百番煎じのNTT退職エントリ

2023/06/24に公開1

2023年6月末をもって、約7年間勤めたNTT研究所を退職することになりました。7月からは外資系IT企業でデータサイエンティストとして働く予定です。これまでは研究員として、ネットワーク運用を支援するための機械学習について研究してきました。これからはエンジニアリングやデータ分析を生業にしていきます。

この記事は、僕がなぜNTTをやめたのかをまとめた、いわゆるNTT退職エントリというやつです。NTT退職エントリという言葉が定着したのは、以下のkumagiさんの伝説の記事がきっかけでしょう。
https://kumagi.hatenablog.com/entry/exit-from-ntt
この記事が公開されたのが4,5年前でしょうか。公開以降、NTT退職エントリというものがあちこちで書かれたので何番煎じなのかも不明なのですが、自分自身の記録として残しておこうと思います。

NTT退職エントリを読んでいる方の中には、NTTへの入社を検討している人もいるでしょう。NTTの一般的なメリットとデメリットは以下のNTT退職エントリのまとめ記事に整理されています。
https://unistyleinc.com/columns/607
この記事にメリットとデメリットが3つずつ挙げられていますが、僕も中の人として同意します。以下に引用しておきます。

  • メリット
    1. いい人が多く、クビにならない
    2. 「ホワイト企業」の代名詞
    3. 世間で言う安定性は抜群(と思われる)
  • デメリット
    1. 効率性・スピード感の欠如
    2. 給与には満足していない社員も一定数いる
    3. 夢ある仕事?でも実際は...

こう思っておけば入社後もギャップはないはずです。これらの特徴は"NTTグループ"の特徴として書かれていますが、"NTT研究所"でも同様です。NTTに向いているかどうかを考えたいときは、これらのメリットに魅力を感じ、デメリットが気にならないのであれば良いと思います。給料をそこそこもらいながら、おだやかな人たちとまったり真面目に働きたいのならオススメです。逆に血気盛んで、徹夜上等でバリバリと働いて高い給料をもらいたい人にはオススメできないです。

この退職エントリは、僕自身の主観的な考えだけで構成されています。ただ単に、僕がやめた理由の論理展開を書いていきます。僕が自分の考えや気持ちを整理するために書いているという側面が強いです。僕自身は、円満に退職できたと思っていますし、今でも中の人たちのことは大好きです。

退職理由

僕がNTTを退職する理由は、順を追って説明する必要があります。

まずきっかけとなったのは、機械学習やデータ分析でもっと様々な分野の事業に貢献したいと思ったことです。これまでは研究者という立場から、研究はもちろん開発やコンサル的な仕事も経験してきました。もちろん研究も楽しかったのですが、どちらかというと事業に貢献できる開発やデータ分析のほうが楽しくやりがいを感じたのです。なので、いっそのこと研究者という肩書は捨ててしまい、エンジニア[1]という肩書で働きたくなりました。

ただし、研究というものが嫌いではないですし、完全に研究から離れたいというわけでもないです。論文を読むことで最新の研究成果とかはある程度わかるので、そういうものをもっと社会に還元できるような働き方が理想的かなと思ってます。あくまで捨てたのは"肩書"だけということにしたいですね。

研究者としてではなく、エンジニアとして働きたいというお気持ちになったというのは、あくまで退職を考えるきっかけです。僕は元々研究をしたくて、修士課程を修了後にNTT研究所に新卒で入社しました。研究をやりたいというのは、NTTに在籍する理由の大前提だったわけです。その大前提が変化したので、これまで気にならなかったことが気になってきてしまい、それらが退職理由となりました。退職理由には大なり小なりいろいろなものがあるのですが、僕が実際に退職に踏み切った、クリティカルな理由は以下の3つです。

