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チーム開発におけるバグと責任 - 個人を責めない文化が組織を強くする

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はじめに - バグと責任は「個人」ではなく「チーム」の問題である

個人が業務で書いたコードは、厳密には「個人のコード」ではなく「チームのコード」である。なぜなら、チームメンバーによるレビューを経てマージされる以上、その成果物はチーム全体の合意と責任のもとに成立しているからだ。

しかし、プロダクトで設計ミスやバグが発生した際、その責任を設計者や実装者の個人に押し付けようとするエンジニアが一定数いる。

前述の通り、設計や実装はチームの合意によって成立している以上、責任もまたチームに帰属するべきである。それにもかかわらず責任を個人に向けてしまうのは、そのエンジニア個人の問題というより、そうした振る舞いを生むチーム文化や習慣に問題がある場合が多い。

チームが設計ミスやバグを「悪」とみなし、成長の機会として捉えない文化になっていると、責任のなすりつけ合いが発生しやすい。結果として、自責で向き合うべき部分があるにもかかわらず、他責に走るエンジニアが生まれてしまうのである。

ここでの問題は、「他責にするエンジニアが存在すること」と同時に、「チームがそれを許容する構造になっていること」である。責任転嫁が放置されることで、個々の学習機会は奪われ、チームの改善速度も低下していく。

では、このような状況に対する解決策としては何が挙げられるだろうか。

解決策

1. チームの原則として “Blameless” を明示する

インシデントやバグの原因を「誰がやったか」ではなく「何が起きたのか」「なぜ起きたのか」に集中する、いわゆる Blameless Postmortem の考え方を明確に共有する。これにより、責任転嫁ではなく、学びと改善の文化を育む土壌が整う。

2. レビューは “共同責任” として扱う

「LGTM を押した時点でチーム全体の承認である」という認識を揃え、コードレビューにおける責任は分散されるべきものだと明確にする。これにより、特定の個人にだけ責任の矛先が向く状況を減らせる。

3. 再発防止の議論を仕組みとして固定化する

ミスが出たときには「このバグはどうすれば防げたのか?」をチームで議論し、再発防止策を必ずプロセスに落とし込む。「バグを学びの機会として活用し」「仕組みとして改善し、チームの文化に落とし込む」ことが重要だと考えている。

4. バグ対応の優先度付けを明確にする

全てのバグを即対応すれば、開発の流れが止まり、チームのスピードが落ちる。「すべてのバグに即対応するわけではなく、『どのバグをどのタイミングで対応するか?』を見極めることが重要」だと考えている。

バグの影響範囲や発生頻度、ユーザー影響度を軸に優先順位をつけ、対応戦略をチームで共有する。

5. 心理的安全性と報告文化を整える

他責になってしまう背景には、「責められる恐怖」「評価が下がる不安」がある。「バグ報告をしにくい雰囲気がないか? バグ報告を歓迎する文化を作る」ことがマネジメント課題として挙げられている。 
チームが「バグを見つけてくれてありがとう」「仕組みを強くしてくれてありがとう」という姿勢を示すことが、健全な改善文化を育む。

6. リーダーが責任の取り方の模範を見せる

リーダーが「失敗の責任はチームのもの」「改善の責任を持つ」という姿勢を取ると、他者責任の文化は急速に減衰する。組織文化の矯正には、リーダーシップの振る舞いが極めて重要である。

まとめ

設計ミスやバグを個人の責任として扱う文化は、エンジニア個人を萎縮させ、チームの学習速度を低下させる。本来、コードも設計もチームの合意によって成立している以上、責任もまたチーム全体にあるべきである。

そして、「他責に走る個人そのもの」よりも、「それを許容し、改善できないまま放置するチーム文化」こそが根本的な課題である。解決のためには、Blameless の原則、仕組みとしての再発防止、バグ対応の優先度付け、心理的安全性、リーダーシップのあり方など、文化とプロセスの両面からのアプローチが求められる。

バグは必ず発生するが、その向き合い方次第で、チームはより強くなれる。
チームとして、この機会を“改善と成長”の糧に変えていきたい。

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