
設計といっても、基本は仮想マシン作成時に指定する項目について、どういった値を指定するか決めておくだけのことです。ホストマシンのパーツや使っている OS に依存する部分もあります。
設計ができたら、実際に仮想マシンを新規作成してみます。
仮想マシンの設計
それでは、仮想マシンの設計をしてみましょう。新しいパソコンを購入するときに、使用する CPU の性能、メインメモリの容量、ディスク容量といったことを決めるのと同じで、これらについてどうするか決めます。
先に指定する項目を表にまとめておくと、次のようになります。
項目 | 値 |
---|---|
マシン名 | SampleWin11 |
マシンのフォルダ | C:\Users\user001\VirtualBox VMs\SampleWin11 |
ゲスト OS のタイプ | Windows 11(64bit) |
メインメモリー | 4096 |
プロセッサー数 | 2 |
EFI 有効化 | true |
ディスクサイズ | 80.00 GB |
Pre-allocate Full Size | false |
メインメモリーやプロセッサー数は使用しているホストマシンの性能によって変えた方が良いので、参考値だと考えてください。
この内容に従って、仮想マシンを新規に作成することにします。
仮想マシンの設計についての説明
項目を見ただけでわかる人は良いのですが、各項目についての説明を知りたい人もいると思うので、簡単に説明します。
最初に、マシン名を決めます。ここでは OS に Windows 11 を使う想定で、サンプルとして用意するので、SampleWin11 とします。
- マシン名: SampleWin11
次に、仮想マシンのフォルダを決めます。Windows に VirtualBox をインストールすると、C:\Users\user001\VirtualBox VMs
がデフォルトの仮想マシン用フォルダになります。ここに、マシン名と同じ名前のフォルダを用意するのが良いでしょう。ここでは、C:\Users\user001\VirtualBox VMs\SampleWin11
とします。
- マシンのフォルダ:
C:\Users\user001\VirtualBox VMs\SampleWin11
次に、ゲスト OS のタイプを決めます。仮想マシンへインストールする OS のタイプによって VirtualBox が用意する仮想マシンの機能が少し変わります。ここでは、Windows 11 をインストールできるように、Windows 11 とします。ここで想定している VirtualBox を動かすパソコンの CPU は 64bit 版なので、それに合わせて Windows 11(64bit) にします。
- ゲスト OS のタイプ: Windows 11(64bit)
次に、メインメモリーの容量を決めます。ホストマシンのメインメモリーを仮想マシンへ割り当てることになります。ホストマシンが動かなくならないようにしつつ、仮想マシンへ割り当てても良い分を MB 単位で指定します。
ここでは仮想マシンの UEFI 設定画面が表示できれば十分なので 4096 としてあります。512 でも十分すぎるでしょう。実際に Windows をインストールする場合は 8192 以上あった方が良いでしょう。
- メインメモリー: 4096 MB
次に、プロセッサー数を決めます。これは、仮想マシンの CPU の性能に関係してきます。こちらもメインメモリーと同様にホストマシンの CPU が提供できる範囲内での指定となります。ホストマシンが動かなくならないようにしつつ、仮想マシンへ割り当てても良い分を指定します。ここでは 1 でも大丈夫です。Windows を実際に動作させたいのなら、最低 2 は指定したいところです。
- プロセッサー数: 2
次に、EFI を有効化するかどうかも決めます。最近のマシンは EFI 対応のものも多いですし、Windows 11 も EFI に対応しています。ここでは EFI を有効化することにします。
- EFI 有効化: true
最後に、用意するディスクのサイズを決めます。基本的にはホストマシンのディスク空き容量の範囲で指定できる容量を GB 単位で指定します。ここでは 80.00 GBにすることにします。
- ディスクサイズ: 80.00 GB
なお、ディスクを作成するときには「Pre-allocate Full Size」という項目の有効化についても決めます。これを有効化すると、指定した容量の仮想ハードディスク用のファイルが作成されますが、有効化しなければ使用する分のサイズの仮想ハードディスク用のファイルが作成されます。
「Pre-allocate Full Size」を有効化して作成した仮想ハードディスクの方が性能は良いのですが、ここでは試しに作ってみるだけなので、使用するディスク容量が少なくて済む方にします。ということで、ここでは有効化しません。
- Pre-allocate Full Size: false
仮想マシンの新規作成
それでは、設計した内容に従って、仮想マシンを作成してみます。仮想マシンを新規に作成するには、VirtualBox のメニューで「仮想マシン」-「新規」をクリックします。