  1. 部署と自身の専門性のミスマッチ
  2. 異動のハードルの高さ
  3. お客の反応とより良い待遇が欲しい

以下にそれぞれの詳細について述べていきます。

1. 部署と自身の専門性のミスマッチ

僕はネットワークイノベーションセンタ(Network Innovation Center, 以下NIC)という部署に所属しています。NICは主に通信ネットワーク分野の実用化研究と開発を行う部署です。前身となった部署は、日本に張り巡らされているネットワークシステムの開発を担っていました。現在NICに所属する管理職は、その超大規模開発を担当していた人が多く、その時の思い出話は飲み会等でよく聞いたものです。

僕の専門は機械学習やデータ分析あたりです。はっきり言うと、 僕の専門性は部署のメインストリームからは外れております。 自分で言うのもなんですが、NICにおいては理論・実装両面で一番詳しかったという自負があります。部署内で一番詳しい人、というのは何かと都合が良い面はありました。しかし、31歳という年齢や平の研究員という役職を考慮すると、看過できないデメリットもたくさんあります。以下にそれらをまとめておきます。

  • 小ぢんまりした仕事
    機械学習やデータ分析をできる人が他にいないので、どうしても一人親方的な働き方になってしまいます。一人で仕事をするのには限界があり、このままでは社会に大きな影響を与えるような仕事は絶対に出来ないと思いました。部署のメインストリームから外れているので自分の仕事の仲間を増やすというのも困難でした。困難というより、気が引けた、という表現のほうが正しいかもしれません。本当はもう少したくさんの人と働いてみたいんですよね。

  • ドメインの狭さ
    所属部署がネットワーク系の部署なので、当然仕事の対象はネットワーク分野の話になってきます。これはこれでやりがいがあって楽しかったのですが、僕自身はもっといろいろなことに挑戦したいのです。ほら、世の中はChatGPTとか画像生成AIとか出てきてるじゃないですか。そういうキラキラした世界へも憧れがあります。ミーハーな気持ちもありますが、やはりまだまだいろいろなドメインを経験したいんです。

  • 俺がルール
    一番身近な人たちと専門性が違うと何が一番怖いかというと、 誰も僕の間違いを指摘できないことです。NIC内では、最近は機械学習に関しては僕が白といえば白になりますし、黒といえば黒になります。この状況も楽でいいかもしれませんが、自分の成長という観点でみれば全く美味しくないのは皆さんのご想像のとおりです。僕もまだ31歳です。今の知識の貯金だけではとても一生を乗り越えることはできないでしょう。機械学習やデータ分析で切磋琢磨できる仲間が欲しかったのです・・・、切実に。

  • 共用できる計算機環境がない
    機械学習、特に深層学習を武器にする組織は何らかの手段でGPUを大量に備えた大規模な計算機環境を用意することが必須でしょう。それは自前でサーバを用意することかもしれませんし、AWSやGCP等のクラウドサービスを利用することかもしれません。NTTは基本的に縦割り組織なので、このような環境は部署毎に用意する必要があります。部署によらず社員であれば使えるGPU環境というのもあったのですが、なぜか最近無くなりました。僕は今までその社員であれば使えるGPU環境をヘビーユースしてきたので、今後は自分で用意する必要が出てきたのです。部署内でほとんど自分一人しか使わない大規模な計算機環境を自分一人で準備することのコストを考えると目眩がしました。 部署内に僕と同じように使う人が何人もいる場合は費用対効果も良いと思うのでやったかもしれませんが、これはあまりにも割に合わない。そもそも僕は計算機を利用したい人であり、できればこういう環境の用意は誰かにやってほしいタイプの人間というのもあります。

デメリットをいろいろと述べましたが、自分の専門性を活かした、事業や社会に貢献できる大きな仕事をするチャンスが極端に少ないということが一番の問題だと思います。所属部署と自身の専門性のミスマッチは、僕がやりたいことの弊害としては大きすぎましたし、その他の付随するデメリットも軽微なものではなかったのです。

