業務で勉強会の視聴会をする
はじめに
リモートワークが当たり前の世の中になって、巷では勉強会もオンライン開催がよく行われるようになりました。それに伴い、勉強会の動画をアップロードしてくれることも以前よりもかなり増えたように思います。ITエンジニアにとって勉強会は技術を習得する方法の一つとして有益なのは皆さんご存知のことかと思います。
私が勤めている会社では業務時間を業務に必要な技術習得にあてることができます(当たり前ですね)。巷の勉強会に参加したり、同僚たちと輪読会を毎週やってみたり、LT大会をやってみたりと、技術習得の方法も様々です。わたしも様々な技術習得のための企画を立ち上げたりするのですが、最近は勉強会の視聴会を企画してみたので、それについて書いてみたいと思います。
勉強会の視聴会とは
ここでは、勉強会の視聴会とは、何らかの勉強会の動画を複数人で同時に視聴して学びを得る会を指します。視聴会そのものも勉強会の形態の一つです。リアルの場で行う場合とリモートの場合があると思いますが、今回は特にリモートで視聴会を行うことについて考えます。
視聴会のなかでは視聴だけではなく、動画を見たあとに視聴したメンバーとディスカッションする時間を設けてもよいでしょう。Slackなどのテキストチャットで動画について各自思ったことを書いてもらうのも効果的です。
ちなみに勉強会の視聴会自体は私が始めたわけではなく、インターネット上でもそういった会を見かけますし、私も同じ会社の同僚が既にやっていたのを参考にしています。
なぜ視聴会をやるのか
インターネット上に公開されている勉強会の動画を視るだけならば、もちろん各個人で視聴できます。それではなぜ、わざわざ同じ時間に複数人で集まって同じ動画を視るのでしょうか?私としては、視聴会には下記のメリットが有ると考えます。
- 集まったメンバーで動画の内容について意見交換できる
- 半ば強制的に動画を見る時間を確保できる
- 有益な動画に絞って視聴しやすい
- 準備が楽
1つめは「集まったメンバーで動画の内容について意見交換できる」という点です。もちろん、一般的な勉強会では質問タイムやディスカッションの時間が設けられていることがありますし、動画であればコメントをつけることもできます。ただ、勉強会上ではどうしても不特定多数との集まりになり、コンテキストが広いのでどうしても込み入った議論というのは難しくなります。動画にコメントしても、レスポンスにあまり期待もできません。視聴会であれば、より狭いコンテキスト内で議論ができます。同じ会社の同僚であれば、自分たちが業務上扱う技術と密接に絡めた会話もできるでしょう。「この勉強会の内容は弊社の○○に適用するとよさそう」みたいな話もできます。
2つめは「半ば強制的に動画を見る時間を確保できる」です。インターネットにはすでに勉強会の動画が大量に存在し、いつでも見られる状態になっています。人間の心理として、いつでも見られるものはどうしても先送りにしがちです。あの勉強会の動画気になるから いつか時間が空いたときにでも見よう と思うことは多々あると思います。が、だれでも忙しさにかまけてそういった動画を視ることはあまりありません(これは人にもよると思いますが、わたしはそうです)。なので、定期的に一定の時間を確保するルールを定めることで、強制的にいつか見ようと思っていた動画をちゃんと消化できます。
3つめは「有益な動画に絞って視聴しやすい」です。おそらく、いつか見ようと思った動画の総再生時間はゆうに可処分時間を超えています。なので、われわれが人類である限り、視聴する動画は絞らざるをえません(もし100個の眼球を持ち、同時に100本視聴する能力の宇宙人がいれば、彼らはそんな心配はないかもしれません)。後述の運営の部分でその方法について触れますが、視聴会という枠組みを作ることで、自然とより視聴優先度の高い動画をキュレーションされるようになります。視聴会のテーマに沿って、自分がより見たいと思っていた動画や、参加者にとって有益そうな動画を選ぶようになります。また、自分が知らなかっった有益な動画を他の参加者から教えてもらえる機会にもなります。
