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凡人による社会人博士課程生存戦略

2023/04/01に公開

はじめに

2023年3月、北陸先端科学技術大学院大学(以下、JAIST)の東京社会人コースで博士(情報科学)を取得しました。
入学から3年と半年、ようやく無事に修了できたということでホッとしています。在学中にキツめのリジェクトを2回受け、心が折れかけましたがなんとか生き残ることができました。1年近くもの時間をかけ、めちゃくちゃ力を入れて書いた論文があったのですが、査読者にクリティカルな指摘を受け泣く泣くお蔵入りした論文もあります。この辺の辛かったエピソードは無限に書けてしまうので、この辺にしておきましょう。いやもう、本当に大変でした・・・。

今回僕が筆をとっているのは、社会人が博士課程に通って修了するまでの戦略を伝えられればと思ったからです。ただし、僕の専攻が情報科学なので、その狭い範囲でしか通用しないかもしれません。ただ、多くの理系の分野でも同様のことが言えるんじゃないかな、とも思います。これをしなければ修了できないというわけではありません。あくまで1個人の1意見と捉えてください。社会人で博士を取得するのは、並大抵のことではありません。この記事を読んで、一人でも多くの方が博士を取得できたのであれば、または入学しないという決断をしたのであれば幸いです。

自己紹介

日系大手情報通信会社の研究所に勤めている、企業研究者です。ネットワーク系の部署にいるのですが、機械学習の応用・実用化を専門としています。修士過程を修了後今の会社に入社し、以来7年間その会社に勤めています。入社3年目半に差し掛かるところでJAISTに入学し、7年目が終わろうとするときに博士号(情報科学)を取得しました。

機械学習を専門としているのですが、数理的なことはアレルギーはないものの得意でもない、という自覚があります。どちらかというとゴリゴリとプログラミングをして実際に動くモノを作ることが好きなタイプです。博士課程に在籍している間はあまりできませんでしたが、ゲームを作ったり、ゲーム開発の支援を行うツールの開発をすることが趣味だったりします。

得意ではないということもあり、僕の博士論文は理論的なことがあまり記述されていません。ある実際のタスクに対して、そのタスク特有の問題を工夫した機械学習システムで解決した、という内容の博士論文を書きました。なので、機械学習アルゴリズムそのものの発明・改良というのは行っていないことになります。この点は自分のコンプレックスだったりしますが、人には得意不得意があるので致し方ないでしょう。

どれくらいの人が博士を取れるのか?

さて、戦略を述べる前にそもそも博士を取得することの難しさについて考えてみましょう。具体的には、博士課程に進んだ学生のうち、何人くらいが博士を取得して修了したか(生存したか)、僕の知っている事例をもとにざっくりと数値で考えてみます。

まず、僕が修士時代(7,8年前の東京工業大学)に所属していた研究室では、社会人ではないフルタイムの博士課程学生が5人、社会人の博士学生が1人いました。このうち、僕の在学中に博士を取得したのはその社会人の博士学生1人でした。その後、2人が取得したと聞きました。その他の諸先輩方がどうなったかは聞き及んでいないのでわからないですが、ここでは取得できなかったと仮定します。サンプル数がめちゃくちゃ少ないので恐縮ですが、この事例からは大体50%くらいはドロップしてしまったと認識していただいて問題ないかと思います。

続いて、僕が所属したJAISTの社会人博士課程の事例を考えてみましょう。JAISTでは4半期に1回修了の審査を受けることができ、修了が認められた者の学籍番号が学生には公開されます。僕の過去メールを確認したところ、1年分(2022年度)で情報科学または知識科学の博士を取得できたのは、僕を含めて15人(知識科学が10人、情報科学が5人)でした。以下のページから、2022年度の社会人博士後期課程への入学者は26人であることがわかりました。1年分のデータしかないですが、その年に入ったのが26人で、修了出来たのが15人なので、その割合を考えるとおよそ57%です。
https://www.jaist.ac.jp/about/outline/newstudent.html#gsc.tab=0

これらの事例を考えると、半分くらいの人はドロップしてしまう計算となります。正直に申し上げますと、いざ数えてみると思ってたよりは多くの人が修了してるなと思いました。僕の肌感覚では半分にも満たないくらいかなーという印象でした。