ただ、こんなミスマッチが起きてしまったのは、NTTという会社の懐の大きさの現れだとも考えています。普通、こんなネットワーク系の部署で7年間も機械学習やデータ分析に関することをさせてもらえないと思います。僕がやりたいと上司に言ったものを、そのままさせてくれました。そしてそれなりな評価もしてくれているという実感もあります。この点は本当に感謝しかないです。誰か悪い人がいたわけではないですし、本当に、本当に良い会社だと思います。

2. 異動のハードルの高さ

部署の仕事内容が合わないのであれば、「異動を申し出れば良かったのでは?」という意見があるかと思います。NTTはITについて手広くやっているので、当然僕が興味あるような部署はどこかにはあります。おまけに外の部署にはツヨツヨ人材もめちゃくちゃいます。この意見はその通りで、もちろん僕も異動をしたいといろいろな人に相談しました。まとめると会社からの回答は以下の通りです。

  • 気持ちは理解した
  • 少なくとも半年はないし、最悪1年以上かかるかも
  • とりあえず待っててくれ

・・・まぁ、こんなの待てるわけないですよね。転職したほうが圧倒的に早いし楽です。おまけに選択肢も無限大。やはりNTTは異動のハードルが高いのかなと思います。いや、主語がでかかったかもしれません。僕の周囲ではそうだったのかもしれないので、簡単な場合もあるかもしれません。他の大きな会社もこれくらいはかかるのかな。一応社内公募みたいな制度はありますが、印象としては選択肢も少ないですし手間も転職活動と大して変わらないと思います。

NTT内での異動の難しさをもう少し語ると、異動後も将来的には元の部署に戻されます。 なぜか、新卒で入社したときの部署に再び戻されるのです。特に、研究所からグループ会社に出向した後、再び研究所に戻ってくるタイミングでこの現象が発生します。この、どう足掻いても入社時の初期配属の部署に戻ってくる呪いを、 "背番号" と社内では言ったりします[2]。NTTに入社した人は、"背番号"という呪いが例外なく付与されます。僕の場合はどこで何をしようが、NTTグループ内にいる限りはいずれNICに戻ってくるのです。折角苦労して異動したとしても、本質的には解決しないわけです。おそらく、初期配属の部署でゆくゆくは管理職になることを会社は強く期待して新卒採用をしているからなんだと想像しています。異動したい人の視点から見れば呪いですが、初期配属が好きな人にとってはこれはメリットになり得ると思います。自分に合わない部署に異動になったとしても、いつかは帰れるという希望になるので。

僕がどれだけ機械学習やデータ分析の専門性を伸ばしつつ順調に出世したとしても、"背番号"の存在によって、仕事での専門性のより大きなミスマッチがいずれ起こります。僕はNTTにいる限り、自分の専門を活かした仕事でのチームリーダーや管理職にはなれない可能性が高いのです。 何もしない場合、NTTで一番あり得る未来は、ネットワーク技術のチームリーダーか管理職です。世情や組織の事情を踏まえて自らの専門を柔軟に更新するというのも大事なのですが、転職することで回避できるのにあえて受け入れる必要はないと考えました。

一応補足として順序関係を言っておくと、転職活動を本格的にスタートした直後に、会社に異動したい旨のことを伝えました。しかし、異動のハードルの高さのことは知っていたので、元々あんまり期待していなかったです。会社に相談した段階では99%転職したいと思ってました。言ってみてやっぱり無理だよなーと確信して転職活動に集中することにしました。

3. お客の反応とより良い待遇が欲しい

所属部署での専門性のミスマッチや異動のハードルの高さのような、社内に閉じた理由だけではなくて、外にもっと魅力的な会社があるのを知っていたというのも、退職の理由です。 実は元々情報収集のために転職活動はしたことがありました。会社の内外の諸先輩方には、転職するつもりはなくても転職活動はしたほうが良いというアドバイスはよく受けていました。これは本当にその通りだと思います。エージェントと話をしたりカジュアル面談を何社か受けた程度でしたが、自分の市場価値もわかり、外には魅力的な会社があるんだなというのを知ることができました。その時の感想は、「研究にこだわらなければこんなに楽しそうで待遇も良い会社があるんだ」というものでした。

