AWS Summit 2025セッション感想:開発組織内製化を成功させる『Earn Trust チーミング』から学んだ3つのポイント
AWS Summit 2025 セッション感想:開発組織内製化を成功させる『Earn Trust チーミング』から学んだ 3 つのポイント
はじめに
こんにちは!SIer で AP 基盤チームに所属するエンジニアです。普段は Java、Spring Boot、TypeScript、Vue を使ったバックエンド・フロントエンド開発に加え、Azure 環境や AWS 環境での CI/CD パイプライン構築を担当しています。
幸運なことに「2025 Japan All AWS Certifications Engineers」に選出していただき、AWS の技術領域には深い関心を持っています。
今回、AWS Summit 2025 をオンラインで視聴し、特に「エンタープライズレベルで開発組織を内製化に導く~ Earn Trust チーミング~」のセッション(DEV1-12)が非常に印象深く、SIer 現場での組織運営にも活かせる学びが多かったため、感想をまとめたいと思います。
セッション概要
このセッションは、AWS プロフェッショナルサービス部門の 2 名の方が講演されました。プロフェッショナルサービスは、AWS サービス利用や組織変革を支援する部門で、講演者の一方はシステムのモダナイゼーションやアーキテクティング・組織開発の伴走を、もう一方はアジャイルトランスフォーメーションを担当されているとのことでした。
※アジャイルトランスフォーメーションという単語を初めて聞いたので、調べてみました。
アジャイルトランスフォーメーションとは、アジャイルの原則を企業文化に適用し、適応性と反応性に優れたマインドセットへの移行を促進するものです。
アジャイルトランスフォーメーションでは、組織レベルでアジャイルの原則を適用し、特定のプロジェクトの外でもアジャイルな行動を奨励するようなマインドセットや企業文化を構築しなければならないからです。言い換えれば、アジャイルトランスフォーメーションとは、「アジャイル手法を実施する」ことを超えて「アジャイルな企業になる」ということです。
セッションの核心は、組織の内製化を成功させるために必要な要素として、「予算」「技術力の向上」「人材の採用」だけでなく、信頼のネットワークの構築が重要であり、そのフレームワークとして「Earn Trust チーミング」を提唱している点でした。
学んだ 3 つのポイント
ポイント 1:信頼は「能動的に勝ち得るもの」である
Earn Trustは、Amazon の Leadership Principles の一つです。
リーダーは注意深く耳を傾け、率直に話し、誰にでも敬意をもって接します。たとえ気まずい思いをすることがあっても間違いは素直に認めます。リーダーは自分やチームの体臭を香水と勘違いすることはありません。リーダーは常に自らを、そしてチームを最高水準のものと比較し、高みを目指します。
信頼はただ待っていれば得られるものではなく、能動的に勝ち得るものであることが強調されていました。
セッションでは信頼の方程式が紹介されました。
「信頼の方程式」とは、「信頼」を勝ち取るために必要な要素を4つに分類し、各要素間の相互関係を分かりやすく方程式の形で示したものです。
これは信頼を勝ち取るために必要な要素を 4 つに分類し、各要素間の相互関係を分かりやすく方程式の形で示したものです:
信頼 = (Credibility + Reliability + Intimacy) / Self-Orientation
信頼の方程式の 4 つの要素
1. Credibility(信憑性・専門性)
専門性や経験値の高さからくる頼りがいのことです。単に専門知識の内容だけではなく、どのように見えるか、行動するか、反応するか、あるいはコンテンツを話すかといったことに関係する「存在感」が加わったもの です。つまり、知識だけでなく、それをどう伝え、どう行動で示すかも含まれます。
2. Reliability(信頼性・一貫性)
約束したことをきちんとやってくれるので頼りになる ということです。「期日どおり、仕様どおりに仕上げること」が基本で、電話を返してくる時間、会議が予定どおりかなど、日常の小さな約束の積み重ねによって構築されます。
3. Intimacy(親密さ・共感力)
相手に寄り添う共感力であり、相手に対する思いやり・リスペクト・共感などの気持ちがあるかどうか が重要です。単に愛想がいいことではなく、相手の状況や感情に真摯に向き合う姿勢を指します。
4. Self-Orientation(自己志向性)
この要素だけは分母に位置し、自己中心的かどうか を表します。「お金のため」「名声のため」「地位のため」などの自己中心的な動機が強いほど、他の 3 つの要素がどんなに優れていても信頼を大きく毀損することになります。
特に印象的だったのは、Self-Orientation(自己志向性)が分母に位置し、これが小さくなればなるほど信頼が大きくなるという考え方です。
SIer 現場での気づき:
私たち SIer も、お客様との共創において「いかに自社の利益ではなく、お客様の目標・実現したいことを適切に解釈し、アーキテクチャ構成からシステム構築・運用まで考えていくか」が重要だと改めて感じました。お客様にはない専門性を提供する対価として、信頼及び報酬をいただくという考え方に深く共感しました。
ポイント 2:段階的な信頼構築の重要性
セッションでは、信頼構築を 3 つのステージに分けて説明していました:
- Stage1(0→1)立ち上げ期:内側からの信頼構築。信頼される実績をつくる
- Stage2(1→10)スケール期:外側からの信頼構築。スケールする文化を育む