正確なデータがあるわけではなく、また僕の観測範囲内に限った話なので広く一般的に言えることではないことにご注意ください。あくまで僕の経験談からの推測とお考えください。博士課程への進学者数と修了者数とか、もうちょっと過去数年くらいのデータをオープンにしておいてほしいですね・・・。

この50%という数値は、扱いが難しいですね。ただ、ほとんどの学生が終了できる修士課程(社会人ではない場合ですが)と比べると、やはりなかなかにハードなことがわかるかと思います。

なぜ博士を取るのが難しいのか

なぜ博士を取るのが難しいのかというと、それはほとんどの大学において、博士論文を書くための要件に学術的な成果を求められるからです。学術的な成果は、主に以下の2点です。

  • 学術論文への採録(日本語英語問わず)
  • 国際学会での発表

どちらがどれくらいのレベルで求められるかは、大学によります。この基準は入学前に先生にしっかりと確認しておきたいところです。僕は学術論文2本、国際学会発表1件で修了出来ました。これは比較的標準的な成果かと思います。

いずれの学術的成果を得るためには、その分野の研究者の査読を突破する必要があります。査読者は、大学外の人が担当することになります。当然、博士課程に在籍しているかどうかは査読には一切考慮されません。修士課程では指導教員の裁量である程度手心を加えることはできるのですが、博士にはそういう手心が全くありません。この指導教員による手心の有無が修士と博士の難易度の差と言えるでしょう。

社会人で博士を取ることの難しさ

フルタイムの学生と比べた時の社会人の博士取得の難しさは、一言で言えます。

時間が圧倒的に足りません

日中は仕事しているので当たり前です。研究できるのが休日と、疲れ果てた平日の夜になります。フルタイムの学生と比べてお金や将来の心配は少ないと思いますが、この時間の無さは無視できない問題です。

社会人が博士を取れるかどうかの見通しを立てるときに最も重要なのは、研究時間を確保できるかどうかです。これが一番重要です。

社会人博士課程の生存率チェック

社会人が博士課程で生存できるかどうかは、どれくらい研究時間を確保できるかが一番効いてきます。これは、当人の前提により大きく変動してきます。ドロップ率は50%前後と上述しましたが、正直なところこの数字をあてにせず、各々が置かれた状況をもとに冷静に考えてみましょう。

以下に、社会人博士課程の生存率が下がる前提をリスト化します。

  • お子さんがいる(〜15歳くらい?)
  • 残業が月に20時間以上ある

要するに、子育てと仕事の時間がどれくらいあるかです。
一つ該当するごとに、博士取得の難易度がひと回り大きくなると考えてください。特に前者のお子さんの有無は大きいです。社会人学生はとにかく時間がありません。僕にはまだ子供がいませんが、やはり小さなお子さんがいる社会人学生の知り合いは、かなり大変そうです。お子さんの成長を見守る期間というのは人生において貴重な時間だと思いますし、これを犠牲にして良いかどうか、そこはしっかりと考えるべきかと思います。後者については、1日1時間残業して月に20営業日として20時間という基準を置きましたが、当然残業時間が多ければ多いほど生存率は下がります。

続いて、プラスになる前提をリスト化します。

  • 論文を読んだり書いたりすることができる仕事に就いている
  • 博士論文の一部にできそうな学術的成果がすでにある
  • 睡眠時間を犠牲にして何かができる

この辺りがあれば、うまくやれば博士を取得しやすくなります。一番下のものだけは健康を害しそうなので悩みましたが、これが出来るのは一種の才能ですし、これで乗り切った人もいるというのは事実なので書きました。ちなみに僕にはできませんでした。

社会人博士課程を挫折するきっかけ

僕は社会人博士を挫折しなかったので経験はしていないのですが、挫折するきっかけを想像してみました。主に以下の2点です。

  • 時間切れ
  • 気持ちが切れる

在学にも実は制限時間があります。標準年次の2倍なので、博士は6年です。間に1年までは休学できるので、合計7年でしょうか。7年もあれば普通は取れると思うかもしれませんが、そんなことは全くないです。僕は3年半かかりましたが、悠長にやっていたら普通に7年の月日が過ぎてタイムアップするなと思いました。