上述したように、元々僕は研究をしたくてNTTに新卒で入社しました。入社して程なくして実感したのですが、研究をする組織としてNTTは最高峰の組織です。 何より研究費が潤沢であり、優秀な研究者が集まっています。これは少し残念な話でもあるのですが、給料をもらいながら研究をできる組織というのは、それほど数があるわけではありません。定年まで面倒をみてくれる、という条件をつければ更に少なくなります。そんな中でもNTTでは、クビになる心配がなく、給料もそれなりの水準でもらえます。NTTは、生活面を心配することなく研究に集中できる、日本では絶滅危惧種のような貴重な組織なのです[3]

しかしながら、研究ではなくて開発やエンジニアリングをしたいとなるとそんなに貴重ではないというのが現実です。ITの開発・エンジニアリングを行っている企業はそれこそ星の数ほどあります。星の数ほどある開発・エンジニア界隈の企業の中には、NTTよりも自分に合い、待遇の良い会社はたくさんあるのです。 NTT研究所出身で退職エントリを書いている人の多くはソフトウェアエンジニアですよね。僕と似たように感じた人は多いのではないでしょうか。開発志向の人は待遇面を理由に多くやめていますが、実は基礎研究を頑張っている人は待遇面を理由にやめている印象はあまりありません。

開発やエンジニアリングをやりたい時に個人的に気になるのは、NTT研究所はサービスの利用者との距離があまりにも遠いということです。サービスやプロダクトを世に出しお金を稼いでいるのはNTT東日本・西日本・ドコモ・コミュニケーションズ・データ等のNTTグループ会社です。我々研究所の人間は、それらグループ会社のための技術を生み出すのが基本的なお仕事です。その技術を使うのはグループ会社のエンジニアです。つまり、研究所が直接相手にすることになるのはグループ会社のエンジニアであり、サービスやプロダクトのユーザではありません。自分が開発したプロダクトが世の中に受け入れられているかどうかがすごくわかりづらいのです。 僕は折角ならお客さんの声を聞きたいので、もう少しサービスに寄ったところで働きたいです。

上述した通り、僕は研究よりもエンジニアリングやデータ分析で身を立てたいと思ってしまいました。NTTも魅力的な会社ですが、NTTグループ外にもっと魅力的な会社があることに気づいてしまったのです。今考えてみれば、他の会社での待遇の良さを知ってしまったことがエンジニアリングやデータ分析に注力したいと思った理由かもしれないですね。待遇の良さというのは、企業から自身への評価の現れのため、自己肯定感を高めてくれます。エンジニアリングやデータ分析が楽しく、もっとお客の反応を見たいという気持ちも本当です。僕は何のために働いているんでしょうね。こういう哲学的なことは書き始めてしまうと無限に書けてしまうのでこの辺にしておきます。

まとめ

以上が退職を決意した理由です。色々と書きましたが結局は、やりたいことが変わったときに今の部署では物足りなく感じ、異動よりも転職するほうが楽だし、他社のほうが魅力的に見えたからです。僕の趣味嗜好が自然に変わったことがきっかけなので、これはNTT側は止めようがないと思います。

その他の理由ももちろん色々とあるのですが、それら単体では決定打にはなり得ません。話が散らかるので、付録としてこの後に続けて書きます。興味がある人は読んでみてください。

よく「サラリーマンが会社をやめる理由のほとんどは人間関係だ」と言われます。過激な意見では「全て」という人もいるくらいです。しかし僕の場合は真っ向から否定します。NTTは本当に人格の素晴らしい方が多く在籍し、大変にお世話になりました。嫌いになった人は全くおらず、この組織を去ることを寂しく思います。できれば今のチーム全員で転職先に行きたいくらいです。まぁこんなことすると怒られますし、先に書いた通り専門が全然違うのでそもそもできませんけどね。

