『[改訂第9版]LaTeX美文書作成入門』の読書感想文
この記事は TeX & LaTeX Advent Calendar 2023の10日目の記事です。9日目はujimushi(@sradjp)さんの LaTeXは毎年のささやかな幸せの報告のお供でした。
美文書の改訂版を斜め読みした感想文を以て、Advent Calendarの記事とします。
Me
読書の感想というのは読んだ人間に依る所が大きいものです。同じ書籍を同じ人間が読む場合でさえ、読む場所や時期、経験や背景知識の有無によって異なる感想を持ち得ます。
- 美文書はたしか6版くらいに買ったのが最初
- 大学時代はLaTeXでレポートや卒論などを書いた
- 近年はLaTeX自体は年に1度触れるか触れないかで、TUGの動画を後追いしたりする程度
- XML組版ソフトなどの会社勤務
LaTeX美文書作成入門の改訂版が発売
2023年12月9日、『[改訂第9版]LaTeX美文書作成入門』(奥村晴彦, 黒木裕介 技術評論社)が発売されました。本記事内では「美文書」と称します。一般語彙としての美文書とは文脈で区別してください。
今回の改訂にあたり、今迄の「LaTeX2e」から「2e」が外れたことについては書籍の前文に事情が記載されていました。書籍のタイトルが変更されることによる混乱は当然あるでしょうが、初めて触れる人間にとって謎の(利用を指示する人間の殆どは省略して話すだろうという意味で)「2e」を削ったことについては、「まあそういう判断もあるよね」という感想です。感想文だからね! LaTeX3も実際ややこしい。
表紙が第8版のkawaii路線からシック路線になりました。章題他、ページ端のデザインもシック路線になっています。
書籍自体がLuaLaTeXで組まれるようになり(8版からだったか、後で要確認)、フォントもヒラギノから原ノ味になったというのは「この本で学ぶ内容の延長でこの本が作れるのだ」という認識を得る上で重要なポイントだと思います。
感想
以前の版を読んだときの読書記録を残していないので曖昧な記憶で曖昧に語ることを許してほしい。
「この本を読んで美文書が作れるようになるのか」。これは以前よりかなり読みにくい同人誌を出している身としてはやり辛い話ですが、それはそれ。恐らくは「大学入学から暫く経ち、レポートの作成方法として学ぶために購入」という新規読者が多いと思われるのが美文書です。私がそう。
当時(6版、多分)は「ほへー」と口を開けながら字を追っていましたが、内容が頭に入っていたかというと、かなり微妙。10を読んで1が頭に入ったかどうか。勿論、1も入ったなら上等も上等です。
今回も変わらず、いや前にも増して、美文書は包括的な内容となっています。そしてどこについてもそれなりに記述されているのでページ数が多い。
標の無い初学者にとっては「どこが今自分に必要なのか」を判断しづらいので、どんな本であれ、頭から順に読んでいく方針になりがちです。勿論そういう作りになっているのですが、ページ数的に「最初の一冊」には分厚いので大変ですよね多分、というのを改めて感じます。
8版、そして9版ではLuaLaTeXなど所謂モダンLaTeX、そしてpLaTeXなどのレガシーLaTeXという区別と書き分けが内容に組み込まれました。そして8版のときにはあまり感じなかったのですが、9版ではこれが結構気になる。「これはレガシーの話かモダンの話か」という負荷が常に頭にかかった状態で読むことになっていたのです。
- アンダーライン系パッケージの箇所なんかもそうですが、おすすめの話と歴史的な話は一応分けて書かれているものの、読んでいるときに後に読んだ内容で上書きが走ってしまったり……。
- 仮想フォントについて、モダンLaTeXオンリーならば比重が下げられるのに……
LuaTeXについての記述で、Luaで処理を書く簡単な例示があります。が、仕方ないとはいえ「組版処理についての介入が書ける」という最大の特徴は伝わらない感じになっているので、全体的には「何だか知らないけどモダンらしいよ遅いけど。フォントも簡単に使えるし遅いけど」みたいな印象になっているような。
マイクロタイポグラフィについても、grpahicxによる文字変形の話が他にあることなんかもあったり、レタースペーシングに介入して綺麗でない表示にさせる例示であったりして、にゃーん。
美文書の組版に用いていることと利用が増えていることもあり、jlreqクラスを中心に話が進みます。問題というわけではないのですが、jlreqクラスはフレームワーク的;クラスファイル独自の仕組みの色が強いです。Lamportの用意したarticleやbook、それらの日本語対応をしたjarticleやjbookなど基礎的[1]なものと比べて改造の難易度は高い……と思っていましたが、美文書9版を読むとjlreqを基にした派生クラス、皆さん使われているらしい。スゴイ。
美文書についてのイメージに「側註を使っている」というのがあるのですが、記憶よりも結構註の無いページがあって吃驚した。まあ毎ページあると疲れてしまうけれど、記憶よりもなだらかだった。
まとめはないです
ないです。
メモ
- 意図的だとは思うが、Win環境のバックスラッシュについて何度も記述がある
- クラスファイルで用意された機能、スタイルファイルの機能、プリミティブとかやっぱりちゃんと(一般性のある)説明って難しい
- 電子版、プリアンブルの索引参照ページずれてる?
- doraTeXさんのコラムの密度がとても高い
- BibTeXu知らなかった
- 書籍紹介での『数式組版』(木枝祐介, ラムダノート)、他の本にあるような一文がないので「書籍名で内容を語る」感がすごい
- 囲い系の項でtcolorboxを一度紹介した後、表組の項で「tcolorboxならこれができる」としているが、個人的には基本的な説明終わってからtcolorbox紹介した方が好き
以下2023-12-10T22:16追記
- 改行について、途中まで「Enterキーを打つこと」としているが注釈の項で「改行文字Enter」が登場している。
%
の作用という話からすると、改行文字を基点に説明を行うのでもアリでは - 参照の確定について、n回実行という説明できているところ、唐突に「1パス」という語が登場してしまう。どう換えられるかというと難しいけれども
個人的に薦める読み方?
- モダン・レガシーの話が分かれていたら先ずモダンだけ読む
- jlreqだけ使うことが難しい(そもそも環境がレガシー)ならクラスファイル内の記述については旧版を確保してもいいかも
- 「読んでから書く」より「書きながら読む」
- 基本、読めない箇所は飛ばす
- 典型的なエラーについての箇所はちゃんと読む
-
basicであってbaseではない。これ重要 ↩︎
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