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データマネジメントの教科書 DMBOK2 を俯瞰する

に公開

DMBOK2とは

Data Management Body of Knowledge 第2版(通称 DMBOK2 ) は、
国際団体 Data Management Association International(通称DAMA-I) がまとめた
データマネジメントの知識体系ガイド です。

組織がデータを“資産”として扱い、
安全かつ価値ある形で活用していくために必要な考え方・活動・役割を体系化しています。

初版は2010年に刊行され、その後クラウド・ビッグデータ・AIといった環境変化に合わせ、内容を大幅に刷新したDMBOK2が2017年に刊行されています。

書籍の内容は600ページ超え、価格はデジタル版でも1万円越えです。
購入が億劫な方はぜひ近くの図書館にあるか確認してみるいいと思います。
私が住んでいる自治体の図書館には1冊のみあるようでした。


https://amzn.asia/d/6b3U0Cy

DMBOK2のキーメッセージ

DMBOK2が強調するメッセージは主に以下の4つがあります。

  1. データは組織の資産である
  2. データを管理するには、責任と役割を明確にする必要がある
  3. 中心にガバナンスがあり、すべての領域がそれと結びついている
  4. データマネジメントは“人・プロセス・技術”のバランスが重要

これらの考え方はDMBOK全体を貫く基本姿勢であり、現代のデータ基盤・データガバナンスを考える際の重要な土台になります。
実際に書籍を読むとわかりますが、知識や技術力も試される領域ではありつつ、
経営戦略の落とし込みから組織としての一体感も重要な領域 であることを感じます。

なぜ必要か

企業の多くは、次のような“根本的なデータの問題”を抱えています。

  • データが部門ごとに散在している(サイロ化)
  • 同じ項目なのに定義が一致しない
  • データ品質が不安定で信頼されない
  • 基幹システムと現場の数字が合わない
  • 組織ごとにKPIが違い、比較できない
  • データ利活用の議論以前に「土台」が整っていない

DMBOK2は、こうした “データのカオス”を整理するためのフレームワーク として機能します。
特定の技術やベンダーに依存せず、どの企業でも共通して使える 普遍的な「考え方の地図」 を提供することも特徴です。

DMBOK1 からの主な改訂ポイント

DMBOK2では、現代のデータ環境に合わせて大幅な見直しが行われています。
特に重要な変更点は以下など。

  • 知識領域が 10 → 11領域
  • データガバナンスの役割強化
  • ビッグデータ/AI/クラウドを前提にアップデート
  • MDM・メタデータ・セキュリティ領域の拡充
  • データライフサイクル管理の見直し
  • ロール(Owner / Steward)の整理
  • “データ品質”がより横断的な概念として扱われた

DMBOK2は、DMBOK1を単に厚くしただけではなく、
データを取り巻く現代の課題にあわせて全体設計をアップデートした新しい体系だと言えそうです。

DAMAホイール(11の知識領域モデル)

DMBOK2は「DAMAホイール」という形でデータマネジメント全体を俯瞰できる地図を提供しています。

各領域は人材・プロセス・技術の3要素が必要で、“データガバナンスが中央” に位置するのがポイントです。


出所:『データマネジメント知識体系ガイド 第二版』 DAMA International編著、DAMA日本支部、Metafindコンサルティング株式会社 監訳、日経BP

1. データガバナンス

定義

データ資産の管理を、職務権限に基づいて統制し、組織として意思決定を共有・徹底させること。

ゴール

  • 組織が自らのデータを資産として管理できる状態をつくる。
  • データマネジメントに関する原則・ポリシー・手続き・責任を定義し、全社へ浸透させる。
  • ポリシーの遵守やデータ利用・管理活動を継続的に監視し、適切に導く仕組みを整える。

2. データアーキテクチャ

定義

企業のデータニーズを明確化し、ビジネスに適したデータ構造とマスターとなる青写真を設計・維持すること。データ統合を促し、データ資産を戦略的に管理・投資するための基盤をつくる活動。

ゴール

  • データの保存と処理の要件を明確にする。
  • 企業の現在および将来のデータ需要に応じた構造と計画を設計する。
  • 技術や組織・サービスとデータを適切に連携させ、迅速に活用できる状態を整備する。

3. データモデリング & デザイン

定義

データ要件を明確にし、分析・記述・伝達するために概念モデル・論理モデル・物理モデルを作成するプロセス。アプリケーションやデータ管理の前提となる構造を設計する活動。

ゴール

  • 多様な視点でデータ要件を理解・確認・文書化する。
  • 既存・将来の業務要件に対応できる整合性の高いデータ構造を設計する。
  • MDM やデータガバナンスの施策が成功するための基盤を整備する。

4. データストレージ & オペレーション

定義

データの価値を最大化するために、永続化されるデータの設計・展開・維持を実施すること。データの可用性、完全性、性能を保障するための運用管理を含む。

ゴール

  • データライフサイクル全体にわたって可用性を管理する。
  • データ資産の完全性と安全性を確保する。
  • データ処理の性能を安定的に管理する。

5. データセキュリティ

定義

セキュリティポリシーを策定・実装し、データおよび情報資産に対し適切な認証・権限付与・アクセス制御・監査を行うことで、不適切なアクセスを防ぎ保護すること。

ゴール

  • データ資産に対して適切なアクセスを許可し、不正アクセスを防止する。
  • プライバシー・機密性・保護に関する規制やポリシーを遵守し、持続的に管理する。
  • ステークホルダー要求に沿ったセキュリティ管理が確実に実施され、監査可能な状態を維持する。