4つめは「準備が楽」という点です。これは勉強会を企画したことのある方なら特によくご理解いただけるとおもうのですが、勉強会の運営というのはけっこう大変です。輪読会やLT大会のような形式であれば、資料を作る時間が必要です。資料をつくるというのはそう簡単なタスクではありません。LTぐらいであれば気楽にできるだろうと思っても、やはり発表者の負担にはなります。負担があると発表者や発表の質が減り、発表者や質が減ると勉強会の魅力がなくなってより人が減り…という負のループに陥りがちです。特に業務でやるような勉強会ではなおさらそうでしょう。どうしても業務が忙しいときは業務を優先せざるを得ません。一方、視聴会で必要な準備は、インターネットからよさそうな動画を探しておくだけです。もちろん探すことの負担は0ではありませんし、動画のキュレーションにも工夫は必要になりますが、資料を作る負担に比べればかなり小さいです。輪読会では1人の人が毎週資料を作るといった会はなかなかないと思いますが、動画を探す程度であれば1人で毎週キュレーションすることも可能でしょう。
視聴会の企画運営
視聴会の企画内容や運営ルールは主催者やメンバーの都合に合わせて、いいように定めれば良いと思いますが、参考程度に私がいま実施している企画運営を紹介します。どのような視聴会であれ、企画や運営の内容を明文化して共有するのは大事なことです。
テーマを決める
まず、視聴会のテーマを決める必要があります。たとえば、「Kubernetesの勉強会の視聴会」など、一定の分野に絞ったほうが何かと都合がよいでしょう。ITの勉強会ならなんでもOK、のように広いテーマにしてももちろんよいですが、テーマが広すぎると動画のキュレーション範囲が広く負担が大きくなったり、参加者が多くなりすぎてディスカッションが難しくなったりします。参加者が多くても10数人ぐらいになりそうなテーマを設定できるとやりやすいはずです。分野縛りだけだと参加者が多くなりそうであれば「Kubernetes中級者以上の勉強会の視聴会」のように、条件をつけて範囲を絞ってもよいでしょう。どのぐらいの塩梅がいいかは、当然皆さんの告知範囲や周りのメンバー次第なので、皆さんの感覚で適度そうなところを探りましょう。
動画のキュレーション担当を決める
視聴会において誰が動画をキュレーションするかは大事なポイントになります。有益な視聴会をするためには、テーマに沿った良い動画をキュレーションするのは重要だからです。キュレーション担当者は、少なくとも事前に動画の概要や質問時間などを含めた動画の時間を把握しておく必要があるでしょう。キュレーション担当も視聴会で視聴したいので、事前にすべて視るまではしなくていいと思いますが、雰囲気を掴むために倍速で流してみたり、ピンポイントで動画の一部分だけでも視ておくほうがトラブル防止になると思われます。
キュレーション担当は基本的には下記の2通りあるはずです。
- 主催者が毎回キュレーションする
- 参加者が持ち回りでキュレーションする
上記以外にも工夫次第で細かいやりかたは色々あり得るとは思います。たとえば、基本的には主催者が動画を決定するものの、事前に動画一覧と投票ページを作っておいて、参加者に投票してもらってみたい人が多そうな動画を視聴していく、という工夫をしてもよいでしょう(もちろんそこまでしなくても良い)。視聴対象の動画が少ないようであれば、時系列順に全部見るみたいな決めをする場合もあるでしょう
私が今実施している視聴会では、参加者が持ち回りでキュレーションするようにしています。頻度は週ごとなので、開催日に担当者を割り当てて、毎週1人の参加者にキュレーションしてもらっています。参加者にキュレーションしてもらうにしても、主催者は可能であればキュレーション指針を明文化しておいたほうがよいでしょう。ある程度指針を定めておくことで、キュレーションの負担も減ります。私が今実施している視聴会は1時間なので、動画視聴時間は30分〜40分になる(残りはディスカッション時間にする)ようにキュレーションしてもらっています。時間に収まれば発表の本数は問いません。また、日本語の動画のみといった適度な縛りも入れておいたほうが、動画を探す範囲が狭まります。主催者が把握している範囲で、その分野で動画を公開している勉強会の一覧を用意しておくのもよいでしょう。また、キュレーション担当者の急な欠席やキュレーション忘れが発生したとき向けに、主催者が予備の動画も用意しておけると安全です。