仮想マシンの新規作成
すると、仮想マシンの名前と OS の指定をする画面が表示されます。設計した内容に従って各項目を指定します。
仮想マシンの名前と OS の指定
マシン名に SampleWin11 を指定します。Folder はデフォルトのままで良いです。こうしておくことで、Folder名/マシン名
のフォルダー(つまり C:/Users/user001/VirtualBox VMs/SampleWin11
)に仮想マシンの設定ファイルなどが作成されます。
OS については、タイプとバージョンを指定します。ここでは Windows 11(64bit) を指定する設計としたので、タイプに「Microsoft Windows」、バージョンに「Windows 11(64bit)」を選択します。
なお、通常は ISO Image に OS のインストールに使うメディアを指定するのですが、ここでは OS のインストールはしないので「<選択されていません>」のままにします。
「次へ」をクリックすると、仮想マシンのメモリと CPU の指定をする画面になります。
仮想マシンのメモリと CPU の指定
メモリー、Processors ともに、緑色の範囲内で値を指定します。「Enable EFI(special OSes only)」については、Windows 11 は EFI 有効化に対応しているので、チェックを入れます。
それから、「次へ」をクリックすると、仮想マシン用の仮想ハードディスクを作成する画面になります。
仮想ハードディスクの作成
ここでは、仮想ハードディスクを新規作成するので「Create a Virtual Hard Disk Now」を選択して、容量を GB 単位で指定します。使用しているホストマシンのディスク容量を考慮しつつ、必要な容量を指定します。
「Pre-allocate Full Size」については設計時に説明した通りです。ここでは試しに作ってみるだけなので、チェックはしません。これで、使用するディスク容量が少なくて済みます。
それから「次へ」をクリックすると、新規作成する仮想マシンの概要が表示されます。
新規作成する仮想マシンの概要
内容を確認して良ければ「完了」をクリックします。これで、SampleWin11 の仮想マシンが作成されます。また、VirtualBox の画面の仮想マシンの一覧に SampleWin11 が追加されます。
仮想マシンの起動と停止
それでは仮想マシンを起動させてみましょう。OS をインストールしていないので、どの仮想マシンにも最初から用意されている、基本設定用の画面を表示するプログラムを使って動作確認します。
基本設定用の画面については、最近の Windows では EFI を使うので、今回作成した仮想マシンでは UEFI の設定画面を表示するプログラムが使えます。ちなみに、ここでは使いませんが、EFI を使わない仮想マシンでは BIOS の設定画面を表示するプログラムが使えます。
仮想マシンの起動
仮想マシンを起動するには、一覧にある仮想マシンのコンテキストメニューの「起動」-「通常起動」をクリックします。
仮想マシンの起動
仮想マシンのウィンドウが表示されるので、Esc キーを連打して入力します。きちんと Esc キーが入力されると、UEFI 設定画面が表示されます。
仮想マシンの UEFI 設定画面
仮想マシン起動時に、マウスやキーボードを認識して、それらに関する情報が画面の右側に表示されます。
右側に表示されている通知枠は右上の赤い✕印がついたアイコン(マウスオーバーすると Delete finished notifications と表示されるアイコン)をクリックすると消すことができます。これ以降、通知枠は必要ないので消して画面キャプチャをしてあります。
UEFI 設定画面
それでは UEFI 設定画面を使ってみましょう。
ここでは仮想マシンを起動するときのデバイスについて確認するために「Boot Manager」を表示してみます。矢印キーを使って図のように「Boot Manager」を選びます。
Boot Manager の選択
それから Enter キーを入力します。すると Boot Manager の画面が次のように表示されます。
Boot Manager の画面
この画面から、起動方法が次の4つあることがわかります。優先度が高い順に次のようになります。
- UEFI VBOX CD-ROM(仮想 CD ドライブ)
- UEFI VBOX HARDDISK(仮想ハードディスク)
- EFI Internal Shell(EFI のシェル)
- UEFI PXEv4(仮想ネットワーク)
図では VB1-1a2b3c4d、VB999a45fd-d4a9a4ba、MAC:080027165698 といった情報もついていますが、これらは仮想マシンごとに変わります。
英語で説明があるように、ここでは、どの起動オプションを使うか選択して Enter キーを入力することで、選択したものを使って起動ができます。ここではどれを選んでも OS の起動はできないので、Esc キーで前の画面に戻ります。このように UEFI 設定画面で前の画面に戻るときは基本的に Esc キーを入力します。