6. データ統合

定義

アプリケーション間や組織内外のシステム間で、データが適切に移動し統合されるように管理すること。

ゴール

  • 法令やルールを遵守しながら、必要なフォーマットと時間枠で安全にデータを提供する。
  • 共通のモデルやインターフェースを整備し、システム間連携を容易にし複雑性を低減する。
  • 重要イベントを監視し、アラートや処理を自動的に起動できる状態を整える。
  • BI・アナリティクス・MDMなどの取り組みを支える統合基盤を提供する。

7. ドキュメンテーション & メタデータ管理

定義

データおよびインフォメーションがあらゆる形式・媒体で取得されることを前提に、それらのライフサイクル全体を通して計画・実行・統制する管理活動。

ゴール

  • レコード管理を法的義務に従って適切に実施し、顧客期待に応える。
  • ドキュメントやコンテンツを効率的に蓄積・検索・利用できる状態を整える。
  • 構造化/非構造化データ間の統合を実現する。

8. データ品質管理

定義

データ資産の管理を、職務権限に基づいて統制し、組織として意思決定を共有・徹底させること。

ゴール

  • 組織が自らのデータを資産として管理できる状態をつくる。
  • データマネジメントに関する原則・ポリシー・手続き・責任を明確化し、全社へ浸透させる。
  • ポリシーの遵守やデータ利用・管理活動を継続的に監視し、適切に導く仕組みを整える。

9. マスタデータ管理(MDM)

定義

組織内の共通データを管理し、データの冗長性や不整合によるリスクを低減し、品質向上とデータ統合コストの削減を実現すること。

ゴール

  • 業務領域やアプリケーションを横断してデータを一貫性のある形で共有できるようにする。
  • 品質が担保されたマスターデータ・参照データを正確なソースとして提供する。
  • 標準モデルや統合パターンを用いてコストと複雑性を削減する。

10. データウェアハウス / BI

定義

意思決定を支援するデータを提供するために、レポート作成、クエリ処理、分析に必要な基盤を計画・構築・運用・統制すること。

ゴール

  • 業務遂行・規制遵守・分析活動を支える技術環境と統合データ基盤を提供する。
  • ナレッジワーカーが意思決定を行う際に必要な業務分析を可能にする環境を整備する。

11. データライフサイクル管理

定義

データが生成・取得されてから、活用・保管・アーカイブ・廃棄されるまでの一連のプロセスを体系的に管理し、各段階で適切な品質・コスト・リスクコントロールを行うこと。

ゴール

  • データの生成から廃棄までを通じて、品質・可用性・セキュリティ・コンプライアンスを一貫して維持する。
  • ライフサイクルに応じた適切なストレージ配置、保持期間、アーカイブ方針を定め、コスト最適化とリスク低減を実現する。
  • 活用価値が低下したデータを適切にアーカイブ・廃棄し、システム性能・運用効率・データ基盤の健全性を維持する。

DAMAホイールの発展形

上の各領域を高めていったデータマネジメント全体像を「プロセス × ガバナンス × 基盤」で整理した構造図が以下です。


出所:『データマネジメント知識体系ガイド 第二版』 DAMA International編著、DAMA日本支部、Metafindコンサルティング株式会社 監訳、日経BP

注意・課題

全部やるものではない

最後に重要なポイントとして、DMBOK2はすべての領域を完璧に実施するための義務ではありません。
これはDMBOK自身にもそう書いてあります。

DMBOK本来の目的は、
「データマネジメントに着手しやすくするための共通言語(フレームワーク)を提供すること」
です。

  • 組織によって優先すべき領域は異なる
  • すべての領域を同じ深さで実装する必要はない
  • 必要に応じて適用し、成熟度を段階的に高めていくべき

この辺りは予め理解しておく前提かと思いました。

特に、ガバナンス・マスタデータ・品質管理などは必須領域に近いですが、メタデータ・ドキュメント&コンテンツなどは、業種や目的次第で優先順位が大きく変わります。

正直、DMBOK読んでも

  • 長い
  • 抽象度が高い
  • 重複が多い(章ごとに筆者が異なる)
  • 専門用語が多い
  • 長い
    ...みたいな感想を抱いてしまいます。

使えないとか価値が薄いとか決してそういった意味ではないです。
DMBOKは「全部確認しなきゃいけない教科書」ではなく、全容と今必要なところだけを確認するレシピ本的な道具かなーくらいに思っています。

2025年に必ずしもフィットしない

DMBOK2は発行されたのが2017年なので、ここ数年で発達したクラウドネイティブの思想やAI活用の領域までは手を出せていない印象です。
特に最近はレイクハウスやMLOps/LLMOps、データメッシュの考えなど、
組織の在り方からどんどんアップデートされているので、全体的に中央集権のモデルを採用しているDMBOK2は少しニーズと合致しない箇所もあるかもしれません。

DMBOK2にある内容は1つのモデルとして方針を参考にしつつ、アクションはリアルな現場とモダンなアーキテクチャを元に、ハイブリッドで実行する必要があると感じました。

ヘッドウォータース

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