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量子計算を利用した統計モデリングの例
1. 背景
統計モデリングでは、確率分布の推定やデータのパターン学習が中心的な課題です。
従来はベイズ推論や最大尤度推定などを用いていますが、量子計算を利用すると次のような利点が期待されます:
- 大規模データの確率分布を効率的に扱える
- 量子重ね合わせを利用した高速なサンプリング
- 量子回路をパラメータ化して機械学習モデルに利用可能
2. 代表的なアプローチ
(1) 量子ボルツマンマシン (Quantum Boltzmann Machine, QBM)
- 古典的なボルツマンマシンは確率分布を表現する統計モデル。
- 量子版ではイジングモデルのような量子ハミルトニアンを利用して確率分布を表現する。
- 応用例:画像認識、生成モデル。
(2) 量子変分推論 (Quantum Variational Inference)
- ベイズ推論を量子計算で近似。
- 量子回路を「試行分布」として用い、分布のパラメータを最適化する。
- 例:変分ベイズ法を量子回路で実装し、潜在変数モデルを効率的に学習。
(3) 量子サンプリング (Quantum Sampling)
- モンテカルロ法の代わりに、量子回路を使って確率分布から高速にサンプルを生成。
- 例:量子ウォークを利用してマルコフ連鎖より高速な混合を実現。
3. 簡単な例:量子回路を使った2次元ガウス分布の近似
ステップ
- データ:2次元正規分布に従う点を生成
-
量子回路:
- 2量子ビットを用意
- パラメータ付き回転ゲートを配置し、確率分布を表現
-
最適化:
- 測定確率とデータ分布の差を最小化するようにパラメータを調整
- 損失関数にKLダイバージェンスなどを利用
Python(Qiskitの擬似コード)
import numpy as np
from qiskit import QuantumCircuit, Aer, transpile, assemble
from qiskit.circuit import Parameter
from scipy.optimize import minimize
# パラメータ付き量子回路
theta1, theta2 = Parameter('θ1'), Parameter('θ2')
qc = QuantumCircuit(2)
qc.ry(theta1, 0)
qc.ry(theta2, 1)
qc.cx(0, 1)
qc.measure_all()
# シミュレーション
sim = Aer.get_backend('aer_simulator')
def loss(params, target_distribution):
bound_qc = qc.bind_parameters({theta1: params[0], theta2: params[1]})
job = sim.run(assemble(transpile(bound_qc, sim), shots=1000))
result = job.result().get_counts()
# 測定結果を確率分布に正規化
probs = {k: v/1000 for k,v in result.items()}
# KLダイバージェンスを損失として計算
loss_val = 0
for k, p in target_distribution.items():
q = probs.get(k, 1e-6) # ゼロ割防止
loss_val += p * np.log(p/q)
return loss_val
# 仮のターゲット分布(例:ガウス分布を2量子ビットに射影したもの)
target_distribution = {"00":0.4, "01":0.1, "10":0.4, "11":0.1}
# 最適化
res = minimize(loss, x0=[0.5, 0.5], args=(target_distribution,))
print("最適パラメータ:", res.x)
4. 応用例
- ベイズネットワークの量子版:不確実性を含む因果モデル推定
- 医療統計:疾患の発症リスク推定を量子変分推論で高速化
- 金融モデリング:リスク分布やオプション価格の確率モデルを量子サンプリングで効率化
まとめ
量子計算による統計モデリングはまだ研究段階ですが、
- 確率分布の近似
- サンプリングの高速化
- ベイズ推論の効率化
といった分野で実用化が期待されています。
Discussion