次の会社は僕も憧れがあった会社です(GAFAMではないです)。やることは半分くらい変わらないのですが、研究者からエンジニア(データサイエンティスト)への転向ということなのでちょっとドキドキしてます。今後も楽しく仕事していけたらいいなと思います。

付録: NTTを去ることで失うもの

NTTを去って外資系IT企業に行くということで、やはり失うものはたくさんあります。その中には当然、失って惜しいものと清々するものがあります。これらはつまり、僕にとってのNTTの良かったところと悪かったところということになります。これらについて簡単にまとめます。こういう情報のほう皆さん気になるんじゃないですかね。ここに書くことは、"僕にとっては"という枕言葉が付きます。惜しいものは基本的に全員にとってメリットだと思いますが、清々するものは全員にとってのデメリットではないと思います。

失って惜しいもの(NTTの良かったところ)

まずは失って惜しいもの、つまりNTTの良かったなーと思うところです。NTTの代表的なメリットはNTT退職エントリのまとめ記事にも書かれているので、それら以外のことについて主観多めで具体的に書きます。

  • ジム
    実は僕は入社して2年目の中頃あたりから同期に誘われて会社内のジムで昼休憩に筋トレをしていました。会社で働いた日は特段予定がなければ毎日です。年数でいうと6年くらい継続していました。最近はリモートワークが中心になったので頻度は減っていたのですが、それでも続けていました。このジムの設備がですね、非常に良いのです。なんでも総務部にいる元オリンピック選手がコーディネートしたということで、本気の設備が整っています。1kg-30kgのダンベルセット・スミスマシン・ランニングマシーン・エアロバイク・クロストレーナー・ローイングマシン・アブドミナルマシン・チェストプレスマシン・ラットプルダウンマシン・ショルダープレスマシン・レッグエクステンションマシン・レッグカールマシン・レッグプレスマシン等があります。シャワーも完備しています。このジムを自由に使えなくなるのは非常に悲しい。やはり良い仕事は良い身体から始まると思うのですが、この代替環境を用意するには頭を悩ませそうです。
  • 年間の休日
    NTT研究所は土日祝日と年末年始の休暇以外に、新入社員のときから有給休暇を1年に20日、6月頃から秋ごろまで使える休日が5日もらえます(軽微な条件はあり)。実質年間の有給休暇が25日あるわけです。次に行く会社もそこそこもらえるほうだと思いますが、これにはしばらくは及びません。僕は年間の休日をおよそ5日程度失う計算になります。まぁ休日も結構勉強していることがあるので、それも仕事カウントだとするとあんまり気にならない範囲かもしれません。
  • NTTグループ独自の高額療養費制度
    高額療養費制度というものをご存知でしょうか。月々の医療費負担の上限が決まっており、限度額を超えた差額分は返還されるというものです。つまり、どんな病気や怪我をして手術したとしても、保険適用であれば限度額以上を支払う必要はないという制度です。この限度額は年収によるのですが、NTTの若手の給与レンジに収まっている約370万円〜約770万円であればおよそ8.7万円です。この額が、なんとNTTに所属していれば約2.5万円となります。ちなみに僕も一回恩恵に預かりました。もはや医療系の任意保険はいらないというレベルでしょう。ちなみにこの制度については「NTT 高額療養費制度」でググれば誰でも閲覧できます。なお、高額療養費制度の厳密な説明については各々調べてください。ここは僕の雑な理解を書いたので厳密には違うかもしれません。
  • 最高に充実した備品
    200万円くらいするワークステーションを使わせてもらいましたし、Macbookも2021年のM1 MAX搭載のProモデルでSSD以外はフルスペックで注文したものを使っていました(50~60万円くらいだったかな?)。オフィスの机は幅は2mはありとにかく広いです。ディスプレイを3台おいてもまだ余裕がありました。自宅にもEIZOのFlex Scan EV3895(37.5インチ, 約20万円)を持ち込んでリモートワークしていました。メモリは何GBから人権があるか論争が世にありますが、そんなことで悩むことはまずありませんでしたね。これらのものは僕が使いたくて買わせてもらいました(もちろん必要性は説明してましたよ)。こんなにお金に糸目をつけずに自由に備品を選べるってのは、他の会社にはなかなかないのではないでしょうか。ちなみに技術書も実質買い放題でした。
  • 情報通信の企業研究としては最高の環境
    これは抽象的なのですが、情報通信の研究をする環境としては、日本で最高の環境だと思います。予算についても、おそらく大学等の学術的な研究機関と比べれば圧倒的にあります。おまけに優秀な人がゴロゴロいます。国内の研究会に行くよりも、社内であった部署横断の研究発表会のほうが緊張したくらいです。
  • 改善されつつある社内環境(情報システム)
    一時期は社内で使うシステムに絶望感がありました。しかし、最近の情報システム部門はめちゃくちゃ頑張ってくれており、かつてほどの絶望感はなくなりました。リモートデスクトップ経由で事務処理をすると、あまりの重たさにイライラしていましたが、最近はローカルで作業できるようになったので快適です。ただまぁ、やはりいくらか不満はありますね。パスワードの定期更新とか。
  • 絵画教室
    これは会社とは直接は関係ないのですが、会社の近くの絵画教室に7年ほど通っていました。現住所と次の勤務地を考えるともう通うことが出来なくなったので、泣く泣く退会しました。こちらの先生はとても良い方で、仕事でつらいことがあっても何度も救われました。こういうコミュニティはまた探したいですね。

