エッジデバイスにおけるOCR技術調査
はじめに
今回は、弊社の横軸活動(技術調査や社内の知見を広げる活動)でOCRについて調べる機会があったので、それを記事としてまとめます。特に、エッジデバイス上でのOCR処理についてまとめてみました。
OCRとは
OCR(光学文字認識)とは、手書き文字や画像データ内の文字を、コンピューターが利用できるテキストデータに自動変換する技術のことを指しています。このOCRを活用することで、紙の請求書、契約書、名刺などを電子化したり、車のナンバープレート認識や工場の製品ラベル読み取りなどを可能にします。
最近では、データをクラウド上にアップロードせず、エッジデバイス内で処理を完結させる(以下:エッジOCR)ニーズが増えています。今回はそのエッジOCRについて調査しました。
エッジOCRの技術的特徴
・リアルタイム性:低遅延でのリアルタイム処理ができる。従来のOCRと比べ、ネットワーク通信を行わないため、待機時間がない。
オフライン動作:クラウドレスで処理が完結するため、オフラインで活用できる。
・オフライン動作:インターネット接続が不安定な環境や、セキュリティ要件でネットワーク接続が制限される場所でも動かすことができる。
・プライバシー保護:認識したデータがデバイス外に送信されないため、個人情報や機密情報の漏洩リスクを最小限にできる。
・可用性向上:ネットワーク障害やサーバーダウンの影響を受けず、安定した動作を実現することができる。
具体的な活用事例
・製造業:部品の識別や品質検査、機密性の高い製造ラインでの活用。
・物流業:荷物の仕分けや配送ラベルの読み取りで活用。
・建設業:地下、高所、山間部など、ネットワーク接続が困難な環境で活用。
主要なフレームワーク
- TensorFlow Lite
- 開発元:Google
- 概要:通常のTensorFlowを軽量化した、モバイル・エッジデバイス向け機械学習フレームワーク
- 対応環境:Android、iOS、Linux などクロスプラットフォーム
- 主な特徴:
・リソース制約のある環境でも動作可能(スマホ、IoTなど)
・訓練済みモデルの推論専用(学習はサポートしていない)
・オープンソースで幅広く利用されている
- Core ML (Apple)
- 開発元:Apple
- 概要:iOS、macOSなどApple製品に最適化された機械学習フレームワーク。
- 対応環境:iPhone、iPad、Mac
- 主な特徴:
・Appleのセキュリティ機能と連携し、プライバシー保護の設計思想に基づいて開発されている
・Xcodeによる統合開発環境でのサポート
・TensorFlowやPyTorchで作成されたモデルもCore ML形式に変換して使用可能
- ONNX Runtime
- 開発元:Microsoft主導(オープンソース)
- 概要:ONNX形式で記述された機械学習モデルを、高速かつ柔軟に実行する推論エンジン。
- 対応環境:Linux、Windows、macOS、クラウド、エッジ、Webブラウザ
- 主な特徴:
・幅広いフレームワークで作成したモデルをONNX形式に変換して(PyTorch、TensorFlowなど)利用可能
・ハードウェアアクセラレーションにも柔軟に対応(NvidiaのTensorRT、IntelのOpenVINOなど)
・エッジデバイスの他、クラウドにもデプロイ可能
まとめ
今回はエッジデバイス上でのOCR活用について、簡単にまとめてみました。
調査の結果、エッジOCRは、リアルタイム性やプライバシー保護が求められる、製造業や物流業界を中心に、注目を集めていることがわかりました。
特に「その場で情報をデジタル化したい」「通信環境が不安定あるいは通信が制限されている」「機密性が高く、クラウドにデータを送れない」といったニーズに対して、エッジOCRは有効な解決策になると感じました。
今後は、不動産や銀行業界の書類手続きの自動化、流通業界における不良品検出から報告書作成など幅広い分野での導入が期待されているようです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献
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