極論を言えば、気持ちが切れなければ、時間切れでも再入学すればいいです。なので、本当の挫折というのは「諦めたとき」です。ただ、人のモチベーションは思い立った時が最高潮で、あとは何もしなければ下がる一方です。時間が経てば経つほど、モチベーションは落ちていくのです。時々6年も7年もかけて修了する人がいますが、そういう方は特殊な才能を持っているのです。僕もそうなのですが、普通の人にはなかなかできることではないと思います。

社会人博士課程生存戦略

さて、ここからようやく社会人が博士課程を生き抜くための戦略を説明します。戦略は

  • 入学前戦略
  • 在学中戦略

の2つに分けられます。ここですでに入学しているという方には厳しいことを言うかもしれませんが、生存率の8割くらいは入学前戦略によって決まると言っても過言ではないと思います。それくらい、入学前の準備は大事なのです。

入学前戦略

入学前にできる戦略を3つほど述べていきます。いずれも最終的には在学中の時間の節約に繋がるものです。当人の置かれた状況によって出来ること出来ないことがあるのはご承知ください。

Level 1: 入学前にできることをやっておく

研究は、大学に入学する前にもできることがあります。以下に、僕が思いつく限りの入学前にできることを書き記しておきます。

  • 論文の調査(30本〜50本ほど)
    特に重要なのは、論文の調査です。論文を読むということは、研究の中で最も重要な作業の一つであり、時間を使うところです。幸いなことに、論文は無料で読めるものもありますし、無料でなくてもお金さえ出せば読むことができます。情報科学系であれば、お金を出すならIEEE Xploreがおすすめです。
    読んだ論文のリストと、その論文の内容についてのメモ書きは残しておきましょう。「学術的な知見」を引用つきで即出せるようになるこの論文リストとメモは、研究者の財産となり得るものです。僕は、論文は全てiPadのGoodNotes5というアプリでメモ書きしながら読み、Dropbox上のジャンルごとに分けたフォルダで管理しております。それとは別に、テキストファイルに、論文のBibtexと所感や理解したことを殴り書きしていました。
    ただし、自分が読むべき論文が分からない人もいるでしょう。そういうときは、志望する研究室の教員と面談をする機会に聞いてみましょう。博士課程に入学する場合は、ほとんどの場合で入学前に先生と面談し了承を得ている必要があります。その面談の時に、入学前から研究を始めたい旨を伝えましょう。おそらく、それで嫌な顔をする先生はいないと思います。
    入学前にこれだけでも準備しておくと、かなり生存率が上がると思います。仮にこれができないのであれば、それはたとえ入学したとしても厳しい戦いとなると言わざるを得ません。それを測るためにも是非実施していただきたいところです。

  • 研究のやり方を本で勉強しておく
    入学してから研究のやり方が分からず困り果てることがあります。本当は先生に聞くのがいいのですが、この研究のやり方を体系的に教えられない先生も残念ながらいます。幸い、ある程度体系だったものは本で読むことができます。入学後にこういった本を読むと時間がもったいないので、あらかじめいくつか読んでおくと良いと思います。

  • 興味のある研究分野の教科書を読んで勉強しておく
    これも事前の勉強です。本当はこういうことも博士課程の中でじっくり勉強したいところです。ただ残念ながら本当に社会人には時間がありません。研究をするために学んでおくべき専門知識は学べるだけ学んでおきましょう。

  • 志望する研究室のゼミに参加しておく
    自分の興味のある研究分野が見つかるかもしれません。研究室の雰囲気もわかります。学生や先生は議論を好むので、希望すれば参加さえてくれると思います。

  • 論文の草稿の執筆
    ここまでできればもう準備としては100点です。本当に出来ればなのですが、あとは入学後に投稿するだけ、くらい完成度を上げたいものです。注意点としては、入学前に投稿したものは成果として認めてくれない大学の方が多いことです。そこは先生によく確認しておきましょう。

とにかく、入学後にスタートを切るのではなく、入学前からスタートしてしまいましょう。入学という一区切りがありますが、それはただの事務手続きです。研究はいつでもどこでもできるものです。JAISTの入試説明会では、博士課程を考えている人も一旦修士課程に入学することを勧めていました。今思えば、これは修士研究が以上の博士課程の入学前にできることに相当しています。なので、本当に修士から始めるのはアリです。

