JTC (Japanese Traditional Company) という英語は間違っているのか?
JTC (Japanese Traditional Company) とは、伝統的な日本の大企業が持つダメなところをからかう意味で使われる言葉 [1] です。普段 Zenn を使っているユーザーの中にも、JTC で働いている人、JTC を退職した人、JTC に就職しようか迷っている人などがいるかと思います。
この記事では JTC での働き方うんぬんに関してではなく、JTC という(日本で発生した)英単語自体について考察してみます。
形容詞の順番からの考察
さて、形容詞の順番には一定のルールがあるとされています。
画像の出典は https://www.langland.co.jp/english/column/english-column13.php より
この図にもとづくと、Japanese は Origin(出身)、Traditional は Age(古さ)に相当し、Age は Origin よりも左側に来るので、 Traditional Japanese Company がより自然な英語になると言えます。
これは本当でしょうか?
実際に COCA(Corpus of Contemporary American English) というコーパスで調べてみました。これは言語学の文献ではよく使われるコーパスで、会員登録すれば無料で使えます。
まず、正しいとされる traditional Japanese という語順を含む文の数は 270 件 見つかりました。
(例)
- Taking care of parents in their old age is another important aspect of the traditional Japanese family, which requires the continuation of the family.
- 老後の親の面倒を見ることも、家族の継続を必要とする日本の伝統的な家族の重要な側面です。
- Matcha is the green tea used in traditional Japanese ceremonies.
- 抹茶は、日本の伝統的な儀式で使われる緑茶です。
一方で、Japanese traditional という語順を含む文の数も 10 件 見つかりました。traditional Japanese と比べると用例は少ないですがゼロではないようです。
(例)
- She recently completed a memoir on her experiences studying Japanese traditional music in Tokyo.
- 彼女は最近、東京で日本の伝統音楽を学んだ経験をまとめた回顧録を完成させました。
ただ、この10件の用例を見ると、一定の共通点のある特殊なケースであることも見えてきます。それは traditional とその後の単語が強く共起 して multi-word expressions(複単語) のようになっていることです。例えば、以下のようなフレーズを含む文章が例文としてありました。
- Japanese traditional art (日本の 伝統芸能 )
- Japanese traditional clothing(日本の 民族服 )
- Japanese traditional music (日本の 伝統音楽 )
したがって、単に形容詞の語順だけを見るのではなく、名詞との共起の具合についても考えるのがよさそうです。
形容詞と名詞の組み合わせからの考察
先程登場した "art", "clothing", "music" のような単語は、"Japanese" よりも "traditional" を強く選好するのではないか?という仮説が浮かびます。
これらについて、実際に COCA で用例数を調べてみましょう。
Japanese | traditional | |
---|---|---|
art | Japanese art (171) | traditional art (167) |
clothing | Japanese clothing (8) | traditional clothing (44) |
music | Japanese music (44) | traditional music (357) |
music と clothing に関しては確かに traditional が直前につく用例数が上回っています。
一方で、art に関しては Japanese が直前につく用例数が若干多いです(実際、英語 Wikipedia に "Japanese art" という記事名がありこちらも multi-word expressions になっているようです)。とはいえ traditional art も用例数としては多い方です。
これを踏まえて、本題の company について調べてみましょう。
Japanese | traditional | |
---|---|---|
company | Japanese company (225) | traditional company (23) |
Japanese company という用例数が圧倒的に多いです。これは traditional Japanese company という表現がより自然なのではないか?という主張を裏付ける有力なデータです。
(そもそも日本語でも「伝統的な 日系大企業 」と言いますね)
American Company に付随する単語からの考察
Japanese では用例が少なすぎるので、Japanese と同種の形容詞である American に代えて、それに付随する単語を調べてみます。
(ちなみに、"traditional" そのものを含む例は Japanese でも American でも一例もありませんでした。)
まず、* American company
という組み合わせについては、
large American company (6件)
iconic American company (4件)
great American company (3件)
major American company (3件)
big American company (3件)
といった例が目立ちます。一方で、American * company
という組み合わせについては、
American tobacco company (33件)
American express company (25件)
Ameircan oil company (24件)
などの会社の業種に関する単語が目立ち、性質を表すような形容詞を含む例は見つかりませんでした。これもやはり、traditional Japanese company という表現がより自然なのではないか?という主張を裏付けるデータです。
なお、Japanese の場合でも
large Japanese company (4件)
major Japanese company (2件)
Japanese car company (8件)
Japanese pharmaceutical company (8件)
Japanese electronics company (7件)
など、同様の傾向があります。
まとめ
- 外国人に JTC について説明するときは Traditional Japanese Company という用語を使うべきである。なぜなら
- "Japanese traditional" よりも "traditional Japanese" の方が語順として好まれる
- "traditional company" よりも "Japanese company" の方が用例が多い
- "Japanese * company" と言った場合
*
には普通会社の業種を表す単語が入る
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