次の会社ではどの程度これらをカバーできるかはよく分かってません。カバーされてなくてもいいので入社を決めました。

失って清々するもの(NTTの合わなかったところ)

次は失って清々するものです。退職理由に数えられるものですが、すべて合わさってもこれらだけでは退職はしませんでした。人によって意見が分かれるところを書いてます。僕は嫌でしたが人によっては見方を変えれば良い点もあるかと思います。

  • 難解な事務システム
    物品を購入したり、お金をつかって何かと契約をするときはそれ専用の事務システムを触る必要があります(一部除く)。この事務システムが非常に難解で、これを扱うスキルも社内では専門性と暗に認められています。人が一生のうちに身につけられる専門性には限界があるのに、この真の意味でNTT内でしか役に立たないスキルを身につけるのは非常にもったいないですよね。僕は上司が全部肩代わりしてくれたので助かってました。NTT内で出世するためには、このシステムを使いこなす必要があります。でも、どうしてもやりたくなかったというのも退職を後押しした理由のひとつではあります。
  • オフィスの立地
    僕の自席はNTT武蔵野研究開発センタにあるのですが、その立地は通勤者にとってはお世辞にも良いとは言えません。言葉を選ばずに言うと、僕は陸の孤島だと思います。はっきり言って、あらゆるところから遠い。三鷹駅からバスで20分、もしくは徒歩で30分ほどであり、西武線の駅である東伏見駅からも徒歩で15分ほどです。これ独身の間と、勤め先が東京の西寄りにある人と結婚した場合はいいのですが、そうでない場合はなかなかきついです。僕の妻は都心にオフィスがある会社に勤めているのですが、その中間あたりに住んでも家賃が高い上に会社には遠いです。別にリモートワーク中心の人はいいのですが、僕はどちらかというとオフィスで働きたい人です。まじでこの立地に関しては恨みました。なぜもっと便利の良い場所にないのかと。まぁ、これでもNTT研究所の他のオフィスと比べればかなり良い立地ですし、東京ではあるので、諸説あるとは思います。
  • 気に入らない家賃補助制度
    僕はどちらかというと家賃補助制度があるくらいなら、その分を使って社員の基本給を一律に上げてほしいと考えています。仕事内容と関係ないところで、しかも個々人でかなり事情が違う住居に関する条件で給料が大きく違うのは、ちょっと不平等なのではないかと思うからです。僕が入社したときは家賃補助は45歳までもらえ一律月に3.7万円でした(首都圏勤務の場合。地方の場合はもうちょっと低かったかも)。現在は約5年かけて制度改正がされており、独身者は4.5万円、パートナーがいる人は7.45万円となる予定です。5年かけ、というのがポイントですね。制度が変わりきったころには僕は家賃補助をもらえない年齢になっています。これのおかげで僕の生涯収入は約300万円ほど減ったと記憶しています。入社したときは家賃補助っていいなーと思ってたものですが、今となってはこの制度自体あんまり好きじゃなくなっています。家を買った人はもらえないですし、パートナーがいるかどうかでももらえる額が変わります。不平等さが加速しています。