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AI導入の鍵は「共創」にあり──大企業500社に聞いたAIエージェント活用の最前線

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PKSHA Technologyと松尾研究所が実施した調査で、AI導入済み大企業の6割がすでにAIエージェント(自律的にタスクを処理するAI)を活用していることが判明しました。

導入企業の94%が事業継続や競争力への貢献を実感しており、導入のきっかけは「知識継承の課題」や「人材不足」が上位を占めています。

導入企業と外部パートナーが「共創」することで専門性と自社知見を組み合わせたハイブリッド型アプローチができます。また、「共創」は完全内製や完全外注よりも、スピード・コスト・品質のバランスで優位性を示しました。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000221.000022705.html

深掘り

AIエージェント導入の実態

本調査では、AI活用が進む企業ほどAIエージェントの導入率が高いことが明らかになりました。全体では12%の導入率ですが、何らかのAIツールを利用している企業に限ると57%が導入済み、さらに23%が導入予定という結果です。

特筆すべきは、AIエージェント導入企業の90%以上が「未導入の場合、競争力に影響が出る」と回答している点です。具体的には「人的リソースのひっ迫」「業務スピードの遅れ」「データ活用の停滞」などが懸念されています。

共創モデルの優位性

調査で最も注目すべきは、AI導入手法における「共創」の有効性です。導入方法の内訳は以下の通り:

  • 外部パートナーとの共創:33%
  • 完全内製:21%
  • 完全外注:19%

満足度では共創が67%、完全内製が60%と、共創がわずかに上回りました。特に「導入スピード」「コスト」「セキュリティ・ガバナンス対応」において共創の優位性が顕著です。

ただし、「自社に合ったツール構築」や「社内の意識改革・文化醸成」では内製にも価値があることが確認されています。これは、AI導入が単なる技術実装ではなく、組織変革を伴うプロセスであることを示唆しています。

用語解説

AIエージェント
目的を理解し、自律的にタスクを自動処理・実行するAIシステム。従来のAIツールが人間の指示に従って処理を行うのに対し、AIエージェントは状況を判断し、複数のタスクを自動で実行できます。

共創(Co-creation)
企業が外部パートナーと協力しながら、共同でシステムや製品を開発する手法。一方的な発注・受注関係ではなく、双方の知見を持ち寄り、対等な立場で価値を創造します。

PoC(Proof of Concept / 概念実証)
新しい技術やアイデアが実現可能かを検証する小規模な実証実験。AI導入では「PoCで終わる」(実証実験だけで本格導入に至らない)ことが課題とされています。

内製化
外部に委託せず、自社の人材とリソースでシステム開発や運用を行うこと。ノウハウの蓄積や柔軟な対応が可能な反面、専門人材の確保や開発期間が課題となります。

ルーツ・背景

AI活用の歴史的転換点

日本におけるAI活用は、2010年代の第三次AIブームから本格化しました。特に2012年のディープラーニング技術の進展により、画像認識や自然言語処理の精度が飛躍的に向上。企業でも実用化の機運が高まりました。

2018年頃からは「AIで業務効率化」というスローガンのもと、多くの大企業がAI導入を試みましたが、「PoCで終わる」「現場に定着しない」という課題が顕在化しました。

労働人口減少という社会背景

本調査の背景には、日本の深刻な労働人口減少があります。総務省の推計では、2050年には生産年齢人口が現在の約7割に減少すると予測されています。この状況下で、企業は「人手不足の解消」「知識・ノウハウの継承」という切実な経営課題に直面しています。

調査で「知識継承の課題」が導入理由の49%を占めたのは、ベテラン社員の退職による暗黙知の流出を、AIエージェントで補完しようとする企業の姿勢を反映しています。

共創モデルの台頭

従来のIT導入は「完全外注」か「完全内製」の二択でした。しかしAIは技術進化が速く、かつ業務知識との融合が不可欠なため、どちらか一方では限界がありました。

そこで登場したのが「共創」モデルです。外部パートナーの最新技術と、自社の業務知識を組み合わせることで、スピードと品質を両立させる手法として、2020年代に入り注目を集めています。

技術の仕組み

AIエージェントの基本構造

AIエージェントは、大きく3つの要素で構成されています:

  1. 認識・理解:状況やデータを読み取り、何が求められているかを理解
  2. 判断・計画:目的達成のために、どのような手順で処理すべきか計画
  3. 実行・学習:実際にタスクを実行し、結果から学習して改善

例えば、カスタマーサポートのAIエージェントなら、顧客の質問内容を理解し(認識)、過去の対応事例から最適な回答を判断し(計画)、実際に返信を作成して送信する(実行)、という流れです。

共創モデルの実践プロセス

共創モデルは以下のステップで進みます:

Phase 1:課題の共有と目標設定
企業とパートナーが対話を重ね、解決すべき経営課題と、AIで実現したい目標を明確化します。

Phase 2:共同設計
外部パートナーが最新のAI技術を提案し、企業側が業務の実態や制約条件を提供。両者で実現可能な設計を作り上げます。

Phase 3:アジャイル開発
小さく試して改善する「アジャイル開発」で、短期間でプロトタイプを作成。現場の声を反映しながら修正を重ねます。

Phase 4:運用と改善
導入後も定期的に効果を測定し、改善提案を継続。同時に、社内人材の育成も並行して行います。

実務での役立ち方

業務別の活用シーン

営業・マーケティング部門
AIエージェントが顧客データを分析し、最適なアプローチ方法を提案。営業担当者は提案活動に集中できます。共創により、自社独自の営業プロセスに最適化されたツールを構築できます。

