効果的なインセプションデッキづくり
今回は、プロジェクトをうまく進める上で欠かせない「インセプションデッキ」について、私の経験も交えながらお話ししていきたいと思います。
「インセプションデッキをつくったけど、時間ばかりかかってあまり効果が感じられなかった...」
「形だけつくって、その後は見直しもせず使われていない...」
こんな経験はありませんか?実は、インセプションデッキづくりは進め方次第で、その効果に大きな差が出るんです。今回は、インセプションデッキをつくるためのポイントをご紹介します!
インセプションデッキって、そもそも何?
インセプションデッキは、プロジェクトの目的や方向性をチームとステークホルダーの間で明確にし、認識合わせをするためのツールです。10個の質問に答えていくことで、プロジェクトのビジョンやリスク、大事にしたい事を整理していきます。
でも、ここで一つ重要なポイントがあります。インセプションデッキは「チームの内部向け」のものではないんです。むしろ、チームの外側のステークホルダーとの「期待値合わせ」に大きな価値があります。
例えば、こんな状況を想像してみてください:
- ステークホルダー: 「このプロジェクトで売上を2倍にしたい!」
- 開発チーム: 「ユーザー満足度の向上が最優先だよね」
...あれ?方向性が全然違いますよね?😅
このようなズレをプロジェクトの早い段階に発見し、解消することこそがインセプションデッキの真の目的なんです。
出典: 市谷聡啓 『カイゼン・ジャーニー』 (翔泳社, 2018) 図2-5「インセプションデッキの10の問い」
効果的なインセプションデッキをつくるための3つのポイント✨
1. 関係性づくりから始めよう
「いきなりインセプションデッキをつくり始めても、うまくいかない」
これ、私も何度も経験しています。なぜかというと、チームの関係性が構築できていない状態では、本音の議論ができないからなんです。
特に新しいチームや組織でデッキづくりを進める場合、以下のようなエクササイズを実施してからデッキづくりに取り組むことをおすすめします。
-
パーソナルマップ や自己紹介を通して、お互いのことを理解する
- 趣味や特技、得意な技術領域など、仕事以外の部分も共有することで相互理解が深まります。
- 「自分の失敗談」を共有するのも、心理的安全性を高めるのに効果的です。
- 「ドラッカー風エクササイズ」や「ムービングモチベーターズ」などを実施し、お互いの価値観を理解する
- ドラッカー風エクササイズ: 『アジャイルサムライ−達人開発者への道で紹介されたエクササイズ。「自分は何者か」「自分の強みは何か」「自分は何に価値を置くか」などを共有する。
- ムービングモチベーターズ: Management3.0のプラクティスの1つ。関係性、熟達、好奇心、自由など各自が重視する価値観を可視化する。
2. 「完璧」を求めすぎない
よくある失敗として、「完璧なインセプションデッキをつくろう」とする傾向があります。でも、実はそれは本末転倒。大切なのは、デッキづくりの過程での「対話」なんです。
異なる意見が出てきたら、それはむしろチャンス!その違いについて深堀り議論することで、チームメンバー同士の理解が深まっていきます。
3. デッキの見直しタイミングを決めておく
デッキをつくったけど、どこにあるのかもわからない。1年前につくったまま見直しもしていない、ということをよく聞きます。
プロジェクトに関わる誰もが見える場所に置いておくことが大切です。最近だとMiroなどのオンラインホワイトボードを活用するのもいいですね。
デッキづくりの最後に見直しのタイミングを決めておくのも重要です。例えば、私たちのチームでは、3ヶ月ごとに見直しするタイミングを設定しています。
さいごに
インセプションデッキは、決して「作らなければならない資料」ではありません。デッキは、チームとステークホルダーが「同じ方向を向くための対話の場」なんです。
そして、忘れてはならないのが「デッキはチームの鏡」という視点です。デッキづくりの過程で見えてくる課題や対立点は、実はチームの現在地を映し出しています。例えば:
- われここ(ビジョン)についての議論が盛り上がらない → チームがプロジェクトを自分ごととして捉えられていない、やらされ感が出ている
- 眠れない問題(課題・リスク)の洗い出しで意見が割れる → リスク許容度や優先順位の認識にズレがある
- エレベータピッチの議論で具体性がない → 誰のためにどんな価値を届けるのかという顧客への理解が不足している
こういった「鏡に映った姿」を直視することで、プロジェクト開始前や実行中に多くの問題を解決できるチャンスが生まれます。インセプションデッキは、チームの健全性を確認するための貴重な機会です。
完璧なデッキを目指すのではなく、チームの対話を促し、課題を発見するツールとして活用していくのが大事ですね。
Discussion