ここで、UEFI の設定画面は、起動オプションの優先度を変えたいときに使うことが多いです。この優先度を変更するには Boot Maintenance Manager を使います。
最初の画面で Boot Maintenance Manager を選択して Enter キーを入力します。すると、次の Boot Maintenance Manager の画面になります。
Boot Maintenance Manager の画面
起動オプションの優先度の設定画面は、Boot Options の画面内から表示できます。Boot Options を選択した状態で Enter キーを入力します。すると、Boot Options の画面になります。
ここに起動オプションの優先度を変えるための Change Boot Order というメニュー項目があるので、これを選択します。
Boot Options の画面
それから Enter キーを入力します。すると、次の Change Boot Order の画面になります。
Change Boot Order の画面
Change Boot Order の画面を見るとわかるように、ここでは起動の優先度を変えることができる、次の3つが表示されています。
- UEFI VBOX CD-ROM(仮想 CD ドライブ)
- UEFI VBOX HARDDISK(仮想ハードディスク)
- UEFI PXEv4(仮想ネットワーク)
これらは「Boot Manager の画面」で表示されていました。ただし、「Boot Manager の画面」にはあった EFI Internal Shell は含まれていません。これについては優先度の変更ができません。
右側の Change the order を選択して Enter キーを入力すると、次のように起動の優先度を変更できる画面になります。
起動の優先度を変更する画面
画面下の説明にあるように、選択したものの起動優先度を上げるには + キーを入力、下げるには - キーを入力します。優先度を変更したら Enter キーを入力します。すると、Change Boot Order の画面に戻ります。
変更した優先度を確定するには、Commit Changes and Exit を選択します。
変更した優先度の確定
もし、変更した優先度を確定せずに、変更を破棄するには、Discard Changes and Exit を選択します。
優先度の変更を破棄
それから Enter キーを入力します。Change Boot Order の画面で Commit Changes and Exit、Discard Changes and Exit のどちらを選択しても、Enter キーを入力すると Boot Options の画面に戻ります。設定画面の確認ができたので、最初の画面まで戻ります。
最初の画面に戻るには、Esc キーを何度か入力します。Esc キーを入力すると、メニュー階層の上の画面に戻れるからです。最初の画面で Continue を選択して Enter キーを入力すると、起動の優先順に従って仮想マシンの起動処理が進みます。Reset を選択して Enter キーを入力すると、仮想マシンは再起動します。
Continue か Reset を選択
いずれにせよ、仮想マシンで使う OS を用意していないので、エラーが表示されて先に進まなくなります。
仮想マシンの停止
仮想マシンを終了させるには仮想マシンの電源をオフとします。
UEFI 設定画面を動かすソフトウェアには、処理を終了させる機能がないので、仮想マシンの電源をオフとしないと、仮想マシンを終了させることができません。
仮想マシンの電源をオフとするには、VirtualBox のメニューで「ファイル」-「閉じる」をクリックします。
仮想マシンの終了(メニュー)
仮想マシンの終了(ウィンドウを閉じる)
ここで、VirtualBox を終了するときは次のように「操作を選択する画面」が表示されます。
仮想マシンの終了 操作を選択する画面
「仮想マシンの状態を保存して終了」をすると、次回起動時に現在の状態をリストアして再開することができます。つまり、いったん作業を停止して、再開できるように仮想マシンを終了したい場合は、これを選択します。そうすると、次回の仮想マシン起動時には、この UEFI 設定画面から再開することができるということになります。
ここでは、仮想マシンの動作確認をするために、この UEFI 設定画面を表示させただけなので、次回の起動時にこの画面から始める必要はありません。操作を選択する画面で「仮想マシンの電源オフ」を選択して「OK」をクリックします。こうすると、次回の起動時に現在の状態は反映されません。
なお、操作の選択にある「シャットダウン シグナル送信」を使って終了させることができる OS もあります。そういった OS を使っているときは、これを選択することもあります。
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