あとはやるだけ
毎週時間を決めて、視聴会をやるだけです。事前に準備することは上記にあげたことぐらいで、そんなにやることはないので簡単ですね。もちろん、みなさんの都合に合わせてやり方は変えるなり工夫してよいでしょう。
動画の視聴方法
さて、企画運営では触れませんでしたが、動画の視聴方法については注意する必要があります。視聴会をする上では、参加者全員が同時に動画を見ることがわりと大事です。同時に見ることでで、チャット上での議論がしやすいからです。あと、一体感もなんだかんだあったほうが良い気がします。
動画を同時に見るためには下記の方法があるはずです。
- 動画を画面共有する
- よーいどんで再生開始タイミングをあわせる(声をかけるなどして各参加者の端末上で再生ボタンを同時に押すようにする)
- ウォッチパーティツールを使う
「動画を画面共有する」が可能ならおそらく最もお手軽ですが、この場合は動画の権利および動画プラットフォームの規約の問題があります。まず、動画は著作権で保護される対象です。著作物が自由に使える場合
であれば問題ありませんが、業務で視聴会を行った際に該当するかというと、難しいところです。私は法律の専門家ではないので正確ではない可能性がありますが、著作権法の内容を見る限り「著作物が自由に使える場合」にはあたらないと考えます。「著作物が自由に使える場合」でなくとも、著作権者が個別に許諾を行っていれば問題ありませんが、私の知る限り多くの勉強会の動画はそのような許諾をしていません。また、勉強会の動画はYouTubeを利用されている事が多いと思いますが、著作者の許諾とは別にYouTubeの利用規約として、他者への動画の再配信が禁止されています。著作者による動画の共有の許諾があり、さらに動画配信プラットフォームの規約で問題なければ画面共有を行ってもよいはずですが、これらがクリアなことは稀なはずです。
上記の問題を回避するために思いつくもっとも原始的な方法は、「よーいどんで再生開始タイミングをあわせる」です。Zoomなどで音声会話だけを行い、動画のURLを共有しておきタイミングを合わせて再生ボタンを各自で押してもらいます。少人数の開催であれば、この方法でもさほど問題ではないでしょう。
もう一つの回避策として、「ウォッチパーティツール」の利用があります。これらは動画プラットフォーム公式の埋め込みプレイヤーを使いつつ、再生時間のみを同期するという実装をされていることが多いようです。再生時間を動悸する仕組みなので、動画プラットフォームのプレイヤーで各個人で視ている扱いであり画面共有にはあたらないといった仕掛けです。画面共有ではないので、権利や規約上の問題はないはずです。ただ、ウォッチパーティツールというなれないツールを使うという参加者の負担は少しだけあります。私がいまやっている視聴会では、GitHub - Web-SyncPlay/Web-SyncPlayを使ってみています。対応プラットフォームが多く、dockerで簡単に立ち上げられるのがいいところです。この手のツールは他にもいろいろあるので、皆さんの都合に合わせてウォッチパーティツールを選んでみてよいでしょう。
まとめ
勉強会の一つの選択肢として、視聴会についてまとめました。業務に限らず、仲のいい身内でやってみるとか、インターネット上で企画してみてももちろんよいでしょう。
今やっている感じだと、低負荷で行えるわりに有益な学びが得られるので、コストパフォーマンスがいい勉強方法だと思っています。とくにその分野の勉強会の動画が多く、全部は視きれない場合には効果的だと思います。
著作権など注意する部分はありますが、ぜひ皆さんも勉強会の視聴会を企画してみて貰えればと思います。
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