Level 2: 仕事時間に研究できるようにしておく

これは僕がとった戦略です。
仕事での研究を大学との共同研究として位置づけ、さらにそれを博士課程の研究としました。即ち、仕事=博士課程の研究としたのです。もちろん全ての仕事の時間を博士課程の研究に充てることはできなかったのですが、それでも仕事の一部で博士課程の研究をできるのはもう本当に大きなアドバンテージでした。研究職の方は、一度会社に交渉してみる価値があると思います。

ただし、これは出来る人が限られていると思うので、できる人はやりましょう、というものです。社会人ではない修士の学生で、社会人になってから博士をとりたいと思っている人は、こういうことができる会社を選ぶのも一手段かと思います。社会人博士を支援する制度のある会社もあるので、調べてみると良いかもしれません。僕が知っているのだと以下の2社ですね。別のこれらの会社の回し者ではないです。

あと、僕が所属している日系大手情報通信会社の研究所では、こういう制度はないです。ないですが、大体の場合理解を示してくれて共同研究にしてくれると思います。制度がない会社では、サラリーマン力を発揮して交渉しましょう。

Level 3: 入学前に学術的成果を作っておく

身も蓋もないのですが、入学前に学術的成果を上げておき、それを大学に持ち込んで修了要件を満たせば確実に生存できます。これが一番効果が大きくまた実行が難しい戦略です。できる人だけやりましょう。何も論文を2本も3本も採録されてから入学する必要はないです。1本でも良いので、持ち込むとそれだけでグッと楽になります。

ただし、これをやるためには大学を選ぶ必要があります。入学前の学術的成果を修了要件に加えて良い大学は、限られています。そこは意中の大学に確認をとってみましょう。僕の通ったJAISTはダメなはずです。ただし、当該大学の修士課程の最中に採録されたものは博士課程に進学してからも認められるはずです。(先生に確認してください)

学術的成果の持ち込みを認めた公式のプログラムを用意している大学があります。それは筑波大学です。興味のある方は以下のページをみてみましょう。その他の大学については、人づてになんとか聞くしかないです。
https://www.tsukuba.ac.jp/education/g-courses-s-program/

在学中戦略

続いて、在学中にできることを書きます。
在学中の一番の敵は、モチベーションの低下です。これを防ぐために僕が意識したことを以下に列挙します。

  • 毎日小さくてもいいから進捗を出す
    これは本当に小さくて良いです。仕事が本当に忙しい時は論文に1文だけ書いて自分を褒めて寝ていたこともあります。とにかく歩みを止めないことが大事です。人間は不思議なものでやっていないことを再始動するのにものすごくエネルギーを使ってしまいます。なので少しでもいいので何かを続けて、止めないようにしましょう。

  • 完全に定期的な先生とのミーティング
    定期的にあることで、それが〆切となり進捗を出すパワーが湧いてきます。〆切がないと漫画を書かない漫画家もいるくらい、〆切というのは大事です。1週間〜1ヶ月に1回のペースを崩さないでいきましょう。
    進捗が大してなくても気にしないでそのことを報告しましょう。進捗がなくてミーティングをしないでいると、次第に先生もあなたのことを忘れてしまうかもしれません。社会人は最悪退学してしまっても食っていけます。相対的に、フルタイムの学生よりも心配されないので、先生からのアクションは少なくなると思っておいた方が良いです。なので、積極的に先生の時間をもらっていきましょう。大丈夫、あなたは学費を出しているので、先生に指導してもらう権利があります。遠慮する必要は全くありません。
    どうでもいいですが、国立大学の学費年53万円でその道の超プロフェッショナルに定期的にコンサルティングしてもらえるってすごくお得ですよね。

  • 完全に定期的な進捗報告会
    学友と定期的に進捗報告会を開くのもいいでしょう。孤独はモチベーションを一気に低下させます。これは本当です。逆に、一緒に頑張っている同士がいるというのはモチベーションを加速させてくれます。なので、進捗がなくても学友とは積極的にコミュニケーションをとりましょう。

入学してしまえば、あとは心を保ちながら一心不乱に研究するしかありません。心の強さは人によって異なりますが、モチベーションの維持はこういうテクニックである程度はなんとかなると思います。是非実施してみてください。