カスタマーサポート
問い合わせ内容を自動分類し、定型的な質問にはAIが即座に回答。複雑な案件だけを人間が対応することで、対応時間を大幅短縮できます。

人事・採用部門
応募者の経歴書を分析し、求める人材像とのマッチング度を自動判定。面接官は本質的なコミュニケーションに時間を使えます。

製造・品質管理
生産ラインのデータをリアルタイム分析し、不良品発生の予兆を検知。ベテラン技術者の「勘」をデータ化して継承できます。

共創を成功させるポイント

調査によれば、パートナーに求められる要素の上位は:

  1. 業務理解と現場が使いやすい提案(41%)
  2. 最新AI技術の知見と適用力(31%)
  3. 経営目線での助言(28%)

つまり、ビジネスマンが共創を推進する際は、パートナー選定で「現場を理解してくれるか」を最重視すべきです。技術力は大前提として、自社の業務に深く入り込んでくれるパートナーを選ぶことが成功の鍵です。

キャリアへの効果

市場価値の向上

AI関連スキルを持つ人材の需要は急増しています。特に「AI導入プロジェクトの推進経験」は、今後どの業界でも重宝されるスキルです。本調査で明らかになった共創モデルを理解していれば、社内のAI導入プロジェクトでリーダーシップを発揮できます。

複合的スキルの獲得

共創モデルの推進には、以下の複合的スキルが必要です:

  • ビジネス理解力:自社の経営課題を構造化して説明する力
  • 技術理解力:AIの可能性と限界を理解し、適切な期待値を設定する力
  • コミュニケーション力:社内外のステークホルダーを巻き込む力
  • プロジェクト管理力:複数の関係者を調整しながら成果を出す力

これらは、将来的に経営層やコンサルタントを目指す上でも必須のスキルセットです。

組織内での存在価値

AIエージェント導入企業の94%が事業貢献を実感している今、「AI活用を推進できる人材」は組織にとって不可欠な存在です。特に、共創プロジェクトを成功させた実績は、昇進や重要プロジェクトへのアサインにつながります。

学習ステップ

Step 1:基礎知識の習得(1〜2ヶ月)

まずは、AIやAIエージェントの基本概念を理解しましょう。専門的な数学や プログラミングは不要です。「AIで何ができるのか」「どんな制約があるのか」を把握することが目標です。

具体的なアクション:

  • AIに関する入門書を1冊読む
  • ChatGPTなどのAIツールを実際に使ってみる
  • 業界のAI活用事例を3〜5件調べる

Step 2:自社課題の洗い出し(1ヶ月)

自社の業務で「AIで解決できそうな課題」をリストアップします。調査結果を参考に、以下の視点で考えてみましょう:

属人化している業務はないか

大量のデータが活用されずに眠っていないか

定型的で時間がかかる作業はないか

具体的なアクション:

  • 部署内でヒアリングを行う
  • 業務フローを可視化し、ボトルネックを特定
  • 課題の優先順位をつける

Step 3:小規模な実験(2〜3ヶ月)

いきなり大規模導入は避け、小さく始めることが重要です。限定的な範囲でAIツールを試用し、効果を検証しましょう。

具体的なアクション:

  • 既存のAI SaaSツールを無料トライアル
  • 1つの業務プロセスに絞って試験導入
  • 定量的な効果測定(時間削減、精度向上など)

Step 4:共創パートナーの選定(1〜2ヶ月)

本格導入を検討する段階では、パートナー選びが重要です。調査で示された「求められる要素」を基準に評価しましょう。

具体的なアクション:

  • 複数のベンダーに提案依頼(RFP)を出す
  • 業務理解度を確認する質問を用意
  • 既存クライアントの事例をヒアリング

Step 5:継続的な学習とネットワーク構築

AI技術は日進月歩です。最新トレンドをキャッチアップし、同じ課題を持つ他社の事例から学び続けましょう。

具体的なアクション:

  • AI関連のセミナーやウェビナーに参加
  • 業界コミュニティに参加し、情報交換
  • 社内で勉強会を主催し、知見を共有

あとがき

本調査が示すのは、AIエージェント活用がもはや「やるかやらないか」ではなく、「どう成功させるか」のフェーズに入っているという現実です。

特に印象的なのは、導入企業の94%が事業貢献を実感しているという数字。これは、適切なアプローチを取れば、AIは確実にビジネス成果につながることを意味しています。

そして、その「適切なアプローチ」こそが「共創」でした。技術力だけでなく、業務への深い理解と、長期的な伴走が求められる時代。ビジネスパーソンには、社内外をつなぐハブとしての役割が期待されています。

AI導入は、決してエンジニアだけの仕事ではありません。現場を知るあなただからこそ、価値ある提案ができるのです。まずは身近なところから、AIで解決できる課題を探してみてはいかがでしょうか。

オススメのリソース

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2. AIエージェントの教科書

内容「生成AI導入の教科書」に続く、シリーズ第2弾。ポスト「生成AI」として注目を集める「AIエージェント」を気鋭のAIエキスパートが徹底解説! 詳細な分析と豊富な導入事例から、AIエージェントの真価と導入への道筋を導き出す。AIエージェントを取り入れて仕事を加速する方法は、この1冊でわかる!

3. 投資対効果を最大化する AI導入7つのルール

内容AI(機械学習)の導入や検討するときにうまくいかないポイントとAI導入の成功“ルール”を伝授。「AIのビジネス活用における考え方」を、「7つのルール」にまとめています。機械学習の理論を易しく解説した上で、ビジネスで活用する際の押さえておくべきポイントを解説していきます。

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