- Stage3(10→N)全社展開期:全社的な信頼へのスケール。全体の成功を駆動する
特に Stage1 では、ADR(Architecture Decision Record)の実践により、思考プロセスを論理的に言語化することや、DoD(Definition of Done:完了の定義)の見直しにより達成可能な約束をコミットすることが重要とされていました。
ADR(Architecture Decision Record) とは、アーキテクチャに関する重要な意思決定を記録するための文書です。なぜその決定が行われたのかを説明し、将来同じ問題に直面した際にその背景を理解・議論することができるようになります。
完了の定義とは、かんたんに言えば「完了チェックリスト」です。何をどこまでやれば「完了」かを定義したリストです。品質を満たすために必要な確認と考えるとよいでしょう。
事例では、社長が内製化を「クラウドでモダナイズ化されたシステムに追いつけるようなアスリートな人材になる」と定義し、その Vision が現在も共有され続けていることがポイントとして挙げられていました。
SIer 現場での気づき:
私の所属する AP 基盤チームは本部内を横断するチームで、インフラ・開発・運用チーム全てから頼りにされています。これは主に上長の技術力・対応力によるものですが、チーム作りにおいて「頼りになるチーム」をどう構築するかは重要な視点だと感じました。
ポイント 3:「How」から「Why/What」への質問の変化
Stage2 では、技術相談の変化が重要な指標として紹介されていました。Stage1 では「How(エラーの解決方法は?など)」の質問が多かったのが、Stage2 では戦略的な議論(ADR のレビューなど)に変化するとのことでした。
目指すのは「言われたものをただ作る開発チーム」ではなく、「事業の成功を共に作るパートナー」への進化です。
SIer 現場での気づき:
現在の私自身もそうですが、How の質問ではなく戦略的な質問ができるようになることを目指すべきです。これは個人だけでなく、チーム全体でこの意識を持つことが重要だと感じました。
また、Stage2 の Intimacy について、私の上長は ITA(IT アーキテクト)および PM としての能力が高く、多くの判断を上長が行っているため、もう少し私たちが積極的に行動し、権限を委譲してもらえるようになることが必要ではないかと考えました。マイクロマネジメントから脱却し、上長だけでなく基盤チーム全体として頼りになる存在を目指したいと思います。
SIer 現場での実践可能性
明日から始められること
セッションで紹介された「Earn Trust チーミング - the seven ways」は、私たちのチームでも活用できる具体的なチェックリストです:
- Establishing a Shared North Star:チーム全員が共感する明確な目標はあるか?
- Build capabilities, not capacity:学び成長できる環境は整っているか?
- Leadership as a service:権限を委譲し心理的安全性の設計ができるようになっているか?
- Visualize task and decisions:進捗や意思決定プロセスは透明か?
- High-frequency FB loop design:高頻度の FB ループを得る仕組みはあるか?
- Proof of Capabilities through Delivery:ビジネス価値を定期的に届けられているか?
- Expanding the circle of trust:事業部門やパートナーと対等な関係で協働できているか?
特に 3 番目の「Leadership as a service」について、皆がリーダーである意識を持って仕事に取り組むことで、チームの成長並びに事業の成功につながると考えます。権限委譲によって自分で行動することで自信がつき、さらなる成長につながるはずです。
AP 基盤チームでの適用イメージ
チーミングは「職業や地理的な場所にとらわれずにチームを結成すること」で「流動性が高い」特徴があります。
基盤部品を利用した開発チームとの関係性において、「外側からの信頼醸成」を意識し、事業の共創パートナーとしてのポジションを確立していきたいと考えています。
チーミングは「team」と「ing」を組み合わせた造語で、最善のチームを結成するためのチーム作りの過程や、その実践を指します。現在分詞の「ing」が含まれることから「常にチーム作りをしている」というニュアンスが強く、これが「常にチームを変化させていく」という意味に繋がっています。
まとめ
AWS Summit 2025 の「Earn Trust チーミング」セッションから得た最大の学びは、組織の内製化成功には技術力だけでなく、信頼のネットワーク構築が不可欠ということでした。
特に印象的だったのは、信頼の方程式における Self-Orientation の考え方です。自分たちの利益よりも、お客様や事業全体の成功を第一に考える姿勢が、結果的に長期的な信頼と成功をもたらすという考え方は、SIer としての仕事への取り組み方を見直すきっかけになりました。
今後は「the seven ways」を参考に、AP 基盤チームとしての信頼構築を段階的に進めていきたいと思います。また、フルスタック・ITA への挑戦も続け、技術的な信頼性(Reliability)も向上させていく予定です。
最後に、このセッションで学んだ「能動的に信頼を勝ち得る」という考え方は、技術者として、そしてチームメンバーとして常に意識していきたいと思います。
この記事が、組織の内製化や信頼構築に取り組む方々の参考になれば幸いです。
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