おわりに

本記事では、僕が博士を取得するまでに経験したことを基に、博士をとるための戦略を述べました。若干博士課程のハック方法みたいになってしまい、「学問ってこんなんだっけ?」と思わなくもないですが、実際凡人には厳しいので勘弁してほしいです。

とにかく、入学前の準備を入念に行なっていただき、入学後はそのモチベーションも維持していただくよう努めていただきたいです。健闘を祈る。

付録

以降は、本編とは関係ないことを取り止めもなく書いておきます。

なぜ博士過程に進学したか

いわゆる「足の裏の米粒」をとる、という感覚が一番近いです。自分の企業研究者としてのキャリアを考えたとき、博士号がある方が堂々としていられると思ったのです。そのほか、僕の部署では少ないですが、やはり出世している人は博士号を持っていることが多かったのもありますね。

まぁ、名刺に「博士」って書けるとかっこいいなと思ったのも理由の一つとしては大きかったりします(笑)

JAISTという大学

JAISTに入学した理由は、修士時代に身近にいた先生(当時助教)がJAISTで研究室を持っていたからです。指導教員との相性は本当に重要なので、出来れば人となりを知っている先生に指導をお願いしたいというのがありました。

JAISTには東京社会人コースというものがあり、東京在住社会人の私としてはピッタリな大学なのですが、それは私にとっては重要ではなかったです。教えを請いたい先生がJAISTにいたから、それだけです。

ちなみにJAIST自体は、社会人学生が多く在籍しているのもあり、とても良い大学でした。東京社会人コースという名前の通り、都内在住で働きながら大学院に通いたい人にはすごく良い環境だと思います。

JAISTの博士課程の特徴は、ガチな講義と副テーマ研究です。講義も、予習復習をしておかないと普通に単位が落ちます。副テーマ研究というのは、主の指導教員とは別に、別の先生に指導をお願いして別のテーマで短期間の研究を行うというものです。これらは修了要件なので実施はマストです。僕の場合は全てこなすのに1年ほどかかりました。講義の単位取得が9ヶ月、副テーマ研究が3ヶ月〜半年ほどでした。この間、1年ほどメインの研究はストップしていました。他の大学と比べると、なかなかにハードですよね。

社会人で博士を取得できる人はどんな人?

私が見知っている人で社会人博士課程を生き抜いた人は、以下のうちいずれかまたは2つ以上を持っているように思います。

  • 修士課程修了時に既に博士の域に達している圧倒的な才能
  • 5年以上モチベーションを維持できる強靭なメンタル
  • 少ない睡眠時間で研究できるお化け体力

本記事のタイトルにある「凡人」は、これらの特殊能力のいずれも持たない人たちを指したつもりです。僕もその1人です。

博士課程を経て学べたもの

博士課程を経て学べたものを以下にリストアップしてみました。

  • 専門的な知識
  • 論文執筆能力
    • パラグラフライティング
    • 論理的思考力
    • ストーリー構築力
  • 論文を読む能力
    • 専門的な知識
    • 英語
  • ストレス耐性
  • 英語
  • 継続力
  • スケジュール管理能力

この辺りですかね。最初から得意だったりしたものもあります。この辺は博士を取るために必要な能力でしょうね。

博士課程特有のトレーニング

一度書いた論文を整理し、一本の大論文を組み立てる経験、これこそ博士課程特有のトレーニングでしょう。これがなかなかにハードなんですよね。

博士論文の執筆は、いくつかの論文を「ひとつの論文として」まとめる作業を指します。ひとつの論文、ということがポイントで、複数の論文をただ列挙するだけでは良くありません。そのためには、学術的にどんな貢献を果たしたかを見つめ直し、一本の論文としてのストーリーを作り上げる必要があります。

JAISTの博士論文はすべて電子的に公開されています。それらを見ると分かるのですが、どれもストーリーとして綺麗にまとまっています。一見すると簡単にまとめているように見えます。が、そのためには自分の書いた複数の論文を再整理するための血の滲むような努力の上になりたっています。

修士と博士の違いは、この作業を行っているかどうかが大きいのだと思います。一度公開した論文を見返すというのは、過去の自分の未熟さも見つめ直す必要があり、なかなか心にきます。

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