この制度で最も得をする人は、学生結婚をして入社し、35歳までは賃貸に住んで家を買った人です。ちょっと限定的すぎやしませんかね。現代三大論争の一つである『持ち家 VS 賃貸』については[4]、NTTとしては圧倒的に持ち家派のようです。きっと今の役員たちは良い場所にでかい家買えたんでしょう。パートナーのいる持ち家派を優遇して会社にいてもらいたいという、会社の事情や意思決定は理解します。ただし、NTTという会社は好きですが、この仕事とは関係ないところで、しかも意見が割れやすいところで給料を変えてくる一面ははっきり言って嫌いです。
  • そこそこな給料
    みんな大好きなお金の話です。これについては触れないでおこうかなーとも思いましたが、やはりみんな興味があるところなので触れておこうと思います。転職活動をしてみて思いましたが、外資系と儲かっているベンチャー企業から提示された年収をみるとやはり心が踊ってしまいました。福利厚生を加味しても、NTTではそれなりに出世したという前提で10年スキップくらいの給料です。僕はお金のかかる趣味も持っていないですし、正直今も困ってないです。もらえるお金で買える何かよりも、会社から僕への評価の定量的な値として高いと嬉しいんですよね。 ・・・嘘ですごめんなさい。いや嘘ではないですけど、やっぱりあれば心に余裕ができるので欲しいです。あんまりお金のことは気にしていないつもりでしたが、やはりあればあるほど嬉しいです。人間だもの

最後は僕にとってネガティブなことを書きましたが、NTTはそれでも総合的に見たときにとても良い会社だと思います。どの会社にも不満点は多少はあるでしょうし、逆にこれだけしかないというのは良いことなのではないでしょうか。学生にも転職希望の人にも胸を張っておすすめします。

脚注
  1. 次の会社の募集ボジションはデータサイエンティストでした。エンジニアという言葉が含まれていませんがまぁこれもエンジニアの枠内ってことにしてます。 ↩︎

  2. なぜ背番号というのかは不明。由来がよくわかりませんね。 ↩︎

  3. 他の会社だとIBM基礎研究所とかNHK研究所も良いと噂を聞きますが、直接の知り合いがいないのでよくわからないです。 ↩︎

  4. もう2つは『たけのこの里 VS きのこの山』と『Emacs VS Vim』です。ちなみに僕は賃貸派でたけのこの里派でEmacs派です。 ↩︎

Discussion

まらりんまらりん

研究所ではないですが、僕もNTTグループです。
(末端の孫会社ですが)

僕は実家暮らしなので、当然家賃補助はもらえないですが、不平等と感じたことはないです。
実家暮らしでないなら、家賃補助よりも家賃の方が高いでしょうし。
「もらえる人はもらうべき」と考えています。

持ち家でも貰えたら嬉しいですが、パートナーがいるなら、独身より多くもらって然るべきだと思っています。
パートナーや家庭があると、何かと大変でしょうし。
僕自身は独身ですが。

家賃補助は、「平等」ではなく「公平」を実現するためのものかもしれないですね。
持ち家でも貰えたら良いですが。
「家買える人は、比較的金がある(はずだ)から家賃補助は不要」という公平の視点に基づいた考えですかね。