ウェブアクセシビリティの優先順位わからん問題
はじめに
こんにちは、webエンジニアのひらりーです。
アクセシビリティについて対応を本格的にはじめる組織が増えていますが、関係者によって温度差があり歯痒い思いをすることはないでしょうか。この記事では、ビジネスとのバランスを基点に、
アクセシビリティ対応の優先順位ってプロジェクトによって違うよね
という当然のことについて、改めて考えてみます。
1. ウェブアクセシビリティ対応は義務なのか
大前提となる部分なので押さえておきます。
アクセシビリティ対応は、障害者差別解消法に基づいて、企業には 「合理的配慮の提供」 が義務付けられています。
ウェブアクセシビリティを確保することは 「環境の整備」として努力義務 になっています。
簡単に言うと、法律的には必須ではないけれど、 できる範囲での対応 が求められています。日本でも2024年4月に施行されましたが、まだ全体的には緩やかな義務です。
2. ウェブアクセシビリティ対応のコスパ
気になりますよね、コスパ。
企業が利益を追求する以上、コスパを無視することはできません。
コスト
私自身、現在進行形で取り組んでいますが、対応のコストは高いと言わざるをえません。
知識の範囲が広く、エンジニアだけでなくデザイナーや組織全体の理解も必要です。 デザイン自体を見直す必要 が出ることも多いです。
メリット
例えば多言語対応と比べると、効果が数字に表れるものではないので、アクセシビリティ対応は直接的な利益を見込むのが難しいです。
他言語対応は一度対応すると以降のメンテナンスが必要となり、ある種負債と見ることもできますが、アクセシビリティ対応は一度対応してしまえば継続的に効果が現れるため、長期的な投資になると言えるでしょう。
そして、副次的な効果として、ユーザビリティやSEOの向上 が期待できます。アクセシビリティの達成には、認知しやすい画面/動線設計や、ウェブ標準に準拠したセマンティックなコーディングが必要だからです。
即時的な効果は測定しにくいものの、 品質のベースを底上げする ことで間接的に効果が得られるとも言えるでしょう。
コスパまとめ
アクセシビリティ対応の優先順位は、ビジネスの状況に大きく左右されます。
特にスタートアップや小規模プロジェクトでは、他に優先すべき課題が多く、対応が後回しになるのは妥当な判断と言えるでしょう。
コスパについては短期的な投資対効果だけでなく、長期的なブランド価値や品質の向上を見据えた取り組みとして検討すべきでしょう。
3. で、なんで必要なの?
ゴチャゴチャ書きましたが、ここが本題です。
ぶっちゃけ、なんでこんなに需要が高まっているの? その要因をもう少し深掘りしてみます。
理由1. 障害を、労働市場の多様性の一部として
労働市場において、性別や出自の差別によって不公平が生じてはいけない、というのは当然のこととして認識されていると思います。
一方で、"障害"を労働市場において、どのように位置付けるかは、マインドセットの変革期にあります。
障害を、労働市場の中にある多様性の一つとして位置付け直していく という考えに立てば、健全な労働市場が形成するためにアクセシビリティを担保する必要があることは自明になります。
理由2. "少数派" を "不利益" にしているのは誰?
我々が日常的に使用するサービスは、多数派の身体特徴や認知特性に基づいたデザインで溢れています。
身体特徴・認知特性の数的マジョリティが、それへのアクセス権についても当然のようにマジョリティである社会や文化に対して、なんともいえない「居心地の悪さ」を感じないでしょうか。
我々は多数派であることに慣れすぎている。
少数派に属することをハズレくじ扱いにしているのは、誰でしょう。
- "目"で、文字を追うことができるのは、"当然の" 権利なのでしょうか?
- 小さなボタンを労せず押すことができるのは、"当然の" 権利なのでしょうか?
- 色鮮やかなブランドページに感動することができるのは、"当然の" 権利なのでしょうか?
社会や文化をつくっている当事者として、提供する価値をもう一度見つめ直すべきだという温度が高まっています。
4. まとめ
アクセシビリティ対応に取り組む事業者が増えてきているのは、先に挙げた「居心地の悪さ」や「労働市場の多様性」のような社会・文化的関心が高まってきている現れでしょう。
その答えを検討・議論すること。そのログを残し、提示できる状態にすることが、「アクセシビリティ」への態度の第一歩であり、求められている対応そのものでもあります。
エンジニアであれば、まずは div
を button
に直す、みたいなPRをおもむろに送りつけるとか、小さな一歩から関心の火種を起こしてみるのもいいかもしれません。
余談
実は私の父は寝たきりです。YouTubeを一日中ずっと観て過ごす姿を見たりして、このテーマをすごく身近な問題だと感じています。しかしだからこそ冷静に、 ビジネスと社会的責任のバランスを考える ことが必要だと思っています。
このテーマを話すとき、どうしても「必要」な立場の声が大きくなってしまいがちです。
しかし、中立的な意見や反対意見も増えることで、組織が自分たちのできる範囲で取り組みしやすくなんじゃないかな、という思いからこの記事を書きました。
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